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8話

 最終日の走り込みも周回遅れ。遅くとも関係無い。走りきることに意義がある!そして午後の稽古のため、外に出たときだった。馬車が敷地に入ってきたのだ。


 「今日はお客様がいらっしゃる予定だったの?」

 「いや、俺は聞いていないが……。降りてきたぞ」


 馬車から降りてきたのは、初日の私よりも場違いなアルフォード様。目が合うと大股でこちらに向かってきた。


 「あら、なんだか怒っているわね」

 「サラを見たまま歩いて来るぞ。何をしたんだ?」

 「んー。思い当たることと言えば、婚約を拒否したことくらいかしらね」

 「はあ!?」


 そんなに驚くこと?それにしても、今日は本当に良い天気ねぇ。リリーが生まれた日を思い出すわ……。

 明日には家に戻るし、一杯可愛がってあげなくちゃ。


 「サラ・バーハード。なぜ私との婚約を拒否した」


 リリーへの想いを募らせる私をキツイ視線で捉えて離さないのは、不機嫌なアルフォード様。これから稽古があるのに、困ったわ。


 「お久しぶりでごさいます、アルフォード様。今日はとても素敵な陽気ですわね」

 「答えろ!」

 「このような場所で会うとは驚きですわ。カナリア様やギルビック様はお元気ですか?」


 お喋りしているだけなのに、アルフォード様の機嫌は益々悪くなるばかり。どうしたのかしら。


 「おい、サラ。お前わざとやってるのか?」

 「なんの話?」

 「会話を合わせようとしていないだろう。……もしかして、怒っているのか?」


 質問に微笑んで答えると、ワイマールは呆れ顔を披露した。

 いきなりやって来て、グランド家の主に挨拶もなく自分の話を聞け、答えろだなんて……腹が立たないはずがないでしょう?


 「サラ・バーハード、聞いているのか!?」


 ワイマールとこそこそ話していたことで、火に油を注いでしまったらしい。それにしても……煩いわね。

 記憶が戻ったときは味方にしようと思っていたけれど、こんな性格だったなんて、ガッカリだわ。もういっそのこと、ヒロインとくっ付いてくれないかしら。

 俺様殿下と何事も包み込む聖女の様なヒロイン、とってもお似合いだと思うのだけど。


 「アルフォード王子殿下。貴方はなぜ、訪れた先の主であるエルディエス・グランドに挨拶をしないのですか?どのような身分であろうと、まずは敷地に立ち入る許可を得るのが道理ではありませんの?」

 「さっきから私の話を聞かなかったくせに、いきなり説教か!?何様のつもりだ!」

 「何様でもありませんわ。私は人としてなすべきことを告げたまでです。……受け入れられないのならば、今日のところはお引き取りを」

 「おまえ……!」

 「お引き取りを、殿下」


 私とアルフォード様のやり取りを間近で聞いていたワイマールは、頭を抱えていた。頭でも痛いのかしら。

 アルフォード様が怒りの言葉を吐き出そうとした瞬間、後ろの玄関が静かに開き、伯父様が出て来た。アルフォード様は怒りの矛先を伯父様に変えたが、意に返さない様子だ。


 「終わりましたか、殿下。話は聞かせてもらいましたが、サラが間違ったことを言っているとは思えませんのでね、今回はサラの言う通り、一言挨拶を頂いてもよろしいですか?」

 「…………先日バーハード家を訪れた際、サラがこちらに居ると告げられた。急な来訪ですまないが、サラと話をさせてくれないだろうか」


 いつの間に家に行ったのよ!

 家に居なくて良かったのか、家に居て対応すれば面倒なことにならなかったのか……。どちらにせよ迷惑な王子様だわ。


 悔しそうに言ったその顔は、納得していないこがありありと見てとれた。

 「どうする?」と伯父様に訊かれ、仕方なく話をすることに。本当に仕方なくだ。

 グランド家の一室を借り、稽古着のまま話し合いの席に着く。アルフォード様は最初の勢いはどこに行ったのか、全く口を開こうとしない。

 こっちは稽古の時間を潰して話をしてあげようって言ってるのに、その態度はどうなの?


 「はぁ……。お話が有ったのではないのですか?用がないのなら稽古に戻りたいのですが」


 「私は貴方のように暇じゃないんですけど?」と含ませて言えば、アルフォード様はちらりと稽古着姿の私を見て、「その格好はなんだ」と訊いてきた。


 「何って、稽古着です」


 見れば分かるでしょう?これがドレスに見えますか?


 「そんなのは見れば分かる。なぜエルディエスの元で剣を習っているのかと訊いているんだ」


 またその話ですか。聞き飽きたんですけどね。


 「将来バーハード家を継いだとき、領地の人々を護れるように今から様々な知識と力を付けようと思い、勉強しています」

 「私からの婚約を断った理由はそれか?」

 「はい、私は公爵家を継ぐと決めました。アルフォード様は現在王位継承権第二位ですが、最も王位に近いと聞き及んでおります。私は貴方の妻にはなれません」


 はい、ほぼ嘘です。本当はアルフォード様と婚約を結んだら、自由に動けないからです。あと、ぶっちゃけ面倒臭い。


 「……父上にサラから婚約を拒否されたと聞き、信じられなかった。どうしてもサラが欲しいと言ったら、自力でどうにかしろと言われた。サラが良いと言えば何も気にせず婚約を結んでかまわない、と」


 えっと、つまり「将来結婚したかったら、親の力を借りないで自分でどうにかしろよ、バカ息子」ってことかな。父さまが型破りな陛下と言っていたけれど、本当みたいね。残念だわ。


 「アルフォード様のお気持ちは嬉しいのですが、期待には応えられません」

 「しかし、時が経てば気持ちも変わるかもしれないだろう?その時は私とこん、」

 「致しません」


 にっこり笑ってお断りいたしました。

 「最後まで訊け!」と叫んでいたが、これ以上は聞く必要無いと判断し、「アルフォード王子殿下のお帰りですー」と待っていた伯父様を呼んだ。

 抵抗していたけど、伯父様にかかれば子供の抵抗なんて戯れと変わらない。馬車に乗せられてもなお「諦めないからな!」とか「また会いに来るぞ!」とか言っていが、私は定番の挨拶で見送った。「道中お気を付けてお帰りください。お元気でー」だ。


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