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「ディストラクション 壊滅」のスピンオフストーリー 『こんにちは、古木恵美子です・・・』 NO 2

いよいよ学生生活最後の夏休みの思い出旅行に出発することになりました。

それはただ楽しい旅行になるはずでしたが?

なぜこうなってしまったのか、とても危険な巨大海底遺跡の調査に参加してしまったことを危険すぎると、考えが甘すぎたことを後悔していました。

そんな中、沖縄を皮切りに最終ベース地の与那国島へと向かうのでした。

近づくに連れその調査の危険だが徐々に実感されだして、女性たちには緊張感か漂いだしていたのでした。

 第1章 謎の巨大海底遺跡



   

3 沖縄へ出発


 

 旅客機はしだいに高度を下げて行きました。

 上空からは箱庭のように見える沖縄本島が、エメラルドの海の上に浮んでいました。

 そして、旅客機の周りに、白い真綿(まわた)のような雲がいくつもまた点在して浮いていた。

「わー、きれいだは」安子は旅客機の窓の外の景色を見て、はしゃいでいました。

 与那国島へは東京から直通の旅客機はなく機材や物資の調達のためにも沖縄本島を経由することになっていた。

 空港は沖縄本島でも、南の(はし)の位置にあります、那覇空港の滑走路がしだいに、大きく視界に入ってきました、キャビンアテンダントの()き通る声がアナウンスされてきました。

「じきに那覇空港に着陸いたします。安全のために座席のベルトをお()めください」

 空港は、自衛隊の基地の中にあるような感じで、飛行機は海の中に突っ込んでいくかのように下りて行きました。

 キユーン、タイヤが路盤(ろばん)にこすれる音がしたかと思うと、少しバウンドした後に、滑走路を自走して行きました。

 大きく右にターンしたかと思うと、エンジンが停止しました。

 そして、また、アナウンスが流れてきました。「到着いたしました。ベルトをお外しください、南国の島、沖縄にようこそおいでいただきました。楽しい、ご旅行をお楽しみください」そのアナウンスの後を追って英語バージョンのアナウンスが流れていた。

 君江がニコニコして「着いたわ、沖縄よ、わー、感激」

 安子も嬉しさが体からにじみ出ていました。「君江ったら、なに、その喜びよう、まるで月にでも降り立ったような感激ぶりね」

 すると涼子が「安子の顔もそう見えるわよ」と、言うと、立ち上がり、ドアに向かい歩き始めました。

 乗客はしだいにロビーに向って流れ出しました。

 その間も、安子も君江も「貴重な夏休みだものね、楽しい思い出を作るわよ」と、はしゃいでいました。涼子は平静(へいせい)を装ってはいますが、内心は嬉しさがこみ上げてきていました。

 恵美子はと言うと、なんだか、此処にいる自分が、場違いのような感じで、どうも現実身が感じられなかったのです。

 その(うしろ)を、気難しい表情をした篠崎や森下、山岸達の一行が大きな荷物を持ってロビーに向って行きました。

 国内線のターミナルを出て、タクシーを拾い、ホテルに向ったのでしたが、いきなり右側に広大な敷地に自衛隊の施設が目に入って来た。

 まだ朝の九時だと言うのに空にはすでにジリジリ焼ける太陽が輝き、街に入ると、路肩(ろかた)に大きなヤシの木やカラフルな歓迎の看板など、雰囲気は一気に南国の気分になりました。

 女性達は、旅をしている実感を味わっているようでした。

 男性達は、すでに海底遺跡の準備の事で頭はいっぱいでした。

 ホテルは国際通りに近いところでしたが、この辺りは東京と変わらず建物がひしめいていて、看板が無かったら、どこの街なのか迷いそうな感じでした。

 ホテルに着きますと、タクシーから降りて、安子はホテルの前に立ち、上のほうを見上げていた、ため息を付いたり、笑顔を浮かべたり、沖縄に来た実感を感じているようでした。

「それ程大きくわないけど、きれいだよね」薄い水色と濃い水色で太いストライプに塗り分けられて、赤と黄色の可愛いネオンでホテルの名前が(えが)かれていました。

「オーシャンズですか」安子は(うなず)いていた。

 ロビーに入ると、床は青い海で波乗りをする若者が、モザイク風に画かれたジュウタンが敷かれていて、南国の観葉植物がいくつか置かれていました。

 チークで出来ているカウンターの受付でサインを済ませると、案内されて女性達は部屋に向いました。

 エレベーターを降りてマリーンブルーのジュウタンを歩き部屋に入りますと、とてもアンティーク調の気持ちの良い部屋でした。


 女性達はいきなりベットにころがったり、窓を開けて景色を楽しんだり、君江が「ここ十階だっけ、景色いいわよ、ほら、海も見えるは」感激していました。

「わー、ほんと」安子も感激していた。

 男性達はすでに打ち合わせをしていました。

 神野はチェックシートを確認しながら「篠崎、スキューバダイビングの機材は大丈夫だろうな」

「はい、現地のホテルのほうに準備をお願いしてあります。」

「それと、ガイドも大丈夫なのか」神野は篠崎を見た。

「はい、(たの)んであります。」

「そうだ、色々購入したい物があるから、車借りてきてくれないか」神野は、なにやらメモを書き出しました。

「じゃあ車はフロントに頼んで起きます。」と、篠崎は言うと。

 メモを書き終えると神野は時計を見た。「まだ午前十時か」そして、神野は彼女達の様子を聞いてきた。「ああ、・・・・そうだ、彼女たち何してる?」

「さあ、くつろいでいるんじゃーないですか」篠崎は感心なさそうに言うと、神野は気を()かせて「向こうの島に行ったら、大した店も無いぞ、ここでエンジョイさせておいたほうが後で後悔されなくていいんじゃないのか」

