表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

「ディストラクション 壊滅」のスピンオフストーリー 『こんにちは、古木恵美子です・・・』 NO 3

明日には、涼子、安子、君子、そして恵美子たちは始めて巨大海底遺跡に対面することになるのでした。

こんなに大きな建造物を古代の人がどうやって作ったのか、しかもなぜ海溝の近くの海の中に、どう考えてもそのあたりが古代に陸地であったとは地学的にも考えられず、ただ、謎のムー大陸がこのあたりまで延びていたのか、不思議なことだらけでした。

しかも発見された石器の一部の物質が自然界に存在しない物質であったとは、神野のグループでなくともこれは調べたくもなるのでしょうね、これらの謎は解きほぐされていくのでしょうか?

  第1章 謎の巨大海底遺跡





5 これはいったい何のための物なの






 その夜は雲ひとつない澄み渡った空に星がところ狭しと、夜空を埋め尽くしていました。


 恵美子は船のデッキに置かれていた、椅子に腰掛けて、夜空を眺ながめていました、と言うより、考え事をしていました。


 私のわがままから、明日皆をとても危険なところに連れて行こうとしているけど、そんな事をして、もし取り返しの付かないことになりましたらどうしましょう、できたら、皆はここに残っていたほうがよくないかしら、どうしたらいいの、と悩んでいました。


 そこへ、篠崎が機材の一部を持ってデッキにやって来た。


 そして、恵美子を見つけると、笑顔で「どうしました、難しい顔をして、何か悩みでもあるのですか」と覗のぞき込みました。


 恵美子は目を大きく見開いてまばたきをすると、サーッと、顔を横に振りました。


 篠崎は機材を近くの箱の上に置くと、夜空を見上げて「星屑ほしくずがすごいですね、東京ではまず、見ることは出来ませんね、あの南に見える大きいの、木星かな、白鳥座の頭はデネブだったかな、あの赤いやつはサソリ座だ、心臓部がアンタレスと言う星だよ」


 いつしか恵美子も夜空を眺めていました。「こんなに星がたくさんあるのに、よく見極められますね、まるで星が降ってくるようです。」


「あの輝く星はわし座です、両側に羽を伸ばしているでしょう」篠崎は両手をポケットに入れたそして夜空を仰あおいでいた。


 恵美子も探し初めていました。「どこ、どこですか、分りません」


「よーく見ていると、見えてくるよ、やってごらん」篠崎は微笑みながら夜空を見ていた。


 恵美子は夜空をじーっと見つめていました。「ほんと、木星の下に、ひしゃくのような形が見えてきました。あれは北斗七星かしら?」


 すると篠崎はちょっと笑って「あれは北斗七星ではありませんよ、確かにひしゃくの形をしていますが、星が一つ足らないでしょう、中国ではあれを南斗六星なんとろくせいと呼んでいますよ」


 恵美子は感心して「篠崎先輩って、よくご存知ですね」と篠崎を見ました。


 篠崎はまだ、星座を眺めていた。


「あっ、見て、流れ星」


「えー、どこ、どこ、もう、消えてしまったの?」


「ハハハ、大丈夫ですよ、たぶん、あのあたりに何かの流星群があるのかもしれないな、見ているとまた、見つかりますよ」


「ほんとうかしら?」恵美子はじーっと、夜空を見つめていました。


 そして、急に驚いたように、目を見開いて、突然むねのあたりで両手を合わせて、目を瞑つむり、祈りだしました。


 篠崎はそれを見て「流れ星に願いをですか、子供のころは母に言われて私もずいぶん祈りました。でも何か叶かなったかな?」と言うと。


 恵美子は少しむくれて「そんな事はありません、きっと叶えてもらえます。」と真剣に言いました。


 篠崎はまだ笑みを浮かべて「何を祈ったのですか?」


 恵美子は小さな声で「今回の調査で誰も事故などにあいませんようにと、祈りました。」


 篠崎は真面目な顔になり「そうか、ごめん」と言うと、篠崎も夜空を眺めだし、急に胸の辺りで両手を合わせだしたのでした。


 恵美子はその姿を見て微笑みました。そして篠崎を見ていて、この人はどんな人なのかしら?と思いました。


「あのー」


「え、何ですか」篠崎が振り返りました。


「あのー、篠崎先輩はなぜ物理学をされているのですか?」


「物理学ですか・・・」篠崎は少し考えると「そうだな、僕のやっている物性物理学は量子力学や統計力学を理論的に分解して、バラバラになった中にある、基本となる物を探し出しています。と言っても難しすぎますか」


「はい、でもとても興味深い学問のように思います。」恵美子は理解しようと努力していた。


「興味深いですか、確かに、人間を観察するのに、僕達は色々な分子の記号で見てしまうこともあります。人間もその塊かたまりに過ぎませんから、しかし、そこに精神も存在する事も事実です、この精神も物理で分析できる物なのか、時々考えたりしますが。とにかく、物質の究極の姿まで到達できるのが物理だと思っています、もう、興味は尽きませんね」


 恵美子は微笑みながら聞いていて「とても楽しそうですね、私は小さいころから理科はとても不得意でしたけど、篠崎先輩のお話を聞いていますと、とても楽しそうです、自分の興味の解明のために物理を道具のように使っているみたいですね、私もなんだかとても興味が湧いてきました。」


 篠崎は嬉しくなってきた。


「嬉しいな、恵美子さんがそう思ってもらえると」


 恵美子は自然に男性と会話をしていることが信じられなかった、とても楽しい時間をすごしていると思いました。


 何故かしら、きっと篠崎先輩は私を女性としてではなく、分子の集まりと見ていると、自分に言い聞かせる事で、恵美子も同じように彼を異性とは意識せずに接するよう勤めたからだと思いました。


 いつしか篠崎を恵美子は観察していました。


 篠崎先輩はいつも次々と出てくる疑問をそのつど、このような最果ての地まで来てまでも、解明しようとしているのかしら、恵美子にとって、とても行動的で輝いて見えました。


 それに引き換え、私なんか、いつも古典の世界に逃げ込んで、自分を閉ざして生きてきていましたけれど、篠崎先輩を見ているとその扉を開けられそうな気がしてきたのでした、どうしてもその事を確かめたい、この調査に参加して何かを確かめたい。恵美子は彼のような生き方に共鳴を始めていました。


