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10話

 翌日の昼頃起きてきた師匠は昼食を取ると、練兵場の隣にある広場に私達を連れて行った。そして懐から直径10㎝程の水晶を取り出し、「何だと思います?」とやる気の無い顔で訊ねてくる。


 「ただの水晶にしか見えませんが……」

 「そう、水晶です。ただし、私が作った特別製ですよぉ」


 すると透明だった水晶の中に緑・青・茶色の3色が勾玉のように浮かび上がってきた。一番濃い色は緑で茶色は薄い。


 「これは魔力の質を確認するための水晶です。私の場合は植物を操る緑、水を精製・操る青、土を動かす茶色が表れました。濃淡はそれぞれの力の強さを表しています」


 つまり師匠は3つの属性を持ち、植物を操る力が一番強いと言うことで、この水晶を使えば私の魔力の属性も分かるってことだ。


 「水晶に魔力を通せば良いのですね。ですが、魔力とはどうやって使うのですか?」


 理論は分かったが、方法が分からない。なにせ今のところ前世でも今世でも、魔法とは無縁だったのだから。

 すると師匠はまたしても「にたぁ」と笑った。

 だから、その笑顔は怖いですってば!


 「良いですねぇ。何も知らないまっサラな子供と言うのは。教えがいがありますよ」


 ……お手柔らかにお願いしますわ。

 先ほどから隣に居るにも関わらず、気配の薄いワイマールを見れば、無表情で揺れ動く木々を見ていた。

 やる気がないどころの話ではない。目下現実逃避の真っ只中だ。


 「水晶を両手で包み込むように持ってください。そうです。では、目を閉じて」


 師匠が作ったという水晶は、不思議なことに温度を感じなかった。今の今まで師匠が握っていたはずなのに、その熱はどこにもない。

 私は言われた通りに目を閉じた。


 「魔力とは内なる力。水晶も自分の体の一部だと思ってください。ここからはイメージが大切ですよぉ。体に流れる力を水晶に集中させてください」


 イメージと言われても、難しいわね……。

 四苦八苦しつつなんとか形になった。水晶に浮かんできたのは緑色だけ。一つの属性しか持っていないのかと、ちょっぴり落ち込む私に師匠は「なるほど、風と木ですねぇ」と一人で納得している。なにがなるほどなのかしら。


 「風ですか?何もないように見えますが……」

 「無色は風を表しているんですよ。しかも濁りがない。サラ君第一属性は風のようですねぇ」


 風か。目に見えないから無色なのだろうか。

 次にワイマールが試すとなかなか魔力を伝えられないことに苛立ったのか、地面に叩き付けようと腕を振り上げた。師匠が慌てて止めると、最初から壊す気などなかったのであろう、悪戯が成功した子供のように笑っていた。

 師匠のアドバイスもあって無事属性の確認が出来た。ワイマールの属性は一つ、火だった。


 「今巷では魔力属性の相性占いが流行っているんですよぉ。まぁ、流行らせたのは私なんですけどねぇ」


 師匠の話によると、国から魔法局に出される予算は好き勝手使えないから、仕方なく自分で色々作っては売り捌いているらしい。

 それって限りなくアウトだと思うのですけれど、変人と言われる師匠ですもの、何でもありなのかも知れないわね。こちらに被害が無ければ好きにしていただいて良いわ。それに、問題があったら父さまが会わせるわけないもの。大丈夫なんでしょう。

 

 「では、まず魔力を練る訓練から始めましょう。私は魔力の属性と量は産まれた時から決まっていると考えています。ただし、魔力の質を高めることは可能です。同じ量の魔力を練った魔法でも、質が高い方が勝るのが必定」


 確かに。それが出来れば魔法の威力も上がるわね。要するに自力を付ける筋トレみたいなものかな。伯父様も言っていたものね「何事も基礎から」って。


 「訓練を始めましょう」とか言っていたくせに、結局説明だけで終わってしまった。師匠が昼まで寝ているからだと言ったら、「だってサラ君たち、午前中は剣の稽古でしょう?」何言ってんの?みたいな顔をして言われたので、夕食には料理長に無理を聞いてもらい、「特別料理です」と師匠に激辛料理を提供した。


 「おや、これは……刺激があって美味しいですねぇ。癖になりそうですよぉ」

 「……料理長にお願いして作っていただいたんですの。喜んでいただいて光栄ですわ」


 私のちっぽけな復讐は意味を成さず、師匠の胃に綺麗に収まった。

 それからの残りの日数、午前は基礎剣術の訓練。午後は魔法の授業をして過ごした。

 夕食には懲りずに師匠に挑むが、毎度『ほぉ、この味もなかなかです』とお褒めの言葉をいただくに留まり、私の闘争心はグツグツと煮詰まることになる。

 

 翌月も剣術の試験を無事にクリアし次の段階に進んだが、魔法の授業は『とにかく基礎固めが大事なんですよぉ』のゆる~い指導のもと、自力を付けるべく奮闘した。もちろん、師匠との小さな攻防を繰り広げることも忘れず数年が経った。

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