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4話

 1日の終わり、私は日記を書くことが習慣になっていた。いつも通り今日合った出来事やリリーの可愛さを認めていく。

 ギルビック様の名前を書いた途端、パリンッと頭の中でガラスが割れる音が響き渡る。


 「ギルビック、リリアベル、バーハード公爵家……。あー!!」


 嘘でしょ!?どうして、何でなの!?

 私は叫んだ。椅子に座って居られなくなり、部屋中を意味なく歩き回るほど動揺していた。それは叫び声を聞きつけた父さま達が来るまで続いた。


 「サラ、どうした!」

 「大丈夫です。本のページを破いてしまって思わず……。みんなもごめんなさい」


 足音が聞こえた時点で急いで椅子に座り直し、何食わぬ顔で様子を見に来た父さま達を迎えた。父さまの後ろには母さまとメノアさんまで居る。


 「大きな声が聴こえてきて驚いたよ。しかし、ページを破って思わずとは、サラは本当に本が好きなんだな」

 「ええ。だって父さまが買ってくださった本ですもの、頂いた物は全て大切に取ってあります」

 「そうか。ならまた今度買ってきてあげよう」

 「ありがとうごさいます、父さま」


 上機嫌になった父さま達を見送った後、私は机に突っ伏した。

 思い出した、思い出してしまったよとんでもないことを!

 ここはゲームの世界。リリーが産まれたとき聞いたことのある名前だと思った。変だな~とは思っていたけれど、気のせいかって深くは考えなかった。

 バーハード公爵家、リリアベル、ギルビック。この3つが記憶の鍵となり、実際に会ったことで思い出したようだ。

 前世の記憶を全て思い出した訳ではなく、このゲームに関わっていた頃の記憶だけが戻ったようで、幸いサラ・バーハードとしての人格まで引き摺られることはなかった。

 この世界がゲームだとは認めたくはないが認めよう……。だけど私、乙女ゲームなんてプレイしたことないんですけど?姉ちゃんがえらく嵌まってて、『私の乙女ゲームプレイ記録』なるものを無理やり読まされただけで、細かい内容知らないんだけど、私にどうしろと言うんだ?

 私ははっきり言って乙女ゲームが嫌いだった。特にヒロインがどうしても好きになれなくて、その都度姉ちゃんにくどくどゲーム良さとやらの説明を受けたけど、最後まで好きになることはなかった。

 だいたい、ぽっと出の癖に相手が居る男狙う?しかも超あざといしさ。私にとってヒロインとは『八方美人の節操無し女』だ。



 有り得ないことが起こり混乱していたけれど段々と落ち着き、漸くまともに考えられるようになってきた。姉ちゃんの『私の乙女ゲームプレイ記録』(ノートの表紙に書いてあった)によればヒロインは、リリーが国立学校に入学する年に対象者達と出会う、つまりリリーの同級生だ。


 国立学校は希望者の貴族、平民の15歳になる子供達が通う学校で、2年生になると魔法科と騎士科に分かれる。さらに、選ばれた優秀な生徒だけが入れる魔法騎士科と呼ばれるクラスもある。

 ……王道乙女ゲームファンタジーってやつ?いや、やったこと無いからしらないけどさ。

 リリーとヒロインは国立学校に入学。そしてリリーはヒロインに嫌がらせをして、攻略対象者に疎まれ最終的に斬首か一生を牢獄で過ごすことになり、良くて一家没落の上国外追放……。リリーはどの攻略対象者エンドでもろくな結末にならない。

 ……ふ・ざ・け・る・な!!

 なんであんなに優しくて素直な子が、そんな残酷で悲しい結末を迎えなきゃならないのよ!


 「ありえないでしょ……!」


 この世界に私が生まれ変わった意味がきっとある。だって、私がこうして記憶を取り戻したってことは、リリーを助けることが出来る可能性があるってこと。


 「助ける。リリーは私が助けてみせる」



 まず、記憶を整理するために思い出したことをノートに書き出した。

 攻略対象者は全部で5人。アルフォード、ギルビックの両王子殿下。そしてアルフォードの乳兄弟で従者のデイル。魔法技術局局長、孫のエデン。王立騎士団前団長の養子で、私と血の繋がらない従弟のワイマール。

 どうすればリリーを救えるのか。一番確かなのはリリーを学園に入学させず、ギルビック様からの婚約も受け入れないこと。しかし、公爵家ともなればそれは難しい。権力があるということは、それだけ横との繋がりも広いということだ。一つを回避しても次も上手くいく保証はない。

 確実とは言えないが、回避する方法はリリー自身がゲームとは違う人格になること。そして私も変わらなきゃいけない。

 問題が有るとすれば、ゲームでのリリーの性格を知らないことだろう。

 私がゲームで知っているとこは攻略対象者とヒロイン、そして結末だけ。途中のストーリーは全く分からない。これが吉と出るか凶と出るか……。



 翌朝、私は初めて高熱を出した。医師に風邪ではないと診断されたので、恐らく知恵熱。10歳児の脳には負担が大きかったようだ。

 起き上がれずベッドで横になっている私の傍で、リリーが目に涙を溜めて心配そうに見ていた。


 「姉さま、大丈夫?」

 「大丈夫よ。ありがとう、リリー」


 メノアさんに自室に戻るように促されても、リリーは毛布にしがみ付いて離れようとせず、母さまは「うつる病気ではないし、リリーの好きなようにさせましょう」と笑っていた。母よ、それでいいのか。

 

 「えほん読んであげるね!」「歌ってあげる!」と先程まで甲斐甲斐しくお世話してくれていた声が聞こえなくなり、代わりに規則正しい息遣いが聞こえてきた。

 サイドテーブルに置いてあるベルを鳴らすと、直ぐにメノアさんが来てリリーを自室に運んでいった。抱き上げられながら「ねえさま……」と寝言をこぼす。

 メノアさんが出て行ったのを確認し、顔を両手で覆って身悶えた。公爵令嬢のこんな姿みせられない。

 

 「か、っわいすぎるでしょー!寝言で「ねえさま」て……!天使!マジ天使!超護るし!ヒロインなんかに私の天使を奪われてなるもんですか!!」


 リリー破滅回避への道その1、一家追放された時に備え、自活力を付ける。掃除・洗濯・料理はもちろん、剣術と魔法も身に付けよう。

 その2、味方を作ろう。両王子殿下を味方に付ければヒロインに心が移っても、リリーが身を引けば酷い扱いはおそらく受けないはず。



 二日後、全快した私は帰宅した父さまを捕まえ、書斎に引っ張りこんだ。普段は物静かな娘の奇怪な行動に、目を丸くしている。

 ごめんなさい、父さま。私はもう、サラ・バーハードであって、サラ・バーハードではないのよ。

 さあ、ここからが勝負よ!

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