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騎士になりました  作者: 比呂
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戦火


 トランキアル霊廟街の外れ――――風車騎士団の練兵場で、二体の戦鎧騎が向かい合っていた。


 剣を持っているのがユミルの乗る騎体で、その正面に無手で居直るのがユーゴのものだ。

 互いに間合いを計っているようにも見えるが、その実、ユミルが攻めあぐねていた。


 戦いにおいて武器を持つ者が有利なのは当然である。

 しかし、長所が場合によっては短所となることもまた、有りうることなのだ。


 剣を振る、と言うことは、線を描いた攻撃に成り易い。

 無論、反応が遅れればそのまま斬り捨てられるのだろうが、ユーゴの操る戦鎧騎は、群を抜いて反応が良かった。


 見切りに無駄がなく、最小限の動きで剣を躱す。

 剣風で装甲を撫でられるのは序の口で、軽く火花を散らせるほどの冴えを見せることもあった。


 剣の攻撃を全てカウンター気味に返されていては、次の攻撃に二の足を踏んでしまうのも仕方ない。

 ただ、ユーゴ側に問題が無いわけでも無かった。


 これより前に行われた模擬戦で、複数体の戦鎧騎で襲い掛かられても捕まらなかったユーゴだが、彼の戦鎧騎は何故か他の戦鎧騎に攻撃が出来なかった。


 ユーゴが戦鎧騎を乗り換えようと、それは同じだった。

 武器も持てない、攻撃を当てられないのでは、兵器として存在価値を疑われてしまう。


 幾度目かのユミルとの模擬戦も終え、二人は戦鎧騎から降りた。


「なあ、ご主人様。本当に攻撃できないのかよ」


 メイド服を着た眼帯女性の呆れた声に、口を曲げたユーゴが答える。


「出来ないというか、したくないというか。……俺にも良くわからん。ゼンロさんが言うには、戦鎧騎側からの作用らしいんだが」

「繋がってないにしては、達人並みの動きなんだよなぁ」


 頭をがしがしと男らしく掻き混ぜるユミルだった。

 戦鎧騎の操縦方法は、理想的な動きを想像しながら両手両足のレバーを動かすだけである。


 初めは力加減を調節するために時間が掛かったが、慣れてしまえば戦鎧騎が搭乗者の思考を読み取っているかの如く動いてくれる。


 ユーゴの場合、戦鎧騎で攻撃をするときだけ、言うことを聞いてくれないのだ。

 彼個人としてはそれでも良いだろうが、『騎士』の資格を取るためには、現役騎士から模擬戦で勝利を治めねばならない。


 呆れた顔つきでユミルが言う。


「やっぱり、親父を縛り上げて資格だけ貰った方が良く無いか?」

「それは無理だろう。ランヒが言ってたように、正規の手段でないと面倒なことになると思うぞ。それこそ、アリアドネにも迷惑がかかる」

「……だよなぁ。やっぱり駄目か」

「ナイガンだって、そこで折れる男でもないさ」

「あぁん? 随分と親父のことを買ってるんだな」


 意外そうに片目を見開く彼女だが、ユーゴにとっては不思議でも何でもない。

 義理に厚いナイガンに対して、力づくで物事を推し進める気など毛頭ないからだ。


「縛り上げたくらいで根を上げる程、柔な男に見えないからな」

「それは強情ってんだよ、ったく」


 腕組みをしたユミルの視線が、練兵場の端を走らされている騎士候補たちを見つけた。


 本来であれば、ユーゴも彼らに混ざって訓練を受けるはずであった。

 しかし、生身で戦鎧騎を引っ繰り返すような魔族が、今更体力づくりする必要も無い。


 それよりは戦鎧騎に乗って練度を上げた方が良い、との風車騎士団長の判断があった。


 そこで別の問題が浮上してしまったわけだが、具体的な解決策は見当たらない。

 整備長のゼンロにも原因を調べて貰っている最中なのだ。


 次に紡ぐ言葉も見失った所で、ユミルが言う。


「それじゃあ、飯でも食うか」

「ああ、そうだなぁ――――それにしても、ようやく俺に慣れてくれたようで何よりだ」


 苦笑しながら軽口を叩く彼だったが、ユミルもそれに応じる。


「……うるさい。こいつは私の持論だが、戦って見りゃ、相手の性格がわかるんだよ。戦ってきた癖ってのは、命を預けてきた技術だ。中々嘘はつけねぇよ」

「ふぅん。それで、俺はどうなんだ?」

「私の測りきれる相手じゃない、ってことがわかった。だったら、考えても無駄だってことだな。どうせ貴様なら、風車騎士団全部を敵に回しても戦えるんだろう?」

「いや、そんなことしないが」

「ほらな、出来ない訳でもないんだろ。あの裏切り者のクソ執事だって、似たようなことはやるさ。だけどまあ、アリアドネ様が心を許していらっしゃるのだから、そうしようと決めただけだ」


 ユミルが口元を緩めて、深い目色をしていた。

 木の葉を散らすような風が吹き、彼女の髪が揺れる。


 二人が格納庫へ帰ろうと思ったとき、練兵場に人影があった。


 その影――――アリアドネの表情は、感情が剥がれ落ちていた。

 本来ならば独り言で終わってしまう小声の呟きが、風に乗って二人の耳に流れてくる。


「風車騎士団に――――出動命令が下されました」


 碧く瑞々しい葉が宙を舞い、そして、地に落ちた。

 嵐の前の静けさが、今ここに存在していた。




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