「ディストラクション 壊滅」 スピンオフストーリー 『こんにちは、古木恵美子です・・・』 NO 6
恵美子は大学構内で襲われて以来、自分の身は自分で守れなくては生きてはいけないと強く悟ったのでした。そのためになんとしても、身を守るための何か護身のための技をどうしても身に着けたいと、と思ったようですね、そして大学内で自分にあったスポーツを探しまくったようです、そして何とか見つけることができたようですね、そしてそのスポーツを励み早く身に着けたいとがんばり始めるのです。
果たして、身を守るほどのものになるのでしょうかね?
第二章 不気味な暗殺組織
3 自己改造
翌日、恵美子は気丈にも大学の授業を受けるために、通学をしていきました。
科学警察研究所では古木主査の所に警視庁の鑑識から報告書が届いていました。
恵美子の通う大学で射殺された男の指紋が、霞ヶ関の一丁目で二人の外務大臣政務官を殺害した犯人の指紋とが一致したとの事でした。
これで、一連の外務大臣政務官連続殺害事件と環境大臣政務官殺害未遂事件は被疑者死亡のまま書類送検と言うことで、警視庁としては一見落着と言う事となりました。
ただ、古木一鬼達は犯人の背後になんだかの組織が存在するのではないのかと推測していた。
それを解明する物証として、犯人が自分の物だと言っていた、あのダイヤモンドのように輝く、人の存在を消してしまう、ブローチを解明する事で、組織の存在までたどり着けるかどうかでした。
既に、法科学第二部の機械研究室で分析が進められていました。
事件は解決したと言う事で、恵美子も自分のアパートに戻り、普通の生活に戻って行きました。
しかし、違う事もありました。
今回のことは恵美子にとってだいぶ身にこたえたのか、やはり、女性といえども自分の身は自分で守っていけなければ、生きてはいけないと、思い知らされたことでした。
その日から、授業を受けていましても、どうしたらいいのか、まさか自分が何かのスポーツをやるなんて考えられませんでした。勝ち負けにまるで興味もないし、率先して体を鍛えることにも関心もなかったため、今までもスポーツに触れたのは、旅行で沖縄の海に潜るために友達に半分強制的にやらされましたスキューバダイビングを仕方なくやったことぐらいでした、自分から進んで始めたことなどは一切ありませんでした。
けれども今回は違いました。襲われた時の記憶がフラッシュバックしてよみがえるたびにその時の恐怖がありありと思い出されるのでした。体を鍛えるためではなく、身を守るためにどうしても何か護身術を身につけなければ生きてはいけないと切羽詰まった思いから何か始めることを決意したのでした。
すぐさま、恵美子は、大学で格闘技のクラブを調べ始めました、恵美子は護身のため、技を身に付けることは、恵美子自身の生死に関わることと思いつめていたため、必死でした。
柔道とか、レスリングなどありましたが、本当はボクシングをやりたかったのでした、しかし、女性は募集していませんでした。
たまたま、あるクラブ員の募集のポスターが目に付きました。女性も可と書いてありました。
何だろうと読んでみますと、そのルーツは沖縄空手が母体となります、現代の体操競技を取り入れました、新しいスポーツと書いてありました。名前を躰道と言うのです。聞いた事はありませんでした。
案内を読んでみますと、部員の半数は女性だと書いてありました、格闘技の世界といえば男性ばかりのイメージでしたが、この部なら恵美子にも入って行きやすいと感じました、そしてすぐさま入部を決めました。
躰道のクラブの初日、道着を頂きました。上着は白い空手着のような服で、下は黒くてはかまのように思いました。
とにかく道場に連れて行かれて、神棚の前で正座をさせられ、そこで、躰道について説明を伺いました。
「躰道とは体軸を自在に変化をさせ攻撃と防御を行う攻防一体の武道だそうです。
一つに、躰 とは身、体に開かれると、身とは身が入る・身がこもる=心=意識的な精神活動 を指します。
体とは動く基・行動・動作=からだ=行動的な肉体活動 となります。
いわゆる主体的な人間の構築を指します。
また、一つに、躰道の道とは人の行うべき道=倫理的目標のことであり、奥義に至る道であり創造的目標のことです。 」と、この二道を求めることと、言われました。
恵美子はなるほどと思いましたが、きっと修行を積んでいく中で悟っていく境地なのだろうと、とにかく理解しました。練習を見ていますと、体の動きは空手の突きや蹴りを基本に、体の軸を自在に変化させながら教えの通りに攻撃と防御を行うことが基本となっていることのようでした。
その、攻撃、防御は時として、アクロバットのような要素も必要とするのです。
もう、入部をした以上は、恵美子は前に進む事だけを考えていました。
その日から、基本となる型と体力作りに専念をしました。
突きの練習では、何百回となく、左右の突きをただ繰り返す事を毎日やっていましたが、始めは筋肉痛で、腕が上がらないくらい身体はもう、ぼろぼろと言う感じでした。
始めの一ヶ月は毎日がこの繰り返しで、自分ではとても進歩があるようにはまるで感じられませんでした。自分に技が身に付くのか疑問にさえ感じました。
ただ、体のぜい肉が落ち、筋肉が少し付いた気がしている程度でした。
躰道を初めて二ヶ月、まだまだ、技を覚える段階では無いと思っていました。
しかし、突きにしても、蹴りにしても少しずつ威力はともかく形にはなりつつありました。
三ヵ月を過ぎる頃には、徐々に基本動作が理解でき始めました。先ず、施体の技は、コマのように体を回転させる基本動作のことであります。そして、運体の技は、波のように身体をやわらかく動かす動作であります。
次に、変体の技は、木が倒れて行き、相手に衝撃を与える動作であります。そして捻体の技は、体をねじる・ひねることから生まれる力を利用した動作であります。最後に、転体の技は、文字のとうり、身体を自在に回転させ、そこに生じた力を利用して相手を倒す技です。
この、五つの基本技を自在に組み合わせて、無数の攻撃を生み出す新しい武道です。
しかし、恵美子にとりまして、この、施、運、変、捻、転の動きが三ヵ月間程で自在になるはずもなく、ただ、身体に覚えさせるために、無我夢中で繰り返して基本動作を行っていました。
四ヶ月目、基本動作も少しずつ体が覚えていきました。
けれども、家に帰りましてもくたくたで、何もせずに、ただ寝ることだけで精一杯の日々が続きました。体の筋肉もコントロールできず授業でノートを取りましても疲れから手が震えてうまく文字が書けませんでした。
