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騎士になりました  作者: 比呂
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騎士の学舎3


「ここです」


 エルザはとある教室の前で立ち止まり、入室を促してきた。

 頷いたユーゴは、無言で教室の引き戸を引いた。

 すると、教壇に立っていたであろう教師が飛び上った。


「うひゃぁ!」


 教師は一目散にその場で伏せ、丸まった。

 長い銀髪を床に散らし、震えながら何事かを唱えている。


「悪霊退散、悪霊退散……」

 

その光景を見たエルザが、溜息を吐きながら声をかけた。


「はぁ。エドガー・スミス教諭、新しい生徒を連れて来ました。引き継ぎを頼みます」

「へ、へえ?」


 丸まったまま、エドガーが振り向いた。

 焦点定まらぬ顔で、自分の眼鏡を押し上げる。

 怖がりながらも足元から視線を上にあげ、ユーゴの顔を見た瞬間に、目を見開いた。


「あ」

初めまして(、、、、、)、スミス教諭。これからお世話になります、ユーゴ・クロックです」

「お?」


 立ち上がったエドガーが、ぺたぺたと無遠慮にユーゴの顔や身体を触り、そして自分の手のひらを見て、更にユーゴを見た。


「何で?」

「新入生です」

「いや、だって――――」

「驚かれるのも無理はありません。学生と言うには、少しばかり歳を取り過ぎていますからね」


 ユーゴは誰にもわからない程度に殺気を絞り、エドガーだけに飛ばした。

 瞬間、ちらりと目を逸らすエドガーだった。

 それで伝わったと思ったユーゴは、付け加える。


「確かに自分は若くありませんが、人族と魔族が共存することを目的としたこの学校に入校出来たことを光栄に思います。先ほどは、私をこの学校に推薦して頂いたフルクス様と言い争いになってしまって、ご迷惑をおかけしました」

「あ、ああ、そう。何事かと思ったよ」


 エドガーが曖昧に頷く。

 授業中にいきなり、殺人級の闘気が学校内部から膨れ上がったことについて、ようやく理解したのだった。


「校長先生の仲裁でなんとかなりましたが、私も殺されるところでした。あはははっ」


 淀みなく笑うユーゴに、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるエルザであった。


「……では、頼みましたよ」


 嫌なことを思い出した彼女は、足早にその場から立ち去った。

 その顔に少し赤みが差していたのは、ユーゴしか気づいていない。


「それで、えっと、新入生の話は聞いていたよ。それじゃあ、自己紹介してもらえるかな」


 苦笑いのエドガーが、職務を思い出したようにして言った。

 何やら聞きたいことがありそうな雰囲気だったが、ユーゴは無視した。


 教室を眺めた。

 人魔混合を目指している通り、それぞれの種族が混在している。

 その中でも、フィーナ・アイブリンガー、ユステン・ヒルト、オリバー・ハリス、の面々に関しては、先日の演習で顔を合わせていた。

 他にも、このクラスの人員に関しては、事前にすべて情報は手に入れていた。


「お前」


 ユステンが立ち上がった。

 柔和な顔で、エドガーが諌める。


「こらこら、ヒルト君。こちらの……えっと、こっちの新入生君に自己紹介くらいさせてあげてくれませんかねぇ」

「ちっ」


 舌打ちをしたユステンが、それだけでエドガーを無視した。

 ユーゴを睨みつけ、見下す。


「そうかよ。お前はグランエルタの貴族だったって訳か。通りで生意気なはずだな。また喧嘩でも売りに来たのか?」


 過去の争いを引き合いに出し、嘲笑していた。

 フルクス辺りの耳に入っていたら、手と足が飛んでくる教育的指導を受けそうな態度だった。

 どう対応しようかユーゴが迷っていると、急に立ち上がったフィーナが、ユステンの後頭部を叩いた。


「いい加減にしなさい。あなたも魔族の代表なのよ」

「わ、わかってるよ……」


 二人はそのまま、自分の席に戻って行った。

 うんうん、と頷くユーゴだった。

 若者のやりとりを見て、こういうことをシアンやティルアと一緒にしたかったなぁ、などと益体も無いことを考えていた。


「えっと?」


 エドガーが困惑していた。

 それに気づいたユーゴは、改めて生徒の全員に自己紹介した。


「私はユーゴ・クロックと言う。この国の前王と同名であることを光栄に思う。以後、よろしくお願いする」


 彼が生徒たちから受けた視線は、不機嫌が半分、無関心が半分だった。

 不機嫌なのは、自分たちの歴代王の名前が使われていることに、不敬を感じているのかもしれない。


 それでも、ヴァレリア王国の中でもユーゴの顔を覚えている者は極少数だった。

 この国の若者で、ユーゴの顔を覚えている者は、いないと考えていいほどだ。

 ほとんどの将兵や部族が滅んでしまった戦争があった。

 

 ユーゴは感情を押さえながら、誰にともなく敬礼したのだった。


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