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終末歌姫  作者: 岩城ぱれす
第1楽章 少女が破界に変わった日
8/16

七曲目 再会の歌姫

「さあ、出てこい。私の獲物……」

 朱音は手に持つ大鎌をふるいながら、車を弾き飛ばす。

「やめてくださいっ!」

 奏は車の中から出てくると、朱音にそう言った。

「広瀬さん、行動は控えるように……」

 車の中から連れて天石先生と鈴音も出てくる。

「久しぶりだな、広瀬奏」

「何でこんなことするんですか?」

「ふふっ……」

 その問いかけに対して朱音は不敵な笑い声を出した。

「何がおかしいんですか? 答えてくださいっ!」

「いや、あんまりにも正義感あふれる言葉すぎてな。遊びにでも来てるのかと思ったのだ」

 奏の拳にしていた右手に力が入る。

「助けてくれ……まだ死にたくない……」

 朱音はその声に気付く。すると、車の間に挟まれ身動きがとれない男性がいた。

 朱音はその男性に駆け寄り、天使のような優しい声で語りかける。

「可哀想に。挟まれてしまったんですね」

「あ、あなたは……」

「大丈夫。すぐ楽にしてあげるから、待っててください」

「あ、ありが……」

 男性はほっとしたのかお礼を言おうとした。しかし、その首が一秒もかからず堕ちた。

「はい……。楽になった」

 朱音はその首を持つと、奏に見せつける。

 奏の拳にしていた右手にさらに力が入る。

「あれって、久遠朱音だよね?」

「はい」

「でも、何で?」

「それはわたし達にも……」

 天石先生にひそひそ声で説明する鈴音。

「鈴音、先生を連れてできるだけ遠くに行ってくれる?」

「うん、わかった」

 鈴音はそう言われると、天石先生の手を引く。

「広瀬さん、まさか」

「大丈夫です。すぐ終わらせます」

 そう言うと、奏は胸に拳を当てる。

「お願いっ! 力を貸してっ!」

 奏はそう叫んだ。しかし、体に変化は起きない。

「貴様、何をしている?」

「お願いだから、力をっ!」

 何度も何度も拳を胸に打ち付ける。しかし、全くと言っていいほど手ごたえはなかった。

「神に見くびられたか」

 朱音はそんな奏を見てがっかりしたのか、鈴音達の方向に大鎌を構える。

「はあっ!」

 掛け声と共に攻撃を繰り出す。Rowdy thing。回転する大鎌は猛烈なスピードで鈴音達に襲い掛かる。

「きゃあぁぁぁっ!」

 的中したのか爆風と爆音を周囲に発生させる。同時に砂煙が舞い上がる。

「歯ごたえがなさ過ぎたな。広瀬奏も母親と同じ運命か」

 爆風によって舞い上がった砂煙が徐々に消えていく。しかし、そこには一人のたたずむ少女の像が見えていた。

「ん、何が起こった?」

 朱音は確認しようと近づく。すると突然、周りに稲妻が走り、朱音を遠ざける。さらに砂煙が一瞬で晴れる。

「誰も、死なせはしないっ!」

 そこには、大鎌を両腕で止めている奏の姿があった。しかも、鈴音や天石先生を助けた時の姿になっていたのだ。白いマントをたなびかせ、腕や足に稲妻のやいばが付いたあの姿。まさしく勇者。

「何だとっ! 貴様、何故その姿になっているっ!」

 朱音はその姿を見ると、驚いた。

「私、二人に夢中で……。守らなきゃって思った。そしたら何だか、胸がすごく熱くなって」

 奏は大鎌を地面に突刺すと、胸に手を当てそう言った。

「まあ、いい。私の目的は貴様だ。願いを叶えるには貴様を殺さなければならないのだ」

 朱音がそう言うと、突き刺さっていた大鎌が朱音の元に戻っていく。そして、つるぎに変化した。

「さあ、命を差し出せ」

 朱音は剣を奏に向けると、咄嗟に走り出してきた。

「死ねえぇぇぇっ!」

「うわぁっ!」

 髪の毛が掠れながらも、奏は剣を避ける。しかし、朱音は剣による猛攻を続ける。

「貴様、避けるなっ!」

「避けないと死んじゃいますっ!」

 剣の猛攻に当たるまいと、奏も必死で避け続ける。

「えと、武器、武器……これかっ!」

 奏は腰に付けていた稲妻を朱音目掛けて投げつける。しかし、真っ二つに斬られてしまう。

「こんなもので目くらましになるとでも思ったか?」

 朱音はそう言うと、高く跳び上がり、高所から攻撃をしてくる。Cutoff addict。剣を突如、巨大化させ、奏目掛けて突っ込ませる。しかし、間一髪、奏は目と鼻の距離位の間隔で避けた。