五ヶ月目に入りますと、突きの音が少しずつ変わっていきました。上着のすれる音と相まって、ビシ、ビシと言う音が鳴り出しました。
基本技も考えることなく、体が自然に動いている感じになっていきました。
と言いましても、その体の流れは舞踊のようで格闘技と言うにはほど遠く、技を出すタイミングもまだまだぎこちなく、その威力もまるで、ダメージを与えるほどのものではありませんでした。
恵美子自身もまだ、実戦に使えるほどのものとは思っていませんでした。
恵美子の演武も型は流れるようになめらかではありますが、メリハリが今一つといったところで、迫力も無く、技としても程遠いい気がしていました。
それでも、恵美子にしてみれば基本の型を毎日必死にただ繰り返して練習をしていました。
そんな日々が半年ほど過ぎた日のことでした。
次の授業に間に合わないはと、石段を駆け下りて、歩道に飛び出した時でした、その歩道にスケートボードに乗った学生がいきなり突っ込んできました。
その学生と衝突する寸前で恵美子はサーッと身をかわして難なく避けると、その学生に向かって「スケートボードは構内では禁止よ」と、叫んでいる自分がいました。
今まででは考えられない行動でした。大声で叫ぶなんて、今まででしたらスケートボードに激突して跳ね飛ばされていたと思いました。
また、帰宅途中、駅のホームでぶつかったとかで、ちょっと酔った男性が、年配の男性を捕まえて、難癖をつけていました。
通り過ぎていく人々は無関心を装って、誰も止めようともしていませんでした。
年配の男性が殴られる寸前に、恵美子はでしゃばって「ちょっと、あんた、やめなさい、見ていると、もう十分でしょう、男性も謝っていますし」と、言ってやると、ちょっと酔った男性は今度は怒りを恵美子に向けてきて、有無を言わさず殴りかかってきました。
恵美子は難なく身体をかわして避けると、その男は勝手に自分でこけてしまいました。
恵美子は年配の男性に「もう、行ったほうがいいわよ」と言うと、その男性は「すいません」と頭を下げて、走っていってしまった。
恵美子も立ち去ろうとすると、こけた男性が「おい、待てよ」と起き上がると同時にポケットからナイフを取り出すと、恵美子に向かって躊躇無く突き刺してきました。
恵美子は考える暇もなく、ただ、身体が反応して、左手が身体の前で時計と反対に回転していき、男の突いてきた右手を下から左に払うと、同時に恵美子の右手の裏拳が相手の顔面に炸裂していました。
相手の男は後ろにのけぞり倒れこんでいったのでしたが、あまりの一瞬の出来事で、一体何が起きたのかさえ分らず、ナイフを握ったまま呆然としていました。
直ぐに駅員が駆けつけてきて、ナイフを持った男は取り押さえられました。
この出来事は恵美子自身も信じられない出来事でした。
そんなときでした。
春の大学対抗躰道選手権大会が開かれることになりました。
この大会に出場する選手を選ぶための選抜戦が恵美子の大学でも行われることになりました。
躰道の団体に所属する選手は一応に出場権はありました。
けれどそのポスターを恵美子は見ても自分とは関係ない別の世界の出来事のように感じていました。自分は護身のために始めただけで、勝ち負けには興味は無いと思っていました。もちろん出場は考えてはいませんでした。
すると師範のほうから説明されたのです。「選抜戦は勝者を明らかにすることが目的ではありません、相手を通して自分の技の足りない点や補わなくてはならないところが見えてきます。自分の技を完成させるためにこれも必要な訓練の一つです。」と言われました。
師範は恵美子を見ていて感じたことをアドバイスをしました。「君を見ているとまるで余裕を感じないが、何か急いで技を身につけなければならない理由でもあるのですか、理由は聞きません、ただ、あなたがもっと技を広げたいのでしたら今度の選抜戦に出てみたらどうですか、相手を通して真剣で勝負する中に勝ち負けではなく自分の技の何たるかが見えてきます。きっと君は次の段階に進むことができると思いますよ」
恵美子は師範の次の段階に進むと言う言葉に感じるところがありました。そして選抜戦に出場することを決めました。
いよいよ、校内選抜戦が始まりました。
道場では試合が次々に行はれていきました。
そしていよいよ次の試合に恵美子の番となりました。
初めての選抜戦です、ドキドキして冷静ではいられませんでした、手には汗が握られていました。
相手の選手は一年先輩で年は同じ女生でした。
審判によつて次の対戦相手の名前が告げられた。「東、古木恵美子。西、・・・・・」
道場で向かい合い「お願いします。」と声を掛け会うと、お互いに両手を身体の前で構えました。お互いに相手の動きをけん制しながら、すきを見つけては、フェイントをかけながら攻撃を仕掛けていきました。
相手は左の正拳を恵美子の胸の辺りに突いてみせて、やはりフェイントをかけてから右こぶしを中断に掛け声と共に素早く打ち込んできました。
恵美子はとっさに後ろに下がり、右足で前蹴りを出すものの、スピードが足りず、軽くかわされてしまった。
お互い攻めあぐねて、けん制しあっていました。
恵美子が右に回りこむと、相手は恵美子のすきを見つけて、右回し蹴りをしてきました。
恵美子は屈伸をしてその回し蹴りをかわし、相手が回転して正面を向いた一瞬を衝いて、恵美子は右正拳を相手の胸元に打ち込んで行きました。
しかし、相手の右手が横から現れて、恵美子の突いた右正拳を左側に払うと、同時に防具を付けた恵美子の顔面に相手の左正拳が飛んできました。その素早さは避ける暇もなく恵美子の顔面が防具の上から衝撃を受けました。「一本」と審判の声が上がり、相手の女性に手が上がりました。恵美子は破れてしまいました。
二人は身なりを正して、お辞儀をすると相手の女性が寄ってきました。
「あなた半年にしては筋が良いはね、あの正拳に威力がありましたら、私が負けていました。」と笑顔を見せました。
それでも、恵美子は満足をしていました。
それは、自分の中に、ここまで頑張ってこれた事への満足感があったからです。
尚も、それ以後の恵美子は益々鍛錬に力が入りました。
科学警察研究所の機戒研究室では、恵美子がイベント会場で拾った、例のダイヤモンドに似たブローチの分析が行われていました。
どうにか、分解をすることができました。
そして周りの部品を取り外して行きますと、中から一枚の小さなチップが出てきました。
一体どのような働きをしているのか?