「私も物理、学べるかしら」


 篠崎は恵美子の意外な言葉にすこし驚きました。


「もちろんです。僕も協力しますよ」




 その頃、涼子は神野の部屋を訪ねていました。


 トントン「涼子です。」


 涼子さん?神野は一体何だろうと思いドアを開けた。「どうしました。涼子さん」神妙な顔をした涼子を見て、気になりました。


 涼子はうつむきかげんに「少しお話しがございます。よろしいかしら」


「ええ、かまいませんが、どうぞお入りください」


「失礼します。」涼子は礼をした。


 涼子はリビングに招まねかれましたが、ソファーに座らずに立ったままでいた。


 神野は「どうぞ」とソファーを勧めたのだが、涼子は突然深々と頭を下げて「ごめんなさい、ご迷惑ばかりお掛けしまして、どうしても、お詫わびをしておきたくて」


 神野はそういう感覚に疎うとくて、気にはしていなかったため、何の事か分らず「ご迷惑だなんて、気にしていませんよ」


 涼子はもじもじして「そのー、大事な調査の足手まといにはならないつもりですので、私達のことはお気ずかいなされなくても大丈夫ですので」


 神野はやっと理解したようでした。「そういう事でしたか、大丈夫ですよ、あなた達の安全についても、ちゃんと気を配らせていただきますから」と笑顔を見せると「安心してください」と付け加えた。


 すると、涼子は納得がいきませんでした。「そんな事をしていただいたら、私達が困ります。調査に専念していただかなければ、出来る事がありましたら、私達もお手伝いさせていただきたいと思います。何でも言いつけてください」


 神野は笑い出した。「ハハハハ、分かりました、でしたらビシビシと手伝っていただきますよ、そういうことでどうでしょうか」


「よろしくお願いいたします。」と涼子は頭を下げました。


「ところで、涼子さんは、お酒はいける口ですか」と神野が尋ねると。


 涼子は少し警戒しながらも、実は涼子もお酒は嫌いではありませんでした。


「でも」と涼子が言うと。


「いや、別に、無理とは言いませんが」と神野はまたソファーを勧すすめました。


「私もお酒は嫌いなほうではありませんので、もしよろしければ、お相手をしていただけると、楽しいかと思っただけです、いやいや失礼しました。忘れてください」と神野が言うと。


 そう言われると喉のどが渇かわいてきて「多少でしたら、いただけます。お相手あいていたしてもいいですは」と涼子は答えました。


 すると神野は嬉しそうに「そうですか、いや嬉しいな、一人でやるのもつまらないですからね」と笑顔で喜ぶと、涼子は警戒して「神野さん、私を酔わせて、襲おそったりしませんよね」と言うと神野は「えー」と驚いて「まさか、そんなつもりはありませんよ、楽しく飲めればそれだけで十分です。」と笑顔を見せた。


 涼子はあっけらかんとして「いいですは、襲われても、神野さんでしたら」と言うと。


 神野は驚いて「いやー、その・・・」どう振舞っていいのか、どぎまぎしてしまった。


 それを見て「神野さんって、可愛らしいんですね」と、とどめを刺してしまい、涼子は自分のペースになった事を確信しました。


「お酒は何があるのかしら」と涼子が尋ねると、神野は色々探して「ビールやウイスキー、ワイン、色々ありますね、僕は日本酒だけど」すると涼子も「私も日本酒をいただいてもよろしいですか」と言いました。


 神野は日本酒を持って来たが、涼子を見ると気遣きずかって「やはり日本酒は強いですから、ビールにしておきますか」と聞いてみた。


 すると涼子は「うーう、日本酒で大丈夫です、注ぎましょう」と神野の持っていた酒ビンを受け取ると、神野のコップになみなみと注そそぎました。


 すると、神野も涼子のコップに半分ほど注いであげました。


「まずは乾杯しましょう」と機嫌よく神野は何杯かあおると嬉しくなってきた。


「涼子さんも強いですね、さー、どんどん行って」


 すでに、お互い、十杯ほど飲み干していました、何のつまみもなくても楽しそうに次々と飲んでいきました。


 神野は神野で自分の研究論文の話に終始していました。


 涼子は涼子で将来の夢や学生生活を独り言のように話していました。


 二人の話はまるでかみ合わないはずなのに、なぜか同じところで、お互いの息が合ったように大笑いをするのでした。


 そんな状態の繰り返しで数時間が過ぎていきました。


 ドアのほうから、「トントン」とノックの音が聞こえてきました。


 すると涼子が気付いて「ノックの音がしているわよ、出なくていいのですか」と立ち上がると「どなたですか」とまるでいつもと変わらない状態で、ドアの方に急いでいきました。


 するとドアが開いていたので、助手の人達が入って来て涼子を見ると「准教授はいますか」と聞いてきました。


 涼子は辛そうな表情を見せると「神野さん、なんだかご気分が悪いみたいですはよ、介抱かいほうして差し上げたほうがいいと思いますけど」と言うと、「失礼します。」と言って自室に戻って行きました。


