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「ディストラクション 壊滅」のスピンオフストーリー 『こんにちは、古木恵美子です・・・』 NO 4

篠崎そして恵美子、涼子は海底の洞窟に閉じ込められてしまった。神野は篠崎達を救うため巨大遺跡の岩礁の中に入っていくことになりました。その中は古代の遺跡などでは無くとんでもない代物でした。あげくのはてに、数百体のクローンソルジャー達に襲われることになりました。そして篠崎達を救い出すことができるのでしょうか?

第一章 謎の巨大海底遺跡はとうとう完結となります。

いったいこの巨大海底遺跡は何だったのでしょうか?

しかしそれも明かされます。

 第1章 謎の巨大海底遺跡





 7 謎の岩礁




 岩礁(がんしょう)係留(けいりゅう)された船の中では波もおさまって落ち着いてきていた、空には三日月まで出ていた。

 森下と山岸はこの突然現れた不思議な岩礁に船のデッキからライトを煌々(こうこう)と照らしていた。

 森下はどうもしっくりしなかった。「あのさ山岸、あそこってどう見ても波止場のような感じに見えないか」とそこにライトを当てた。

「うん、俺もそう思っていたところだ。」

「だったら行って調べてみないか」

 そして二人は岸に渡って調べだした。

 調べれば調べるほど自然の岩礁にしてはかなり人の手が加えられたと思われるヶ所がいたるところにありました。

「ちょっとここ見てよ」

 森下は山岸に岩礁の平らなところにライトを当てて「この路盤(ろばん)、あまりに平すぎないか、しかも伸縮目地(しんしゅくめじ)のようなものまで入っているぞ、古代人のやることじゃないと思うがどうなんだ」

 山岸もその先を目で追っていった、右に軽い傾斜の付いた道が登っていくようになっていた。

 岩を削って滑らないように工夫がされているし、途中階段も岩を削りだして作ってあった。手摺(てすり)まで付いている、階段のステップにしても均等性は正確で、とても高度な技術によるもののようで、これまた古代人によって作られたにしては正確過ぎる気がした。

 森下が「この先は一体どうなっているんだろう?」と先のほうにライトを当ててみた。

 山岸も先の方を(のぞ)いて「行くしかないだろう」と階段を登り始めた。この先に何があるのだろうと思った。なにせ階段が先に続いているのだから。

 森下は通路や階段、船着場これらの施工を見て、海底遺跡の階段や回廊などの施工とよく似ていると思った。

「ねえ、山岸、この階段にしても通路にしてもさ、海底遺跡の加工技術と同じだと思わないか」

 山岸は別に不思議とは思っていなかった。「それはそうだろう一体物だろうから」

「だよな、と言う事は、ここを調べると言うことで海底遺跡のことが分かるんじゃないのかな」と森下は考えた。

 しかし山岸はそれもそうだが今は篠崎達を探さなければと思っていた。

「それも重要だがとにかく篠崎達を探さなければ」

 森下は頷いて「確かに、とにかく先へ行ってみよう」

 二人は軽い傾斜を登っていった。

「おい、おい、行き止まりかよ、どうなっちゃっているんだよ」と、森下はその行く手を(さえぎ)っている壁にさわってみた。

 山岸はその壁の周りにライトを当てて、いきなり道を()ざすように、壁があるのもへんだと思った。

「森下、これっておかしくないか、ほらほら」とライトを当てた、すると壁の脇のすきまから、つる科の植物がはみ出していた、そして、そこから空気が勢いよく噴出していたのでした。

「森下、この壁は(とびら)になっているんじゃないのか」

「えー、どれ」と、森下はそこにライトを当てて見ると、周りには、まるで植物は生えていないのに、壁の脇に縦に走った隙間(すきま)からつる科の植物の(くき)と葉が、はみ出していた。

「おっと、ここから中に入れるのか?これは扉と言うことなのか、この中はどうなっているんだろう?」

 山岸はその縦に走った隙間に指を掛けて、引っ張ってみた、動いたような気がした。

 森下も一緒になって、引っ張ってみた、しかし開きそうになかった。

 森下は時計を見た。(すで)に二十二時を過ぎていた。「こんな時間になるのか」

 二人は諦めて、とりあえず、その事を皆に話すことにした。

 二人は船に戻っていきました。

 神野は船で(しばら)く無線で篠崎を呼び続けていた、今は反応が無いが、必ず(つな)がると信じていた。

 君江も安子も涼子と恵美子が心配で祈るような気持ちでいた。

「涼子と恵美子、大丈夫かしら、まだ、生きているよね」と君江が言うと。

 安子が急に目をぱちくりさせて「バカ言わないでよ、生きているに決まっているでしょう、元気に無線で反応してくるわよ」

 君江は心配そうに「それならいいんだけど」

 安子は神野を見て「神野さん、まだ、繋がりませんか」と言うが。

 神野は頭を横に振っていた。

 そこに、山岸と森下が戻ってきた。

 神野は立ち上がり「何か、分ったか」と二人を見た。

「この岩礁は、ただの岩礁ではありませんね」と山岸が言うと、森下が続けて「いたる所に人工的に手が加えられていますよ、それに加工のしかたは海底遺跡のものと一緒です。どうつながっているかです」森下の気になることは人工的に加工された部分があまりに精工に作られていることでした。

 すると山岸が「神野先輩、人工的に加工されたぶぶんですが、あまりに精工過ぎるのは気になります。古代人にそんな技術があったのですかね」

 神野は考え込むと「私の知り合いが南米ペルーで古代のマヤ文明にそれは精巧な石組みを見たと言っていたが、古代人だからと言って技術が無いとはいえないと思うが」

 山岸は簡単に納得をしていた。「そうですよね」

 けれど山岸はすぐに難しい顔をして「それで先輩、その人工的な道が行き止まりになっていました。そこに扉と思われる壁を見つけました。二人では重くて開けられませんでしたが、中がどうなっているのか気になります。」

「そうか」神野は考えていた。

 森下はせかすように「とにかく何か道具を持って行きましょう、あの扉を開けましょう」

 神野は頷いたが、思い返すと、今日一日、色々な事が起きすぎて、動き回っていたが、休む事を忘れていたと思った。

 森下と山岸を見ると、微笑んで「少し休んでくれ、二人とも動きどうしだろう、休んでから皆で行こう」

 確かに森下も山岸も助手達も、気が付いたら動きどうしでいたことに気が付いた。。

 安子はコーヒーをコップに注ぐと持ってきました。

「皆さん、コーヒーを入れました、飲んでください」

 君江は皆に配ってあげました。

 皆は、お礼を言いながら、コーヒーを受け取っていました。

 神野もコーヒーを一口飲むと、考えていた事を話しだした。

「そもそも、篠崎が調べに行った洞窟は何故あそこにあったんだ、篠崎が言っていたが、その途中に、ストーンヘンジによく似た神事でも行うような場所があるとか言っていただろう、その洞窟もストーンヘンジに似たものも、あの海底遺跡と一体のものではないのか?」と言うと。

 森下も「そうだとすると、この岩礁も、あの石の加工技術を見ると、どう見ても海底遺跡の加工技術と同じものだと考えられる、これは無関係では無いなと思う、やはり何だかの関係で一体ではないのか」言葉に力が入っていた。

「なるほど」神野は何度か頷いた。「だとすると、その扉の中に、これらを繋ぐ何かがありそうだな」

 それを聞いていた竹城は、心配して「確かに、そうなのかもしれませんが、しかし安全を考えますと、むやみに中に入る事には賛成しかねます。」と厳しい口調で言いました。

 神野は振り返り、竹城の顔をみた。「あなたの立場なら、そのように考えるのは当然でしょう、しかし、篠崎達がいまだに連絡をしてこないところをみると、何かが有ったと思うのはあたりまえでしょう、何とかしたいが、この暗い中では我々も身動きは取れないし、あれだけの地震だ、洞窟の中に非難できたとしても、その洞窟事態も崩れたかもわからない、だからと言って、助け出さない訳にはいかないんですよ、これは可能性に過ぎないが、あの洞窟は普通に考えても、海底遺跡と関係しているとしか思えない、この岩礁があの海底遺跡と同じ構造体だとしたら、おそらく、この三つはなんだかの関係にあるものなのだろうと考えられる、スペインのアルタミラの壁画にしろ、エジプトのピラミッドにしろ、中国の漠高窟(ばっこうくつ)にしても、神への神事や、何かを敬う行事が壁に画かれている、岩礁の、その扉の内側の壁にも、その(たぐい)のものが画かれている可能性もある、篠崎達を助け出す手立も見つかるかも分らない、とにかく調べるだけでも意味はあると思うよ」とは言っても、神野に確信がある訳ではなかった。