「それもそうですね」篠崎はなるほどと思った。

 神野は大げさなジェスチャーで「じゃー、でかい車でも借りてきて、何処かに連れて行ってやれ、森下と山岸も連れて行っていいぞ、後は助手とやっておくから、じゃあ、このメモに書いてあるものを頼んだぞ」

「分りました。」篠崎はフロントでレンタカーを予約していた。

「お客様は、どのようなお車をご希望になされますか」フロントの係員は篠崎を見た。

「えーと、十人ぐらい乗れる車はないですか」

「それでしたら、スーパーロングの十二人乗りなどはいかがでしょうか」

「いいね、それお願いできますか。」

「ちょうどあいております。かしこまりました、ではレンタルしておきましょう、後ほど正面にお持ちしておきます。」

 そして、篠崎はフロントからロビーの方に目をやると、安子と君江がソファーにふんぞり返って、顔を上に向けて、真上の大きなシャンデリアを(なが)めていた。

 すると、そこに篠崎がよって行き「ねーえ、君たち、何やっているの」

 安子と君江がその声の方向に顔を向けると、そこに篠崎が立っているではありませんか、慌てて二人は立ち上がり「ただくつろいでいるのよ」と退屈そうに言うと、篠崎が笑顔で「じきにレンタカーが来ますから、後で皆でドライブにでも行きませんか」

 安子も君江も飛び跳ねて喜びました。「最高、いくいく」

 篠崎も嬉しそうに「じゃー、あとで」と言うと、歩き出しながら、何の気なしに「恵美子さんも誘っておいてください」と言って、エレベーターに乗って行きました。

 安子が不愉快(ふゆかい)そうに「何あれ、恵美子さんも誘っておいてだってさ、どういう意味」と君江の顔を見た。

 君江は肩をすくめるとストレートに「気があるんじゃないの」と無邪気に言いました。

 安子はげっそりと言った感じで、二人ともエレベーターに乗リ込みました。

 安子と君江が部屋に戻って来ました。

 君江ははしゃいでいましたが、安子は少しむくれていました。

「ねー、涼子、篠崎先輩がドライブに連れて行ってくれるって」と、安子が言うと。

 涼子は、トランクの荷物を整理していたその手を休めることもなく「どうしたの、安子、あまり嬉しそうじゃないようね、気分でも悪いのかしら?」

 すると安子が「えー、悪いわよ」

 それを聞いて君江が「安子ったら、篠崎先輩が、恵美子も誘ってきてってわざわざ言われたのでむくれているのよ」とふざけて言いふらしたのでした。

 すると恵美子は顔が赤くなり恥ずかしそうにうろたえると「わっ私、ドライブに行かなくてもいいです。」と言うと、安子は慌てて「え、それはだめよ、だめだめ、恵美子、私、何も気にしていないから、ねー、ドライブに行きましょう」と君江をにらめつけました。

 そして「涼子も行くよね」と尋ねました。

 涼子はトランクの中を整理をしながら「そうね」と迷っていました。

 君江が心配そうに「色々なところに案内してくれるらしいよ」とまた、誘ったのでした。

 涼子は考え込んで「そうね、きれいな景色でも見せていただこうかしらね」

 君江が嬉しそうに「さーあ、着替えようよ」と、衣服をあさりだしました。

「ねーえ、ねーえ、どう、これかわいい、早く、恵美子も着替えて」君江ははしゃいでいました。

 恵美子は笑いながら「私は、ジーンズと開襟シャツでいいです。」

 すると安子が「だめよ、白いスポーツカーに乗ったりするのよ、リボン、フリフリにしなさい」

 恵美子は笑い出して「そんなの、もっていないです。」

 すると「じゃー、これ着て」と安子が自分の、首と手首にフリフリの着いた白いブラウスを投げてよこしました。

 その服を手に取ると、恵美子は困って「えー、これ着るのですか、やっぱりこれでいいです。」

 カガミの前でお化粧をしながら、君江は思い(えが)いていました。「どんな車なのかしら、ほら、テレビに出てくるような、白くて長いリムジンかしら」

 涼子はただ笑っているだけでした。

 (しばら)くすると、森下が迎えに来ました。

 トントン「森下です、そろそろ行きましょうか」

「はーい」と君江がドアを開けると、そこに、ジーンズにTシャツの森下が立っていました。

 君江は「えー」ジーンズなのと思ったのでした。

 森下は、君江の胸の辺りとスカートの裾を飾る、黄色のフリルがとても可愛いと思った。「君江さん、にあいますよ、とてもいいです。」と言うと「さー、皆さん、車が下に来ています、行きましょう」と案内をしてくれました。

 女性達はうきうきしてロビーに降りて行きました。

「何処に案内してくれるのかしら、嬉しいわね」安子は胸のあいた白いリボンのワンピースをきていました。

 恵美子は、安子に強引に首周りと手首にフリルの付いた白いブラウスを着せられて、下は紺のコットンのスキニーパンツをはいていました。恥ずかしくて、左手で首のフリフリを、右手で左手首のフリルを握って隠していました。

 玄関を出た所で、森下が車を指差して「これでーす。さー乗ってください」とさっさと先に乗ってしまいました。

 安子と君江は「えー」と言うと、目を見開いて「スポーツカーじゃないの」と、安子が言うと「リムジンかと思ったのに」と君江が、がっかりしていました。

 それを見ていた涼子は、大笑いをして車に乗り込んで行きました。

 恵美子は涼子の隣の席に座ると、そこに、篠崎がやってきて「今日は夕方から打ち合わせをやりますが、それまで時間が空いていますから、少し沖縄を案内させていただきます。「どこか、行きたいところはありますか」と涼子に聞いてきました。

 涼子は恵美子の顔を見て「特にはありません」とお辞儀(じぎ)をしました。

「でしたら、先ずは、東南植物楽園にでも行きましょうか、けっこう有名ですよ」と言うと、涼子は頷いて「是非見せていただきたいは、お願いします。」どんな植物なのか興味が湧いてきました。

