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11話

 「姉さま、今年も綺麗に咲きましたね」

 「ええ。リリーが毎日一生懸命お世話をしていたから、こんなにも綺麗に咲いたのね」


 私は13歳、リリーは11歳になった。

 リリーの天使の様な可愛さは相変わらずで陰りを見せないが、その内に女性の美しさが加わり、天使と言うよりも女神もいう表現の方がピッタリかもしれない。 


 剣術の稽古も順調で、最近では模擬試合でワイマールと打ち合いが出来るまでになった。

 まあ、未だに一本も取れていないけれど、確実に身に付いていることが実感できてやる気に繋がっている。

 魔法は発動の許可が出て本格的な授業になっているが、師匠は相変わらずやる気無さげで教えている。そして、一方的な私からの料理と言う攻撃も続いていた。ちなみに、こちらも一度も勝てていない……くやしいっ!


 お城にも呼ばれることが増えた。リリーのお妃教育のためだ。

 ギルビック様と共に勉強している。そこになぜか私とアルフォード殿下も一緒に学ぶことになり、ダンスの練習ではパートナーを組まされる始末……。

 そして最近困ったことが出来た。それは……。


 「そうでした。姉さま、ワイマールから手紙が来ていましたよ」

 「あら、珍しいわね」


 屋敷内に戻る途中、今思い出したかのうよに言ったが、もう夕方だ。手紙は既に届いていたはずだから、本来ならば既に手元にあっていいはずの手紙はまだ渡されていない。私に来た手紙などは、リリーのチェックを通してからでないと私の元に届かないのだ。


 家令のローマンから手紙を受け取って内容を確認すると、今度バーハード家に行くので時間を作ってくれないか、という内容だった。

 毎月グランド家に行っているのに、わざわざこちらまで赴いて話がしたいと言うことは、伯父様に聞かれたくない話なのだろうか。


 「ワイマールは何と?」

 「今度こちらに来るのですって」


 そう答えると、リリーは渋い顔をする。そんな顔も可愛いのだけれど。


 「リリー、可愛いお顔が台無しよ」

 「……ごめんなさい、姉さま。まあ、ワイマールならば良いです。でも!アレはダメですからね!決して二人きりで会ってはいけませんよ!」

 「大丈夫よ。あの方だって暇ではないのだから」

 「またそんなこと仰って!姉さまは優しすぎます、アレの我が儘に付き合う事はないのです!」


 ちなみにリリーの嫌うアレとは、アルフォード殿下のことだ。『諦めない』『また来る』の言葉通り、私の行く先々に現れては懲りずに婚約を申し込んでいる。その度に断るこちらの身にもなって欲しい。お陰で周囲から“アルフォード殿下の想い人”と認識されてしまい、婿探しが難航しているのだ。

 全くもって忌……迷惑だ。


 「とにかく!アレが会いたいと言ってきたら私に教えてくださいませ!」


 おそらくアルフォード殿下と私が会っている場面でも想像したのだろう、酷く不機嫌な顔をして部屋から出ていった。


 「リリーにも困ったものね。まあ、怒った顔も不機嫌な顔も可愛いのだけど」


 どんな顔でもリリーの可愛さは揺るぎ無い。

 思い返せばリリーがシスコンに目覚めたのは、初めてのお茶会だろう。聞き分けのいいリリーが『お腹が空いた』、なんて言うのは珍しいと思ったのを記憶している。あれは私が殿下達に取られると考えての発言だったのではないだろうか。

 物心着いてからワイマールに会ったとき、親しく話す私達を見て『姉さまに近づかないで!』と初めて大声を出した。

 驚く私をよそに『リリアベル様の姉君を取るつもりはありませんし、欲しくもないので安心してください』なんて言った。

 欲しくもないなんて……。私だってあなたに貰って欲しくないわよ!!