 そのドアの奥で助手達が心配そうに「大丈夫ですか、准教授、大丈夫ですか」


「おい、医者を呼んだほうがいいんじゃないのか泥酔状態でえすいじょうたいだぞ」と言う声が聞こえていた。


 クルーザーは祖納港そないこうを出て、真っ青に広がる海に白い波を蹴立けたてて走っていきました。


 船上ではカラフルなウエットスーツを着た。女性達がはしゃいでいました。


 助手達は神野の容態を気遣きづかって「大丈夫ですか、准教授」と声を掛けていました。


 神野はソファーに横になって「うー」とうなっていた。


 森下が気になって「どうしたんだ、神野先輩は?」助手の一人に聞いた。


 するとその助手が言うには「昨夜、飲みすぎたようです。」とのことだった。


 森下は驚いて「えー、飲みすぎた。どのくらい飲んだんだ」


「はい、部屋には日本酒の一升瓶いっしょうびんが四本転がっていました。」


 森下と山岸は驚いて「嘘だろう、いくらなんでも、先輩も酒は弱い方では無いが、しかし一升が限界だろう、誰かと飲んでいたんじゃないのか」


「さーあ」助手も首を傾げた。


「だって、先輩が一升飲んだら、後の三升は誰が飲んだんだよ、数人で飲まなければ無理だろう、誰かがいたんじゃないのか?」と森下が怪訝けげんそうに言った。


「ただ、私達が戻って来たときには、涼子さんがいました。」と、助手がぽつりと言うと、


 森下は首を傾げて「彼女は酔っていたのか」と聞いた。


「いえ、普通でした。」助手は首を横に振った。


「だろうな、他に誰だよ、そんな豪傑ごうけつは、篠崎、おまえか」森下は篠崎を見た。


「ばか言うなよ、俺は機材を船に運んでいただろう」篠崎も首を横に振っていた。


 山岸が「俺は健三さんと一緒に、前回の海底遺跡の測位をナビにインストールしていたからな」と潔白を強調していた。


 森下はまるでミステリーだと思いつつ、「じきに良くなるだろう」と、言うと、助手に「とにかく水を何度も飲ませてやってくれないか」といってデッキに出て行った。


 竹城は海面から引き上げた温度計を見て、まだ海水温の高いのが気になっていた。


 空の様子を見ると、まだ、雲一つ無い抜けるような青い空をしていた。


 森下は竹城に尋ねた。「どうですか、天候は持ちそうですか?」


「おそらく大丈夫でしょう、とりあえずこのまま進みましょう」と竹城は判断した。


「分かりました。」


 クルーザーは一直線に、目的地に向って白い波を蹴立てて走っていった。


 ドライバーの健三はマイクをつかむと、スピーカーのスイッチをONにして、話しだしました。


「お伝えします。目的地までは、あと二十分程で到着いたします。」


 神野も何とか回復してきた。


 デッキに出てくると、眩まぶしそうに太陽を右手で遮さえぎった。


 しかし、その姿は病人のように、そばの物に捕つかまり歩行をしていました。


 涼子がそばに近づいてきて小声で「大丈夫ですか、昨日はとても楽しかったでした。また、機会がありましたら、是非お相手を」とほほ笑みました。


 神野は笑顔を見せると「おう、やるか、昨日は不覚にも自沈じちんしてしまったが次は負けませんよハハハハ」と力無く笑いました。


 神野は大声で「篠崎、機材のほうはどうだ。」と言うものの「はあはあ」と呼吸があらかった。


「はい、だいじょうぶです。水中カメラも感度はいいです。」


「そろそろ、起動しておいてくれ」


「分りました。」


「篠崎、それと、フルフェイスのマスクのトランシーバーは、一たん船上のサーバーで中継できるんだよな」神野はいちいち指示をしていた。


「はい、会話内容はサーバーに残るようにしてあります。何かの障害で会話が途切れても、受信が再開した後に、途切れた後の会話の内容も、サーバーを開いて聞き直す留守番機能が使えるようにしてあります。


「うん、OKだな」神野は頷いた。


「それと、個々の携帯のGPSは船の位置を常に追うようにセットしてあるよね」


「はい、それもOKです。」


「うん、命に関わるから、再度チェックしておいてくれよ」


「はい」


「とにかく、何でも気になる事はトランシーバーでサーバーに残すように、皆にも伝えておいてくれないか」


「はい、分りました。」


「じゃー、俺もウエットスーツに着替えるか」と神野が言うが体がよろけていた。


 それを見て山岸が気遣きづかって「大丈夫なんですか、むりはしないでください、今日は、私達で行ってきますから」


「大丈夫だ。」といいながらも、神野はキャビンに戻るときに階段からころげ落ちてしまった。


 竹城も「こんな状態で海に入る事は危険すぎますので、やめてください」ということで神野は今回はやめるよう勧められた。


 結局、その日は神野は海にもぐる事は出来無かった。


 いよいよ、クルーザーは海底遺跡の真上に到着しました。


 海中はとても透明度が高く二十五メートルの底にある遺跡の姿が波に揺ゆられて見えていた。黒く異様に大きな姿は不気味な魔物のようにも感じられた。


 女性たちは一様にこれが本当に遺跡なのかしら、こんな巨大なものが一体何のためのものなのかと思っていた。




「それでは、今日の捜索のポイントを決めよう、前回の調査の資料を見せてくれ」と神野が言うと。


 森下がテーブルの上に模造紙に書いた遺跡の縮小図を広げた。「船は今この位置のようです。」


 神野は頷くと「今日はなれる意味からも、ここの上部を調査する事にしよう、くまなく探してくれ、どんな破片でも持ち帰ってきてくれ、頼むぞ」


「はい」


「分りました。」助手達が返事をしました。


 全員理解をすると、酸素ボンベを装着し始めました。


 女性達も、気を引き締めてクラシックアドベンチャーを身に着けた、これは水中で浮きも沈みもせず、一定の水深をキープするための.ジャケットのことです、そしてボンベを背負いだしました。


 今まで、一ヶ月間、皆で都内のダイビンッグスクールに通い、この日のために訓練を積んできたのでした。


 しかし、スクールの水槽の深さはわずか五メートルそこそこでした。


 水深二十五メートルともなりますと、体が受ける水圧がどの程度なのか、想像も付きませんでした。


 水圧で酸素が吸えるのか心配もありましたが、今さらと言う感じでした。何とかするしかないと思いました。


 いよいよ本番のダイビングだと思うと緊張でいっぱいでした。


 森下がそれを感じたのか、声を掛けて来た。


「君たち、大丈夫ですか、緊張するのは君たちだけじゃーないですよ、僕達もだ、水中では体の自由が利きにくいから、焦あせらずに、ゆっくり行動する事だ、体のほうが自然となれてくるから、心配はないよ」


