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第2話 ⑥

 やがて、竜は大テントの中へ運ばれていった。

 その後、クロンハート隊長がエリオに話した竜探索のいきさつとは以下のようなことだった。

 


 「竜の夜」以降、どこかに竜が落ちたという噂は、いろんなところで立った。いずれも信憑性にとぼしいものばかりだったが、ウェスタニア北方の、ある山村近くの峠道の外れに、その夜以来、へんな像が立っているという情報が入ってきた。

 竜ではなく武者像という話で伝えられたその像の姿が詳しく皇都の国皇のもとへ告げられると、急に探索隊が結成された。

 彼らの任務はその像の回収。


 像回収隊、というのが一応の正式名称だった。

 竜という言葉は慎重に使われなかったのだが、話が話だけに、いつのまにか探索隊は「竜」を探しに言ったということになった。

 ということだそうだ。



「『竜』かどうかは確定はしていないのだよ。しかし、エリオ、君も見たろ?あれはただの像とは思えない。だいたい、山を越えたらエミラントなんていう、あんな山奥の村にあんな像があるなんて考えられるか?住人は、掘っ立て小屋の中にヤギと一緒にすんでいるようなところだ。あんな凝った像を作ろうなんて誰も考えるはずない」

 クロンハートははあまり肉を好まないのか、さっきから豆と雑穀を煮込んで作っただけの、質素な粥汁みたいなのをちょっとずつ口に運ぶだけであった。


「だから、我々が、あそこに行って『像を差し出せ』といったら、『神様を持っていこうとする』って、村の連中が詰め寄ってきてね。あれはめんどくさい話だったよ」

 秘密を知られた今とはなっては、副長のリージャも砕けた様子で、エリオに隊のことを話すのだった。


 最後は「金」で話は無事についたそうだ。



「エリオ。君も皇都へ向かうと言ってたね?なら、我々といっしょにいるがいい。もう、犬に追われるのはいやだろ?」

「ありがとうございます。とても心強いです」

 熱帯地方特産という、イチジクの干し身をかじりながらエリオが、クロンハートの言葉に頭を下げた。

 昨日まで田舎村から出たこともないエリオには、そんな贅沢品が袋一杯になって掴み放題で食べれるなんて、考えられもしない話だった。

 



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それからエリオが聞かれるがまま、ノラの村のことや鍛冶屋になろうとしていることや、それから数年前に母親をなくして、今では家族というのは田舎で他人の畑を耕して暮らす父一人だとか話すころには、あの骸骨被ってたときのように、ロイヤルガードの隊員達に囲まれたエリオが、その話題の中心にすわっていた。


「鍛冶屋か……それになるつもり?」

「何?もともと傭兵志望だったって?それだったらロイヤルガードを目指してみたらどうだ?」

「けど、僕、武術の経験なんてないし、とてもそんなことは……」

「エリオ。君はそう言うが、力がないわけじゃなかろう?あの大きな骸骨を被ってあんなに動けるんなら、筋が悪いとは思えないな」

「今まで武術の経験はナシ?それであの動きか?ナイフ捌きは全くの素人には見えなかった」

「オマエもそう思ったか?実は俺もだ!うん。筋は悪くない!」

「そうだよ!馬にのった経験もないっていってたな?けど、隊長の馬に乗るときの身のこなしとか、馬上の姿勢とか――うん!仕込めばなんとかなると思うなっ!」

「皇都に行って、武芸を志すなら、俺達のところへ来るがいい。いい先生を紹介してやるよ」

「ロイヤルガードへの道は実力によって開かれている。身分は問わない。君が剣術で名をあげるなら、青い盾の紋章を手にすることも夢じゃないし、エリオ、君になら決して無理な話じゃないと思うね」


 元々傭兵になろうと言う思いのあった彼だ。結局、飯炊きと言われて肩を落として帰ってきて以来、そんな大それた目標をもう持たなくなっていた。――というより、自分には到底無理な相談だと、あきらめて皇都に向かう途中に出会った、この皇国の精鋭兵から受けた思いも寄らない評価に彼は、すこし胸がドキドキとなった。乳酒のせいとは違う高揚に彼の頬は微かに赤らんだ。



 大きな焚き火を囲んで、エリオとドラゴン探索隊の一同の話がすっかり弾んでいる頃。

 もう、日が暮れてからかなりの時間が立っていた。そろそろ寝るとしようか……。


 そんなときである。



 ”ヒィーィ……”

 と小さく高い音が聞こえた。かすれた口笛の響きみたいだった。

 その音が、2度3度と連続で耳に聞こえた。

 何もわからないエリオにとっては、遠くの山鳥の声か?ぐらいにしか思えなかった。それぐらいに響きは小さかった。

 しかし、その音を聞いたクロムハートの表情が硬くなった。


 その音というのは、哨兵が何かを感じた際に、他の哨戒役へ警戒を促すための音である。

 こういう任務の者が発するもっとも軽度の警戒警報である。その音が小さいのは休息中の仲間にまで緊張を強いる必要もないと判断されるからのこと。

 こんな森の中だ。

 人の気配はなくても、さっきの野犬みたいなのはいくらでもいると思われる。だが、そんなことで全隊の休息を乱す必要もないだろう。

探索隊の誰もこのとき、剣の柄に手を添えてはいなかった。


 見張り役以外の一隊の半分は、兜こそ脱いでいるがまだ鎧を着けていた。武装を解くものは隊長以下数名だけだった。

 どんなときでも油断はしないのが、騎士の華、といわれる精鋭兵の義務でもある。



 その直後。

”パンッパンッパパパッ!”


 乾いた短い音の炸裂が数初立て続けにおこった。


「敵襲!に、西側正面!……ウッ!……正体は不明。姿が見えた!……盗賊かっ!」


 見張り役の叫び声に、悲壮な響きがこもっている。すでに、なんらかの異変を彼自身が抱えているようなその声のあと、さらに先ほどの乾いた破裂音が、パンパンパンッと何発も聞こえた。


「気をつけろ!正体不明の飛び道具……」


 そんな言葉のあと、再び破裂音がしたとおもうと見張り役からの声が途切れた。



続きは明日の予定。

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