 ワイマールは相変わらず貴族に対して嫌悪を抱いているが、当初と比べるとだいぶ和らいでいる。


 数日後、やって来たワイマールを客間に通すと、当然とばかりにリリーも着いてきた。


 「ごめんなさい、ワイマール。リリーも同席しても良いかしら」


 私の腕にしがみ付いて離れないリリーを見て、「別に問題はない」と素っ気なく答えたが、気を悪くした様子はない。一先ず安心した。


 「ありがとう。それで、あなたが訪ねてくるなんてどうしたの?それも一人でなんて、初めてじゃない?」

 「……以前、俺の夢の手伝いをすると言ったな。あれに嘘はないか?」


 忘れるはずがない。だって、あの時初めてワイマールが自身の口から自分の事を聞いたんだもの。

 それは決して楽しい話なんかじゃなかったけれど、知ることが出来て良かったと今でも思っている。


 「ええ、覚えているわ。もちろん嘘はないわよ」

 

 ワイマールは珍しく、ほっと息を吐いた。

 リリーは自分の知らない話題が交わされることが気に入らないみたいで、私に回していた腕にさらに力を入れた。

 ……ちょっと痛いわ。


 「実は、エルディエス様に相談したんだ。そうしたら戦などて親を亡くした子供達を受け入れている施設があるから、そこを手伝ったらどうかと言われた。俺も後1年程で学園に通うことになる。その前に何か出来ないかと思って。だが、生憎俺はこういった事に疎い。それでサラの力を借りたい」


 なるほど。確かにワイマールには苦手な分野だろう。伯父様と一緒で脳き……げふんっ。直情型だから。

 でも、施設の手伝いって何をしたら良いのかしら。その場限りのことでは意味がないし……。

 その施設の現状を知る必要があるわね。


 「そう言うことなら喜んで手を貸すわ。その前に、調べてもらいたいことがあるの」


 調べてもらうことは、施設の立地。畑を作る場所があれば完全な自給自足は無理でも、生活の助けにはなるはず。

 そして運営の財源。どこから得て、どのくらいの出費があるのか。なんて言ったって、世の中お金がないと衣食住を満足に持てないもの。

 愛があればお金なんてって言葉は、綺麗事でしかないと思う。愛でお腹は満たされないもの。育ち盛りの子供が大勢居れば尚更でしょ。それが真実よね。


 調査内容を箇条書きにして渡して、今日のところは解散となった。


 「姉さま、ワイマールと一緒に施設のお手伝いをなさるの?」


 会話中は口を挟まなかったが、ワイマールを見送り二人になると訊いてきた。リリーなりに気を使っていたようだ。

 口は出さなかったけど、腕力はいかんなく発揮してくれたので、私の左腕は未だに締め付けられている感覚が抜けない。


 「ええ、そうよ。調べてからでないと何が必要で不要か分からないでしょう?それをワイマールに調べてもらうの。どうするかは結果しだいね」

 「……私にもお手伝いさせてくださいませ。邪魔はいたしませんから」

 「邪魔だなんてそんな……。とても心強いわ。一緒に頑張りましょうね」


 リリーの申し出はとても喜ばしいものだった。

 この流れは良いのではないかしら。破滅回避に繋がるのではなくて?

 だってシスコンで慈悲深く、慈愛を持ち合わせた悪役令嬢だなんて、もはや悪役とは呼ばないでしょ?

 ふふっ。ただ溺愛していただけなのに、とんだ副産物が手に入ったわね。

 こんなの慈善活動とは言わない?何とでも言って。リリーの幸せのためならば、打算的と言われようと偽善と罵られようとかまわない。

 目的のためなら何でも全力で利用する。それが私。


 数日後、ワイマールが調査報告にやって来た。

 心配していた立地は、子供を保護している施設ということで町外れに建てられていた。子供の声が騒音だと、難癖を付けられないようにかしらね。

 町人との交流があるのかは書面では分からないから、直接確かめる必要が有りそう。

 施設には結構な広さの空き地がある。これを活用しない手はない。

 これだけの広さがあれば農業の勉強しほうだいね。楽しみだわ。

 そして施設の運営は国の補助金と、貴族からの寄付金で成り立っていたが、潤沢とは言えない。


 「なるほどね……。まずは責任者の方に会わなければ話が進まないわ」

 「それならすでに話を通してある。来月伺う事になっているが、都合はつくか?」


 ああ、一緒に行くことは決定事項なのね。いいのよ、手伝うと言ったのは私だし、元から行くつもりだったもの。ただね、今もべったり張り付いているリリーが、大人しく家で待ってくれるはずがないのよ。

 どうしましょう。とリリーを見れば、「もちろん私も行きますわ!」と興奮気味に言った。

 何をそんなにやる気になっているのかしら。

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