 恵美子も君江も、強気を装よそおっている涼子も安子も、その言葉に安心する事が出来ました。


 それを、隠すように、安子は強気で「大丈夫です、お気になさらずに、私達もおじゃまでなければ、お手伝いさせていただきますので」


「準備は出来ました、行きましょう」と涼子が促うながすと、森下は「ああ」と頷いた。


 そして船のヘリから次々に海の中に後ろ向きで飛び込んで行きました。


 白い泡が波間に勢い良く登っていきました。


 海の中は真っ青で、神宮のプールとはまるで別世界でした。


「素晴らしいは」恵美子は生まれて初めて味わうその開放感と何に対してなのか、とても自由な意識を感じていました、とても嬉しかった。


 海の中はとても透き通って周りの景色がはっきりと見えていたのですが、何故なのかサンゴがまるで生息せいそくしていませんでした。


 これには、がっかりでした。けれど、すぐさま、好奇心は別の方向に向いていたのでした。


 徐々に海底に下りて行くと、黒々とした大きな物体がはっきりとしていきました。


 短辺方向が見える範囲でも百メートル以上はありそうな、長辺の距離はどこまで伸びているのかも分からないほどで、上から見ると長細くまるで空港のようにも感じましたが、近くで見ると明らかに人工的と思われる階段が規則正しく等間隔にいくつもついていました。


 恵美子はこれが古代の遺跡なのと、あまりに精工な建造物に感動していました、何かこの古代の遺跡と古典文学の非現実感が通じるような感覚が湧いてきました。揺ゆらぐ景色が古文の意味深いみしんの景色に思えました。


 その表面に降りてみると、かなり細かいひび割れが入っていました。


 周りを見渡してもただ、平らなだけで、この広場は一体何に使われていたのだろうと、想像してみた。


 これがもし海上にあったとしたら、まるで空母かヘリポートにちょうどよさそうだと、テニスコートなら何面取れるのかしら、やっぱり何かの儀式に使っていたのかしらと皆も感じていた。


 恵美子は思い出したように周囲を見回して、皆を探すと、すでに皆は調査を始めていました。


 恵美子は涼子の元に急いで行きました。


 そして、恵美子はフルフェイスのマスクのマイクに話しかけました。「涼子、何か見つかりました。」


 しかし、水圧でむねが押されてうまく話せませんでした。


「まだよ、とにかく隅々まで探しましょう」


 遺跡の表面の細かいひび割れには、小石や何処からか流れついたのか生活ゴミまでもが詰まっていました。


 プラスチックの破片やビンの王冠やビニールや紐ひぼのクズなど色々なものまでもがありました。


 こんな所までゴミで汚染されているなんて、安子はこの分だと地球全体ごみで汚染されていると感じました。


 恵美子も渡された袋に、めぼしい物を入れるものの、石版らしき物は見つかりませんでした。


 その日は、それ程成果も見られないままボンベの酸素も無くなりかけてきて作業は終了となりました。


 船上にあがっても、作業はたくさんありました。


 船が港に着く間、見つけたものがどこにあったのかや遺跡の状態などを図面に落としていきました。


 また、見つけたものをビニールの袋に入れて、マジックで日付や見つけた状態を書いたりしておきました。


 そして、ホテルに戻ると、今度は皆で一つ一つをチェックをしてみました。


 しかし、残念ながら関係のありそうなものは、ほとんどありませんでした。


 男性達は、初日から目当ての物が見つかるとは、そこまでは期待はしていないと、言ってはいましたが、内心残念そうでした。


 篠崎が皆に「一杯やりますか」と言うと、神野は「今日はやめておこう」と言って寝室に戻って行きました。


 今日、海底にもぐれなかった事が、だいぶ応こたえているようでした。


 恵美子は成果が無かったものの、それでも今までの人生では味わった事の無い充実感を感じていました。


 きっと、皆もそう感じていたのかも知れ無と思いました。








6 海底の巨大遺跡崩壊






 初日の成果は期待できるものは特に無かったが、その日の打ち合わせで、次の日は巨大遺跡の一段下がった階段から回廊に掛けて、調査を行う事になりました。


 そして夜が明け日が昇ると同時に、クルーザー、アポロンは銀色に輝く海面を、白波を蹴立てて、海底遺跡に向って走って行きました。


 皆は言葉も少なく、一人一人が、今日やることを頭の中で整理をしていました。


 昨日あんなにはしゃいでいた女性達も、何故か今日は神妙な表情で、言葉も少なめでした。


 神野も、今日は昨日の不覚を取り戻す意味からか、力が入っている気がしました。


 篠崎に見抜かれて「肩の力が入りすぎですよ」と言われると。


 神野は篠崎を見て「それはそうだろう、俺には今日が初日だからな」と苦笑いをしていました。


 ドライバーの建三がGPSを見て「着きました。」と声をあげた。


 ポイントに着くと、神野が「さあー、行こう」というと全員、次々に海中に入って行きました。


 誰が名前を付けたのか、海底遺跡の最上段の平らな部分を、舞台ぶたいと呼ばれていました。


 その舞台の各々の辺の側に十何箇所か、これもまた明らかに人の手で作られたと思われる、幅が八メートルはある階段が付いていました。その高さは十メートルほどで、なおかつ階段を降りきった所に、幅は二〇メートルはありそうな回廊が一周していました。


 森下はカメラで撮影をしていた。


 全体を見ているとなんとなく、マヤ遺跡にあります、カステージョと言う暦こよみを観測するためのピラミッドに雰囲気が似ていると思った。


 そして、南側の舞台の一辺の中央から突き出た、幅三十メートル程の回廊が何処までも真っ直ぐに伸びていた。しかし、百五十メートルも行くとその先は壊れてなくなっていました。


 山岸は階段を細かく見ていました。驚く事に継ぎ目がまるで見あたらないのです。


 この巨大な階段は石を削りだして作ったのか?


 信じられなかった。


 一応、持ち帰って石の種類を分析したいと思った。階段の端はしを欠かいて持っていこうと、金槌かなづちで叩たたいたのでしたがまるでかけませんでした。なんて硬かたいい石なんだと思った。


 神野もこの巨大な遺跡を見て、いったい誰が、何のために作ったものだろうと改めて思っていた。


 いくら何でも、これを建造するとしたら弥生時代以後でなければ無理だろうと感じた。


 弥生時代は三千年程前になるが、エジプトのピラミッドでも古いもので五千年程前になる、その頃はこの辺あたりは陸地だったのだろうか、それはないのではないのか、仮に陸地だったとしても、もし地震で沈み込んだにしては破損がまるで見られないし、何万年もかけて徐々に沈んだとなると、このあたりに何万年も昔に、こんな技術を持った文明が栄えていた事になるが、いずれにしろそんな事を解明するのは畑違いというものだ、我々物理学者に分かるわけもないが、けれど歴史が変わってしまうような話しになってしまいそうだと言うことは想像がついた。以前聞いた話だが、このあたりに、ムー大陸があったと聞いた事があるが、どうなのだろう、現実的でも無いだろうとも思った。?