「ギリギリセーフ……。それにしても、あの時みたいにどっかからハンマー出てこないかな?」

 朱音は高速道路に突き刺さった巨大な剣をそのまま引っこ抜く。すると、宙に剣ごと舞う。

「いつまでも逃げれるなと思うなよ」

 剣の後ろに隠れると、剣の刀身が映画館のスクリーンになったかのように突然宇宙が映し出される。Insulation in a galaxy。すると、見る見るうちに、車や戦いで巻き起こった瓦礫が吸い込まれていく。剣に映し出された宇宙がまるで本物のようだ。

「これでも貴様は逃げるか?」

「くっ。捕まってたまる、か……」

 奏は踏ん張るが、少しずつ宇宙へと吸い寄せられていく。

「さあ、貴様も終わりだ」

「こんなところで、終わるわけには……」


「いかないんだっ!」


 奏がそう叫ぶと、突如胸から巨大なハンマーが飛び出てきた。ハンマーは出てくると、剣に映し出される宇宙の中へ消える。しかし、宇宙から奇妙な音が聞こえてきた。それは、まるで暴れているかのようだった。剣にミシミシと割れ目が入る。さらにどんどん音は大きくなり、割れ目もさらに広がる。

「何が起こっているっ? 一体、何が――」

 朱音はだんだん不安になり、剣から離れようとした。その時、ついに、剣は壊れた。壊れると同時に破片と吸い込まれていた瓦礫がが飛び散り、吸い込んだものが容赦なく雨のように降り注ぐ。

「朱音さんっ!」

 身を護るすべもなく大量の瓦礫に押しつぶされそうになった時、奏は朱音の前に立ち、振り払うかのようにハンマーを瓦礫にぶつける。

 全てが降り終わると、奏は朱音に手を差し伸べる。

「もう止めませんか? こんなことしても、犠牲が出るだけじゃないですかっ」

「黙れっ!」

 朱音は不意を突き、奏を殴り飛ばす。ふらつきながら立ち上がると、奏にこう告げる。

「貴様に何が分かるというのだっ! すべてを失ったこの私の、何が貴様なんかに……」

 朱音はそう言うと闇に包まれ去ってしまった。

「朱音、さん……」

 奏は蹴られた腹を庇うように、ゆっくりと立ち上がり、周囲を見回す。改めてひどいありさま、と感じとる。

「奏っ! 大丈夫っ!」

 離れた場所に避難していた鈴音が駆け寄って来る。その後には天石先生の姿も。

「うん、大丈夫……。鈴音達は?」

「わたしも、先生も大丈夫」

「広瀬さん、あの人は?」

「朱音さんなら行っちゃいました……。説得もダメでした……」

 奏は少し残念そうに、うつむきながらそう言った。

「でもきっと、いつか分かってくれる! そんな気もしました!」

 奏のポジティブシンキングに二人は驚く。と、同時にほっとした。全くへこたれていなかったからだ。

「それより早くその姿を隠さないとね。他の人に見られたりしたら大変よ」

「……それがですね」

 奏は天石先生にそう言われると、顔を紅くする。

「どうしたの、奏?」

「……戻り方が分からない」

 まさかの答えに、二人は唖然とした。

「え、それはちょっと緊急事態ね」

「奏、戻れって念じて! 早く!」

「さっきから念じてるんだけど、全然ダメで……あはは」

「あははじゃないよ! 早く!」

 すると、遠くを見ていた天石先生が何かに気付く。

「ちょっと、あの人たちもしかしたら救助隊の人達かも。頑張って、広瀬さん!」

「うぬぬぬぬ……」

「奏ぇ! 早くぅ!」

「うぬぬぬぬ……はっ!」

 シュポンっ! 無事に元に戻ることができた。

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