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第2話 ③


 一方、岩穴の中で、またもや肝を冷やす思いをしているエリオである。


 野犬の群れから逃げていたら、こんどはとんでもない奴にでくわした!この怪物はなんなんだ!

 と思って見たら、ただの骨だったことに少しだけホッとした。



 ところで、、エリオの目の前にそびえる巨大な骸骨とは?

 それは、その生きた姿を見たことのないエリオにもすぐに正体のわかるものだった。



 「金獅子」


 ライオンと呼ばれる猛獣の中でも一際大きな体を持つ陸の王者。

 全身が黄金色に光るゆたかな体毛に覆われているためその名があるが、その体格もライオンとしては飛びぬけて大きく、獰猛な性格のせいもあって「人食い」の悪名も絶えない。しかし、地上の肉食獣の王者たる風格と力をもったその姿ゆえに、人々の畏敬の対象でもある。

 そして、その生息数が絶対的に少ないので、幻の獣とも言われる。

 今ここにそびえる骨は、金獅子のむくろに違いなかった。


 エリオがそんな巨大な骸骨とこんな場所で対面して驚くのは無理もない。


 しかし本当に驚くべきなのは、そんな骨が四肢を地に着けた姿まま何の支えもなく、ただの骨となった今にいたるまでずっと岩穴の中で立ち続けていることである。

 エリオはそこまで気が回ることはなかったが。


 

 その骨だけで、エリオがすぐにその動物の正体を知ったのには訳がある。


 まず、その飛びぬけた体格の大きさ。

 この姿にしてこの大きさの獣は金獅子しか考えられない。象ですら体格で劣って見えるほどだ。

 決定的なのは頭の上で鋭く光る、短いが太い、左右と正面に突き出た3本の角。

 金獅子の「王冠」と呼ばれるものだ。

 その姿は実地に見ることはなくても、寺院や城の壁、貴族や富豪の屋敷でそのレリーフや絵にお目にかかることは珍しいことでない。むしろ知識の少ない子供にこそ、おなじみの存在といえる。




 どれぐらいここにこうして朽ち果てたままになっていたのかもわからない。ひょっとすると、この森が今とはまったく違った姿だった頃にまで遡ることができるかもしれない、と思えるほど古びていた。


 うっすらと黄味がかっているせいで、骨までもが体毛の色とされる黄金色をしていた。が、それがもともとの金獅子の骨の色なのか、長年の土ぼこりに汚れた結果そうなったのかはわからない。


 生命を失ったただのオブジェでしかない獅子の頭骨だったが、つりあがったまま虚ろにあいた眼窩の形は、命を失った今でも怒りの感情に燃えているようだった。




 エリオは引きよせらるようにして、頚骨の先に垂れる巨大な頭蓋の下にまで歩みよった。

 見上げると、太い牙をかみ締めながら閉じる頤は、軽くエリオ一人ぐらい飲み込んでしまいそうな大きさ。

 しばらく、自分の置かれた状況を忘れて、この威容を誇る骨を見つめていたエリオだったが、岩屋の前のうなり声が今まで以上に大きくなったことに気づいて、はっと我に返った。


”見とれている場合じゃない!”

”なんとかしないと!”

”あの野犬たちを追っ払わないと!”

”あいつらすぐにでも穴倉の中に飛び込んでくるかもしれない!”



 だんだんと激しくなる動悸と、わき腹に感じる冷や汗の感覚だけが鋭くなってゆく。

 エリオは再び頭上の金獅子の頭蓋を見上げた。

 思い切って飛び上がれば届きそうなところで、獅子は眠っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、朧の森の真ん中、名もない小さな原っぱを囲む崖の一角では、鋼鉄の装備に身を固めたロイヤルガードの一隊が、眼下で不気味なうなり声たて岩穴の前に集まる野犬たちを見守っていた。


 崖の上の茂みに身を伏せたロイヤルガードたちは、目の前の光景にあまり関心をしめしていなかった。

 弱肉強食の森の中ではいたるところで見られるもの。

 腹を減らした野犬が、獲物を追いかけて岩穴にまで追い詰めたらしい。そんなところに違いない。


「何か、獲物でもみつけたのでしょうか?」

「追いかけてここまでやってきたのかもしれませんな」

「子鹿でも逃げ込んだとか?」

「そんな相手なら、一気に穴に駆け込まないか?自分は手負いの猪でも追い詰めたところと見る」

「なるほど……」


 偵察役が、その対象の近くでそんなふうに話し込んでいるなど言語道断な話だが、相手がただの野犬なら規律の厳しい彼らでもこうもなろう。

 ただ一人、彼らをここまで引っ張ってきた、この隊の指揮官だけが押し黙ったままであった。

 そこで一人がその男に問いかけた。


「隊長はどう思われますか?」


 野犬の報告を聞いてから、ずっと何事か考え込んでいるらしいこの隊長だった。


「うん……少し気になる……。あの岩穴にいるのが鹿や猪ならいいのだが、もしや人ではと……」


 隊長の言葉は意外だった。

 こんな場所に人が?!発想が普通じゃない。

 皇国の治安を守るロイヤルガードなら、ここで人が野犬に襲われているのを黙って見過ごすことはできない。

 しかし、そもそもなぜ野犬のうなり声でそこまで思ったのか?とまでは誰も考えなかった。


「こんなところに人ですか?」

「犬たちの様子だよ?あれは動物相手ではないかもしれん」


 隊長の言葉に、草むらの一同は言葉もなく黙り込んだ。


 もうしばらく、様子を見ることにしようか?



 と思っていると、岩穴の前の野犬たちが、そこからジリジリと後ずさりながら、急に声を荒げた。

 ロイヤルガードたちもその様子の変化に注視した。

「おい!犬たちが後ずさったぞ!」

「何か出てくるのか?」

「……」

「うわっ!なんだあれ?化け物かっ!?」


続きはまた今晩にでも。

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