所員が顕微鏡で覗いてみてもシステムが通常、世界で使用されている回路システムとはまるで異なっていて、どうなっているのか、ぜんぜん手が付けられなかった。
そこで、極秘の扱いで、東京大学工学部電子工学科の教授に見てもらうことになりました。
そして、東大の電子工学科の一頭潤三教授の自室のテーブルの上に、チップは置かれていた。
まず、教授はそのチップを手にとって見た。
それは、一目見ただけで、今まで見てきた世界の多くのICチップとは、もう、まるで異うシステムをしていた。
言葉には出さなかったが、一体このチップはどうなっているんだ。
やはり、気になる事はこのチップの能力でした。
じっくり見ていると端子らしきものをいくつか見つけました。
精密テスターを使って調べることにしました。
といっても肉眼では厳しく、顕微鏡で調べていきました。
「なるほど、これは凄いな、おそらくここの端子が入力だろう、試してみよう」
教授は思った。「やはりだな、そうしたら、出力端子はこれだろう」
科警研の所員が思いついたように言っていたことを思い出していた。「教授、このチップの能力はテストできませんか?」
「君、何を言っているんだね、使用電圧も分らないのに高電圧をかけたら壊れるぞ」
と言ったものの、教授も調べてみたいと思っていた。
助手に準備をさせると、0.001ミリボルト、つまり1マイクロボルトから初めて、10マイクロボルトずつ上げていくことにした。
三十分経っても、まだ380マイクロボルトにまでしか進んでいませんでした。
それから二時間ほど過ぎた頃、500マイクロボルトになったときでした、突然、測定用のモニターに反応が現れた。
「これだ、よし、見つけたぞ、出力端子とモニターを繋いでくれないか」
「わかりました。」助手は作業を始めました。
教授は意気込んで「計算をさせてみましょう、この大きさではいくら能力があると言ってもせいぜい十の十乗ぐらいが限度だろう、無理なら数値を下げていこう、では入力してみよう。」
助手がテンキーで数値を打ちこんだ、しかし計算は一瞬でした。
「このチップの大きさで、小型計算機並の能力はあるようだな、次は兆の単位でやってみるか」
しかしそれも一瞬でした。
「うーん、並みの計算機以上のようだな、もっと上の数値をやってみるか」
「次は京の単位、十の十六乗でやってみるか、これは無理だろう」
「教授、いきなり四乗も上げるのですか、無理ですよ」
「無理なら下げていけばいいだろう」
しかしこれも、一瞬で計算してしまった。
「まさか、こんな数値はスーパーコンピューターでもそうかんたんではないはずだ、まだいけるのか?」
助手が無表情に「それでは一気に、垓の単位で、十の二十乗で行いましょうか」
教授は笑って「それはいくらなんでも無理だろう」と言って、助手に入力をさせてみた。
助手もやるだけ無駄だと思いながら、テンキーを叩いた、しかしこれも、一瞬でした。
「えー、嘘だろう」教授は信じられない顔で驚いていた。「何と言う化け物チップだ、こんなに小さいのに考えられんな、まだいけるのか」
やはり助手が無表情に「では、次は予の単位です。十の二十四乗ですがいきますか」
まさかと思いながらも教授はどうなんだと半信半疑で頷いた。
カチャカチャカチャ、テンキーが叩かれた。
しかしこれも、一瞬ではじき出してしまった。「あー」教授は言葉が無かった。
助手もいいかげんやけくそで「教授、次は一気に正でやってみましょう」教授はありえないと思うが・・・うー、どうなんだ。自分の知識の常識が崩れて思考が混乱していてまさかこの計算ができるのだろうか?そうなると今のこの世界のIT理論はすべてひっくり返ってしまうぞと思った。
「教授、これが計算できるとなるととんでもない答えになります、十の四十乗ですと、スーパーコンピューターの能力を遥かに超えた数値の答えになります。」と言いながらも助手は無造作にテンキーを叩いた。
計算はやはり一瞬でした。「あー、この計算は世界のあらゆるスーパーコンピューターでも不可能だ、ましてこんな極小のチップの状態で、ここまでの計算を行うスーパーコンピューターを作るとなると現代なら東京ドームの広さがいくつ必要になるのかも分からないな、まさかこれは量子コンピューターの原理で出来ているのか?」
石田はその言葉を聴いて驚いた。
「教授、量子コンピューターと言いましたら現代のスーパーコンピューターが百万年かかる計算を一瞬で行ってしまうと言われているあれですか、しかし今はまだ理論上だとか聞いていますが」
教授は訝しい顔をして「当たり前だと言いたいが、量子コンピューターは実はすでに実現はしているがまだ、かなり大きいし能力もまだまだらしい、これほどの能力に到達するにはまだ、二百年はかかるだろう、とにかく何処まで計算が出来るのかもやってみよう」
ここまでくると助手も興奮してきました。「これは一瞬では無理でしょう、十の四十八乗だぞ」助手は力がこもりキーに手をかけた。「極の位を入力します。」
助手がテンキーを叩いた。
しかし、このチップはこれも一瞬で計算をしてしまった。
「まさか、現代の科学技術では到底考えられない」教授は何処まで計算できるのか呆れていた。「次は恒河沙だ、十の五十二乗だぞ、これも計算できるとでも言うのか?」
やはりこれも、一瞬で計算してしまった。
教授は呆れた顔をして「信じられんな、この化け物は一体何なんだ?これだけの能力があるのなら宇宙の始まりも、終わりも解明ができるのでは」
「教授、これ以上は表示が無理です。」助手も何処まで計算できるのか知りたかった。
「そうか、残念だな、何処まで計算ができるのか確かめたかったが」
そして、このチップを持ち込んできた科警研の機械研究室の石田主任を見ると「このチップは何処で作られたのですか?」
誰しもこの能力を知ったら当然知りたい事だと石田は思った。
しかし、どう応えたらいいのか、古木主査からはよけいな事は極秘とするように言われていました。
「実は極秘となっていまして、申し訳ありません」
「なるほど、しかし、日本ではこれだけのチップは聞いた事が無いな、当然、海外にこれだけの物を作る技術が存在するとは考えられないな、残念だな、これの限界を試してみたかったが」
石田はこのままでは、何もコメントを引き出せないと思った。
「分りました。実はこれは、ある犯罪者によって使われた物です。既にその犯罪者は死亡してしまったので何も聞き出す事は出来なくなってしまいましたが、科警研では分析は無理でしたので、教授なら何か分るかと思いまして」
教授は考え込んでみたが「申し訳ないがこんなバケモノチップは世界中を探してみても、思い当たりませんね、私の考えはおそらく量子コンピューターの原理で開発されたものでしょう、そう思います。しかし疑問は今の量子コンピューターのビット数ではやはり何十台あってもおそらくこのチップの解明すら無理でしょう、こんなものがいくつもあったならば物質のテレポーテーションも、あるいは人間でさえも送れる可能性も在るかもしれんな、もしかするとタイムマシンも作れるのかも知れないなハハハハ、まあ冗談だが」