 すると篠崎は山岸に向って「運転手くん、先ずは、東南植物楽園に向ってくれたまえ」と言うと、山岸もその気になって「はいー、了解です。」と車は軽快に走り出しました。

 車は沖縄の真ん中を通り抜けています、国道329号線を走って、沖縄のへそに当るあたりにあります楽園に向いました。ナビゲーションシステムが付いているために難なく東南植物楽園に到着しました。

 入園しますと、いきなり見たことも無いカラフルな植物ばかりでいっぱいでした。

 感性の高い安子と君江は、その美しさに、見とれていました。

 森下はパンフレットを読み始めた。

「当楽園は南米や東南アジアから集められました二千種類もの熱帯植物が生い茂る植物園です。

 ハイビスカスやブーゲンビリアなどの熱帯の花々が咲き乱れる南の楽園そのものです。

 そして、アジアのリゾートを思わせる原色の景色、園内を見守るように建っています大きなトーテムポール、春にはネッタイスイレンの花が咲き誇り、そして大きな池、どれをとっても目を見張る素晴らしい景色ばかりです。だってさ、見ごたえあるよね」

 すばらしい景色を見ながら、皆頷いて、納得していました。

 コースを進むに連れて、東京では見ることのできないものばかりでした。「何あれ、まるでトックリみたいよね」と君江が言うと、森下が「トックリヤシです、見たとおりですね」

 篠崎が気を利かせて「疲れませんか、少し休憩しましょう、この先にフルーツバーがあるようです、様々な果物のジュースが飲めるようですよ」

 女性達は喜んで「わー、行きましょう」と笑顔がはちきれんばかりでした。

 恵美子はココナッツミルクを飲んでいました。「なにかしら、少し癖がありますけどとても美味しいですねでも今まで飲んだ事がありませんです。」

 安子はマンゴージュースを飲んでいました「これって最高」

 すると篠崎が「次は何処に行きますか、他にも楽しい所はたくさんありますよ」と観光案内のパンフレットを広げて見だした。

 君江は「せっかく車もあるし、綺麗な海を見ながらドライブできる所はありませんの」と言うと、篠崎はパンフレットを探して、それなら、海中道路と言うのがありますよ、まるで海の上を通り抜けるような気分だそうです。」

「わー、それ楽しそう」

 涼子が思い出したように「そう言えば、沖縄に日本でも有数の天然記念物と言われる鍾乳洞(しょうにゅうどう)がありましたよね、玉泉洞(ぎょくせんどう)と言いましたね、私はそれを見てみたいは」

 篠崎は頷いて「なるほど、それも興味ありますね」とまたパンフレットを開いた。

「ほーう、約30万年前の珊瑚礁からできたと言われているんだって、日本最多の計百万本の鍾乳石が林立しているらしいね、凄いな」

 時計を見ると正午になっていた。急に涼子は気が変わり「それより、おなかがすいたわね、どこか美味しい味処(あじどころ)に行きたいわね」と言うと、皆はそれもそうだなと言う事で、食事が出来るところに行く事になりました。

 篠崎がパンフレットを見て「じゃあ、やっぱり海中道路にしましょう、美味しい処がその先にあるようです、至福(しふく)のごはんが食べられるらしいです。」

 と言う事で、そこに行く事に成りました。

 そこは、国道329号道路を那覇に戻る途中にありました。

 海中道路はちょうど満潮のせいか、本当に道路の両サイドは海の中で、まるで、海の上を走るハイウエーといった感じでした、君江も笑顔で十分満足していました。

 五キロの道のりでは短くて、もったいない気もしましたが、青い空と青い海の(はざま)を走る爽快感は最高でした。しばらく行きますと、右に分かれる道が出てきました、それを少し走ると浜比嘉島(はまひがじま)と言う島にたどり着きました。そこに目的の店はあるらしいのでした。

 至福のごはんをいただけると言うお店がすぐに見つかりました。ログハウス風でそれ程大きくはないのですが、中に入ると天井がなく寄木が見えていました。とても落ち着く雰囲気は涼子にとって、とても自分にぴったりの感じだと思いました。

 メニューは、魚料理と肉料理の二種類、サラダの野菜は地元のものらしく、ご飯は五穀米、パンと両方出るのも嬉しいでした。

「うーん、とてもおいしいです。」

 女性たちもご馳走(ちそう)に満喫していました。

 すると突然、運転手をしていた山岸が、申し訳なさそうに「悪いけど、帰り、遠回りになるけど、ひめゆりの塔に行ってもいいかな」と言い出したのです。

 ひめゆりの塔と山岸さんは結びつかないと女性達は思いました。

 森下もおちょくるように「へー、山岸にもああいうノスタルジックに興味があったんだ」と不思議そうに言うと、「違うよ」と直ぐに山岸は否定して、その疑問を晴らすように「一昨年亡くなったおばあちゃんが、ひめゆりの塔で亡くなった人を知っていて、自分は年でもう行けないが、おまえがいつか沖縄に行く事があったら、花をたむけてほしいと言われたんだ。」

 皆の雰囲気が暗くなりました、山岸はまずい事を言ってしまったと思ったのでした。

 すると涼子が「そうね、私も見てみたいです、行きましょう」と言ってくれました。

 他の女性達も頷きました。

 ヤシの木が立ち並ぶ国道を走り山岸の言うひめゆりの塔に向かって車は走って行きました。

 ひめゆりの塔は、この本島の中でも南の端のほうにありました。

 みんなは神妙な顔をしてひめゆりの塔の前に立ち並んでいた。

 君江が信じられない顔で「これが、ひめゆり隊がいた(ごう)なの、とても小さいのね」

 それは、周囲が整備され、コンクリの手摺で仕切られた中に小さな豪がありました。

 当時、ここが病院として第三外科豪と呼ばれていたなんて、女性達には信じられなかった。

 しかも、この中に百名近い人がいたなんて、看護に当った女学生は皆、涼子や安子達より年若い十代の子達ばかりで、しかも、豪にアメリカ軍が次々に手榴弾を投げつけてきたそうです。