 竹城は返す言葉も無かった。「分りました。ただし、私も行きます。」

 神野は竹城を見ると、分ってくれましたか、と頷いた。

 そして振り返り、「よし、準備をしよう、まず、扉を開けるための、フックとロープだ、それにバールだな、なんでもいい、めぼしい物を持って行くぞ」

 急に(あわ)ただしくなり、一斉(いっせい)に準備が始まりました。

 そんな中、安子が、神野に強い口調で「私達も行きます。」と毅然(きぜん)として言うと。

 しかし、神野は否定した。「いや、君達には残ってもらう」

 すると、君江も強い口調で「冗談じゃーないはよ、涼子と恵美子が閉じ込められているのよ、こんな所でのんびりとコーヒーなんか飲んでいられないわ、私達も行くわ」と神野をにらめつけた。

 神野はその気迫に押されてしまい「分った、しかし、なにが起きるか分らない、森下や山岸から離れるなよ」

「はい、分ったは」女性達も直ぐに準備を始めました。

 しだいに、東の空が白んできていた、水平線が光り出していた。

 準備は整い、神野は皆の顔を見ると「じゃー、行こう、何があるか分らない、十分気を付けてくれ」

 神野達は道幅が狭いため一列に並んで順番に岩礁に築かれたスロープを登っていった。

 しだいに傾斜がきつくなった所から階段が出来ていた。

 確かに、森下が言っていた通り、海底遺跡にあった階段と形状がそっくりだ。

 暫く行くと、山岸が言っていたように、壁に突き当たることになりました、そこは扉とも思えなくも無いが、とにかく岩の(かたまり)が立ちはだかって道をふさいでいた。確かに、神野もこれは妙だと思った。岩の壁の脇を見ると、縦に割れ目が走っている、その隙間から空気が噴出していて、つる草がはみ出していた。

「なるほど」

 神野はその割れ目に指を掛けて引いてみた、少しゆれた感じがした、「ちょっと、何人か手伝ってくれ」助手が数人、岩の割れ目に指を掛けた「せいの」と掛け声に合わせて、一斉に引いてみた。すると扉が少し動いた。

 神野は山岸を呼んで「ここにフックを掛けて、皆で引いてみよう」

 すぐさま少し開いた隙間にフックを掛けてロープを張ると「じゃあ、掛け声で、ロープを引いてください、いきますよ、それー」森下が掛け声を掛けた。

 皆は力任せにロープを引いた、すると扉が十センチ程開いた、神野はいけると思った。

 そして、その隙間に神野は左手を差し込んで、色々さぐってみた、しかし、手に当る物はつる草ばかりだった。

「よーし、もう一度やってみよう」

 山岸が掛け声をかけた「せいのー」全力で全員綱を引いた。

 すると扉がまた動き出した。引っ掛かっていたフックの先が伸び始めた、そして扉が開いたと同時にいきなりフックは外れてしまった。

「きゃー」

「わー」

 一斉に悲鳴が上がると、全員跳ね飛ばされて、後ろに倒れ込んでしまった。

 しかし、扉はすでに人が通りぬけるだけの隙間は開いていた。

 神野はすぐさま振り向いて「みんな、大丈夫か」と一人一人を見た。

 皆は体のあっち、こっちを押さえながら起き上がってきた。

「どうやら大丈夫のようです。」と森下は皆の状態を確認んすると神野を見た。

 神野は扉の中を(のぞ)き込んだ、しかし真っ暗で何も見えなかった。

「山岸、ライトをもらえないか」神野は手を伸ばした。

 ライトが渡された。

 神野は中を照らして見た。「何だこれは」真っ暗な空間に青々とした植物が群生(ぐんせい)していた。

 その様子が理解出来なくて「なぜ、暗闇に・・」(しばら)く呆然としてしまった。

 山岸は何があったのかと思って「どうか、しましたか?」と尋ねた。

 すると、神野が「見てみろ」と中に入って行った。

 山岸も中に入ると、周りにライトを当てて見た「なんだこれは?」呆気にとられてしまった。

 上も下もまるで、ジャングルのように植物が生い茂っていた。

 周りを見回しても、いたるところがそんな状態になっていた。

 すると、後ろから「神野先輩、入っても大丈夫ですか」と森下が覗き込んだ。

「おう」神野はとにかく先に進む事にした。

 真っ暗の中に植物が生い茂る状況は気持ちいいものではなかった。。

 広さは五メートル程の幅をした通路が続いていた。

 進んでいく中、皆は壁にライトを当てて壁画を探していた。

 安子も壁にライトを当てて探していました。しかし、いたる所が植物に(おお)われて、その異様さにただ、不気味に感じていた。「気持ち悪いわね」

 竹城は周りを見て、この状態でまた地震が起きたらどうなるんだ、先ずあの扉の逃げ道を確保しなくては、他に逃げ道はあるのか?安全に非難をすることを考えていた。

 その時、森下が「こっちは奥に繋がっているようです。」そして先のほうにライトを当てて見た。

 山岸と森下は先へ進んでいった。

 そのうち森下が奇妙に思い始めた。

 ここまで奥に入ってきたら、普通洞窟の中は湿度が高くなって、湿(しめ)っているはずだがな。

「山岸、おかしくないか?」森下が前に進みながら言った。

「何が」山岸も進みながら聞き介した。

「この洞窟の空気だよ、ドライすぎないか」と森下は深呼吸をした。

「はーあ」と言うと、山岸は指をしゃぶって空間にさらした。

「確かに、なんだかエアーコントロールされている感じだな」

「なんだよ、その指は、そんなことで分るのかよ」と森下が山岸の顔を見た。

 山岸も首を(かし)げて「どうなんだろう、ふん」と鼻を鳴らすと、関係ねえだろうなと思った。

「神野先輩、ここの空気変ですね」山岸は森下の言っていたことをそのまま神野にたずねた。

「ああ、俺も気になっていたが」神野も同じことを感じていた。

 山岸はやっぱりと思った。

 すると、森下が「そろそろ、壁画でも拝ませてもらいましょうか」と神野を見た。

 神野もそう思っていた。

「ああ」と言うと、助手達に(うなが)して「壁についているつる草を()がしてくれないか」と指示をした。

 助手達は壁にはっている、つる草を剥ぎ取り始めました。

 君江も、やっと、何かが分るのかしら、と期待をしました。

 森下と山岸の表情がしだいに変わって行きました。

 神野も予想外の壁面の姿に唖然としてしまった。

 森下がその壁面を見て「なんだよ、この壁、うちのマンションの壁とかわらねーじゃねえかよ?」

 壁面が真っ平に仕上げてあり、その表面が塗装なのか何かが貼ってあるのか、とにかく岩肌ではなく人工的に壁が施工されていた。。

 山岸も目を見張って「何だこの壁、今の時代と変わらないぞ、どうなっているんだ?」

 神野は助手に「こっちの壁もつるを剥がしてくれ」と言うと、全員がそこの部分にライトを当てた。

 剥がされていく、つる草の中から、黒ずんではいるが、明らかにパネルと思われるものが張ってあった。

 全員言葉が無かった。外は岩礁、係わりがあるものは古代の海底遺跡、その岩礁の中に入ると現代のものと変わらない、パネル張りの壁が出てきた。「古代の遺跡だとばかり思っていたのに、どういうことなんだ」と山岸は分からなくなった。

 神野も神妙な顔をしていた。この建造物を作った人間は一体何者だ、いや、国家的な組織なのか、これほどのものを作るのだから相当の財力のある組織なんだろう、そいつらは今どうなっているんだ、先に行けば何か分るのか?と考えた。

 君江が当てたライトの明かりに照らされたつる草の中に果物(くだもの)()っているのを見つけた。「これ何かしら、まだ青いけど、食べられるのかしら?」と(さわ)ってみた。

 神野はとにかく先へ急ぎたいと思った。「とにかく早く篠崎達の手がかりを探そう、さあ、先へ急ぐぞ!」


 その頃、疲れ果てて寝てしまった恵美子達はまだ、暗い洞窟の中で目を覚ましていなかった。

 ライトの明かりが少し暗くなりかけてきた。

 涼子がしだいに気が付きだしました、周りを見渡すが、ライトの届く範囲しか状況は分りませんでした。

 周りにつる草が生い茂っていて、ここは何処かの山の中なのかしら、と思った。

 身体を動かそうとするが、身体のいたる所が痛くて、動かす事は出来ませんでした。

 そして自分が恵美子の腕の中にいることに気が付きました。ありがとう恵美子。

 徐々に記憶が思い出されていました。

 そういえば海底の中で地震に襲われたんだは、あの遺跡の壊れた岩が(くず)れてきて、私は(つぶ)されそうになっていたんだは、その時、恵美子が助けに向ってきていたところまでは覚えていましたが、その後の事は思い出せませんでした。

 けれど、あの時、恵美子は間に合わないと思って、私はもうだめだと(あきら)めたのに、なぜ助かったのかしら?