 ここで見つけた石版の分子構造が、自然界に存在しない物質で出来ていることも考えると、この古代の遺跡と果して関係しているのか、どうしても、ここであの石版のほかの破片を探し出さなければ、この遺跡と石版の関連を証明できないと思った。


 しかし、その日も特に成果らしきものは出なかった。


 そして次の日も日が昇るとアポロンは海底遺跡に向かった。


 すでに五日程過ぎていた海底遺跡を細かく調べていき三分の二ほど調べ終えた。


 だいぶ女性達もスキューバダイビングにも慣れて来ました。そして潮の流れやごみのたまり場所なども分かりかけてきました。


 西側の階段のそばの溝の中を探していた、君江が、溝の中にたまった砂や砂利を取り除いていた。そこでなにやら幅が十五センチ程で厚みが十三ミリくらいの瓦の破片のようなものを見つけました。


「何かしら?」


 海水でゴミを落としてみると、表面にミミズのはったようなおうとつが出てきました。


 もしかして、これが皆の探している石版かしら?


 君江は、フルフェイスのマスクのトランシーバーで、神野を呼び出しました。


「あのー、神野さん、もしかしたらこれかしら、見てもらえますか」


 と、全員のフルフェイスのホーンから君江の声が流れてきました。


 全員が興奮して、本当か?と急いで君江のいる階段に集まってきました。


 神野はそれを受け取ると、一目見るなり「まちがいない」と興奮していた。


「君江さん、これを何処どこで見つけたのですか」


 君江が指差して「この辺りです。」と言うと、神野は全員に「この辺りを調べてくれ」と叫びました。


 慌てて全員がこの辺りを探すと、溝の中から次々と石版の破片が出てきました。


 暫しばらくすると、すっかり拾い尽くしたようで、後は何も出てきませんでした。


 神野も、もう拾い尽くしたようだと悟ると、早くこれをパズルのように組み合わせて見たいと思った。


 焦あせる気持ちを抑おさえて「よーし、今日はこれまでにしよう」と全員船に戻るように合図をした。


 全員も興奮して、次々に船に戻っていった。


 神野は船の上に上がると、竹城に興奮して「見つけましたよ、ホテルに戻りましょう、とにかく組み合わせて調べて見たいと思います。」


 竹城も笑顔で「良かったでした。では島に戻りましょう」とドライバーの健三に帰途の合図を送った。


 船は反転すると、与那国島に向けて戻って行きました。


 船が過ぎ去った後に、遺跡の近くの海水が盛り上がり、異変が起きつつありました。




すでに全員は、私服に着替えを済ませて、神野の部屋に集まりだしていました。


 神野の部屋は打ち合わせをするために、二十帖ほどあります、広いリビングの部屋を借りていました。


 遺跡から引き上げられた石版の破片が、リビングのテーブルの上にシーツをかぶせて、そこに石版の破片が置かれていきました。


 山岸はその破片をあっちこっちに移動して組んでいくうちに、しだいに形を整えていったのでした。


 皆も、ものめずらしそうに、覗き込んでいました。


 涼子は神野の隣に座ると「神野さん、おめでとうございます。お酒で祝杯でも挙げましょうか」と、笑顔を見せると、神野も嬉しそうに「いいなー」と笑顔で言ったものの、先日の事を思い出すと、咳払せきばらいをして「いや、今は酔ってもいられないので、次の機会に是非お相手していただけますか」と涼子の誘いを、飲みたい心を抑えて涼子の誘いを回避かいひしました。


 石版のパズルは、最後のピースを残す事となりました。そして、篠崎の友人からもらった石版の破片をそこにはめ込みました。


 すると意外に大きい物になりました。


 しかし、三分の一ほど下の部分は見つかってはいないため、未完成でした。


「意外と大きい物なんだな、一辺を測ってみるか、森下、メジャー持っていない」と山岸は森下に向って、手を伸ばしました。


 森下は「なんで、こうタイミングよくメジャーを持っているんだろうね」と言いながら、山岸にわたした。


 メジャーで測ると、「457.2ミリだよ、まあ、古代人が十進法を使っているわけ無いよな」と山岸は納得したように言った。


 すると神野が「それ、インチで割ってみな」と言った。どうなんだろうと、篠崎はスマートホンを取り出すと、機能を使って計算をしてみた。


「ほう、18インチで割り切れちゃうね、なんなのこれ?」


 神野は、これがどういうことなのかの議論に終始したなら、きっと時間だけ過ぎていき、答えの出ない議論になりそうだと感じた。


「それはまあいいか、それよりこの表面の文字だが、見て何か分らないか」


 すると山岸が「私も少し、この辺りの古代文字を調べて見ましたが、カイダ文字と言うのがあるそうです。この石版の文字がそうなのかどうかは分らないが、そうだとしたら、面白いことになりそうだな」


「えっ、どういうことなの」森下は分らなくて聞いてみた。


 神野が笑顔で「その文字は、明治の初期まで、この島で使われていたようだから、つまり資料の存在も多いと思う、その文字がカイダなら解読はたやすいということだ」


 しかし、篠崎は疑問に思った。「だけど、石版の破片を海洋考古学の敷島教授に見てもらったときは、この文字はフェニキア文字だと言っていたが、この文字は八〇〇〇年程前に、地中海のシリア地域一帯が発祥の地だそうで、彼らは海洋商業民族のため、その言語の痕跡としては、世界のいたる所に残っていると言っていた、この地域もその範囲だったそうです。」


 話を聞いていた周りの人達は頷いて聞いていた。


 神野は考古学者では無い我々にこの結論は出せないと、話しを打ち切りました。「我々にこの結論は出せない、今日はこれまでにしよう、明日も調査を頼むぞ皆な」と促うながすと皆も「お疲れ様」と、それぞれの部屋に戻って行きました。


 神野は海底遺跡の地図を見ながら、石版の破片が見つかった場所を図面で確認をしていた。


 そして想像をしてみた。


 この石版が見つかった場所を考えてみた。あそこでなければならないのか、条件は他も同じに感じたが、どうもこれはここで何かがあって壊こわれたのか、しかし何千年も散らばらずにここに固まって落ちているものなのか、おそらく嵐や台風も何百回か何千回も遭遇しただろうに?