 資料館で、そのジオラマを見たとき、涼子は涙がこぼれてきました。

 帰り際に、山岸がその豪にゆりの花をささげると、誰も言葉が出ませんでした。

ホテルに帰りましても尾を引いていて、誰もが無言でいました。

 ロビーで女性達が男性達と別れる時に、篠崎が声を掛けました。「僕たちは食後、明日からの件で打ち合わせをするけど、君達はどうする、つまんない話だから、参加しても、しなくても、どっちでもいいよ、時間がまだあるから観光してきてもいいし、どうします。」

 涼子は頷くと「私達も、お話に参加させていただきます、調査の足手まといにもなりたくありませんし、危険な状況をもっと詳しく知っておきたいと思います。」

 篠崎は頷いて「分かりました、じゃあ、あとで来てください」と言って分かれて行きました。

 安子が時計を見て「ねえ、夕食何時だっけ?」と皆に聞くと。

 涼子が「六時半よ」と安子を見た。

 安子はそれを聞くと「じゃー、一時間半はあるよね、だったら君江と国際通りを見て回ってくるわね、ねー、君江」

 君江は頷いて「うん」と返事をしました。

 安子は涼子と恵美子を見ると「あんた達どうする」と聞いてきた。

 涼子はちょっとため息を付いて「私は、いいよ、めんどくさいから」と手を横に振りました。

「恵美子は」と聞くと、恵美子は煮え切らない態度で「うーん、私、にぎやかなところは苦手だから」と敬遠しました。

 安子は頷いて「そう、じゃあ行ってくるね」と君江と二人でホテルの外に出て行きました。

 涼子は恵美子を見て「相変わらずね、人見ちりするのね」と言うと、恵美子はうつむき、二人はエレベーターに乗り込みました。

 涼子は笑顔を見せて「安心しなさい、皆も恵美子のことは好きだし、私もいつも見守っているから、でも、可愛いいさなぎもいつかは蝶になり、羽ばたいて行くように、恵美子もそう頑張らないとね」

 恵美子はうつむいたまま頷きました。

 安子と君江はヤシの木が立ち並び、あちこちの角にシーサーが置かれていて、ネオンがまるで乱舞しているような、活気溢れる、繁華街を一軒一軒見て回っていました。

「おじょうちゃん、きれいなサンゴの首飾りや指輪がありますよ、見て行ってください」

 あちこちの店で声を掛けられました。

 お店の中に入ると、サンゴ細工の飾り物がところせましと、置いてありました。

 二人は笑顔で、どれもこれも目移りしていました。

「わー、これきれい」

「この指輪、どう、にあう」

 と、はしゃいでいました。


 夕食時になると、ホテルの一階のロビーの脇にある、レストランに皆が集まって来ました。

 テーブルに付くなり、君江がニコニコして自慢げに「これ、どう、これ、にあうでしょう」と指にはめたサンゴの指輪を皆に見せびらかしました。

 涼子が「わー、素敵ね、ちょっと見せて」とその指輪を受け取り、色々な部分を(なが)め回して見ると。

 あげくの果てに「ねー、これ、どうやって指輪の台にくっついているの、何か、接着剤でくっついているみたいね」と言い出すと、君江が心配そうに慌てて指輪を取り上げて「うそー」とたんねんにながめだしたのでした。

 それを見て、涼子は「冗談よ、ハハハ」と大笑いをしていた。すると皆も、つられて笑いだしました。


 そして、いよいよホテルの小会議室で打ち合わせが始まりました。

 あちこちに、明日もって行く機材や備品を詰めたダンボールが、いくつも置かれていました。

 中央の大きなホワイトボードに、いっぱいに張られた地図と前回調査したときの写真が数枚貼られていました。

 そして、神野准教授を中心に打ち合わせは進められていきました。

 神野はボードに張られた、大きな地図をながめていた。

そして振り返り皆を見ると話しを始めた。

「もう一度、今回の調査の流れを確認しておきたいが」と言って、地図を指差して「現在はここだ、沖縄本島にいる、で目的地はここだ」と地図の海の中を指差した。

 何も知らない女性達は怪訝(けげん)そうに、そこは何処(どこ)なのかしらと思いました。

 そして神野は次に小さな島を指差して「この小島が与那国島です、今回もこの島をベースにします、そして、ここに向う」とまた地図の海の中を指差しました。

「ここの海底、二十五メートルに沈んでいる巨石遺跡を調査しますが、ベースの島からここまではおよそ六十キロはある、この与那国島自体が、ここ沖縄本島からおよそ五百キロ程西に向った日本の最果(さいは)ての島なので、この島までは小型の飛行機で行くが、その先はボートをチャーターして行く事になる、地図を見ても分るように、九州の南端から台湾に掛けて沖縄も含め、ここに点在する島々を南西諸島と呼ばれているが、しかし、すぐその南側には琉球海溝が走っていて、我々が行こうとしている場所も、この海溝の直ぐ脇に当るところだ。

 この南西諸島が乗っかっているユーラシアプレートの真下にフィリピン海プレートが沈み込んでいるため、この琉球海溝の深さは八千メートル近いと言われている、そのように、この辺りの場所は地震も多く不安定な所だ。

 前回の調査でも分るように、海底遺跡の裏側には海溝の入り口が見えている、潮に流されでもしたら、非常に危険な所なので十分注意してほしい、それで、遺跡の調査のほうだが・・・」神野の話しは続いていた。

 君江は首を傾げて聞いていた。おかしいはねたしか与那国島は沖縄本島の隣の栗国島のそばだと思っていたのに、直ぐさま持ってきた「旅のプランニングマップ」と言う雑誌を開いて、与那国島の位置を調べてみると、何と沖縄からはるか彼方のむしろ台湾の目と鼻ほどの位置にありました。

