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終末歌姫  作者: 岩城ぱれす
第1楽章 少女が破界に変わった日
5/16

4曲目 雷神

 二人は落ちて行った。が、不思議なことに地面すれすれで浮かんでいるのだ。奏の周囲を何者かが守っているかのように。

 しかし、そんな状況の中、鈴音は奏を呼び続ける。

「奏っ! 返事をしてっ! 奏っ!」

 呼び掛けを続けるも、奏からは返事がない。額に一本の剣が今も突き刺さっている。

「もう諦めろ。そいつは死んでいる」

 鈴音は声を掛けられた方を見ると、そこには朱音がいた。もう追い付いていたのだ。

「何でこんなことするのっ! 奏は何も悪い事なんて――」

「ああ。確かに悪いことはしていない。だが、私の願いを叶えるために必要だった。だから、殺した」

 朱音は無慈悲にそう告げた。

 鈴音は歯を嚙み締める。許せなかったのだ。自分の願いのためだけに奏を殺した朱音が許せなかったのだ。

 奏の額に突き刺さっていた剣は、朱音の元に戻っていき、鎌へと変化した。

「さぁて、次はお前だ」

 朱音は鎌を鈴音に向けそう言った。

 鈴音は奏を見る。

 額から血を流し眠っている。

 鈴音は抵抗を止め、静かに前に出る。

「いさぎ良く出てくるとは、諦めたか」

 朱音は鎌を構える。

「(奏……わたし、こういうことしかできないよ……ごめんね)」

 鎌が振り下ろされた。

「……あれ、痛くない」

 しかし、鈴音は無事だった。傷一つ、血の一滴も垂らしていなかったのだ。

「貴様、何故生きているっ!?」

 朱音が驚きながらそう答えている。

 鈴音の目の前には、白いマントに黄色いアーマーを身に着けた少女がいた。

「私はまだ生きてますよっ!」

 奏は渾身の力で鎌を必死に抑えていた。

「ありえない……。あの時、確かに私の剣が、お前の頭を貫いたはず」

「よく見てくださいっ!」

 奏にそう言われ、朱音は額に注目する。そこには、銀の保護アーマーが存在していたのだった。

「分かりましたか? すべてはこういうことです!」

 奏は鎌ごと朱音を払いのける。

 朱音は、数メートル弾き飛ばされる。

「奏っ!」

「やあ、鈴音。怪我は無かった――」

「生きてるんだったら、すぐ起きてよ!」

 鈴音は奏を叩きながらそう言った。

「痛い、痛い! そんなに殴らないでよ」

「わたし、ほんとにあの時……」

 奏は鈴音の頭を撫でる。鈴音はホッとしたのか、叩くのをやめた。

「茶番はそこまでだ」

 朱音は立ち上がり、二人にそう言った。

 奏は鈴音を守る様にマントをなびかせ、朱音に聞く。

「朱音さん! どうして私達を殺そうとするんですか?」

「今はそんなこと知らなくていい。貴様達にはどうでもいいことだからな」

 朱音は「ふふっ」と鼻を鳴らすと、笑顔である提案をしてきた。

「それはそうと、賭けをしないか?」

「賭け?」

「ああそうだ、賭けだ」

 奏は少し難しそうな顔をした。

 それを見た朱音は落ち着かせるように言い聞かせてくる。

「なぁに、簡単な賭けだ。今からその人間と――」

 朱音は持っている鎌を杖のように使い、鈴音を指す。


「この中に入っている哀れな人間、どちらをいけにえにするかの賭けだ」


 そして、今度は、新東京タワーを指す。

 それを聞くと、奏も、鈴音も、当然のごとく青ざめた。

「何馬鹿なこと言っているんですかっ! そんな賭け――」

「できないというのなら、やらなくてもいい。その場合、どちらも殺す」

「朱音さん……っ!」

 奏の拳に力が入る。

 朱音は鎌をタワーに向けると、タワーを囲むほどの大きさにし賭けの準備を整える。

 二人の様子を見て鈴音は思わず声を出す。

「奏っ! もういいよっ! 大勢の人が亡くなるんだったら、私が――」

「鈴音は黙っててっ!」

「奏……」

 奏に怒鳴られ、シュンとしてしまう鈴音。

「さあ、早く決めてもらおうか。私もそこまで気長には待てないのでな」

 朱音は刃をタワーの鉄柱部分に押しつける。

(どうすれば……)

