八曲目 共鳴し合う二人
「くそ、広瀬奏めっ……」
とある山の中。朱音は木々を切り落としながら、憎悪を漏らす。
「あいつには何故、私よりも力があるのだっ……」
そう言うと再び木々を豪快に切り落とす。そして、損傷した大鎌の先端を見つめる。
「絶対に許さない……。何としてでも狩り殺すっ……!」
朱音はそう言うと、復讐を胸に誓った。
☆
「あれ? ここって?」
奏は目を覚ますと、見たことのあるような光景が広がっていることに気付く。そこは、ただただ白い地平線が広がる雲の上だった。
目覚めたか、我が化身よ。
「この声……。あの時見た夢……。てことは、私また夢の中っ!?」
無視するでない。我が化身よ。
「ああっ、じゃあ起きたらまた遅刻だよぅ……。先生に怒られるし、鈴音にも嫌われるぅっ!」
話を聞かぬか!
「うぐぅっ!」
何者かによって身体を束縛される感覚が奏の身体に走る。
我はお主をいつでも殺せる。このようにな。
さらに力は強くなり、潰されるような感覚が奏を襲う。
「や、め、て、えぇぇぇっ!」
奏が苦しみながらもそう叫ぶと、稲妻が発生し、奏は鈴音を助けたあの時の姿になっていた。そんな姿になると、さっきまで襲っていた感覚が突然消える。
「一体、何なんですっ? 人の夢の中に出てきて、睡眠も現実も邪魔するあなたっ! 一体何なんですっ?」
奏は何者かに向けて、そう文句を叩き付けるように言った。
ふむ。やはりお主を選んで正解だったようだな、ヒロセカナデ。
「えと……もしかして、覚えてくれたの名前?」
片言の名前を呼ばれ、奏は何者かに聞き返す。
ああ、そうだ。我の願いを叶えし者、ヒロセカナデ。お主の力、期待しているぞ。
何者かがそう告げ終えると、奏の足元を形成していた雲が消える。
「またこれえぇぇぇっ!?」
奏の叫びも虚しく、スピードを上げて落ちていった。
☆
「――で、変な夢のせいで、今日も遅刻と?」
天石先生は遅刻理由を聞き、あきれ顔で奏に言った。
「えと、あの、その……はい。その通りです」
「まあ、今日は普通に減点ね。かわいそうだけど」
「すいません。以後気を付けます……」
奏は少し落ち込みながらそう言うと、教務室から出て行こうとする。すると、天石先生に呼び止められる。
「あと、広瀬さん。放課後、音楽準備室の方に来てくれる?」
「へ?」
「話したいことがあるから。あと、鈴音さんも呼んでくれる?」
天石先生にそう言われると、返事をして教務室から出て行く。そして、放課後。言われたとおりに鈴音と音楽準備室にやってきた。
「失礼します」
「どうぞ、入って入って」
そう言われると、二人は室内に入る。しかし、その顔には不安が張り付いていた。
「その……私の進路はどのような末路に……」
奏は恐怖心を体全体からにじませながら、恐る恐る天石先生に聞く。
「先生! 奏はやればできる子なんですっ! だから――」
「あなた達、何を勘違いしてるの?」
「「へ?」」
二人は間の抜けた声を漏らす。
「違うわよ。今回、こうして集まってもらったのは……久遠朱音のことよ」
天石先生は早速奏に聞く。
「広瀬さんはどうしたいと思っているの?」
「どうしたいって……朱音さんとは分かり合いたいです。朱音さんの歌、何だか泣いていた。そんな気がするんです」
奏は朱音に対する今の気持ちを、素直に、率直に、そして簡潔に答えた。
「そう。鈴音さんは?」
「わたしは、奏の意見を尊重したいですけど……危険な目には合ってほしくない、です」
「そうよね。友達だものね。私もあまり危険な目には合ってほしくないわ」
「それでも、わたしは、奏の気持ちに――」
突如、警告音が校内に鳴り響く。学校からそう遠くない場所で土煙が上がり、霞んだ音が鳴り響いてくる。
『周辺地域で破界者発生。生徒は直ちに校内に避難せよ。繰り返す――」
「破界者……ってことはっ! 私行ってきますっ!」
奏は待っていたといわんばかりに追うかに飛び出す。
「ま、待ちなさい広瀬さん!」
天石先生が奏を止めようと慌てて廊下に出るが、その時には奏はいなかった。
「奏……」
「お母さん、ボクだよっ! ひろしだよっ! おかあ――ッ」
「グルガァァァ――!」
実の子供の声も破界者と化した母親には伝わらなかった。槍のように尖った腕で身体を貫かれ殺された。
それと同じような光景が、あちらこちらと繰り返されている。
「孝二さん……やめ――ッ」
「グル……めぐ……ミィィィッ!」
「やめろ、こっちくるがぁぁぁ――ッ!」
人が破界者に殺される光景を、朱音はビルの上でまじまじと見降ろす。その様子は、何かを心待ちにしているようにも見える。
「さぁ、来い。広瀬奏……っ」
テンポよく話を進めていくことにします。あと、自分がおもしろいと納得できる作品にしたい。