 すると、恵美子も目を覚ましました。

「涼子、気が付いた、身体大丈夫、痛い?」

 涼子はもう一度身体を動かそうとしたが、やはり痛くて、動かす事は出来ませんでした。

「だめみたい」と小さく力の無い声で言いました。

 恵美子は何度も頷いて「いいの、無理しないで、私が助けるは、だから、頑張ってね」と力強く言いました。

 篠崎も目を覚ましたようだった。「いつの間にか寝てしまったようだな」

 そしてライトを恵美子の方に向けると「恵美子さん、大丈夫」

「はい、涼子も気が付いたみたいです。」

 篠崎は近づくと涼子を見て「大丈夫ですか」と様子を(うかが)った。

 涼子は力なく「ええ、身体をだいぶ打ちつけたようです、痛くて動かせそうにありません」

 篠崎は首を横に振り「そう、無理はしなくてもいいです、この先を登りきれば、必ず外に出られるはずです。そしたら神野先輩に無線で助けに来てもらうから、心配しなくても大丈夫です、ただそこまで頑張れそうですか」

 涼子は(くちびる)をかみ()めて「何とかがんばるは」と恵美子の支えを借りて立ち上がろうとした。

 しかし身体に力が入らず、そのまま倒れ込んでしまいました。

 篠崎は無理だと思った。

「涼子さん、僕がおぶって連れて行きます。」と言うと。

 涼子は考え込みました、もしも、そんなことをしてもらったら、これから先、皆に合う度に常に言われ続けることになるはず、それはだめ、そんな苦痛はいやです、恵美子も同じ様なことを感じた、恵美子はそれほどでもないと思いましたが、涼子には()えられない事なのだろうと思った。

 涼子は慌てて「わ、わたしなら大丈夫よ、さっきは足元がふらついただけよ」と歯を食いしばって、立ち上がろうとしていた。それでも少しずつ立ち上がりだした。

 しかし、顔は痛さで(ゆが)んでいた。

 恵美子は見かねて「涼子、私に捕まって」といって涼子を(だき)かかえてあげた。

 涼子はそのまま身体を恵美子に預けるように、やはり、倒れ込んで行きました。

 恵美子は何とか受け止めると、篠崎を見て「さあ、行きましょう」と頷いた。

 篠崎は「あ、ああ」と応えると、つる草の生い茂る中をライトを当てて登り始めました。

 篠崎は調べた事を一応伝えておこうと思った。「二人とも驚くかと思うが、この先の天井が光る場所がある、この洞窟はおそらく人工的に作られた通路のようだ。」と言って、壁のつる草を、引き()がした。そこに人工的に仕上げられた壁が現れました。「この壁はどう見ても古代の物ではありませんよ、一体、何が、どうなっているのか、それにまだ、ここの住人がいるかも知れない、気をつけたいが、見つかったらその時は、その時です。」

「えー、そんなことになっているのですか」涼子は恵美子の顔を見た。

 恵美子は微笑んで「大丈夫です。」と言って、歩きだした。


 神野達は通路らしき所を急いで進んでいた、その先に何があるのかも分らずに、しかし行き止まりになってしまった。

 助手達は壁にはっているつる草を剥ぎ取りはじめた。

「何処かに出入り口が在るはずだ、探そう」と神野も探し出した。

 やはり直ぐに助手が見つけ出した。

 神野はバールを受け取ると、扉の隙間に差し込んで、力任せにこじ開けた、ぶらぶらになった扉を静かに開けてみた。皆は何が出てくるのか固唾(かたず)()んで見守った。

 神野がその部屋に静かに入ると、突然、天井がつる草の隙間から光りだした。

「うわー」といって神野は身構(みがま)えた。

 何も言わず。ただ、周りを見渡した。そして部屋から出てくると「ここはただの個室だ。別を探そう」と言うと、森下が「今の部屋、明かりがつきましたよね」

「ああ、人感センサーを使っているんだろう、電力も供給されているようだな」

「一体これは何の施設なんだ、どこかの国の太平洋戦争当時の軍事施設じゃないのか?」と山岸は感じた。

 すると森下も頷いて「そうかもな第二次大戦の時の空母のように使われた人工島だよきっと」

 神野はそれを聞いて「どこの国のだ?」と森下に聞いた。

 森下はそれは分からないと言った表情をした。

 すると「准教授、こちらにもあります。」と助手がまた部屋の扉を見つけました。

「よし、そいつも開けてみてくれ」と神野は助手にバールを渡した。

「分りました。」ここも力まかせにバールでこじ開けた。

「ここは、何処かに通じているようです。」助手達が中を(のぞ)き込んだ。

「そうか、そっちに行ってみよう」神野が中に入っていくと、ここも天井が光りだした、神野はつる草の間から天井を見ると、LEDでもなく、天井の素材そのものが発光しているように思えた。

 こんな天井、現代でも使用している施設はあるのか、うちの大学では無いな、きっとこの先に行けばこの建造物が何なのか答えがあるのかもしれないと感じた。

「さあ、行こう」とにかく篠崎達が入った洞窟とこの建造物の関係を示す何かを探しださなければと思っていた。神野は前を向いて歩き出した。


 恵美子は涼子の身体を支えながら、ゆっくりと進んでいった。

「涼子、身体、大丈夫」

「身体はもうバラバラよ、恵美子、わるいわね」涼子はよろけながら歯を食いしばって進んで行った。

 恵美子は微笑み「私は平気よ、ここを登りきれば、きっと外に出られるは、そしたら後は帰るだけよ」

 前を進んでいた篠崎が振り返って「君たち、大丈夫、少し休もうか」

「うーん、平気、進みましょう」と涼子が言いました。

「分った。」

 相変わらず、つる草が生い茂っていた。

 ライトを当てても、先は見えなかった。

 涼子もこのつる草には、さすがにうんざりしていた。

「でも、日も差さない洞窟に、青々と生い茂るつる草は一体なんなの、こんな事ってあるのかしら、暗闇で光合成もしないのに何故青々としているのかしら」涼子は息も切れ切れに(しゃべ)った。

「涼子、しゃべるとよけいに疲れるよ」恵美子は涼子を心配をして(うなが)すように話した。

「そうね、でもおしゃべりをして、痛みを忘れたいの」しかしかなり痛いのか、涼子の顔は痛々しかった。

「そうだったの」

 恵美子は以前から何故なのかと思っていたことを、聞いてみました。

「ねーえ涼子、何故、涼子は私をいつもかばってくれるの、私って、あなたも知っているように、人付き合いは下手だし、人見しりはするし、第一つまらないと思うのに、どうして?」

「うーん、どうしてって」と言うと、涼子は恵美子の顔を見て「あなた、可愛いし、好きだから」と言うと、恵美子は目を丸くして、涼子に顔を向けた、目の前に微笑んだ涼子の顔が今にもぶつかりそうでした。

 涼子が首を傾げて見せると「冗談よ、私も同じだったから」

「えー、同じ」恵美子は意外に思った。「そんな、だって私、涼子の行動力はいつも尊敬しているし、憧れてもいました。」

「それは私も感じていたは、だから、あえて私、頑張れたのかな、だから恵美子、私はあなたに感謝しているは」

 恵美子は複雑な思いでいた。

 篠崎が突然大声で「おーい、広い場所に出たぞ、もうじきに外に出られるぞ」

 恵美子はやっと、出口にたどり付けた思いがして、顔がほころんだ。「本当ですか」

 恵美子と涼子は顔を見合わせて、喜びました。

「もう少しよ」と恵美子は涼子を(かか)え直すと、力を振り(しぼ)ってスロープを登っていった。

 突然、天井が光りだした。

 腹を決めていた恵美子は驚きもせずに、ひたすらスロープを登っていった。


 神野達は通路を急いで進んでいた。相変わらず天井の明かりは人の進む場所を次々に明るくさせていた。

 すると、とんでもない広さの空間に入り込んでしまった。

「わー、何この広さは」と森下が叫んだ。

 天井の高さは何十メートルあるのだろうか、いくつか常夜灯(じょうやとう)のような明かりがついてはいるが、その明かりは床までは届いていなかった。

 薄暗く周りの様子はあまりよく分らなかった。

 ただ、この空間の真ん中辺りに何かが、輝いていた。

 神野達はその入り口のあたりで中の様子を(うかが)っていた。

 この中の何処かに篠崎達の手がかりになるものがあるのか、片っぱしから探すか、と神野は思った。とにかく、あの輝いているものは何なのか調べて見ることにしよう。

「森下、山岸、あの輝いているものを調べるぞ」

「はい」

 そして、その中央に輝く何かに向って、神野達はゆっくりと向っていった。

 山岸は周りを見ながら「この大空間はすごいな、東京ドーム以上だな」

 君江はライトを回りにまわして照らしてみた、何かがいるように感じたが、あまりに遠くて、ライトの明かりは届かなかった。おそらく、気のせいだと思った。

 そしてとうとう、輝く物体にたどり着いた。

「これは、一体なんだろう」森下がじーっと見つめて監察すると。光り方が、電球や蛍光灯やLEDの光り方と違って、何かのエネルギーが放出しているようでもあるし、当てはめるとしたら太陽のような全てを包み込むような光方り方に似ていた。