 一段下さがったここはそれでも流れは一定で一種のたまり場になっていたのか、明日はここの西側の階段から、回廊に向って南側を探してみるか、あるとしたら、おそらくこちら側に流されているのではないのかと思った。




 次の朝も、日の出と共にクルーザー、アポロンは祖納港を出港して行きました。


 今日も朝から空は快晴で、太陽の日差しをさえぎる雲はまるでありませんでした。


 アポロンは白波を蹴立てて走って行きました。今日も、イルカの群れが一緒に走っていた。


 しかし、海底遺跡に近づくにつれて、しだいに雲行きがおかしくなりだしました。


 竹城は気圧を調べると、急激に下がっていた。しかも湿度が徐々に上がってきていた。


 独り言のように「この状況だと、霧がでてきそうだな」と、いやな予感を感じていた。


 クルーザーが遺跡の真上に来たときには、空は曇りぎみになっていました。


 全員ボンベを背負うと、神野が「では、手はず通り始めたいと思う」と言うと、篠崎が「先輩、できたら私は前回の調査のときに見つけた、洞窟どうくつに行って見たいのですが」


「洞窟、しかし、一人では行かせられないぞ」


 すると、すぐさま恵美子が「私も行きます。」と、躊躇ちゅうちょなく言いました。


 神野は恵美子を見てまだ、渋い顔をしていた。


 すると、涼子が「私も行くは」と言って神野の顔を見て、どうなのと言わんばかりに何度か頷いて見せた。


 神野はあの晩以来、涼子には、弱かった。


「うーん、まあいいだろう、しかし、深入りするなよ、無線が届かなくなるとこまるから」


「分りました。その時は、サーバーにメールを入れておいてください、繋がるとこに出たら確認します。」


「分った。」


 そして、次々と海の中に入って行った。


 篠崎と涼子と恵美子は別の方向に向って泳いでいった。


 その他の人達は、西側の回廊に向かって進んでいった。


 篠崎達は遺跡の東側を目指した。


 右上のほうに海底遺跡がのしかかるように大きく見えていました。


 恵美子がトランシーバーで驚きの声をあげました。


「見て、見て、石の柱が沢山たくさん立っています。」


 涼子もその方向を見ると、驚いた。「ほんとう、石柱が円形にならんでいるわね」


 篠崎はそれを見て「ストーンヘンジに似ているでしょう」と言いましたが。


 涼子も恵美子も、それってなんなのと思っていました。


 篠崎は付け加えて「何かの儀式に使ったようですね」と言っていた。


 石柱が立ち並ぶその先の海藻かいそうがゆれる中に洞窟が見えてきた。




 調査班は海底遺跡の舞台と呼ばれている上辺のあたりから西側の階段の所に向かって回廊のあたりまで調べ始めていた。


 回廊の壁に沿って続く側溝そっこうをさらうように進んで行った。


 まだ、特にめぼしい物は見つかってはいませんでした。


 森下と山岸は南側の階段のところに来ていた。階段の登り口の腰ほどの高さの壁に大きさが二十センチ程の四角い突起とっきを見つけました。見るとなにやらミミズのはった様な文字と思われるものが刻まれていた。引っ張ればはずれそうに思えた。


 森下は山岸を見て「何だろう」と思った。


 山岸はそれを何とかして取れないものかと思った。


 森下も取れそうに思うと引いたり、持っていたバールでこじってみた、両手で揺ゆさぶってみた、ぐらぐら動くもののしかし外れそうも無かった。


 山岸は取るのは無理のように感じた。「これは無理だな」と森下に促した。


 森下はそれでも押したり色々やってみたが、結局外れそうに無かった。


 その時二人のフルフェイスのホーンから助手の声がしてきた。「石版の破片が見つかりました。」と言ってきたのでした。


「何だと」森下と山岸は慌あわててその方向に向かって行った。


 やはり昨日、神野が推測したあたりで見つかったようであった。


 森下と山岸が去った後に壁のその四角い突起の部分が静かに壁の中に沈み込んでいったのでした。


 見つかった石版の破片を皆は拾い集めて袋に入れていた。


 そして拾い尽くしたときでした。


 海水が大きくうねった。全員「うわー」と叫ぶと、何が起きたんだ?と訳が分からなかった。そのまま回りを見ながら様子を伺うかがっていたが、しばらくすると巨大な海底遺跡全体が小刻こきざみに振動しだして舞台の表面の細かいひび割れがしだいに大きく広がって行き、より無数のひび割れが走り出した。


 神野達全員はそれを見ると慌あわてだした。すぐに収おさまるものなのかと様子を伺うかがっていたが、揺れは次第に大きくなりそのびび割れはより拡大していった、そしてそのひび割れの隙間から一斉に泡が吹き出してきたのでした。そして海中が揺ゆさぶられるようにきりもみが始まりだしたのでした。


 神野はこれ以上ここにとどまるのは危険だと判断すると叫んでいた。「地震だ、全員浮上しろ、船に戻るんだ」と何度も繰り返した。


 洞窟の方を見て篠崎が「ここだよ」と指差したときでした。突然、海水が揺れ動いたと思うと、すぐさま海水は激しくかき回され出したのでした。海草が激しく揺れていた円すいの柱も揺れ動くほどでした。三人はいきなりきりもみ状態になってしまった。