 君江は目を見開いて信じられなかった。

「えー、見てよ、与那国島って日本の最果ての島だよ、晴れた日は台湾が見えるんじゃない」と小声で言うと両隣の涼子と安子も「えー」と言うと、顔色が変わり、それ以上言葉も無かった。

 その後のことは神野が何を説明していたのかまるで頭に残らず、ただ呆然(あぜん)と、どうしたらいいのか考えがまとまらないままに、打ち合わせは終了していて、皆自室に戻って行きました。

 君江が突然「そんな日本の最果てなんて、私行きたくないは、第一すごく危険のようじゃない、私いやだよ」と困り果てた顔で言い出したのでした。

 涼子も考え込んで皆の意思を聞こうと思った。「確かに、何のための夏休みなのか、元々今年の夏休みをただ楽しむための旅行のはず、楽しむどころではないかも、今ならまだ断れるけど、皆の意見を聞かせて」

 安子は自分が篠崎先輩を強引に押し切って、旅行に割り込んで、一緒に来ることを約束させてしまった手前、与那国島へ今さら行きたくないとは、さすがに言えないと思った。

 でも、涼子にどちらなのと聞かれたら、行きたく無い、と言ってしまいそうでした。

 涼子は安子を見るなり「どう、安子、あなたはどうするの」と聞いてきました。

 安子は直ぐにでも、行きたく無いと叫びたかった。そこで考えました、恵美子に先に答えてもらって、当然、行かないと言うに決っているだろうから、そしたら、私も、それならやめましょうと、答えようと考えたのでした。

「ねーえ、恵美子はどうなの」と安子は、これで与那国島行きは無くなったと確信しました。

 涼子は直ぐに安子の考えを見抜いていた。ここで恵美子にYesかNoを決めさせるのは(こく)だと思った。

 そして「安子、それは無いは」と言うと、直ぐに安子が「だって、皆の意見を聞かないと分らないから」と言い返しました。

 涼子は「だったら自分が・・・」と言いかけると、恵美子が「いいです。」と言って、涼子の言葉をさえぎったのでした。

 そして、思いを話しはじめました。「私は・・・」皆は言葉を押し殺して静かに恵美子の言葉を聴いていた。

「私は・・・もう三年生だし、来年は就職活動が忙しくなるだろうし、好きなことばかりは出来なくなるでしょう、だから、私も、今年の夏は皆と一緒に楽しく過ごしたいと思っていました。でも私、このままの自分で今年も終わってしまっていいのかと思うと、とても不安です、今何かをやらなければ自分は変わることができないのではと、取り残される思いがしていました、それで今回の旅行で自分を見つめたいと思っていました、さっきの神野さんのお話を(うかが)っていまして、とても厳しい状況だと思いました。でも、初めて自分を変えることのできる最後の機会のような気がしました。・・・でも皆の気持ちは、もう行きたく無いと思う気持ちでいることは感じました、だからいいんです、あきらめます。」

 すると安子は自分の考えが余りに自分本意だと思たのでした。そして「恵美子、あんた、本当は行きたいの」と尋ねました。

 恵美子は唇を噛みしめると、下を向いて小さく頷いたのでした。

 安子は、ごめんと心で謝りました。「そんなのだめだよ、恵美子、行きたいなら、行きたいとちゃんと言ってくれなければ、うー、ほら、与那国島もいいところかも知れないし、少し危険だけどさ、うー、きっと、恵美子の探すものがあるかもしれないよ」

 涼子はそれを聞いていて「私は行くわよ、君江、安子、あなた達はこの本島に残りなさい、大丈夫だから」

「えー」と言った感じで、君江はどうなっちゃうのか分らなくなってきた。

 すると安子が「だめ、だめだめ、私行くは、私は最初から行くつもりだったし、君江だけ残って」

「えー、な、な、なに言ってるの、私だって行かないとは言っていないわよ、行くわよ」と君江は深呼吸をすると、自分に言い聞かせるように「私も行く」と言葉にして自分に言い聞かせました。

 すると涼子は笑い出して「あんた達、ばかじゃないの、あんな危険なところに、夏休みの楽しい思い出なんか期待(きたい)できないわよ、それでもいいの」と、二人を交互に見ました。

 すると君江も安子も、二人そろって「悪いけど、私は行くよ、私も何かを見つけるためにね」

 それを聴くと、恵美子は皆の気持ちに申し訳ないと思うと頭を深々と下げました。

 涼子は二人に無理をしてほしくないと思うと二人を見て「あなた達、無理をしなくてもいいのよ、海底遺跡には恵美子と私で行きます。あなた達はここで夏休みの思い出を作りなさい、私達にえんりょうはいらないは」

 その言葉を聞いて君江は腹が決まった。「私は行くよ、遠慮(えんりょ)なんかしていないは、私は無性に行きたいの」

 安子も「涼子、何を言っているの、私だって無理なんかしていないは、むしろ皆に私のスキューバダイビングの腕を見せてあげたいのよ、行くわよ」

 涼子は頷いて「あんた達ほんとに呆れるわね、分かったは、でしたら明日は気持ちよく出発いたします、いいのね」

 皆頷いていました。


 





  4 日本最西端・与那国島



 


那覇空港の2階フロアーのゲートラウンジを皆は進んでいました。搭乗待合室まで来ると、左側の大きな窓の向こうに、私達の乗る機体が見えてきました。

 階段を下りて通路を通って行き、その旅客機に乗り込んで行きました。

 すると、前を進んでいた君江が振り返り「ねーえ、小ちゃくない、ジャンボじゃなかったの、見てよ、プロペラが二つ付いているだけよ、大丈夫なの」

 涼子は呆れた表情で咳払(せきばら)いをすると、安子も呆れて「アホじゃない、与那国の滑走路が小さいからじゃないの、ジャンボは飛べないのよ、それより恥ずかしいわよ」と小声で叫んでいました。