「これはすごいよ、プラズマの光よりやわらかいが、生命エネルギーを感じる、かなりのインパクトがあるな」

 山岸はここの植物の生息の様子を見ると、真っ暗闇(くらやみ)の中でも青々と()(しげ)る生育状態の源はこの光りのエネルギーによるものだろう、この光りのエネルギーがこの建造物の隅隅まで行き届いているためにここの植物はおそらくこの光で光合成をしているのだろう、だからこんなにも生育しているんだろう「この光りはすごいな、おそらくこの空間のいたるところまでその影響力は行き届いているようだな、持ち帰って調べてみたいな、人工光による植物工場に最適だな」

 森下が光の中を目を()らして見てみると、十センチ角ほどの白い物体が下の台座から伸びた六本のつめのような物に、まるで指輪の石が台に固定されているように、つめによって白い物体が固定されていた。

「神野先輩、これはそうとうな高度技術ですよ、と言うより、これは新技術で作られているようですね、光がこれだけ何かに影響を与える物は、今まで見たことがありません、農業に使用したら、革命が起こりますよ、いやー、持って帰って研究してみたいです。」

 神野は冷静に「それもいいが、今は篠崎達のことの方が先だ、手がかりを探そう」


 恵美子達はスロープを登りきり平たんなところに出てきました、この空間は通路に入るための前室のような感じがした。

 ここの天井も光っていて、つる草の間から光が()れていた。

「恵美子、ここは一体何処なの?」涼子は荒い呼吸をしながら周りを見ていた。そこもつる草が何もかも埋め尽くしていた。

 恵美子は(つら)そうに歩く涼子を見て「篠崎先輩、少し休ませてもらってもいいですか」と篠崎を見た。

「そうしよう、ここで休んでいてください、僕は先を見てきます。」篠崎は先の方をライトを当てて(のぞ)いてみた。

「はい」恵美子は涼子を見ると疲れきっている様子でした。「涼子、大丈夫、少し休もう」

 恵美子は涼子の身体を横にしてやりました。

 涼子は笑うと「情け無いわね、こんな格好で」

「そんなことないよ、涼子はがんばっているよ」

涼子は目をつむった。

「ねえ、恵美子、私達、助かるのかしら」

「もちろんだよ、必ず助かるは、必ず出口を見つけるから、涼子も負けないで」

 涼子は目をつむったまま「ありがとう、頑張るは」涼子の呼吸は荒かった。

 篠崎が興奮して戻ってきた。

 篠崎を見た恵美子は彼の様子から何があったのかと思った。「何かありましたか?」

「ええ、この先に、物凄く大きな空間があるようだ、行ってみよう」と言って篠崎は涼子を見た「涼子さん大丈夫ですか、歩けますか」

 それを聞いた涼子は弱々しく「私なら大丈夫よ、さあ行きましょうか」と痛々しく立ち上がろうとしました。

 それを見て恵美子が「あー、だめよ、私が背負ってあげるから、無理をしないで」といって、涼子の肩を(かか)えてあげた。

「ありがとう、じゃあ、行きましょう」と涼子が力なく言いました。

 そして大空間に向って再び進みだしました。

 通路を抜けると、突然大空間が現れた。

「わー、ここは外に出られたのかしら」恵美子も涼子もここが建物の中とは思えなかった。それにしては上空に輝くものが星にしては数も少なくおかしいと思った。また、その空間の先のほうに、ぼーっと、白い光が全体に広がっていた。

 あの光は何だろう。と篠崎も恵美子も涼子も気になった。

 それは、この巨大空間の中央辺りにあるように感じた。

 篠崎達はその光源に行けばここがどこなのか何か分かるかもしれないと、そこに向って進んで行った。

 すると篠崎が急に立ち止まり、厳しい表情になっていった。

「ちょっとまって、これはやばいことになるぞ」

「何がですか」恵美子が尋ねた。

「何かいますね、生き物のようです。まずいな」

 篠崎は逃げ場所を探すため、周りを見回した。しかし、ただ広いだけで隠れるような所は見あたらない、覚悟を決めると身構えて、様子を(うかが)っていた。


 その頃、神野達は大空間の中でどうやって篠崎達の手がかりを探せばいいのか周りを見回してみた。

 君江は、あちこちにライトを当てて、恵美子達の手がかりを探していると「あれ、何だろう、何かが動いているわよ、あれ生き物じゃないの」慌てて、気持ち悪そうに「何か、あそこにいるわよ」とその方向を指差した、全員がその方向に目をやった。

 確かに、何かがいるようであった。

 山岸は身構えて「確かに、何かいるな、もしかして、ここの住人じゃあないのかな、これだけの物を作るやつらだ、何か武器を持っているかもしれないぞ、気をつけろよ」

 神野もあの生き物は我々に危害を加えるつもりなのか、もし武器を持っているのなら、追いかけて来るはずだろうと思った。

 このまま、にらみ合いでは、動きも取れない、とにかく相手を確認する必要があるだろうと思うと、神野は「私が確認してくる、皆はここにいてくれ、何かあったら、もと来た道を走って逃げろ、いいな」と皆に言った。

 神野は振り向くなり、直ぐにその生物に向って歩んで行った。


 篠崎はいつまでもこのままでは外にも出られないと思った。

 見ていると、思いもよらず、得体の分らない生き物が、向こうからこっちに向ってやってきていた、心臓が破裂するほどに、心拍が早くなってきた。どうする、また、周りを見た。しかし、やはり、隠れるような所はなかった。

 ちきしょう、やっちまうか「恵美子さん、できるだけ僕から離れないようにしてください」

「はい」恵美子は目を見開いて、頷きました。

 しかし、篠崎先輩一人に(たよ)りきってもだめだと思った。私も戦わなくては、とにかく涼子は私が守らなくては「篠崎先輩、私もご一緒に・・・・」恵美子は自分が何を言っているのか、こんなときに、強気の自分に驚いていた。

 向ってくる生き物は、二足歩行で近づいて来た。

 まるで人間のようだ。

 篠崎は大声で「そこで止まれ」と叫んだ、そして、持っていたライトを当てたのでした。

 その人影はライトのまぶしさをとっさに手で顔を(おお)った。そして立ち止まって観察しているようだった。

 突然信じられない声がした。「篠崎、俺だ。」

 篠崎は(きつね)につままれた思いで、きょとんとしてしまった、嘘だろう、しかし、この声は先輩の声だ、信じられなかった。そして、ライトに照らしだされた人影が顔の前の手をおろした、その人影はなんと神野でした。信じられない顔で篠崎は神野を見ると、目をパチクリと(まばた)きをしてよく見るとやはり神野であった。篠崎はほっとすると、力が身体から抜けていった。そして、泣きそうな顔になり「神野先輩」と言うのが精一杯だった。

 神野も三人の無事な姿を見ると、ほっとした。「大丈夫か、皆」と近づいて来た。

「はい、でも、涼子さんが」と篠崎が(うなが)した。

 神野は涼子のそばに行くと、しゃがみこみ様子を見た、そして声を掛けた「酒豪もこれでは形無しだな、歩けるのか」

 涼子は強気に「あたりまえでしょう」と立ち上がろうとしたが、よろけて、身体に力が入らず、倒れ込んでしまいました。

 神野は「無理はするな」と、言うと涼子の首に手を回して、軽々と抱き上げました。

 涼子は困った顔をして「何をするの、降ろしてください」と言うと。

 神野は怒った顔で「バカを言うな、そんな身体で、足でまといになるだけだ、急いでここを出るぞ」

 恵美子は目をパチクリさせて言葉も出なかった。

 神野は「行こうか」と言って、皆のところに戻って行った。

 涼子と恵美子の姿を見ると安子も君江も走りよって、はちきれんばかりの笑顔で「良かったは、良かったは、涼子、恵美子大丈夫だった。」と喜び合いました。

 神野はもうここには用は無いと「早くここを出よう」と叫んだ。

 すると、森下が、お土産にあれをもらって行くかと、白く光る物体に手を掛けて揺さぶりはじめました。

 すると、突然、「ピュー」という音がした。なにか動力がダウンして、空調器機が停止して空気が抜けた時に出る音のように思えた。

 そして、白い箱の光りが消えていってしまった。

 すると、いきなり天井のあちこちの照明が一斉に点灯して昼間のような明るさになった。周りの景色がはっきりと見えるほどになった。

 山岸は驚いて「どうしたんだ、非常照明が付いたのか、何が起きたんだ。」と周りを見た。

 同時に、ブザーがけたたましく鳴り響きだして、大空間の中を駆け巡った。そして音声が繰り返し流れだしたのでした。

 それは女性の声でした。「インベーダー、エビクション、インベーダー、エビクション」

 篠崎も森下も山岸も神野も直ぐにその言葉の意味を理解した。

「これは英語じゃないか」と森下が驚いて言うと。

 山岸はその言葉を翻訳した。「侵入者、排除、侵入者、排除、だと、なんだよ俺たちのことかよ」

 神野は一刻も早くここを立ち去らないととんでもないことになると感じた。「皆、早く脱出しよう、出口に向かって走れ」しかし、すでに遅かった、大空間の周りの壁がひな壇になっていて、そこに何百という護衛の人体が配備されていたのでした、この建造物に侵入者を確認すると、よってたかって排除するようにプログラムされていたのでした。