石田はその言葉に興味を持ちました。「その量子コンピューターは現在どの程度まで開発は進んでいるのでしょうか」そのコンピューターを解析することでこのチップがどういうものなのか分析できるのではと感じた。
教授は笑い出して「ハハハ、まさか、今開発されている量子コンピューターでもこれは分析は無理だろう、まだまだ50ビットあまりだ一回に十六乗までしか計算はできないよ、こんな小さなものにするにはまだ、あと百年で何とかなるのか、いや二百年は優にかかるかも分からない」
「えー、二百年ですか?」それでは何の手がかりにもなりません、・・・真相は遠ざかるだけのような気がしてきた。
「やはり、これが誰の開発によるものかは分りませんか」石田は無理を承知で聞いてみた。
「うーん、わからんな、この小ささからして、今の世界の技術では、とうてい不可能だと言う事ぐらいだ。」
結局、このチップがとてつもないものであることが証明されただけで、その存在が謎だらけであることが浮き彫りになっただけで、石田はどのように古木主査に説明をしたらいいのか困ったがしかし、一頭教授の話をそのまま話すことにしました。まあ、事件の解明につながる事は何も出てこなかった事を報告するしかありませんでした。
古木一鬼もイベント以来恵美子に声を掛けづらかった。けれど、久しぶりに恵美子は叔父の古木主査に呼ばれて、科学警察研究所に来ていました。
「叔父様、お久ぶりです。」
「おう、半年振りかな、しかし恵美子、おまえ、ずいぶん変わったな、うーん、なんていうか引き締まったな、いや、違うな、何だかすきが無いな、うー、それだけでもなさそうだな、どうしたんだ、別人だな」
恵美子は微笑んで「私は、私です。何も変わってはいませんは」
「そうか、あー、そうだ今日来てもらったのは、いいところへ連れて行こうと思ってね」
恵美子は疑るような仕草で「また、イベントで、受付でもやらされるのですか」
古木主査は首を横に振って「いやいや、今日はちがいますよ、とにかく出かけよう」
「はい」
車は常磐道を走っていきました。三郷のジャンクションを過ぎて、首都高速道路六号線に入りました。
首都高速湾岸線を有明のインターで降りると国際展示場、東京ビックサイトに入って行きました。
「やっぱりですね、叔父様、このイベントで私に何をやらせるつもりなのですか、レースクインでもやりましょうか」
古木主査は焦って「いやいや、ちがうちがう、今日はうちは係わっていないから何もやるつもりはないよ、純粋に見学に来ただけだよ、ハハハ」
恵美子はまだ疑って「本当なのですか?」と笑顔を見せました。
「大丈夫だよ、ところで、恵美子は犬は好きかな」
「えー、犬ですか、さあ、あまり考えたことはありませんが」
「今日は警察犬の指導訓練も見られるぞ」
「そうなんですか、たぶん興味はあると思います。」恵美子は大きく頷くと是非見たいと思いました。
「それは良かった。」古木主査はとにかく恵美子が興味を持ってくれて安心をした。
車を駐車場に入れると、歩いて会場に向かいました。
入口の垂幕に「モーターサイクルフェスティバル」と書かれていて、同列で「警視庁・交通事故、犯罪撲滅・都民ふれあいフェスティバル」と、書いてありました。
古木主査はパンフレットを取り出すと、恵美子に説明を始めた。
すると、そこに吉岡がやってきました。「主査、遅くなりました。すいません、恵美子さんも、久しぶりです。」
恵美子も笑顔で「こんにちは」と言うと、吉岡が恵美子をまじまじと見取れてしまった。
「恵美子さん、何だかスマートになりましたね、顔もシュッとしてしまって、ダイエットでも始めたんですか」
恵美子は笑って「嬉しいです、でもダイエットはしていませんよ、叔父様が恐い目にばかりあわせるからです。」
「あーは、なるほどね、確かに」吉岡は納得していた。
古木主査は呆れて「そんな訳無いだろう、何を納得しているんだよ、アホか」
古木主査は吉岡に説明をした。「今日は恵美子を、この中を案内してもらえないか、おまえが付いていれば何処にでも入れるからな、こういう時に恵美子には警察機構に触れてもらって理解してもらわないとな」
「叔父様は私をリクルートしているつもりですか」恵美子は首をかしげて微笑んだ。
「まあそんなところだ。ハハハ」古木主査も笑った。
「わたくし、大学を卒業しましても科警研に入るとは限りませんよ」恵美子は笑顔で古木主査を見た。
古木主査は笑ってごまかすように「ハハハ、とにかく今日は楽しんでもらえればそれでいいさ、模擬店もあるぞ」
「叔父様の考えは見え見えです。まあ、お言葉に甘えて、今日は楽しませていただきます。吉岡さん案内をお願いしますね」
「恵美子、わしの用事が済み次第、スマートフォンに連絡を入れるから、吉岡も今日は楽しんで来ていいぞ」
「はい」
古木主査は手を上げるとどこかに行ってしまった。
吉岡はパンフレットを見ると「じゃー、先ずは、警察犬の訓練の様子を見に行きましょうか、こっちです。」
東京ビックサイトの野外に特設会場が作られていました。
特に柵も無い中で十頭の警察犬と指導員が組んで訓練をしていました。
五十脚の椅子は既に満席になっていました。後の観客は遠巻きに立って見てた。
警察犬が指導員の掛け声に合わせて、走れ、飛べ、止まれ、休めと一心一体の動きを見せていました。
恵美子達はいつの間にか最前列にいました。
そして、警察犬の説明が始まりました。
一人の指導員が一頭の警察犬を脇に座らせて、マイクを片手に話しだしました。
指導員は警察犬を見て「この子はシェパード犬のジャックです。とてもお利こうさんですよー、臭覚は人間の百万倍も優れています。
私達はその力を借りまして色々な犯罪の撲滅に挑戦しています。
このジャックには麻薬の探知を行ってもらっています。
犬を麻薬の探知に使うようになりましたのは、最近のことであります。
昭和五十四年、アメリカから連れてこられました二頭によりまして、成田空港に配置されたのが麻薬犬としては始まりです。
麻薬探知犬には2種類あります。まずアグレッシブドッグです。麻薬の匂いを感じると、貨物に攻撃をして、犬を操るハンドラーに教えてくれます。
主に、貨物の中に隠されている薬物を探してくれる犬を指します。
そしてパッシブドックです、同じように、麻薬の匂いを感じると、その場にしゃがみ込みます。
この子達は旅客の手荷物や、身辺に隠されている麻薬を発見してくれます。
麻薬探知犬の任期はだいたい七年くらいで引退をいたします。」
恵美子は説明を聞いていて、とても興味をひかれて聞いていた。
特殊な警察犬ではなくて、一般に言う警察犬は、その能力をどのように発揮しているのか、またどのような訓練を受けているのかしらと、もっと見てみたくなりました。
色々な警察犬がいくつかのコーナーでそれぞれの説明を指導員が行っていました。そして、隣のコーナーに行ってみました。
既に、説明は始まっていました。