 恵美子は左手で口元を押さえて笑っていました。


 機体は軽快に上空に舞い上がって行きました。

 すでに青い海しか視界には入りませんでした。

 ときおり島が点在して見えるだけで、それがまるでミニチュアのおもちゃを海に浮かべたようでした。

 すると突然機体が、ジェットコースターのように落ちて行き、機内ではあちこちで悲鳴が上がりました。「キャー、キャー」

 エアーポケットに入ったようです。

 小さな機体はどうしても気圧や気流に左右されてしまうのです。

 それでもこの、DHC―8は二千馬力の双発機で、巡航速度も時速七百キロはターボブロッグ旅客機としては早い方なのだそうです。騒音、振動抑制装置を備えました、五十席の小型機です。

「キャー」そしてまた、機体が急降下をしました。機内に悲鳴が上がりました。

 それから一時間ほどすると小さな島が見えて来ました。

 そして暫くするとアナウンスが流れてきました。「じきに与那国島にご到着いたします。安全のために、シートベルトをお締め下さい」

 機体はじょじょに高度を下げて行きました。

 青い海に浮かんだ木の葉のような形の東西十二キロ足らずの小さな島でした。その中でも、平らな所に滑走路はありました。

 のどかな島に感じました。

「キューン」タイヤが滑走路に接触する音が響いた。直ぐに機体が細かく振動を始め、機体が大きく反転すると、機体は停止してエンジンが止まりました。

 歓迎のアナウンスが流れると扉が開き、いよいよ島に降り立つ事になりました。

 しかし、彼女達は笑顔も無く飛行機のタラップを降りて行きました。

 じりじりとした太陽の日差しが肌を刺す感じでした。

 小さなパッセンジャーターミナルで手続きを済ませて外に出てみると、南国とくゆうの景色と、のんびりとした雰囲気は何故か落ち着いていて、思っていた以上に心地が良いものがありました。

 ホテルから迎えに来た小型のバスに皆は乗り込みホテルに向かいましたが、道路もきれいに整備されていました。ホテルがあります祖納港(そないこう)の街までは三キロほどで、直ぐに到着しました。

 ホテルは海の色に似合う、白いリゾート風の小さなホテルでした。

 君江はホテルを見て「まー、可愛い、きれいなホテル」と言うと、今まで暗かった表情が笑顔に変わって行きました。

 中に入ると、壁も白で統一されていて、籐というヤシ科の植物でマレー語でラタンと呼ばれています、つるのような性質の植物で作られました、椅子やテーブル、それに受付のカウンターまでもがとてもマッチしていて、素敵(すてき)でした。

 ロビーのいたる所にラタンのかごに入れられた小ぶりのヤシの木が置かれていました。

 君江も安子もニコニコして満足している様子でした。

 篠崎はフロントでチェックインの手続きをしていた。

 神野、森下、山岸達は機材を一たんロビーに置くと、篠崎のいるカウンターに集まりだしました。

 女性達は回りを眺めながら、何かを納得しているようでした。

「へー、わりと快適そうじゃない」と安子が言うと、涼子も頷いて「確かに、あなた達、楽しい夏休みが過ごせそうね、良かったわね」と、二人を見ました。

 恵美子も、ここが思った以上に素敵なところだったので、ある意味責任を感じていた手前幾分ほっとするものを感じていました。

 カウンターでは手続きも済んだようでした、篠崎が女性達に向かって「涼子さん達もサインをお願いします。」

「はい、分りました。」女生達が返事をしました。

「そうしましたら、お部屋のほうは五階となりますので、ご案内いたします。」

 ホテルマンに(うなが)されてエレベーターに乗ると、部屋に向いました。

 篠崎はカウンターで受付の人と話しをしていた。

「ところで、予約してあります、クルーザーの件とガイドについてはどうですか」

「あー、はい、その件でしたら、受け(たまわ)っております。まちがいなく手配してありますので、クラブの方にはこちらから連絡を入れておきます、後程(のちほど)、ガイドが来ましたら、お部屋の方へうかがわせます、そうしましたらどちらのお部屋へうかがわせればよろしいでしょうか」

「だったら、神野の部屋に、503へお願いします。」(とどこう)りなく進んでいることを確認すると篠崎は頷いた。

「かしこまりました。」受付の人もすぐに電話の受話器を取るとクラブに連絡をしていた。

 篠崎はやっとここまで来たかと感じていた。

 そして神野の部屋に向かった。


 女性達ははしゃいでいました。

「わー、部屋も真っ白なのね」君江はニコニコしていました。

 安子は部屋に置かれた椅子に座り「このラタンで出来た椅子って、涼しいしけっこう気持ちいいわよね」

 涼子は窓から外の景色を眺めていた。「青い海いいわね、沖縄と違って回りに雑踏もひしめく建物も何も無いのがいいわね」

 恵美子も表情は笑みを浮かべて、トランクを開けて整理をしていましたが、内心はここに来て自分にとって、何かをつかむことは出来るのかしら、自分を変える何かにあう事ができるのでしょうか?と思っていました。