 ひな壇にいる護衛の人体は人造人間なのか、感情は見受けられなかった。ただ一つ侵入者の排除のみがプログラムされているようであった。

「バイオクローンソルジャー ゴー ゴー ゴー」とスピーカーに流れていた。

 その人体が、一斉にひな壇から、なだれのように降りて来たのでした。

 神野達は、大空間の出口に向って走ったが、ひな壇にいたその人体がなだれ降りるほうが早かった。

 そして神野達に向かって襲い掛かって来た。

 手にはカーボンか何かで出来た警棒に似たものを持っていた。

 次々にその人体が警棒を振り下ろして襲ってきた。

 その間、ずうっとブザーは鳴り続け、赤いライトが点滅していた。英語で「侵入者、排除、侵入者、排除」と響き続けていた。

 振り下ろしてくる警棒をかいくぐりながら森下は、何で流れている言葉が英語なんだ、と不思議に思っていた。

 神野もこれには面食らった。「こんな奴らがいたのか、うかつだった。森下、山岸来るぞ、気おつけろ」

 その人体が警棒を振り下ろしてくる姿はぎこちなく、動きも鈍かった。

 助手達も難なく蹴飛(けと)ばしたり、飛び蹴りで、人体を何体も倒していった。

 しかし、数にはさすがにかなわなかった、助手達はその人体の圧倒的な数に押しまくられていった。

 神野が叫んだ「皆、大丈夫か」

 森下や山岸は動きの鈍い人体から、警棒を奪い取ると、それで端から(たた)きのめしていった。

 森下はちょっと得意げに「なんだ、こいつら、やけにへなちょこだぜ」

 すると山岸は「おいおい、こいつらまだ、冬眠から覚めたばかりで、動きがにぶいだけだぞ、直ぐに、手におえなくなるぞ」

 森下は驚いて「なんだと、じゃー早く逃げだそうぜ」そして警棒で何体かまた倒した。

 女性達も「きゃー、きゃー」と言いながら逃げまどっていました。

 しかし、数がどんどん増えてきて、逃げてばかりもいかなくなってきたのでした。

 恵美子もとうとう、かかってきた人体に対して前蹴りで、気が付いたら何体も倒していた。

 安子は落ちていた警棒を拾うと、闇雲(やみくも)に振り回しているうちに、まぐれで数体を倒していた。

 笑顔で「やったー」と叫びました。

 君江は相変わらず、逃げまわっていました。

 神野も涼子を抱えながら前蹴りで向ってくる人体をつぎつぎに倒していった。

 しかし、人体があまりに多いため、手の(ほどこ)しようがなくなってきました。

 竹城も、もうどうしていいのか、分らなくなってしまった。

 どんどん出口から遠ざかっていってしまった。

 恵美子も、両手を身体の前でボクシングの要領で身構えると、あいての人体が振り下ろしてきた警棒を、身体をひねってかわすと、右手を力任せに、人体に打ち込んだ、うまく顔面に入ると、人体は崩れるように倒れて行った。しかし、その衝撃は大きく、かなり右手が痛かった。徐々に皆は追い詰められて、大空間の中央に集まりだしていた。

 皆背中合わせになり、身構えて、かかってくる人体の攻撃をかわしながら、蹴りで人体を倒していた。

 しかし、全員はもうこれ以上だめだと思い出していました。

 既に、周りを完全に人体に埋め尽くされて、身動きも取れなくなり出してしまった。

 森下が泣き言を言い出して「これじゃあもうだめだ、やられちまうぜ」

 山岸が拳を握り締めると「ふざけろ、こんな所でやられてたまるか」と叫びました。

 恵美子も何故か強気に「そうよ、必ず帰るは」と前蹴りで数体を倒した。

 すると、人体が一斉に警棒を振り上げて、神野達に向ってきた。

「うわー」逃げられない、一瞬、たたきのめされると全員覚悟した。

 その時だった、叫び声が聞こえて来た。

真一(しんいち)―」

 竹城が目を見開いて驚いた。

「真一だと」俺の名前だ、誰が呼んだんだ。

 振り向くと、遠くの壁のひな壇の一番上で、叫んでいる人物がいた。

「真一―、白い箱を台座からはずすんだー」

 竹城は言われた事を反復して「白い箱を台座からはずせ」はっとした、あの声はおやじだ、おやじは生きていたのか、顔がくしゃくしゃになった。

「真一―、その白い箱はこいつらの生命維持装置だ、早く台座からはずせー」

 竹城は慌てて落ちていた警棒を拾いあげると躊躇(ちゅうちょ)無く、横にあった白い箱目掛けてたたきつけた、すると白い箱を支えていた爪が外れて、白い箱が床にころがり落ちたのでした。

 すると、皆の周りを埋め尽くしていた人体が振り上げた警棒を振り下ろす寸前で突然動きが止まってしまった。

「あ」と言ったまま森下は驚いて、何が起きたのか理解出来なかった。

 何故、急に止まったんだ、山岸もこれには驚いた。

 すると、また、叫び声が聞こえて来た。「早く逃げろー、すぐに天井が崩れてくるぞー」

「なんだと」それを聞いた神野が叫んだ「皆、逃げるんだー、早く、逃げろー」と言い終わらない内に、小さな()れが起こりだしたのでした。そしてすぐに揺れは大きくなっていった。

 そして、天井から小さな破片がばらばら落ちてきた。天井を見上げる皆が立っている床も搖れていた。

「きゃー」悲鳴があがった、そして一斉に走り出しました。

「早く逃げろー」

 竹城は叫びながら、父親の元に走り出していた。「おやじー」

 竹城の父親はそれを見ると「ばかー、早くにげろー、天井が落ちてくるぞー」

 竹城はその言葉に躊躇(ちゅうちょ)したが唇を噛み締めると叫んだ。「おやじを置いて逃げられるか、健三も来ているんだぞ」

「なに、健三も来ているのか」と、言って父親は段下に飛び降りた、そして竹城の元に走った。

 ドームが小刻みに揺れる中天井からは既に、大きな破片もバラバラと落ち始めていた。

「早く逃げろー、早く逃げろー」神野の声が響いていた。

 皆一斉に出口に向かって逃げ出した。

 山岸はとっさに床に落ちていた白い箱を拾うと握りしめて走り出した。

 全員、建造物全体が揺れる中足元もぎこちなく走っていった。

「うわー」恵美子は慌てて走り出したが倒れていた人体に足を取られ、転んでしまった。

 篠崎が振り返り「恵美子さんー」と叫びながら、もどってきた。

 それを見ると恵美子は叫んだ「だめ、だめー、逃げてー」

 篠崎は恵美子のそばに走って来た、笑顔で「ばか言うなよ、君を置いて逃げるわけにいくかよ」

 皆は既に出口に向かう通路まで逃げ帰って来ていた。

 しかし足元があまり揺れているために立っているのがやっとでした。

 大きな破片がいくつも落ちてきて、土埃(つちけむり)が後ろから舞い上がってきた。

 天井を突き破って細かい破片が雨のようにばらばらと降り注いでいた。

「きゃー、きゃー」

「うわー」と悲鳴が上がっていた。

 皆がやっと出口までたどり着いた。「よし、出るぞ」神野が叫んだ。ライトの明かりが一斉に扉に当てられた。

 しかしその光景を見て信じられない思いで全員愕然(がくぜん)としてしまった。

 出口の扉が振動で閉じてしまっていた。

 助手達が力任せに押しても、びくともしなかった。山岸も、森下も全員で扉を押したがまるで動かなかった。

 後ろから土埃が襲ってきた。

 安子は必死になって、扉を(たた)いて「開けて、開けて、・・・」と叫んでいた。

 皆、成す術もなく、信じられない表情で絶望的になっていた。

 森下は死を感じたのか「閉じ込められては、お(しまい)だよ」

 山岸も悔しさをあらわに「こんなところで死ぬのかよ、ちきしょー」と叫んだ。

 神野もこのときばかりはもうだめだと思った。

 天井から破片がばらばら落ちて来くるなかで、女性達は悲鳴をあげて、絶望的にその場にしゃがみ込んでしまった。

 どうする、何とかしなければ、神野は自分に落ち着けと言い聞かせ、何かあるはずだと探した。しかし土煙が舞う中、雨のように落ちてくる破片は次第に大きくなっていった。どうしたらいいんだ?