「・・・・と言う事でしす。元々は、ドイツの犯罪捜査に犬の特殊な能力が使われだしました。
日本で初めての警察犬の登場は、大正初期から採用されるようになりました。
警察犬の主な仕事は、優れた臭覚を利用して、犯人の匂いや、触った物の匂いから、犯人を追跡します。
臭気選別活動は犯罪現場の遺留品と容疑者の匂いとを、照合して犯人を特定します。
捜索活動には、迷子、行方不明者、遭難者の匂いから、発見をいたします。」
恵美子は、犬ってとても重要な活動をしてくれているんだと思いました。
真剣に頷いて聞いていました。
他にも災害救助犬は大きな地震などで、捜索活動をしているところを、テレビで見たことを思い出していました。
「それでは、どなたか体験指導員をされてみませんか」と司会の方から声がかかると、観覧席で見ていた子供たちが数人飛び出して行きました。
近くにいた指導員が、恵美子に「どうですか」と声を掛けてきました。
恵美子は自分にできるのかしらと思ったが、もし犬と意思の疎通ができるなんて素敵だと思いました。
「はい、でも私にできるかしら」と言うと、指導員は笑顔で「もちろんです。犬の方であなたをリードしてくれますよ、安心して、どうぞこちらに」と、案内をしてくれました。
恵美子の相手をしてくれます警察犬はとても精悍な顔つきの、ブラックのジャーマン・シェパード・ドックという種類で文字道理ドイツが原産の犬種でした。
顔つきも賢そうなとても勇ましくて鋭い気性が伺われました。
恵美子は指導員の方に、触っても大丈夫ですかと聞いてみると、指導員は笑顔で「大丈夫ですよ」と言ってくれました。恵美子はしゃがみ込み、両手でその精悍な顔をなでてあげた、そして恵美子はその子の目をじっと見つめると精悍な顔がはにかむような仕草をしてとても可愛いと思いました。
指導員の方が「この子はシーザーと言います。この種の警察犬は今は警視庁ではこの子一頭だけなのですよ、ほかの子は別の事件で他の県警に応援にいっていますので、この子は麻薬探知犬ではありません、主に特殊犯罪に出動しています。今日は非番でしたので駆り出されちゃいました。」と教えてくれました。
恵美子はブラックのジャーマン・シェパード・ドックをなでながら「君、シーザーって言うの、格好いいわね」としゃがみながら微笑みシーザーを覗き込みました。
指導員の方が「ここで、犯人の撃退方を訓練いたします。」と言うと、指導員は脇にシーザーを座らせると、犯人に扮しました、プロテクターを着けた警察官に向かって、指導員が腕を犯人に向け、正視して「シーザー」と言うと、笛を吹いて「ゴー」と言いました。
すると、今まで座っていた、シーザーがいきなり走りだして、犯人に一直線に向かって行きました。
一気に飛び掛ると一撃で犯人を倒してしまいました。
すぐさま、指導員はシーザーに向かって「ストップ」と叫ぶと直ぐにその場にシーザーは座り込みました。
「凄いは」シーザーが飛び掛っていったときは、とても獰猛に見えたのですが、今座っているシーザーを見ると穏やかで、指導員の一言で感情までコントロールが出来るのかしらと、恵美子は感心をしました。
すると、指導員の方が恵美子に向かって「行ってみますか」とすすめてくれました。
恵美子は是非やってみたいと思いました。
「それでは、シーザーの横に立ってください」と指導員の方が言いました。
恵美子は言われる通りに、シーザーの横に立ちましたが、何故シーザーはリードを付けていないのかと思い、聞いてみた。
指導員は頷いて「あー、引き綱ですか、シーザーにはいりません、常に私の右にいますので」
「なるほど」恵美子は頷いた。
指導員は腕を犯人に向けて「次に、このように手を犯人に向けてください」
指導員は恵美子を見て「そうです、そして、笛を吹きますが、口笛でもシーザーは聞き分けてくれますよ、口笛は出来ますか」と尋ねてきました。
恵美子は「はい」と頷くと、指導員が「でしたら、口笛でやってみましょう、口笛を吹いてゴーと言ってください、シーザーの聴覚は人の六倍も聞き分けますから、小さい音でも聞き分てくれます、普通に語りかけるようにやってみてください、大丈夫です。」
恵美子は頷くと腕を犯人に扮した警官に向けました。そして「シーザー」と名前を言うと「ピー」と口笛を吹いて、「ゴー」と声を掛けました。
すると、いきなりシーザーが走り出して、犯人に向かって飛びかかっいて行きました。
「ストップ」
恵美子は自分の掛け声にシーザーが反応して一斉に行動する姿に感動しました。
戻って来た恵美子に、吉岡は声を掛けた。「どうだった。」
恵美子はニコニコして「凄かったは、とても利口だし、ボディーガードに欲しいは、吉岡さんより頼りになりそうだし」
吉岡は噴出して「それは無いでしょう」と言うものの、確かにごもっともと思いました。
そして、次のコーナーに吉岡は恵美子を案内しました。
「次のコーナーはですね・・・」と吉岡はパンフレットを見ながら読みだした。「えーと、警視庁・女性白バイ隊、スタークインズのデモンストレーションだそうです。恵美子さんは興味ありますか」と時計を見ました。「そろそろ実演が始まると思います。」
「女性だけの白バイ隊ですか、警視庁にそのようなグループがあるんですか」と恵美子は興味を持ちました。
女性とバイクですか、あまりなじまない気が恵美子はした、どんな感じなのかしら、想像をしていた。
白バイと言えば、転んだときに、男の人でも持ち上げるのは、大変な重量がある鉄の塊りですし、それを、女性が扱かって、転んだら大変だと思いました。
吉岡がとても見やすい席を取ってくれたため、それは全体がさえぎるものもなく、見ることが出来ました。
いきなり会場は一斉に拍手が起こりました。
すると、会場の片隅から、白い大きなバイクに乗りました、女性達が次々に現れました。
白いヘルメットに真赤なジャケットと、赤いラインの入った、白のパンツ姿で、直列に連なって二十台の白バイが入ってきました。そして一列にならび、バイクから降りますと、全員横並びになりました。掛け声にあわせて一斉に敬礼をしました。
女性ながら、その力強さは、それだけで恵美子は衝撃を受けました。
一人の代表者が前に出て、笑顔できびきびと挨拶を始めました。
全員がとても凛々しくて、姿勢が良くて、張のある声が力強く響いていました。
「・・・・という事で、私達は交通安全のために全力で努めています。」
そして走行演技に入って行きました。
始めに、バランス走行操縦です、姿勢と操縦性を重視しているようでした。
低速で等間隔で一台一台が一回りすると、次に、赤い三角すいをしましたパイロンの置かれた間をスラローム、つまり蛇行をしながら交互にパイロンをすり抜けて行きました。
また、一つのパイロンを小さく円をえがいて回ります、リーン・ウィズと言う技を行っていました。
女性でありながら、重たい車両を自在に運転している姿は、恵美子にとって、とても魅力を感じました。
演技はしだいに高度になって行きました。