 男性達は神野のいる部屋で予定を確認をしていた。

 助手達は神野のことを准教授と呼んでいました。

「准教授、ダンボールの中身は出しておきますか」

「おう、頼むよ」

「准教授、明日使う機材はどうしますか」

「うーん、何があるか分らないから一応、全部持って行けるようにしておこう」

「分りました。」

 山岸が森下を見て「森下、沖縄で良い物を食べすぎたんじゃないのか、ちょっと太ったろう、ウエットスーツ、きつそうだな」

 森下は笑い出し「うるさいぞ、おまえこそ、ウエットスーツから足が出るのか、ウエットスーツで松の廊下みたいじゃー、歩けないぜ」

 山岸も笑い出し「ばかか、おまえ、松の廊下かよ、お前に殿中をくらわしちゃうぜ、ハハハ」

 篠崎が戻ってきて「先輩、じきにクラブから担当者が来るそうです。」と神野を見た。

「分った。それじゃー、あれ出しておいてくれ、前回確認した、海底遺跡の測位の資料あったよね」神野は指示をした。

「はい、あります、分りました。」

 篠崎は資料を取り出すと「これですよね」

 神野はちらっと見ると「ああ、ちょっと見せて」と受け取った。

「やっぱり、このあたりに停泊するしかないか」

「そうですね」それを(のぞ)き込む篠崎も合槌(あいづち)をうった。

「コンコン」

 神野が振り向くと「どなた?」と声を張り上げた。

「はい、ベスト・パシフィック・クラブから参りました。」ドアの向こうで男性の声がした。

「おう、どうぞ」もう来たのかと神野は思った。

「失礼します。」胸にBPCのロゴが書かれたカラフルなサマージャケットを着た、いかにも人なつこそうな三十半ばの男性が入って来ました。

 笑顔で男性は胸のポケットから名刺を取り出して、神野に渡すと「与那国島へようこそ、歓迎いたします。私は竹城(たけしろ)といいます。」と一礼をしました。

「それは、ありがとうございます。」と会釈をしながら神野は名刺に目を通しました。

 そして、名刺を見ながら「あなたのところでは、スキューバダイビングのインストラクターもされているんですか」

「はい」

「その他に、ガイドもボートも(あつか)っていますが」竹城の説明を神野は聞いていた。

 すると篠崎が「ボートについてはホテルの方に頼んでありますが」

 すぐに、竹城は「そのボートに付きましても、私の所で手配させていただいております。」

「そうでしたか、操縦士もいるのですか?」と篠崎が聞くと。

 ご心配なくと言った感じで、竹城は「もちろんです、他にいるものはございますか」

 神野が「それに、スキューバダイビングの装備を人数分借りたいが」

「かしこまりました。」

「そうしましたら、プランをお聞かせ頂きたいと思いますが」竹城はメモの用意をした。

 神野は森下、山岸を見ると、篠崎を見て、竹城に計画を話していいものか迷った、前回のこともあるし、あの海底遺跡について島民は語りたがらない、いやむしろ隠しておきたいようだったことを思い出した。

しかし神野も情報が欲しかった、今の海底遺跡周辺の気候、海流、波の状況など、そして、一部を話して反応を見ることにした。神野は竹城を見た「目的地は六十キロ東に向った海底遺跡です。」

 それを聞いて、竹城は一瞬顔色を変えた。「あのデビルストーンですか、・・・・そういえば去年も今頃、一グループだけ、あそこに行ったと聞きましたが、あなた達だったのですか」

 神野は頷いて「そうだが、何故、デビルストーンなどと呼ばれているんですか?」

 竹城は気難しい表情を見せて、話しだしました。「深海でしか見ることの出来ないマリーンスノーが突然現れて、辺りを埋め尽くすと、雪女が現れて、そこに行った者は皆、深海に引きずり込まれると言う、言い伝えがあります。あそこに行った島民は何人も行方が分からなくなっています。だからあそこにガイドをする者は、まともな者なら一人もいません、去年はどうされたのですか?」

 すると篠崎が「そう言えば、去年は別のホテルだったが、フロントにガイドを頼んだのですが、なかなか見つからず、もめていましたね、結局、私の友人が以前そこに行った時にガイドをしてくれたと言う、確か、桐生(きりゅう)と言ったかな、だいぶぼられましたが」

 竹城は眉間にしわを寄せて「あいつですか、桐生は変わり者ですから、金を積めばどんな危険な所でも行くやつですよ、とにかくお客様に危険な事はさせられません、できましたら他の目的地に変更は出来ないのですか、海底遺跡でしたらもっと近くにもございますが」

 神野は竹城を見ると「あなたはそこには行ったことは無いのですか?」と尋ねると。

 竹城は考え込んで「はい、ありません」と恐縮して答えた。

 神野は少しがっかりして「仕方ありません、ではまた、前回と同じガイドさんにお願いしてみましょう」と言うと。

 竹城は困った表情を浮べ「どうしても行く先は変えられないのですか?」と尋ねて来ました。

 神野は無言で頷くと、篠崎が「学術の調査で行くのです、遊びに行くわけではありません」と説明をすると、竹城は無言で考え込んでいました。

 (しばら)くすると、「分りました。そこまで言うのでしたら、私が案内をさせていただきます。」

 すると、森下が「先ほどはあなた、行った事が無いと言っていましたよね・・・」

 竹城は頭を下げて「申し訳ありませんでした。一度だけあります。私の父もこの島でガイドをしていました。

 父はこの島で、お客様が何処に行きたいと言われましても、お客様を何処へでも安全にガイドができて一人前だと言えると言っていました。この島の事は全て知っておく必要があると、ですのでデビルストーンにも何度も行っていました。そんな父に私も一度だけ連れて行ってもらいました。」

