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1話

 柔らかな日差しが大地を包み込み、花は色とりどりに咲き乱れ、木々がさわさわと揺れる穏やかな午後、私サラ・バーハードに妹が誕生した。


 部屋の外で父さまに抱っこされながら廊下を行ったり来たりして、使用人頭のメノアさんに落ち着くように何度も言われては父さまと顔を見合わせ、「無理だな」「ムリですね」とお互いがテンパっていることを確認していると、ようやく待ち望んだ瞬間が訪れた。

 弾かれるように熱い視線をドアに向ける。しばらくするとドアが開き、「元気な女のお子様ですよ」と医師が告げた。


 「やったね、とうさま!」

 「ああ!さっそくアンと新しい家族の顔を見に行こう!」


 「お静かに願いますよ」再度メノアさんから注意を受け素直にうなずいたが、気持ちを抑えることが出来なかった私はぎゅっと父さまに抱きついた。

 あやす様に髪を撫でられ、それでも待ちきれず早く行こうと急かす。その様子を見ていた母さまは、疲れているがどこか満足そうな顔で私達を手招きして呼んだ。

 ベッドに近付くと、小さな妹は母さまの腕の中で眠っていた。


 「お名前は?お名前は何というの?」

 

 私は早くこの小さな妹を名前で呼びたくて、妹の顔を見ながら父さまの洋服を引っ張った。すると父さまと母さまは微笑んで妹の名前を教えてくれた。


 「リリアベルと言うんだ。可愛い名前だろう?母さまと考えたんだよ」

 「リリアベル……」


 名前を聞いた瞬間、何かが引っ掛かった。でも何が気になったのかまでは分らず黙っていると、「どうしたんだい?」と父さまが不思議そうに私の顔を覗き込む。


 「ううん、なんでもないの」


 慌てて首を振って誤魔化し、改めて妹を見る。妹は小さな口で大きな欠伸をしていた。その仕草が本当に可愛くて、思わず顔が綻ぶ。


 「リリアベル、可愛い名前ね!」


 父さまと母さまを取られた!と微塵も思わず、私はリリーを可愛がった。それはもう、パンケーキにシロップとハチミツと砂糖たっぷりの生クリームをかけたくらい、甘々に可愛がった。その様子を見て皆が飽きれるくらいに溺愛した。

 初寝返りを見たのは使用人頭のメノアさん。初ハイハイと初歩行を見たのは母さま。次は初お喋りだと、私と父さまは競い合うように毎日「姉さまよ!姉さまっていってごらん?」「父さまだぞ~!」としつこいくらいリリーに教え込んだ。

 

 ある日、天気もリリーの機嫌も良いので外でお茶をしましょうと母さまが言い出した。我が家にはそれ程大きくはないが庭園があり、庭師のホブマンさんが毎日手入れをしてくれていた。ホブマンさんはいかにも職人という感じで硬い雰囲気を持っているが、私がリリーを抱っこして窓から庭を覗いたとき、それに気付いたホブマンさんは手を振ると小さなお花が現れるという手品を見せてくれた。実はとても茶目っ気のある人だ。

 そのホブマンさんが手入れをしてくれた芝生の上で、リリーがお座りをして私に両手を伸ばしている。


 「気持ちいいね、リリー」

 「ねー!」


 以前からリリーは「あー」とか「うー」とかは言うようになっていたので、この「ねー」も同意の「ねー」だと思った。だけど、母さまはリリーに「リリー、凄いわ!」と褒めている。

 

 「ねー!」

 

 今度は不機嫌そうに「ねー」と私に向かって言った。もしかしてこれは……!


 「リ、リリー?」


 恐る恐る両手を差し出すリリーに近付いていくと、リリーは満面の笑みで迎えてくれた。「ねー。ねー!」とそれはそれは嬉しそうに。

 ごめんね父さま。初お喋り、頂きました!ああ可愛い、私の妹マジ天使。リリーに羽が生えていても驚かない。むしろ納得する。というか、そうあるべきだと思う。

 帰宅した父さまにるんるん気分で報告すると膝から崩れ落ちた。あらら、面白い人。

 

 「愛しい愛娘の成長も見れず、いずれはどこの馬の骨ともしれない男の元に嫁いで行ってしまう……。男親とは悲しいものだな……」


 打ちひしがれる背中には哀愁が漂っていた。これでもこの人、この国で結構偉いのです。我がバーハード家は公爵の爵位を承った由緒正しい血統を受け継いでいるけれど、父さまも母さまも滅多に怒らないし、使用人に対しても威張り散らさないし、穏やかな二人だから慕われている。

 この国では女性も爵位を継承出来るので、バーハード家を継ぐのは長子である私。リリーは父さまの言うとおりいずれ嫁ぐことになるだろう。

 

 「元気出して、父さま」

 「サラ……!」


 こうして目出度くリリーの初お喋りをゲットした私は溺愛に拍車がかかり、呼応するようにリリーも後を付いて回った。

 首を傾げて「ねぇしゃま?」と言われた時は憤死するかと思った。私の妹マジ天使!何度でも言おう。私の――(以下略)!

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