左右から、対面で一直線に向かって走ってきて、ぶつかる直前で左右に分かれ、次に来た車両の間を次々とすり抜けて行くのでした。
恵美子ははらはらして、手に汗がにじんでいました。
次は十字に交わりながら車両の間隔を利用して車両間をバイクが交互にすり抜けて行きます。
女性でありながらここまで自在にバイクを乗りこなせるようになれるのだとは、思いもよりませんでした。自分も努力することで同じようになれるのかしらと、恵美子はしだいに自分も女性白バイ隊に入隊したいと憧れをいだき始めました。
私もあんな様にバイクに乗ってみたいと、目の前に来たバイクを見ますと、タンクのボディーにVFR―800PCと書かれていました。
800CCなのかしら、あんな重い車体を軽々と走行させるなんて、中には転倒する隊員もいましたが、さも軽々とバイクを起こしてしまうのです。
恵美子は、自分には無理だと、思いました。
吉岡は隣で感心して見ていた。
スピードを上げて走行してきたと思うと突然ロックをかけて直角に曲がるのです。
狭まったナローコースや、細い板の上を外れることなく走行していく高度な技術、走行して行き、足をちょこっと突いてクイックであんなに重い車体を軽々と小回りをする技などは、まるで女性とは思え無かった。
その度に、拍手が盛り上がりました。
恵美子の心の中は白バイ隊の一つ一つの技や凛々しさにしびれていました。
しまいには、この警視庁の女性白バイ隊スタークインズにどうしても入隊したいと真剣に思い初めていました。
スタークインズのデモンストレーションが終了しましても、恵美子の頭の中にはまだ、あの光景が繰り返されていて、バイクの爆音がまだ、身体に響きわたっていて、スピード感が身体を震わせていました。
模擬店の椅子に腰掛けてため息をついては、恵美子は呆然としていました。
そこに、古木主査が戻って来た。
恵美子を見ると「どうだった、退屈だったかな」と感想を聞くと。
恵美子は叔父の古木主査を見るなり「叔父様、私、スタークインズに入りたいのです。どうしたらいいのですか?」
「何だと、スタークインズ・・・・、あー、警視庁の女性白バイ隊のか、ハハハ、また、何故突然に?」
すると、吉岡が「さっきまで、その、女性白バイ隊のデモンストレーションを見ていました。」
古木主査は笑顔で「だからと言って、いきなり入りたいは無いだろう、まあ、コネが無い訳でもないが」
すると、恵美子は「でしたら、直ぐに入りたいです。」
「おいおい、何を藪から棒にそれは無いだろう、恵美子も再来年には大学も卒業じゃないのか、それからでも遅くは無いと思うが」と、古木一鬼は笑っていました。
恵美子は不満そうに「仕方ありません、でも、その日のために今からバイクの免許は取る事にいたします。」
吉岡は不安そうに「大丈夫かな、怪我をすると思うよ、やめておいたほうがよくありませんか、主査」
古木一鬼は吉岡の顔を見ると「そんな事わしに言われても、自分の好きにすればいいだろう」と言いつつ、とんだやぶへびになってしまったと思った。
古木主査も、まさかそこまで、恵美子に影響を与えるとは、思ってもいなかった。
4 憧れと不安
近頃は大学で授業を受けていましても、恵美子の頭の片隅に女性白バイ隊の姿がちらつき、時折思い出してはため息を着いていました。
しかし、さすがに、躰道の道場に入りまして、胴着を着ますと、精神が統一されて、練習に全ての神経が集中されて行きました。
きっと、時間が経つにつれて、この女性白バイ隊への思いも薄れて、今までと変わらない生活に戻るのでしょうと、恵美子は今だけの憧れにすぎないのだと思っていました。
「今日の授業は素粒子論です。私は、この学問は、とても興味を持っているものの一つです、世の中の物質を構成します、最小の要素でもありますし、全ての物体がこの集まりからなっているなんて神秘的です、あなたはそう思いませんか、けれど、この理論体系は範囲が広すぎると思います。
もっと分類をしまして、専門分野を増やす必要を感じています。とか恵美子にとってあまり意味の無い事を考えたりして、授業に集中しようと思っていました。
素粒子の実験に欠かせないものに加速器があります。これは別名をサイクロトロンと言います。
そのサイクロンは、いえいえ、サイクロンではなくサイクロトロンは分子に光速で中性子をぶつけて、サイクロンの中で、いえいえ、サイクロンは仮面ライダーのバイクのことでしょう、サイクロン号よね、バイクのカタログを見ているときに、確かビューエル社にサイクロンM2と言うバイクがあったわ、あんなバイクに乗ってみたいはー、いつの間にかそっちに思考が乗っ取られていました。
そして、ある日
「今日の授業は連続体力学を学びます。」と講師の説明が始まりました。
「まあ、今日は固体と流体の運動、及び、力学的挙動を解析する学問だが、今日のテーマはその流体における、形状に及ぼす影響と、逆に影響を受け難い形状について・・・・・・」
恵美子はノートを執っていました。
えーと、つまり、固体の表面に流体をぶつけて、その流れていく一つの任意の点の流体の角度を見ます。そこに働くエネルギーの伝播の変化を分析してみます。
この場合の抵抗軽減を考えた形状は、やはり流線型ですよね、新幹線はこの原理から形状が決まったことは、誰しも知っていますよね、バイクはどうなのかしら、ついつい、恵美子の志向はバイクに繋げてしまうのでした。
それは、他人から見ましたら、こじつけでしかありえないと、思えるほどでした。
やっぱり女性白バイ隊のスタークインズは素晴らしかったは、恵美子の脳裏に、あの時の真赤なジャケットを着た、メンバーが800CCの白いバイクを乗りこなしている姿が映像となって恵美子の脳裏を駆け巡っていました。
身体に染み渡るバイクのエンジン音、荒馬を乗りこなすような彼女達の迫力、それに計算された無駄の無い動き、訓練で、私もあのようになれるのかしら、おかしいわよね、以前の私でしたら、この様なことで、悩む事はありえないことでしたのに、悩む前から自分には無理だと諦めていましたし、一体、いつからこんなに欲張りになってしまったのかしら、でも、何もかも諦めていた自分の中にも、これではいけないと思っていた自分がいつもいたことも事実でした、ただ、自信がなくて踏み出す事が出来ませんでした。
そんな私でも、切羽詰って、どうしようもなく、逃げられない状態になったときには、どうにかこうにか、その状態を抜け出していた事も事実です。
本来、やれば出来るのに、挑戦しようとしなかっただけなのかも知れません、そこに気がついたようです、今は少なくとも、何かをしてみたいと思う前向きな姿勢が迷いながらも出てきたようでした。
きっと、こつこつと、小さな事を一つ一つ迷いながらでも乗り越えて来た事で、何かが蓄積されまして、恵美子の中で変化が起きてきたのではないのかと、勝手に都合のいい分析をしていました。
それは、誰しもが同じように成長をしていく過程なのではないのかしら、あなたは気がつくことはありませんでしたか?