 成す術もなく、もみくしゃにされるまま、回りは泡だらけになって、海溝の方からマリーンスノーが沸きあがって来ていたのでした。視界が利きにくくなってしまった。


「わー」


「きゃー」フルフェイスのマスクのホーンから悲鳴が聞こえて来ていた。


「早く船に戻れ」と言う慌てた神野の声が聞こえてきた。


 すぐに慌ただしく、神野から無線が入ってきた。「篠崎、大丈夫か!」


 篠崎は返事も出来なかった。


「篠崎、聞こえるか、地震だ、遺跡が崩くずれだしているぞ、我々は船に戻る、篠崎達も直ぐに上がって来い!」


 何とか「はい」と言うものの、海上を見上げると、遺跡の壊れた岩が次々にスローモーションで落ちて来ていた。


 きりもみになっている三人の体の周りを次々に岩が落ちて行った。


 恵美子はその岩の流れに引きずられて海底に落ちて行ってしまった。


「きゃー」


 そのとき恵美子の手を篠崎は掴つかんで洞窟に向おうとした。


 恵美子はハっとして篠崎を見た。


 そして、涼子はどうしたのか、すぐさま周りを探しました。


 すると、大岩が涼子に向って落ちているのが目に飛び込んで来た。


 恵美子は叫んでいた。「涼子、上、逃げて」


 涼子は恵美子の声で上を見ると、大きな岩がのしかかってきたのでした、もう、逃げられないと思った。


 その大岩は涼子のボンベにあたりボンベから泡が吹き出してしまった。次々落ちてくる大岩に涼子は挟はさまれてしまった、涼子の体が悲鳴をあげた。その大岩にのしかかられたまま海底に落ちていった、涼子は押しつぶされると死を覚悟した。


 恵美子は叫びながら、篠崎の手を振り切ってすぐさま涼子の元に向って泳ぎ出した。


 涼子は大岩にのしかかられて海底に落ちて行った。岩がどんどん落ちてくる中、恵美子は追いかけても追いつかなかった。


 恵美子がいくら呼んでも返事がなかった。涼子はすでに気を失っているようでした。


「涼子―」


 その叫びは神野達にも聞こえていたが、どうする事も出来なかった。


 涼子が大岩に押しつぶされる瞬間、篠崎が涼子の手を引いて、落ちてくる岩をかいくぐり恵美子の元に戻って来た。


 上からは次々に大岩が、バラバラ落ちて来ていた。


 篠崎はその様子を見て「これでは、上に上がれない、一たん洞窟に非難しよう」と、三人はすぐさま洞窟に向かったのでした。


 神野達は何とか船に戻って来ることができた。


 しかし、大波に揺れる木の葉のように、波に揺さぶられるまま皆は船にしがみついていた。船の周りには水蒸気が立ちこめて視界も何も見えなくなってしまっていた。


 篠崎から無線が入って来た。「神野先輩、岩が次々落ちてきて、マリーンスノーで視界が見えません、上に上がるのは無理です、一たん洞窟に非難します。」


「マリーンスノーだと、皆無事か!」


「涼子さんが気を失っています。落ち着いたら、上に上がります。」


「分った、気をつけろ」


 涼子が気を失っていると聞くと、神野は気がきではなかった。


 涼子はぐったりとしていた。


 恵美子がいくら呼んでも反応はありませんでした。


 篠崎達は、波にもまれながらも、何とか命からがら洞窟に逃げ込むことが出来ました。


 洞窟の中は荒れ狂う波は消えていました。


 しかし、落ち着くのもつかの間でした、洞窟の外では落ちてくる岩で入り口がすぐさまふさがれてしまった。


 篠崎は腰につけていたのライトを外して、光を当てるとすでに入り口は完全に埋まってしまった。


 無線もすでに通じなくなっていた。


「まいったな、閉じ込められたか」


 篠崎は周りにライトを当て、照らし出して見た。


 洞窟の広さは直径が五メートル以上はありそうだ、壁には藤壺や貝がびっしり付いていた。


 そして何故なぜかこの洞窟は地震にもびくともしないほど頑丈がんじょうのようでした。


 とにかく、このまま奥に進むしかないと思った。


 海上では大きな波に木の葉のように船は揺さぶられていた。


 竹城が心配して「このままでは、船はバラバラになってしまいます。一たんここから離れましょう」


 神野は感情的に「しかし、篠崎達が戻ってきていない」


 竹城は焦あせって「このままでは、私達が遭難そうなんしてしまいます、この位置は確認済みです、落ち着いたら直ぐに戻れます。ですから」


 神野は決めかねていた。


 すると、ドライバーの健三が色々操作をしながら「だめだ、今は動けません」


 竹城は信じられない思いで健三を見て「何故だ?」


 健三は操作を続けて、難しい顔で「磁気が乱れているようです。GPSもレーダーも使えません、この霧の中を動くのは逆に危険です。」と言っても、すでに船は潮に流されていた。


 神野はおかしいと感じた。磁気嵐だと言うのか、だが磁気嵐は太陽フレア―が関係して起こるものだ、ここに相当のプラズマ現象が起きなければ磁気の乱れは起きないはずだ、何故そんなことがここで起きるのだ?


 竹城は状況を考えると確かに、この何も見えない状態でレーダーも使えないのでは、なす術もなかった。


 すると、デッキにいた森下が突然叫んだ。「岩だ、岩にぶつかるぞ!」


「なに」神野は慌てて、森下の叫ぶ方向を見ると、高さは何十メートルもある、岩というより岩礁のように大きな岸壁が目の前に現れて来た。しかも高さがグングン伸びていた。


 竹城は慌てた、その岸壁が急激に迫ってきていた。激突したら船ごと粉みじんになると直感した。「危ない、ぶつかるぞ」


賢三は必死にクルーザーを操縦して回避していた。


 その岩礁はどんどん大きくなっていき島とも言えるほどの大きさになってきた。そしてしだいに成長は止まりだした。


 クルーザーはどんどん岩礁に吸い込まれるように引き寄せられていった。


 竹城が叫んでいた。「危ないー。激突するぞ」


 すると、健三が「あの岩に船を接岸してしまいましょう、そうすれば船も壊れなくて済みます。」


 竹城はそんな事が出来るのかと、その岩をよく見ると、驚いた事に船を接岸する事の出来そうなところがありました。


「健三、あそこに接岸できるのか」


「ああ、やってみる」


 船は大きく揺れる波間をかいくぐって、ポイントに近づけて行った。


 そこはまるで船を接岸するにはおあつらいむきのようでした。


 神野も、そこにいた森下も竹城もほっとしていた。「助かったな」


「しかし、さっきまでこんな岩礁は無かったが、今の地震で隆起したのか?」山岸は考えていた。今の地震で海底遺跡の沈み込んだ反対側が隆起したのでは、すでにとてつもない大きさになっていた。


