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騎士になりました  作者: 比呂
117/127

付添


 ひたひたと、裸足で床を叩く音がする。


 裸のままのオリビアが、備え付けられている化粧棚まで行き、引き出しから長い布を取り出した。


「さて、これで良いだろう」


 それを自らに巻きつけ、もう一枚を取り出してユーゴに投げて渡してくる。

 難なく布を受け取ったユーゴは、炭になってしまったシーツの代わりに、それを腰へ巻いた。


「うわ、何だこれ」


 身につけた途端、巻かれた布が動き出し、洋服へと変化した。

 色まで変化する辺り、周囲の物と同じ素材でできているのだろう。


 見た目だけならば、着馴れた様子の上着に、少しくたびれた革ズボンに変化している。


 目の前にいるオリビアも、薄い青色のローブを着込んでいた。

 彼女が腰に手を当てて言う。


「何を驚く。応用しているとはいえ、元は貴様たちの技術だ」

「魔導具、なのか」


 彼は変化した洋服をつまんでみるが、違和感がまるでない。

 武具としての魔導具は、恐ろしいものから使い方の分からない珍妙なものまで見てきた自負があったが、生活のためだけに特化したものは新鮮だった。


「まあ、こういう使い方が一番いいんだろうけどな」

「……ふぅむ。その認識で間違ってはいない」


 煮え切らない表情で、彼女が頷く。

 短い溜息の後、口を曲げた。


「ともかく、しばらくはこの場所から動くなよ」

「しばらく? 何の時間が必要なのか教えてくれたら、考えなくもないぞ」

「驚くほどうさんくさい言い回しだな。貴様が考えた上で動くなら、情報の与え損だ」

「そうかな。少なくとも、説得の機会ではあると思うんだが」

「どこまで上から目線なのだ。そこまで言うならば、手でも足でも消し炭になるといい。修復くらいはしてやるぞ」


 オリビアが呆れた顔で言う。

 その態度を見たユーゴは、首を曲げて息を吐いた。


「なあ、人の形になると頭が良くなるのか? 前はもっと可愛げがあったと思うんだよ」

「遠回しに馬鹿にしているのか、貴様」

「いや、少なくとも、そこの骸骨よりは見ていられるけど」

「骸骨?」


 胡散臭そうな顔で背後を振り向いたオリビアの眼前に、髑髏が立っていた。

 水晶で出来た頭蓋骨に、裾が擦り切れたマントを羽織っている。


 ちょうど、パビリオンの屋根から侵入しない距離を保ってこちらを伺っていた。


「やあ、元気してた?」


 彼女を避けるようにして上半身を傾け、ユーゴに挨拶する骸骨――――ハリィだった。

 オリビアが目を細める。


「何をしに来た」

「おや、同僚に向かって酷い言い草だね。もちろん仕事に決まっているだろう? それ以外に俺たちの存在価値は無い。君だってわかってるはずさ」

「女王の命令を、仕事と言い切る貴様に言われたくない」


 それを聞いた髑髏が、顎をかたかたと鳴らして笑った。

 腹も無いのに腹を抱えているところを見ると、相当に面白かったのだろう。


「くははははっ、なら君は一体何なんだい? ユーゴが目覚めたら女王へ引き渡せばいいだろう。それを、結界まで構築して閉じ込めているんだから、何をいわんや、さ」

「まだ完全に『目覚めた』わけではない」

「それでも、だね。ここから先は女王がお決めになることだ。幾らか女王の権能を得たところで、成り代わることなど出来ないよ。まあ、出来るものならやってみれば、って俺は思ってみるけどね」

「貴様、不忠に過ぎる言葉だぞ」

「だぁかぁら、君に言われたくないっての。……ちょっと、ユーゴからも何か言ってやってくれよ」


 話の先を向けられたユーゴは、難しい顔をしていた。

 腕を組み、骸骨を見つめ、眉を寄せながら言う。


「……誰だっけ?」

「いや、これだけインパクトがある顔なんだから忘れないでくれよ!」

「すまん、骸骨の知り合いが何人かいるんだが、見分けがつけられん」

「そんなにいるのかよ! ほら、あれだよ、気配がぬめっとしてる方の骸骨だよ!」

「あー、あー、覚えてる、うん。で、名前何だったかな?」

「忘れてるだろ、君! 覚えてないだろ!」

「そんなことないけどな、ボビィ」

「誰だよそれ! 微妙に似てるとこが更に嫌味だね!」


 言い合いながら近づいていく二人に、そっと鋭い視線を差し込むオリビアだった。

 呆れた顔だが、油断は無い。


「そこまでにしておけ、貴様たち。何を企んでいるかは理解している。それよりも、符丁も無くよくぞこまで調子が合わせられるものだな」


 彼女がそう言うと、ユーゴとハリィは同時に肩をすくめた。

 骸骨の方がかちりと顎を鳴らす。


「ま、俺の方が人間と長く接してきたし、経験値は上だろうさ。細かいところまで意思疎通出来てるか、って聞かれると困るしねぇ?」


 話しかけられたユーゴは『ん?』と目を開いた後で、頷いた。


「そうだな、うん」

「ほらぁ、これだもん」


 けらけらと笑ってみせる骸骨の真意は、誰にも見えていなかった。

 一通り楽しみ終えたのか、満足した様子のハリィが言う。


「ところで、俺はこの結界に手を出せないけど、ユーゴは違うよ。力のある装置――――『獣の心髄』を使えば切り開けるんだ。これも女王の権能の一つだけど、力で上書きできるものだからね」

「出られると言われても、まあ、女王からの呼び出しってことだよなぁ。断れるないんだろ?」

 彼の疑問に、骸骨が調子よく答える。

「断るなら断るでいいんじゃない? 俺、呼んで来いって言われただけで、連れて来いとは言われてないし。邪魔する気は無いよ。けど、会っておいた方が良いと思うなぁ」

「ふぅん。何か知ってることがあるのか」


 ユーゴは態度を改めた。

 良きにしろ悪きにしろ、ハリィの言葉には含みがあった。


 彼が一歩踏み出したところで、オリビアがワザとらしく溜息を吐いた。


「……はあ、いいだろう。行くぞ。我も付き添う」


 観念した彼女の声が、パビリオンを超えて響く。

 君は呼ばれてないよ、と骸骨が漏らした言葉に、牙を剥く彼女であった。





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