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終末歌姫  作者: 岩城ぱれす
第1楽章 少女が破界に変わった日
6/16

五曲目 絶叫和音

目覚めよ。


……。


目覚めよ、選ばれし我が化身よ。


……んっ。誰?


 奏はどこからか聞こえる、まるで自分を呼ぶ声に目覚めた。

「ここは、どこ?」

 奏が目覚めると、そこはただただ白い地平線が広がる雲の上だった。


ようやく目覚めたか、我が化身よ。


 どこからか聞こえる声に、思わず驚く奏。周りを見渡すものの、声の正体は分からない。

「あなたはどこにいるんですか?」


今はまだ姿を現せぬ。だが、選ばれた我が化身のお主なら、きっといつか我の望みを叶えてくれることであろう。では。


 声の主はそれだけ言うと、ここから去ったのか喋らなくなった。

 奏は途端に焦り出し、叫んだ。

「待ってくださいっ! せめて名前だけでもっ! 名前がだめなら、私の名前を言わせてくださいっ! 私は広瀬奏っ! 好きなことは、歌う事と聞くことっ! あと、楽しい事も大好きな、ただの高校生ですっ!」

 奏が胸を張って叫びながらそう言ったが、声の主から返事はなかった。

「聞いてくれたかな?」

 奏は苦笑いでそう言うと、辺りを見回し、帰路を考える。

「これからどうしようかな……」

 そう言い、初めの一歩を踏み出すと、雲の大地から真下に落ちていった。

「いやあぁぁぁっ! バッドエンドだよこんなのぉぉぉっ!」


   ☆


ジリリリリ――。

「うわったっ!」

 奏は目覚めると、ベッドの上から頭から落ちた。

「ここは……私の部屋?」

 目覚めるとそこは、自分の部屋だった。勉強机に、使い込んだCDラジカセ。少し劣化が進んだ押し入れの襖。

 ぐっしょりと汗を吸い込んだパジャマを確認すると、奏はほっとする。

「じゃあ、さっきのは夢だったんだ……。よかった」

 奏は鳴り響く目覚まし時計を止めると、数秒沈黙が訪れた。

 時計の針がさす時間は、八と十二。

 奏は息を呑むと、

「寝坊だあぁぁぁっ!」

 絶叫した。


「広瀬さんっ! あなたは毎回……っ」

「すいませんっ! 本当にすいませんっ!」

 職員室で奏は音楽の先生、兼ねて自分の担任でもある天石そらいし先生に叱られていた。

 奏はただただ必死で謝る。何回も何回も、体を曲げて謝った。

 そんな奏の様子を見て、天石先生はため息を吐く。

「はあ……。広瀬さん、必死で謝ってくれたから今回は大目に見るけど、もし今回みたいなことがまたあったらその時は大減点させてもらうからね」

「はい、すいません……」

 奏の落ち込んだ態度を見て、天石先生は遅れた理由について聞く。

「で、何で寝坊なんてしちゃったの?」

「えと、それはですね。夢の中で声が聞こえて、「誰なの?」って聞いてたんですけど、結局答えてくれなくて、そしたら地面がヒュッてなって、そのままビュウッていって、グワァッ、ドワァッてなりまして、うわってなった瞬間に――」