恵美子は考え込んだあげく、とにかく、女性白バイ隊のスタークインズに一歩でも近づくために、大型二輪車の免許だけは取得する事に、先ずは挑戦してみようと決意をしました。
このことを決めるだけでも、恵美子にとっては人には考えられないほど根を詰めた事でした。
明日、教習所に申し込みに行く事にしました。
次の日、知り合いに教えてもらった近くの教習所に向かいました。
「あっ、ここだは」そして受付の前でたたずんでいた。
これで、バイクの免許証が手に入るのよね、そのことは恵美子の中の新しい扉が開いたような、また別の可能性が見えてきたと言う嬉しい反面、内心信じられない思いでいました。
「あっあのー、大型二輪の免許を取りたいのですが」恵美子はドキドキしていた。
「はい、分りました。では、こちらに記入をお願いします。」受付の女性から書類を頂きました。
「はい」
そして恵美子は申込書に記入を始めました。分らないところは後で記入をするとして、とにかく、分る所から書いていきました。
「すいません、分らないところがあります。教えていただけますか」
「はい、どうぞ、どのような事でしょうか、ちょっと見せていただけますか」
「はい、お願いします。」恵美子は書類を受付の女性に渡した。
受付の女性が、恵美子の記入しました書類をチェックをしてくれました。
「申し訳ありませんが、現在、普通二輪車の免許はお持ちですか」とその女性が尋ねてきました。
「いいえ、持っていませんが」恵美子は不安になって来た。
「そうですか、でしたら、大型を取られる前に、普通二輪車の免許を取っていただくことになりますが、それでよろしいですか」と言われてしまいました。
それは恵美子も勉強不足で知りませんでした。
「あのー、普通二輪車の免許が無いと、大型二輪の免許は取れないのですか?」
「はい、当教習所では、そのように規定で決まっております。」
「何処も、そうなのでしょうか?」恵美子は不安を感じました、まずは普通二輪車だなんて、どうしても大型車にこだわりました。
普通二輪車で妥協をしましても、きっと後で、後悔すると思ったからでした。
「はい、おそらく、どこの教習所でも、そのようになっていると思いますよ」と、受付の方の表情がどういたしますかと言う顔をしていました。
「そうなのですか」恵美子はどうしましょうかと、困っていると、その受付の女性が教えてくれました。「ただ、インターネットで調べてみましたら、中には大型を取る事の出来る所があるかも知れませんよ、調べてみたらいかがですか」と笑顔で教えてくれました。
恵美子は何だか希望が湧いてきました。
「はい、ありがとうございます。」
恵美子は調べてみると、なるほど、いきなり大型二輪車の免許の教習を行っているところはほとんどありませんでした。
でも、根気よく調べますと、確かに、受付の女性が言っていたとおり、何箇所か大型が直ぐに受けられる所を見つける事が出来ました。
さっそく、その教習所に申し込みに出かけました。
家からは、だいぶ遠いい距離でしたが、今の恵美子には苦にはなりませんでした。
これで自分の生き方が大きく変わる事が出来ると思うと、それだけで、頑張れると思いました。
教習所の説明では三十時間程の技能講習が必要のようでした。
初めて教習所で、MT(マニュアル・トランスミッションつまり、変速をギアで行う機種)の大型の750CCのバイクに触れた時に、自分が本当にこのバイクを乗ることが出来るのかしらと、とても不安になってきました。しかし、反面自分にこんな鉄の塊を、あの、女性白バイ隊のメンバーのように操縦ができるようになれるのでしたら、何としてもここで彼女達に少しでも近づくために頑張らなくてはと、強く自分に言い聞かせました。
教官からバイクの機構について説明がありました。
「・・・と言う事で、近頃のバイクは操作も簡素になってきましたが、今日も女性の方が何人かおりますが、こんな大きなバイクは重いと言うイメージがあるかと思いますけど、
コツを覚えてしまえば倒してしまったバイクも簡単に起こせるようになりますから、安心していただきたいと思います。」
恵美子は頷いて聞いていました。けれど、自分に当てはめると、そうは言いましても、やはり、倒れたバイクを起こすなんて、無理だと思っていました。
室内で、バイクの構造について学びますと、続いて、外に出て実技の講義が始まりました。
するといきなり教官がバイクを倒しだしました。教官から「先ずは、皆さんにバイクを起こしていただきます。これが出来なければ何も始まらないですから、ツーリングに行って、バイクが倒れたら置いて帰ることになりますからね」数人の笑い声が上がった。
身につまされる思いでした。恵美子にしてみれば、笑える話ではありませんでした。
「では、はじめてもらいます。」
男の人は次々に倒れたバイクを起こしていきました。
やはり、女性は苦戦していました。
そして、恵美子の番がやってきました。
どうやっても起こす事は出来ませんでした。
すると、教官が見かねて、「君はこうやると、起こしやすいですよ、いいですか、ハンドルを握ったら、ブレーキを効かせて、このようにハンドルを回して、ハンドルを持った右ひじをおなかに付けるのです、そして、腰で一気に押すのです。出来ますからやってみてください」と私にあったコツを教えてくれました。なんと教えていただいた通りやってみると、不思議とバイクを起こすことができました。
そして、やっとエンジンを始動する段階になりました。
その前に色々なチェックがあるんですね。
チェックリストを渡されました、まず、燃料はどうか、タイヤの空気圧やライトの点灯、ブレーキの効き、アクセル、クラッチの操作はOKか、そして、バイクにまたがると、ギアの確認を何度もやりました、その上で初めてキーを差し込むことになりました。いよいよバイクを始動する段階にやっとなりました。
しかし、全てにまごついてしまい、恵美子もこれでは卒業なんてほど遠いいと感じていました。
それはさておき、教官からエンジン始動の声がかかりました。
「それでは、ギアのニュートラルを確認してエンジンを始動してください」
一斉にキーをONに回し、セルモーターのボタンを押すと、キュルルルとセルモーターが回転して、アクセルを負荷してエンジンの回転数を上げると一気に爆発音がドドドドと低い身体を突き上げるような振動と共に響いてきました。
このときは次に何をしたらいいのかと必死で、感動も何もありませんでした。
ドドドドとエンジン音が響くなか、恵美子はバイクにまたがりながら、頭の中でギア操作を思い浮かべていました。
すると、教官が「それでは、クラッチをきかせギアをローに入れてください」と声がかかりました。
教官の言われるとおり、クラッチを握り、ギアを踏んでローに入れました。
「それでは発進します、クラッチを切り、ゆっくりアクセルを負荷してください、動き出しますよ、気おつけてくださいね」
言われるとおりに、アクセルを負荷していきました、ゆっくりバイクが動き出しました。
最初少しよろけましたが速度が上がると安定するものなのですね、直線は自転車に乗る要領で難なく走って行きました。
そして、停止位置に近づいていきました。
恵美子はレバーを握り締めてブレーキをかけましたら、バイクは止まったのですが、少し傾きだすと、もう止まらなくてそのままバイクは倒れ込んで行きました。仕方なく恵美子は飛び降りてしまいました。
直ぐに、教官がやってきて「怪我はありませんか」と声を掛けてきました。
「はい」
「では、バイクを起こしてみてください」
恵美子は教官に教えてもらった起こし方のコツを思い出して、試してみました。
ブレーキをかけてハンドルを切りながら、その腕のひじを腰で押し上げるとバイクは難なく起こすことができました。
私でもできるんだと思うと、嬉しくなりました。
コースをぐるぐる回りながらギアを変換する練習です、クラッチを握り、ギアを踏み変えて、ローから、セカンドに入れますと直ぐにエンジン音が軽くなりました。サードに入れますともっと静かになりました。走行も軽快になりました。
その日は走行になれるために何周もコースを回っていました。