 山岸、森下や助手達は渾身(こんしん)の力で必死に出口の扉を押していた。

「だめだー」

全員ここで死ぬのかと絶望的に感じた。






 8 脱 出


 


 出口の扉が振動でしまってしまい開かなくなってしまった。岩礁の中に閉じ込められて皆は絶望的に生きて帰れないと感じた。

 そこへ、竹城と父親が走ってきた。

 竹城は何故皆なは早く外に逃げないのかと思った。「どうしたんですか、早く外に逃げてください危険です。」と慌てて叫んだ、神野が「扉が振動で閉まってしまった。もうダメです。」と言うと竹城は信じられない表情で「そんなー」それでは皆は助からないと言うのか、「それはだめだ」痛烈に自分の責任を感じた。そして扉に走りよるとひとりでその石の扉を腕が折れんばかりに何度も何度も叩いていた。

「開いてくれ、頼むから開いてくれ、開いてくれー」

 それを見ていた父親は難しい表情で山岸を見ると、山岸が持っていたドームの中から持ってきたあの白い箱を指差すと「その白い箱を貸してもらえませんか」と手を差し伸べた。山岸はどうするのだろうと思いながらも「これですかどうぞ」と渡した。

 そして竹城に言った。「真一、扉から離れろ」

 しかし竹城はやめようとはしなかった。「開いてくれ・・・・・・」

 父親が叫んだ「真一、どけー」

 竹城は驚いて飛び退くように扉からはなれた。

 岩礁全体が(くずれ)れ落ちているかの外からものすごい轟音(ごうおん)が響いていた。その轟音に合わせて周りは大きく揺れていた。バラバラ岩が落ちてくる中、竹城の父親はさっきまで光輝いていた、白い箱を左手の上に持っていた、そして何かを念じ始め、右手を開くと前方に突き出した、そして岩の扉に向けた。

 なんども念じていると右手の前方に白くスパークする火花が散り始めた。

 そして、周囲の空間が(ゆが)み出して、前後左右上下、あらゆる方向感覚が麻痺(まひ)していくような、そこにいた全員が平衡感覚をも失っていった。

 空気が渦を巻きだしたかと思うと、瞬間(まばゆ)い光が炸裂(さくれつ)して白い光が部屋全体に(あふ)れたかと思うとその光が爆発して扉に向って父親の右手から走っていった、その光が岩の扉に激突した瞬間「ドドドドー」一瞬にして扉は粉々に(くだ)けて吹き飛んだ、とてつもない爆発音が響きわたり、ものすごい土煙が舞い上がった、その瞬間そこにいた全員が爆風で吹き飛ばされてしまった。

「いててて」

「うわー」

「ごほん、ごほん」

 皆が起きだしてきた。

「何だ、今のは」と思った。しかし、扉の方向を見た、涼子を抱いてしゃがみこんでいた神野は唖然としてしまった。

 あの分厚い扉と共に周りの壁ごとごっそり吹き飛んでいた、そして大きな穴が開いていた。

 信じられない顔をして、神野は竹城の父親に振り向くと「その白い箱は、一体なんですか」

 竹城の父親はため息を付いて「こんな物はただの()まわしい箱です。今の時代には無用の代物です、地球を滅ぼしかねませんよ」と言うとその白い箱を山岸に差し出した。

 山岸は躊躇(ちゅうちょ)した。今のすざましい威力を目の当たりにして、その白い箱を受け取ることはできなかった。

「これを持ち帰りますか」と父親は神野を見た。「あなた達がこの世界を滅ぼすことになるかもしれませんよ」と言うと神野も父親の言葉の意味はよくわからなかったが直感で得体のわからないものを持ち帰り分析したところで、その結果、新しい知識を手に入れることになったとしても、まるで泥棒猫の様な意識は(のが)れられないだろう、それは自分のスタイルには受けいれられないと思った、そして山岸を見ると首を横に振って見せた。山岸も棚ぼたの知識を望んだ訳でもなく「その箱は持ち帰るのはやめておきましょう」と言うと、父親はその白い箱をその辺になげすてた。そして早口で「説明は後で、とにかく、早く逃げましょう」

 全員慌てて外に飛び出していった。

 周りは大きな瓦礫(がれき)が容赦なく、上空から降り落ちてきていた。

 出口があわや崩れ落ちる寸前に、篠崎が恵美子の手を引いて壁に大きく開いた穴から飛び出してきた。その瞬間に今通って来た通路や壁が次々と(くず)れ落ちていったのでした、土煙が勢いよく噴出した。

 (すで)に、いままでいた大空間のドームやこの岩礁全体の崩壊が始まりだしていた。

 全員が慌てて逃げている石段も通路もすでにヒビが入りだして来た。

 岩礁の切り立った上部も崩れ落ちて次々に海中に落ち込んでいきました。

「早くしろー、島が崩れるぞー」神野が叫んでいた。

 地割れは広がって行き、石段も崩れだした。

 岩が落ちてくる中を全員次々に船に飛び乗って行きました。

 最後に篠崎が恵美子の手を引き船に飛び乗った。

 そのあとを追うように岩礁が次々に爆発が起きていった。

「全員、戻ったか、篠崎はいるか、恵美子さんは、よし、竹城さん脱出だー」

 砕け飛び散った岩礁の大岩が海の中に白いしぶきを上げて次々に突き刺さっていった。

 その中をかいくぐって船は徐々にスピードを上げて後進していった。

 全員は岩礁が崩れていく様を恐ろしい物を見るかのように見ていた。

 突然、大空間のドームがあった辺りが大爆発を起こすと黒煙とともに無数の岩を吹き飛ばすと一気に岩礁はくずれながら海の中に沈みこんで行った。

 船は反転すると猛スピードで、飛んでくる岩を避けながら走った、海にしぶきを上げて次々に岩が突き刺さっていった、ズボ、ズボ、ズボっと岩は音をあげて(あわ)を吹き出しながら勢いよく海底を走っていった。こんな岩が一つでも直撃をくらえばひとたまりもなく()端微塵(ぱみじん)に吹き飛んでしまうだろうと全員が思った。難は次々に襲ってくるものだ岩礁が沈み込んだあたりを中心に輪のように界面が海底から泡を吹き上げながら山のように盛り上がった。その盛り上がったかい面がものすごい速さで広がりだした、船のスピードでは逃げきれない速さでした、竹城の父親がそれを見て叫んだ。「津波だ、どでかい津波が来るぞ、これでは逃げきれない、健三,船首を津波に向けろそしてイカリを降ろせ、早くしろ間に合わないぞ」

「はい」健三は船を反転させ、岩礁のあった方向に船首を向けると、慌ててイカリを降ろしてすぐさま襲ってくる津波に備えたのでした。

 健三は大声で叫んでいた「どでかい津波が来るぞー、何処でもいいからつかまってくれ、海に投げ出されるぞ、絶対はなすなー」

 健三がしゃべり終わらない内に、物凄い勢いで目の前に山のように盛り上がった海面が襲って来た。

 船は一気に船首が持ち上がっていき、海面に直角になってしまった。

 船の中は機材や備品があちこちに飛びちり、悲鳴があがっていた。

「きゃー」

「きゃー」

「うわー」

 皆それぞれ(つか)まっている手を放すまいと必死に、歯を食いしばって耐えていた。

「はなすなー」

「がんばれー、がんばれー」神野が叫び続けていた。

 船は荒れ狂う波に木の葉のようにもみくしゃになっていた。

 大きな波が過ぎ去ってしまうと、しだいに船の揺れは治まっていきました。

 それは数分の出来事でしたけれど、なにか、数時間も続いていたかのように長く感じられた。。

 健三は「もう大丈夫です。」と言うものの、全員はまだ(そば)のとってなどにしがみついて、放そうとはしなかった。

 神野はゆっくりと立ち上がると、デッキに出て岩礁があった辺りを眺めていた。

 森下も山岸もデッキに出てきた。

 後から篠崎も出てきて、岩礁があった辺りを眺めた。

 他の人達はキャビンの中でぐったりとして、ソファーに座り込んだまま動こうとはしなかった。

 竹城は改めて父親の顔を見ると「おやじー」と叫び、涙が(あふ)れていた。

 健三も唇を震わせてすすり泣いていた。

 父親は頷いて「真一、健三、心配かけたな・・・」と言うのが精一杯で、肩を震わせていました。

 神野達がキャビンに戻ってきた。

 そして、竹城の父親を見ると、神野は大きく息を吸った。そして頷いて「お父さんありがとうございました。」と頭を下げた。

「お父さんがいませんでしたら、私達は、今頃あそこで死んでいました。ありがとうございました。」とまた、神野は頭を下げた。

 竹城の父親は恐縮して「いや、私こそ、助け出していただきまして、とても感謝しています。」

 神野はテーブルの椅子をすすめると、同じように椅子に座り「お話しを聞かせてもらえますか」と父親を見た。

 父親は頷いて「分りました。」と今までの事を思い出すように、目を細め、遠い過去を振り返っていた。

「あの日もよく晴れた日でした、私はこの海底遺跡に来ていました。気がつくと天候が急変して、突然曇りだしたかと思うと、レーダーもGPSも狂いだして、使えなくなってしまったのでした。