「ごめんなさい。教室戻ってくれていいわ。理解に苦しいから」

 話の途中ではあるが、奏は職員室から出て行かされた。

「はあ……。いったい何だったんだろう、今日の夢」

 職員室から出ると、奏はため息を吐き、今日の夢を思い出す。

「奏。もう終わったの?」

 すると、廊下でいつものように待っていた鈴音が奏に声を掛ける。手には二人分の荷物。

 奏は片方を受け取ると、日課のように報告をする。

「あ、うん。今日はそれほどでもなかったよ」

「なら早く行こう。次の時間、音楽だよ?」

 二人は音楽室へと向かった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

 体育館裏。一人の男子生徒が息を切らしながら歩いていた。足元はおぼつかない。今にも倒れこんでしまいそうだ。そして、手には音楽の教科書。

「ただ、ただ歌いたかった……それだけなのに……」

 男子生徒はそう言うと、壁にへたり込んでしまう。そして、胸を抑え、苦しみの不協和音さけびを奏でる。

「う、うあがぎゃあぁぁぁ――っ!」

 男子生徒の身体から針のような鋭く尖った角が何本も出てくる。それは目も貫き、頬を貫き出てきた。

「グルガギャァァァ――っ!」

 男子生徒は破壊者ノイズとなった。


「――ですから、ピアノと言うのは――」

 音楽の授業が始まり約十五分。ピアノの歴史について学習させられている奏と鈴音だったが、奏はもう爆睡中だった。それを見ていた鈴音は冷や汗を流しながら見守る。

「ぐへへ……」

「(幸せそう……。どんな夢見てるんだろ?)」

「鈴音ぇ……ぐしし……」

「(え、私がいるの!? 奏の夢の中にっ!? なんで!? しかも、何かやられている感じ……。い、いやらしい事じゃないよね?)」

 動揺で冷や汗が倍になる鈴音。

 その時だった。突如警告音が校舎に響き渡った。

『体育館にノイズ出現! ただちに校庭に避難せ、ギルピー、プツンッ……」

 放送が嫌な音を残して切れる。

「先生は様子を見に行くから、皆はここにいること! お願いね!」

 天石先生は音楽室を後にし、急いで放送室へと向かう。

「奏っ! 起きてっ!」

「……え、何?」

 鈴音が奏を揺さぶり起こす。奏は爆睡していたからなのか、状況が掴めていなかった。

破壊者ノイズだよっ!」

「ノイ……何処に?」

 その一言を聞いた直後、奏の表情が変わった。

「学校に! これから逃げるんだよ!」

「わかった!」

 奏はそれを聞くと、よだれを拭き、廊下に出る。

「どこに行く気?」

「倒しに行く! 先生にはトイレって言っておいて!」

「ちょっと、奏っ!」

 鈴音の心配をよそに、奏は一人、破壊者ノイズの元へ向かった。


「それにしてもどうやったら変身できるんだろ?」

 奏は向かう途中、何回もそればかり考えていた。

「えいっ!」

 掛け声と共に手を上にかざす奏。しかし、何も起こらない。

「ダメか……。いったいどうすれば」

 奏がそう考えていた時だった。目の前の廊下に続く踊り場の横から、勢いよく人がぶっ飛んできたのだった。壁に破壊者ノイズの角ごと突き刺さっている。

 それを見た瞬間、奏はこうしてはいられないと思い、廊下へ身を投げる。するとそこは、一変していた。

 死体と血の海で飾られた戦場いくさばと化していた。

 廊下の奥に破壊者ノイズがいた。体から角を生やしながら殺した人の死骸を口へと誘う。

「広瀬さんっ!」

 奏は自分の名前を呼ばれ振り返る。するとそこには天石先生がいるではないか。

「先生、なぜ?」

「それはこっちのセリフです。音楽室で待機してなさいとあれほど――」

 天石先生がそう言いながら廊下へ身を出した時だった。

「危ないっ!」

 破壊者ノイズが弾丸のように、真っすぐに突っ込んできたのだった。

 危機一髪で、奏が先生の腕を掴み、護りきる。

「これは……いったい……」

 天石先生は廊下の惨状を見て動揺する。見知った仕事仲間が、見るも無残な状態で死んでいるのだから。

 破壊者ノイズは死体ごとめり込んだ体を壁から引きはがすと、目標を天石先生に向ける。

「先生行くよっ!」

 動揺で思うように動けない天石先生の腕を引き、奏は一目散に下階段へ逃げる。

 破壊者ノイズは天石先生目掛けて突っ込むが、失敗し、上階段に突っ込む。

 上階段が崩れ下階段に瓦礫が積もる。足場が滅茶苦茶になる。

 それでも奏は何としても天石先生を護ろうと、懸命に逃げ続ける。

 破壊者ノイズはその後も何回も攻撃を仕掛ける。仕掛けるごとに瓦礫が積もる。しかし、それでも奏は天石先生を護り続ける。

 逃げている途中、天石先生はこんなことを聞き始めた。

「奏さん、どうしてあなたは諦めないのですか?」

「私は諦めませんよ。この世に、歌と、一人の、最高の友達がいる限り死ねませんからねっ!」

「そう。素晴らしい理由ね。あなたらしいわ」

 破壊者ノイズから逃れるべく女子トイレへと逃げ込む。しかし、それを提案したのは、天石先生だった。

「あなたはここにいなさい」

「先生っ!」

「しぃ。静かに、隠れているのよ。私に何があったとしてもここにいるのよ」

 天石先生は静かな声でそう告げると、外へ出て行く。

「こっちよっ!」

 天石先生は破壊者ノイズを引き付けるように、わざと自分を見せ付ける。

 破壊者ノイズは天石先生を射程に入れ戦闘態勢に入る。

「さあ来なさいっ!」

 天石先生は走りながら、破壊者ノイズに語りかける。

 すると破壊者ノイズは躊躇なく、突っ込んできた。

 天石先生はギリギリで攻撃を交わす。しかし、

「ぐっ!」

 崩れたがれきの下敷きになり、身動きが取れない。

 破壊者ノイズは天石先生を抵抗できないと判断したのか、口を何倍にも開け、捕食体制に入る。

「(これで私も終わり、か。最期に生徒を救えてよかったわ)」

 切りつけられる音と共に、血しぶきが激しく飛び散る。


「(……あれ? 生きてる?)」


 天石先生は一瞬何があったのか分からなくなる。ふと、目の前を見てみると、

「グルギシャアァァァッ!」

 破壊者ノイズが悲痛な不協和音さけびを上げながら、苦しんでいた。

 それを見て、天石先生は呆然と驚いた。なにせその破壊者ノイズを苦しめているのが、


 自分の実の教え子である広瀬奏自身だったのだから。


「おらあぁぁぁっ!」

 奏は破壊者ノイズの身体から突き出ている角を掴むと、勢いよく投げ飛ばす。

 投げ飛ばされ壁に激突した破壊者ノイズは、その場から去ろうとしたのか、ふらつきながらも立ち上がる。しかし、目の前に突如ハンマーが猛スピードで突っ込み、急所である目玉を貫通する。破壊者ノイズは苦しみの不協和音さけびを上げながら、静かに息絶えた。

「終わった……」

 奏は安堵のため息を吐きながらそう言うと、床に膝をつく。

「広瀬さん……あなた……」

 後ろで名前を呼ばれ、奏は一気に緊張する。背中に一気に冷や汗をかきながら、ぎこちなく振り向く。

 見られてしまった。しかも、担任に。

「えと、先生、かれは、その……」

 ごまかしきれないこの局面で、奏はなんとかごまかそうと頑張るのであった。

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