何度も教習を受けていますと、バランス感覚がしだいに身についていきました。
バイクを左に、右に曲げるときなどは、曲がりたい方向に身体を倒していきます。
これは、何度も繰り返して、身体に覚えさせるしかなく、いくら頭で考えても無理だと思いました。
次は坂道発進です、そしてクランク走行、それから十字路の右曲がり、左曲がり、信号での停止位置、追い越しの時の走行方法、だいぶ恵美子は覚えていきました。
二十時間も過ぎますと、細いラインの上を二十メートル程、はずれないように走行していくのです、これはなかなか、最後まで走りきることは難しかったでした。
そして、後半には、赤い三角すいの形をしました、パイロンを立てて、その間をスラロームと言いまして、蛇行をしてすり抜けていくのです。
あの、女性白バイ隊の隊員も同じスラロームをやっていたことを思い出しました。
教習、三十時間を過ぎました。
いよいよラストコースの走行になりました。
今まで行ってきた、走行方法が連なりまして、一連の動作に織り込まれていました。
このコースを決められたスピードと時間の内に、戻ってくるのです。
はじめはドキドキで、あがってしまい、低速すぎて、何度もエンストしてしまいました。
教官は頷いて「大丈夫ですよ、落ち着いてやってみてください、必ず、出来ますから」
そして、やっと間違えることもなく、走行は終了をいたしました。
教官は笑顔で「恵美子さん、頑張りましたね、もう大丈夫でしょう」
恵美子はその言葉に自信を持つ事が出来ました。」
そして、とうとう、バイクの走行試験に合格をすることができました。
その時の感動は、その後も忘れることはありませんでした。
今は、既に、1000CCのスポーツバイク、SV1000Sを購入して、大学の通学に毎日使っています。
そして、いつか警視庁の女性白バイ隊の試験を受けて、スタークインズのメンバーになるために、バイクをもっと上手になりたいと、思っていました。
今は少しでも上手になるように、何処へ行くにもバイクを使うようにしています。
そんなある日でした。
首都高速道路3号線の六本木あたりをバイクで走っているときでした。
恵美子が走行車線を走っていると、ぴったりと恵美子のバイクに合わせて追い越し車線を黒塗りのベンツが走行してきたのでした。
恵美子がちらっと見ますと、ベンツの後部座席の窓が開き始めました。
そして、半分ほど開いたウインドの奥に座る人物が、恵美子の方を見ていました。
恵美子も違和感を感じながら、その人物の方に顔を向け、乗っている人物の顔をしっかりと見ました。
ベンツに乗るその人物が恵美子をにらめつけると、ニヒルに笑みを浮かべていた。
恵美子はその顔を見て直ぐに思い出した。「この顔は」驚きで目を見開いて、一瞬バイクの操作を忘れてしまった。
急にハンドルが取られて、路肩の壁に激突寸前のところで止まる事が出来たが、呼吸は荒く肩で息をしていた。
そして、あの日のことが急に脳裏によみがえってきたのでした。
それは、恵美子が大学で、次の授業に向かうときのことでした、校内の小さな池のほとりのベンチに腰掛けていたときに、以前、イベントの受付のお手伝いをしていた時に、現れました、黒い背広の男が、ベンチに座っている私の前に、再び現れて、ダイヤに似たブローチを返せと言い寄ってきたときのその男の顔でした。
でも、その男は警察に激しく抵抗したために最後に射殺されたはずでした。
でも、その男が何故か、今黒塗りのベンツに乗っているなんて、どうしてなの、信じられなかった。
恵美子は走り去って行った、黒いベンツの方向を見ていた。
暫くの間、手が震えて、バイクのハンドルが握れなかった。
「どうしたらいいの、このまま大学に行って授業なんて受けられないは、かといって、家に帰っても、恐くていられないし」
恵美子は叔父の古木一鬼に電話をすることにしました。
「もしもし、恵美子か、どうした。」
「あのー、えーと、叔父様、そっ、そっちに行ってもいいですか」
恵美子は気が動転していて、どう話していいのか分らなかった。
とにかく、早く、叔父の所に行って今日の事を話さなければと思いました。
電話の向こうの恵美子の状況を察すると古木一鬼はどうしたのかと思った。
「何があった、おまえ大丈夫か」
「叔父様、ああの、その・・」
「来る事はかまはないが、こっちから行くぞ、今何処だ」古木一鬼は恵美子に何かがあったのだと思った。
「いえ、わたし行きます。」
恵美子は気を取り直してバイクを始動すると高速道路の走行車線に戻っていった。そして科警研に向かいました。
なんであの男の人は生きているの、確かにあの男の人は刑事さんたちに撃たれて亡くなったはずです、何故、生きているの、そんなことありえないは、そんな、恵美子はとても動揺して興奮していた、またあの人に襲われたらどうしたらいいの、早く叔父様に知らせなくては、恵美子はバイクのアクセルを負荷して加速しました。
そして科警研に到着しました。
恵美子は黒い背広を着た男を見た衝撃が大きすぎて、頭の中がパニックになっていたため、何処をどのように走ってきたのかさえ覚えていませんでした。
トントン「どうぞ」
恵美子は古木一鬼の部屋に入って行った。
古木一鬼は恵美子を見ると椅子から立ち上がりすぐに恵美子に駆け寄った。
「どうしたんだ、恵美子、何かあったのか、顔色が悪いぞ」
恵美子は泣きそうな顔になり「叔父様、私、恐くて」
古木一鬼は恵美子の恐怖におびえている表情を見ると、只事ではないと思った。
ソファーに座らせると、理由を聞いてみた。
「何があったんだ」
「黒い背広を着た男です、黒い背広を着たあの男があらわれたのです。」恵美子は感情が高ぶっていました。
「黒い背広を着た男だと、だれだそれは」古木一鬼はすぐには誰だか分からなかった。
「あの男です、大学で射殺されました。」恵美子は必死でした。
「えー、・・・外務大臣政務官を殺害した、あの男のことか?」古木一鬼は信じられなかった。
「はい」
「はいって、ありえないだろう、死体は警視庁の法医科で解剖されているぞ」
「でも、見たんです。間違いありません、あの顔、あの不気味差はあの男でした。私を見て笑っていました。」恵美子は思い出してもゾッとしていた。
恵美子は恐くなって両手で顔を覆ってしまった。
「分った、とにかくまた、暫くうちから大学には通ったほうがよさそうだな」古木一鬼は恵美子がそこまで言うのだから、とにかく何か恵美子を脅かすようなことがあったのだろう、それが何なのか分かるまではとにかくうちで預かることにした。
「でも、ご迷惑はお掛けできませんし」
「ばか言うなよ、姪のおまえが危険な状態にいるのに、迷惑もへったくれも無いだろう、何かあったら田舎にいるおまえの両親に申し訳ないからな、暫く様子を見よう」
「分かりました、お願いします。」恵美子は頭を下げました。
「とにかく、そのことは一応、小田切警部にも話しておこう、どう反応するか分らないが」古木一鬼はおそらく小田切警部は信じてもらえないと思った。
そして、恵美子はまた、古木一鬼の家に、おじゃまする事になりました。
あんのじょう、小田切警部にこのことを話したところ、やはり、一笑に付されました。
自分の目の前で、あの男は射殺されました、間違いありませんよ、きっと恵美子さんの見間違えだと思いますよ、気のせいでしょう、と言う事でした。
そして数日が経ち、一週間が経ち、一ヶ月が経ちました。
けれど、何も起こる様子もありませんでした。
恵美子も、落ち着いて、きっとあの事は、見間違いだったのかも分らないはと、思い始めました。
学業にも身が入るようになりました。
そして、練習を続けてきました躰道に付いても、夏の大学対抗躰道選手権大会がまた、開かれる事になりました。
いよいよ恵美子を襲う不気味な男たちが現れだしましたね、この先恵美子は自分に降りかかってくる災いを振り払うことはできるのでしょうかね、護身のための技もまだまだ相手に通用するとも思えないし、それは恵美子自身も分かりきっていました。
いったいどこまで体を鍛えることが必要なのかしら、恵美子は必死になって技の習得に打ち込んでいったようですね。