 そして、海面は波立ちうねりだすと霧が一面に立ち込める中、轟音と共にあの岩礁が現れたのです。ボートは荒波に飲まれ、岩礁に激突して粉みじんに砕かれて沈んでしまいました。

 仕方なく私はあの島の岩場にしがみつきよじ登りました。そして、あの岩礁の中の建造物を見つけたのです。

 始めは何んなのかまるで分らなかったが、しかし色々調べていくうちに、何かの実験場だと分りました。

 と言うのも私は若い頃は沖縄本島の米軍基地で十年以上働いていましたから英語はそこそこ読み書きも分ります。初めは色々なところに潜り込んではここからどうすれば脱出できるのかと随分色々な資料を読みあさりました、何せ全て英語で書かれていましたからなんとか内容は分かりました、けれども当初は軍事的用語が多くて私も理解するのに苦労しました。

 そしてある日、奴らが来たのです、何処から現れたのか、とにかくあのドームの中とか、岩礁の高いところから海に向かってなにやら武器の威力の実験を行っていたのです。

 それも何度も行っていました。どう見ても日本人ではありませんでしたね、それでここが何かの試験を行うための場所だと分かりました。

 そんな事を何度繰り返されたか、なにせ私はここに十年もいましたから、それに、あなた達を襲ったクローンも間近で見ました。静脈に何かの薬液が注入されていて新陳代謝(しんちんたいしゃ)(うなが)されているようでした、その人体の生命維持をコントロールしていたのがあの白い箱であることが次第に分かってきました、それだけではなくあの岩礁自身のコントロールも行っていることも間違いないと思いました、あの白い箱は武器としても実験を何度も行っているのも見ました。恐ろしい程の威力でした。

あれを何台か持っているだけで地球の征服も可能だと思わせる程の武器ですよ、海底遺跡も、元々は海上にあったのでしょう、何かの武器を試すための実験施設だったようです。

キャビンにいる全員は興味深く、竹城の父親の話しに聞き入っていた。

 森下は、同じテーブルの脇で話を聞きながらバラバラになってしまった、石版の破片を組み合わせていた。

 神野が質問を続けた。「あれだけの大きな遺跡が壊れもせずに海底に沈むとしたら、何億年もかけて静かに海底に沈んだのではないのですか?」


 父親は頷いた「どうでしょう、そうですね、何かの資料で読んだ記憶では、あの建造物は確か八千万年前の昔の時代に運び込んで組み立てたとあったように記憶しています。」と言うと「えーっ」数人の声が()れた。

 明らかに信じられないといった雰囲気が漂いはじめました。

 神野は真意をもっと理解する必要を感じた。要するにいつの時代か知らないが誰かが何処からか時間(とき)をさかのぼり太古に運び込んであの建造物を組み立てたと言うことなのか、SFのような話だな、そんなことができるのか「よく理解が出来ませんが、あの建造物はタイムマシーンという事なのですか?」

「いや、あの建造物そのものは、そうでは無いようです。資材を運び込んで組み立てたのでしょう、それと機械室の色々な機械を見てみるとその機械の製造や年代、製造元、などがパネルに刻印されていました。また取り付けてあったプレートなどにも年式が記入されていましたが、それによりますと2215と書いてあるものが、いくつも、見かけました。おそらく色々な機材は2215年に作られたものなのでしょう」

 皆はきょとんとして何のことを言っているのか理解できなかった。

 神野も信じられなかった。また疑問に思うことを尋ねた「2215と言いますと、それは西暦2215年と言うことですか、今から二百年近くも未来ですよね、それに、先ほど、英語といいましたが、あの建造物は未来のアメリカで作られたと言うことですか?」

「どうだろう、パネルにはマニューファクチャーつまり製造のところに

 United Netionsとなっていました。」

 神野は驚いた「国際連合が、あんなものを製造を、何故?二〇〇年も未来の世界ではユナイテッドネイションと言っても今の意味と違っているのではないのか、各国が連合を組んでいた第二次大戦後の枠組みが二〇〇年後にそのまま存続しているとは思えないが、むしろ経済圏の集合体としてユナイテッドステイトとして地球が一つの組織としてその中にそれぞれの経済圏が集合している形態のほうがむしろ想像しやすいが、どちらにしてもこれだけのものを作る組織は相当の力のある組織であることは間違いないようですね、そのテストを行った武器といいますと、どんなものなのですか」

「大きい物は核爆弾のような物から、あなたたちがさっき見た、あの白い箱のような物まで、様々です、あの白い箱は確かインフィニティー221Eと言うようです。不思議でして、生命維持装置としても、そして医療としても私が見たのは切断してしまった足を再生させていましたね、もちろん人間ではなく豚でしたが、また移動手段にも、例えばテレポーテーションに使っていましたね、もちろん武器にもなりましたが、他にも使えるようでしたね、どうなっているのかわ分りませんが、あの白い箱は何かハードディスクのようなものでそれらがすべてインストールされているのだと思います。あの警護の人体のクローンについては先ほど言った通りです。あの建造物の中に生息していた、青々と生育した植物も、白い箱の力で繁殖していたのです、もっとも、私が生き延びられたのも、あの植物のおかげですね」

 山岸も聞いてみた。「しかし、あの白い箱の威力は凄かったでしたが、あれが武器としての白い箱の能力の一部なのですか?」

「あれは奴らの究極の代物のようです、奴らが何処からともなく現れて、海に向って、あの武器を発射する実験を、何度となく見ました。

 あの箱の色々な能力は人間の思考で使い分けていたようです。

 私もあの白い箱を近くで何度も見ました。一度は触ってみました、その時自分の志向が読み取られる経験もしました。自分の何かがあの白い箱に読み取られたのです。

 私が使った白い箱のあの武器は奴らがサンダーフラッシャーと、呼んでいたものです。私はその言葉を白い箱に念じただけです、見たとおり、とてつもない破壊力です、でも実験ではあんな物ではありませんでした。与那国島程の島なら一発で消滅させる能力はあるようです。」

 山岸は目を見開いて首を横に振り信じられない表情をした。

 森下も助手達も同じであった。

 神野の疑問も次々に出てきた。

「そもそも、そんな古代で武器の実験をやる必要があったのですか?」

 竹城の父親も同じ疑問は、あの島にいた当初は考えていた。その答えの資料を見つけたのでした。

「その答えは半減期(はんげんき)です。資料によると二〇〇年後の未来では全ての核実験や大量殺りく兵器のテストは禁止されていたようです、だからその時代では実験が出来ないため、古代の時代で核実験を行うことになったようです、そのことは私があそこに取り残されてから五年か六年ぐらい()ってから(やつ)らの資料をあさっていたときに何かの書類を読んで知りました。半減期のため、何千万年のうちには放射性物質も消滅して実験の痕跡(こんせき)も消え()せるだろうと考えたようです。あの海底遺跡も同じようにある時期に巨大地震が起きるらしくその時に琉球海溝に沈み込むことでこれも証拠隠滅を計ったものらしいです。」

 山岸が感心して「なるほど、証拠隠滅に時間を利用したのか、あの遺跡にしろ岩礁の建造物にしろ、スケールが半端じゃないよな、半減期を利用するとは」

 女性達はその話を聞いていてどういうことなのか理解できなかった。そして涼子が質問をした。「その半減期って何ですか?」

 森下が説明をした。「半減期ですか、それは例えば放射性物質の放射能の量が半分に減る時間を言います、その半分になった放射性部物質がまた半分になる時間も始めの半分になった時間と同じ時間がかかります。またその残った放射性物質が半分になるためにかかる時間も前の二つと同じ時間がかかります。そのように同じ時間をかけて次々に半分になる時間のことを指すのです。終いにはその放射性物質は消滅してしまうということです。

 涼子達は納得したのか頷いていました。

 山岸は思った。放射性物質と言ってもその半減期はさまざまだ、例えばストロンチューム90は二九年、セシウム137は三〇年,プルトニューム239は2万4000年、ウラン235は七億年だウラン238は44億6800万年もかかる、一体どの放射性物質をターゲットにしたんだ、いったいどんな武器なんだろう?