 奏の頬に一滴の汗が流れる。鈴音を守るか、大勢の命を守るか。人生最大級の決断とプレッシャーが奏を襲う。何か秘策はないものか。

「もうこれ以上待てないのだが……。切っていいか?」

「選びましたっ!」

 奏が大きく決断すると、周りに、ほのかに小さな稲妻が走る。

 朱音は奏の選択が楽しみで仕方がなかった。どちらにしろ人間いのちを狩れるのだから。

「答えは何だ?」

 鈴音が見守る中、奏は答える。


「どちらも、守ります!」


 奏の答えに、朱音は呆れたのか、タワーを切断しにかかる。

「そうか。なら、守ってみ――」

 朱音が鎌を引こうとした、その時。轟音を立てながら、一つのとてもとても重そうなハンマーが、朱音目掛けて突っ込んできたのだ。

「よしっ! 大成功っ!」

 奏は渾身のガッツポーズを決めると、鈴音に向かってVサインも決める。

「何だ、このハンマーは? 重すぎて、立ち上がれないっ!」

 朱音はハンマーの下敷きになりながら必死にもがく。しかし、ハンマーは微動だにしない。しかも、もがけばもがくほど重くなり、電気も体内に通される。

「貴様、まさか……」

「はい! 私の名前は、 広瀬奏です! 好きなことは、歌う事と聞くことっ! あと、楽しいことも大好きな、ただの高校生ですっ! 」

 紹介を終えると、今度は朱音に向かってVサインを決める奏。

「くっ。どうでもいいが、いろいろ呪われた親子だ」

 朱音は悪態をつきながらそう吐いた。

「この賭けは、朱音さんの負けです!」

「そうか? 冗談はタワーを見てから言うんだな」

 朱音にそう言われ、奏は後ろを向き、タワーを見る。

 すると、タワーは絶賛崩落中だった。斜めに切られた鉄柱がそれを現している。

 そう。朱音はあの時すでに切っていたのだ。ハンマーが来るよりも早く。

「これで大勢の人間が死ぬ! そうすれば私の願いに近づく!」

 朱音はそう言うとイカレタ高笑いをした。

「そんなこと、させるもんかあぁぁぁっ!」

 奏は全速力で地面に落ちて行くタワーに走り出す。稲妻のように一気に加速し、倒れてくるタワーの下まで来ると、そのままタワーを掴み、落とさせてなるものかと必死に抑える。

「そんなことしても、もう無駄だ。体力を消耗している貴様では、止められまい!」

「例えそうだとしても……っ! 私には、勇気と、根性と、少しのファイトがありますからぁっ!」

 奏は渾身の力を振り絞り、タワーを直立させる。

「こいっ!」

 朱音を抑えつけていたハンマーは、奏に呼ばれると、朱音をどこか遠くへ投げ飛ばし、奏での元に向かう。どんどん小さくなりながら、やっと使いやすい大きさへと変化し、奏の右手にに着地する。

 奏はハンマーを右手に持つと、切断個所を稲妻の釘で打っていく。稲妻の釘は、金属と金属を接合させ、切断される前の鉄柱以上に丈夫にさせる。

「これで、おしまい」

 最後の個所を打ち終わると、タワーはいつもの新東京タワーになっていた。

「奏っ!」

 奏は地上に着地すると、名前を呼びながら駆け寄って来る鈴音の方を見る。

「鈴音、その――」

「ばかっ!」

 鈴音はそう言うと、奏に思いっきり抱き着く。

「鈴音……」

 奏はすでに泣いている鈴音を呼ぶが、鈴音から返事はなかった。

「……今日はすごく心配させちゃったね。それは、ごめん。けど、私も鈴音を守りたいんだ。鈴音だけじゃなくて、皆を。だから、許してくれる?」

 奏が鈴音にそう聞くと、鈴音は静かにうなずいた。

「ありがと、鈴音。じゃあ、帰ろうか?」

 奏はそう言うと、抱き着いている鈴音をお姫様だっこする。急にされたものだから、鈴音はすごく動揺した。

「えっ、ちょっ、かな――」

「よし、行くぞ!」

 動揺する鈴音を尻目に、奏は勢いよく空目掛けて飛び立った。

「こればっかりは許せなひぃぃぃっ!」

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