 神野はその岩礁を見上げていた。


 森下がよく見ると、船を接岸できるところに人が乗り移れるほどの平らな所を見つけた。


「あそこに船を接岸するぞ」と健三が叫び船を操作した。


 船はそこに徐々に近づいていった。よく見るとそこは本当に船を係留するには最適に思えた。


 山岸が近づいた岸を観察していると自然にできたにしてはあまりに船を接岸するのにあつらえたようにできていると感じた。


 船に乗っている皆も不思議に思いながら見ていた。「たしかにあつらえたような岸ですね」と言う者もいた。


 森下がよく見ると通路と思えるものまで出来ていた。


「ここは、人が何かのために、利用していたようだな」


 健三はうまく船を岸に寄せて行った。


 森下は岸側きしがわに飛び移った。見るとロープを固定する柱のようなものまで付いていた。


 すぐさま、船から渡されたロープを、その柱に縛り付けた。


 全員、船の中で波のおさまるのを待っていた。


 そして、しだいに波はおさまりだしてきた。


 その間、神野は何度も無線で篠崎を呼び続けていたが、まるで反応はありませんでした。


 空はしだいに暮れかけて来ていた。





 篠崎達はまだ、洞窟の水中を進んでいた。しかし、水圧はかなり低くなっているのを感じていた。


 涼子のボンベは既に空になっていた。恵美子は自分のマウスピースを涼子の口に当てていた。


 じきに水面が現れる感じがしてきた。


 涼子は篠崎に抱えられて水中を進んでいました。恵美子は涼子の直ぐ脇で心配しながら泳いでいました。


 洞窟も勾配が付いているらしく、しだいに足が付くようになりました。すると直ぐに水面が現れました。


 一気に水から上がると、三人はもう力尽きたという感じで、地面に倒れ込んでしまった。


 それでも、恵美子は力を振り絞りマスクとボンベを脱ぎ捨てると、涼子のつけていたマスクとボンベを外して「涼子、涼子」と呼び続けていた。でも疲れ果てているのか、涼子の反応はありませんでした。


 恵美子はどうしていいのか分らなくなってしまった。ただ涼子を抱きしめてあげるだけでした「涼子、ゆるして、私のわがままから、こんな事になってしまって」涙が溢あふれてきました。


 篠崎は周りにライトを当てて見た、驚いた、何故か真っ暗な洞窟の中なのに、つる草が青々とした葉をつけていた。しかもそれは壁一面を覆おおっていた。


 何故こんな所につる草が、この洞窟の出口が近いのか、その先は森にでもなっているのか?


 そして篠崎は少し調べて見ることにした。


「恵美子さん、どうなっているのか、僕は先のほうを見てきます。その間ここで休んでいてください、腰の装備品にライトがあるでしょう、それを使ってください」


「はい、気をつけてください」と恵美子は心配そうに見つめました。


 篠崎はゆっくりと、つる草の生い茂る中を進んで行った。


 恵美子は篠崎の姿を見守っていた。


 また、涼子の様子を見ましたが、涼子は苦しそうにぐったりとしていました。


 このままでは涼子が可愛そう、早く出口を探さないと、涼子は私が守らなければと強く思いました。


 恵美子はそのままずうっと涼子を抱きしめていました。


 暫しばらくすると篠崎が慌てた様子で戻って来た。


「どうでした。」恵美子はただならぬ篠崎の様子を見て何があったのかと思った。


 篠崎は信じられない顔をして、どう話していいのか困った様子でした。


「この洞窟、へんだよ」と言って、地面にたまっている、砂を穿ほじくりはじめた。


 すると、五~六センチ掘ったところから、金属の板のような物が現れてきた。


 その面を広げていくと、その金属の板に細かくストライプのおうとつが付いていました。


 その模様がライトの光に浮びあがって、はっきりと見えていた。


 恵美子はそれを見て「これって、デパートにあります、動く歩道の表面に、似ていますね」


 篠崎はやっぱりか、と思った。


 しかし、篠崎が驚いたのは、それだけではなかった。


「恵美子さん、この先にはもっと驚いたことがあります。」


 恵美子は唇をかみ締めると、どのようなことなのかしらと思った。


 恵美子は首を傾げて「どんな事なのですか?」


「それが、あるところから急につる草の間から天井が光りだしたのです。」


「そんな、この洞窟に天井があるのですか、光りだしたなんて、一体この洞窟は何ですか?」


「ええ、僕が洞窟を進んでいったら、突然光りだしたのです、まるで人感センサーのようなもので明かりが点ついたようでした、おそらくこれは洞窟ではなく、何か戦時中の秘密の施設なのか、よく分かりません」


「えー、古代のものではないのですか?」恵美子はどうなっているのか、なんだか恐くなってきました。


 篠崎は警戒して「古代のものではないようですね、誰が何のために作ったものなのか分らないが、そいつらが今もいるかも分らない、ここで少し様子を見ましょう」


「はい」と言うものの、涼子の事を思うと一刻も早く出口を探さなければいけないと恵美子は思っていました。


 つる草の上に座っていると、心は焦あせる物の、しかし疲れ果てていたせいか、急に眠気が襲って来ました。力が抜けていき、体の体制が崩れて行くと、眠気の中に沈んで行きました。


 篠崎も座り込み、壁にもたれかかり、目を瞑つむって、これからどうするかを、考え込んでいました。


 いつしか、篠崎も意識が遠のいていき、眠ってしまった。






いや、大変なことになってきましたね、巨大遺跡が突然地震によってその巨大な遺跡が崩壊して崩れだすとは、地震は自然現象だったのでしょうか、大岩が降り落ちてくる中洞窟の中に非難した、恵美子に涼子に篠崎は入り口を岩でふさがれてしまい、閉じ込められてしまった。その洞窟を調べてみると現在の技術に匹敵するほどの施工がなされているとは、いったいこの施設は何なのだろう?

というところまででしたよね、次回のお話ではいよいよ完結です。巨大遺跡も含めすべての謎が解かれていきますが、それは神野以下女性たちも驚くような内容でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