 父親の話ではこの巨大遺跡での実験は武器だけではないようでした。「確かに実験は武器だけではなく、何かの飛行物体のテストや古代の環境や大気の調査なども行っていたようですね、白い箱のあったドームの中にはその飛行物体がかなりの数格納されていたようです。

 森下は何故古代遺跡の舞台の部分があんなに巨大だったのか納得しました。「なるほど舞台は滑走路でもあったのか」

 神野はもう一つ知りたかった。「ところであの岩礁は何故突然崩れだしたと思いますか」

 竹城の父親は難しい表情をして「いくつか考えられます。例えば巨大ドームの屋根などは耐用年数の過ぎた屋根が内側のエアーコンディションによって高い気圧でかろうじてもっていたものがコンプレッサーが停止してしまったために外気圧に押されて一気に屋根が崩れだしたのでしょう、だが地面から突き上げる振動はまた別の原因のようでしたが、おそらく白い箱の機能を停止させたために岩礁のコントロールができなくなり自壊(じかい)が始まったと考えられます。ようするに、侵入者の排除が困難な時は自爆するシステムっだったのかも解りません、私はあの白い箱の機能を停止させたことで岩礁の破壊が始まることは、それらの理由から想像はつきました。だから、すぐに逃げなければと思いました。」

 神野は頷いて考えていた。「2215年か、どんな未来になっているのだろう?日本なんか(すで)に存在していないのかもしれないな」

 森下が深呼吸をして頷くと「何故そう思うのですか?」と聞いてきた。

 神野は「フン」と鼻を鳴らすと「森下、日本がどれだけの借金があるのか知っているだろう、この先もこんなへたな舵取りを政治家がするつもりならあと何年この国はもつのか分からないだろう」

「確かに」森下も頷いた、そして最後のピースを石版にはめ込んだ。「出来た。」と言いました、神野は組み立てられた石版を見て「せめてこの文字だけでも解明できれば」と、言うと。

 竹城の父親は組み立てられた石を見て「その文字には意味はありませんよ、ただのカムフラージュです。」

 神野は驚いて「何故ですか?」と竹城の父親を見た。

 父親は「意味があるのは、むしろその裏です。」と、言って、右手でひっくり返す仕草をしました。

 森下は、今組み立てた石版の表面にガムテープを張り付けて固定すると、石版をひっくり返しました。

 すると、その面に何重にも刻まれた円周が(えが)かれていた。

 その丸の中に、何かの衝撃で(くだ)かれた(あと)がありました。そこを中心に四方にヒビが走り石版は破壊されていたようでした。

 皆、これは何だろうと思った。

 父親はそのヒビの中心を指差して「ここに、何かの武器の弾が当ったのです。」

 すると、森下が「これは、射撃の標的だったのですか」と驚いた。

父親は頷いた。「こちらが表です。裏の象形文字(しょうけいもじ)のようなものは今回のように発見されたときのカムフラージュに過ぎないようです。」

 神野はため息をつくと、やられたかと思った。

 ただ、竹城の父親は考え込んで首を傾げた。「それがどうもおかしいのです。」

 皆は父親の話しに、何がおかしいのかと聞き入った。

 父親の話しは続きがありました。「実は去年の暮頃に突然奴らが来なくなりました。それまでは毎週必ず現れてはなにがしかの実験を行っていましたが、どうも向こうの世界で大変なことが起きたのだと私は思っています。」

「何か思い当たることがあるのですか」と森下が尋ねた。

 父親は考え込むと「うむー、何か向こうの世界で核戦争でも起きたのか?それとも大隕石により地球が壊滅したのか、とにかく国際連合が破壊されるほどのことだと思います。」

 なるほどと山岸が首を傾げると「それか、もしかすると赤い生物による驚異の増殖能力で地球が壊滅をしてしまったとか」

 すると森下が呆れるように「何それ、赤い生物ってなんだよ、しかも驚異の増殖能力によって地球がディストラクションしたのか、おまえSFの見過ぎだろう」

 それを聞いていた竹城の父親が笑みを浮かべると「そうですね、赤い生物に地球が飲み込まれて壊滅したのかもわかりませんね」と笑い出した。

 神野はお前らいい加減にしろよと言わんばかりに、首を横に振った。

 そして、竹城の顔を見て神野は微笑み「しかし、今回の調査は本当に来てよかったでした。とても興味のあるものを見ることができましたし、何といっても竹城さんの父さんを探し出すことができたことはよかったでした、それに興味深いお話も聞かせてもらいましたし」

 竹城真一は頭を深々と下げると「ありがとうございます。」と言いました。

 竹城は健三に振り返り「健三、与那国島へ帰還だ」と叫んだ。

 みんな、清々しい顔をしていました。



 涼子と安子と君江と恵美子はデッキに出てきた、椅子に座ると船のへりにもたれて、潮風を受けながら、今後の計画を考えていた。

「、ねえ、ねえ涼子、これからどうする」

「これからどうするって、まーあ、夏休みが終わったら、そろそろ卒論でも考えたり、就職活動に入るは、月並みかしら、安子こそどうするの」

「私だって同じだよ、君江はやっぱり留学するんでしょ?」

「卒業したらね、パパに進められて、パリにデザインのお勉強に行く事にしました。」

 そして、君江は恵美子を見て「恵美子、あなたはどうするの」と、聞いた。

 恵美子は笑顔で「私、来年、学部を変えたいと思っています。」

 涼子が驚いて恵美子を見た。「えー、学部を変えたいって、何を専攻するの?」

「理系に編入届けを出すつもりです。編入試験に合格したら、物理を学んでみたいと思っています。」

 君江が「篠崎先輩の影響なの?」と(のぞ)き込むように聞いてきた。

「そうかも知れません」確かに、あの晩、篠崎先輩から聞かされた話は、恵美子の何かの目を(ひら)かせたことは事実でありました。そして、今回の古代遺跡調査を通して、真実を突き止めていく探究心が、とても恵美子の心をわくわくさせる魅力となって、自分の中でとてつもなく(ふく)らんでいった事も事実でした。自分のカラに閉じこもるための古文とはひとまず卒業することにしました。

 涼子は思った、今回の旅で、恵美子はきっと何かを(つか)んだのね、もしかして、さなぎが蝶に変わるときなのかもしれないと思った。これで私からも卒業と言うことかしら、涼子はなぜか嬉しかった。

 恵美子も、今なら新しい自分に変れる気がしていました。

 君江をちらっと見ると笑顔で「それに、何か護身術も身に付けたいとも思っています。今日のこともあるし、女性も自分の身は自分で守れるようにする必要を感じました。」

「えー、護身術ですって」安子は驚いて「恵美子が護身術だなんて、信じられないよ」

 涼子もそこまでは付いていけないと思いました。でも恵美子の新たな挑戦は見守ってあげたいと思った。

「恵美子、頑張りな、一緒には出来ないけど、応援しているよ」と涼子は首を傾げて恵美子に笑顔を投げかけました。

 すると安子も君江も「私達も応援してるよ」と言うと、恵美子の可能性に笑顔で頷いていた。

 そこえ、神野がやってきて「涼子さん、今日は飲み明かしませんか、あんな不思議な体験までさせられて、飲まずにはいられませんよ」

 すると涼子は「そうね、やりましょうか、でも先につぶれちゃうんじゃ、つまらないは」と笑顔で神野を見つめました。

 神野は、ばつが悪そうに「いやー、この間は不覚でした。今日はがんばりますよ、ハハハハ」

「あら、二人でパーティーやるの、私もいってもいいかしら、お酒でも飲まなければ夢にあのクローンが出てきそうだし」安子は強引に行く気でいました。

 君江も「私もいくいく、仲間に入れてよ」と嬉しそうに乗ってきました。

 それを聞いていた森下が「それは楽しそうですね、先輩、私も仲間に入れてくださいよ」

 山岸も「じゃー、俺も仲間に入るか、パーっとやりましょうよ」

 すると、神野が「よし、じゃー、皆でパーティーをやろう、楽しくやろうじゃないか、竹城さんも来ませんか、お父さんの話しをもっと聞きたいし、是非、ハハハハ」

 既に日は落ちて、空には星屑(ほしくず)が無数に輝いていた。

 篠崎は満足そうに、恵美子を見ると「次は、もっと凄い冒険に行きましょうか」と言うと、恵美子は笑顔で「はい」と、大きく頷きました。

 篠崎は夜空に大きく輝く星を指差して「恵美子さん次は、あの星にでも冒険に行きましょう」と言うと。

 恵美子は笑顔で大きく輝く星座にウインクを投げかけました。






 第一部 終わり






第一章のお話は完結となりました。どうでしたか。

白い箱、そしてその島おも吹き飛ばしてしまう破壊兵器サンダーフラッシャー

ドーム型の巨大空間、クローソルジャー、そして2215年から時空を超えて現れた

謎の人物達、そしてその世界は赤い未確認生物により未来の地球が飲み込まれ壊滅してしまう、これらのキーワードはまさに前作の「ディストラクション 壊滅」に登場しましたお話しでした。そのお話しでは真っ赤な未確認生物により日本全土が侵略されてしまい壊滅寸前に追い込まれていきましたが、破壊兵器サンダーフラッシャーで回避することができましたよね。

次回は第二章に突入していきます。

そこでは恵美子が身に覚えの無いことから謎の組織から命を狙われることになってしまいます。それは未来の恵美子がその組織を壊滅寸前に追い込んだためと、その組織が恵美子を葬るため未来から送り込んできた刺客でした。


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