 神野は頷いて「そうでしたか、調査のためとは言え申し訳ありませんが、でしたら竹城さん、お願いいたします。ところで、お父様はお元気なのですか?」と尋ねると。

 竹城は明るく「父は再びデビルストーに行きましたが、それ以来戻ってきませんでした。あれからすでに十年になります。」

 神野達はそれを聞いて、言葉もありませんでした。

 そして神野は「それは失礼な事を(うかが)いました。申し訳ありませんでした。」と小さく頭を下げた。

 すると、竹城は笑顔で「いえ、人はいつか亡くなります。仕事の上でその命をまっとうしたのであれば、父もほんもうです。」と割り切っているように振舞っていました。

「それで出発のご予定はいつなのでしょうか」竹城は本題に話を切り替えました。

 神野はスケジュールを考えた。「そうだな、明日は機材の組み立てや、準備があるので、明日は無理だろう、出来ればあさっての朝には出発できればと思っています。」

「そうですか、分りました。でしたら、明日の朝にはご予約のクルーザーをお届けいたします。よろしいでしょうか」

「そうしてもらえると助かるな、どうだ篠崎」と神野は篠崎を見た。

 篠崎は頷いて「はい、朝から積み込みが出来ると助かります。」

「では、そのように手配させていただきます。」と言うと、竹城は礼をして、部屋を出て行きました。

 森下は感心するように「そんな伝説があったのか、実在するのか確認する必要があるな、しかし、マリンスノーが一面に降り(そそ)ぐなんてきれいだろうな」

 山岸は腕組みをしたまま「デトリタスか」と考え深げに言いました。

 すると森下が山岸を見て「なに、そのデトリタスって」と、尋ねてきた。

 山岸はフンと鼻を鳴らして「マリンスノーのことだよ、デトリタスは微生物の死骸や排泄物(はいせつぶつ)を言うんだよ」と自慢げに言うと。

 森下の表情が曇っていき「死骸かよ、排泄物だと、なんだよそれ、夢が壊れるな」

 皆は笑い出した。

 神野も笑顔で「南海に雪女は無いだろう、しかし、とにかく十分気をつけよう」

 皆は頷いていた。



 翌朝、ホテルの目の前にあります祖納港に、青と白で塗り分けられた、十五~六メートルはありそうなクルーザーが入ってきました。

 ボディーには真赤な横文字が大きく画かれていました。

 涼子たちは、髪を風になびかせて、桟橋で入港してくるクルーザーを迎えに来ていました。

 安子が「あの横文字、何と書いてあるのかしら」と目を細めて読み始めました。

「きっと、船の名前でしょ」と君江は笑顔ではしゃいでいた。

 涼子が太陽の日差しを右手でさえぎりながら、船体の文字を読み始めました。

「ア・ポ・ロ・ン」

 安子が笑顔で「そうよ、そうアポロンよ」と合槌(あいづち)をうっていました。

 恵美子も笑顔で、きれいな船だは、と思っていました。

 ホテル側に打診をしておいた船は、二十人乗りのクルーザーと言う事で予約をしましたが、入港してきたクルーザーは少し小さめでした。

 船が港に着くなり、男の人達はすぐさま機材を船に運び始めました。

 篠崎は積み込まれていく機材をチェックしていました。

 神野はガイドの竹城と打ち合わせをしていた。

「神野さん、お目当てのクルーザーが手配できなくて申し訳ありません、しかしこのクルーザーは千馬力のエンジンを二機搭載しています、新型のとても早い船です、快適な航行が出来ると思います。」

「いや、これだけのスペースがあれば十分です。」と神野は船の中を覗き込んでいました。

 そして、竹城は笑顔で「えーと、紹介しておきます。ドライバーは私の弟の健三(けんぞう)です、弟もあのポイントは父と行っていますので、迷う事はないでしょう」

「それはありがたいです、前回はだいぶ探すのに手こずりましたから」神野は少し安心をしたようでした。

 竹城のほうから、ポイントの海域について説明をしておきたいと言う事で、ホテルのロビーを借りることになりました。

 そしてホテルのロビーに皆が集まりだしました。それぞれ、ソファーに座ったり、ラタンの椅子に腰掛けたり適当な格好で聞いていました。

 神野が立ち上がると、皆を見て「申し訳ないが、集まってもらったのは、我々が明日行く海底遺跡の状況について、注意をする事をいくつか竹城さんから、聞いておきたいと思う、女性人にはまだ紹介してなかったな、ガイドの竹城さんです。」

 竹城は一礼をすると、一歩前に出て話しだしました。「この度は与那国島におこし頂きましてありがとうございます。また、調査に付きましても、成果が出ますように、私どももご協力させていただきます。えー、海は陸地と違いまして、変化が早く、とても危険な面もあります。特に今年は、この辺りの海面がエルニーニョの関係から水温も高く、そのため上空の気象も激しく変動しやすい状況になっています。気温の上昇から今年は台風も多く発生しているようです。

 当然ながら、海洋のうねりも大きくなりますが、そのような状況が発生しそうになりましたら、すぐさま引き返す事も頭に入れておいて頂きます、それとあの遺跡は琉球海溝に近いため、海溝の中の低い海水温と海面の高い海水温の差が大きいために、潮の流れが速いところがありますので、注意してください、なるべく行動は固まってお願いしたいと思います。とにかくこの時期の海底は変化が早いので、その時のご判断は明朗に行っていただきたいと思います。私からは以上です。

 何かご質問がございましたら、お(うかが)いしたいと思います。」と竹城はメンバーの顔を見回しました。

 男性達は一度来ている場所だけに、竹城の話はなるほどと思いましたが、さほど気にする訳でもなかった。しかし、女性達は海底遺跡がとても危険なところだと感じて不安になっていたことも事実でした。

 安子は手を上げて「あのー、その海域には,サメとかエイとかいるのでしょうか?」

 すると、竹城は神野の顔を見て「こちらの女性方もご一緒に海底遺跡にいかれるのですか?」と尋ねると。

 神野は頷いて「まあ、そうです。」と言うと。

 竹城はまた、女性達を見て「できましたら、与那国には他にも素晴らしいレジャースポットもございますし、そちらで楽しまれたほうがよろしいのではと存じますが」と(うなが)しますと。

 君江は頷いていました。

 しかし、涼子は立ち上がり「いえ、私達もご一緒させていただきます。」と言い切りました。

 竹城は深呼吸をすると、頷いていました。

 すると篠崎が「彼女達の安全は私達も気を配ります。それに彼女達は調査に加わる訳でもありませんし」と言うと。

 竹城は「分りました。でしたら気をつけてください」ということで説明会は終了となりました。







涼子、安子、君江、そして恵美子の女性たちは、いよいよ始めて巨大海底遺跡を目の当たりにすることになるのですが、本当に人工的に作られたのでしょうか、それにこんなに大きなものを古代人に作れるのかしら?

しかも、いったい何のためにこんな大きなものを作ったのでしょうか


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