3曲目 死神
「奏ぇ……」
「大丈夫だって。私はこの通り平気だから」
雷鳴と共に現れたのは、勇者のように勇ましい姿の奏だった。鈴音は、うれしさのあまり奏に抱きついたままだった。
「グルルルル……」
吹っ飛ばされた破壊者が再び立ち上がり、奏達に襲い掛かろうとする。それだけではない。他の機動隊のメンバーも破壊者にいつの間にか変貌を遂げていた。
「このままじゃまずいかも……」
「奏……」
「大丈夫。こんなの、勇気と根性と少しのファイトさえあればどうって事――」
「グルガァァァっ!」
「うわっ!」
一体の破壊者が稲妻の腕で切り裂きにかかってきた。
奏は鈴音を咄嗟にお姫様抱っこし、ギリギリ攻撃を回避する。
「まだ言ってる最中だって! もう少し待ってくれても――」
「奏、後ろっ!」
「グルガァァァっ!」
かわした直後、違う破壊者から攻撃を受ける奏。超至近距離で見ていた鈴音は悲鳴を上げた。
「奏えぇぇぇっ!」
「うう……耳がキンキンする……」
「大丈夫、奏?」
「大丈夫だよ。どこも怪我してないって」
「でもさっき、背中に……」
鈴音は背中をチラ見する。すると、どうだろうか。背中には全く傷がついていなかったのだ。驚くことに、怪我も何一つなかった。
「それより、この場から離れないと……」
奏は周りを見渡す。破壊者、破壊者、破壊者、全方向から破壊者に囲まれていた。完全包囲されていたのだった。
「数が多すぎるよぅ」
奏が弱音を吐いたその時。天からとてつもない大きさの剣が破壊者目掛けて放たれたのだった。
すさまじい衝撃波に起こされた爆風が奏と鈴音を襲う。
「きゃっ!」
「鈴音!」
奏は鈴音を庇うように、自らが盾となる。
やがて爆風が収まると、今の状況が明らかとなった。
「これは……」
奏は目を疑った。
そこにいたはずの破壊者が瀕死状態で倒れていたのだ。
「一体何が……」
「はあっ!」
謎の掛け声と共に、再び衝撃波が起きると剣は見る見るうちに小さくなり、ようやく持てるサイズになった。
そして、謎の声の主が天から降りてきた。
「ふん。破壊者がはびこっているだけかと思えば、まさか神の化身もいるとはな」
天から降りてきたのは、黒い少女だった。黒い礼装に覆われていた少女は、じっとその場の様子を見つめる。
しかし、奏が驚いたのはそこではなかった。
「何故、何で、ここに……」
「奏?」
奏の様子がおかしいのに気づき鈴音が声を掛けるも、奏には聞こえていない。
「何で死んだはずの久遠朱音が生きているのっ」
少女はその言葉を聞くと、突き刺さったままの剣を抜き取る。
「久遠朱音、か。確かにそうだった。が、今は神の化身、ペルセウスの化身だ」
朱音は手に持った剣を奏に向ける。
「化身同士仲良く……とは、言うつもりもない。今すぐにその人間を渡せ」
鈴音を要求され、驚く奏。それは、鈴音もだった。
「……渡して、どうするつもりですか?」
奏が恐る恐る聞く。
「もちろん、こうだ」
朱音は倒れていた破壊者の脳天を剣で突き通す。
それを見た奏は鈴音を連れてドームの外に勢いよく飛び出す。
「ふっ。逃げるが勝ち……なんてことはありえない。私もすぐに――」
朱音は追いかけに行こうとしたが、瀕死の破壊者達が阻む。
「まだ生きていたか。まあ、良い。一体ずつあの世に送ってやる!」
「嘘、これ飛んでる! 私、天を飛んでる!」
「奏、前っ! 前っ!」
鈴音に言われ、前方を見ると、前には新東京タワーの展望エリアがあるではないか。
「ヤバいぃぃぃっ!」
奏は当たるまいと新東京タワーを壁のように登っていった。
「ふぅ、何とかなった」
奏はなんとか登り切ると、東京の夜景をしばしば眺める。
「きれい……」
「ホントそうだね……」
二人は夜景に見とれる。眺めていると、シンセードームの変貌っぷりが見られた。屋根の大部分が破壊され、時々怪しく緑色に光っている。
「さっきまであそこにいたんだよね……」
「もうあそこから私達を追って来てるかもしれない」
それを聞くと、鈴音は奏の肩を強く握る。
「大丈夫だよ。鈴音は私が守るから」
奏は怯える鈴音に向かって、「にっ」と笑顔を見せる。少しでも心配させないようにしているのだろう。
「これで全部か……」
朱音は最後の一体を倒し、新東京タワーのてっぺんを見る。
「そこにいても逃げられないことを教えてやる」
朱音はそう言うと、手に持っていた剣を手のサイズまで小さくした。それはまるで、的に突き当てるためのダーツの槍のようだった。
「Dart swordっ!」
朱音は渾身の力で剣を新東京タワーのてっぺんに向けて突き投げた。
「ぐはっ!」
不意に頭に痛みが走る。
奏の額に、剣が突き刺さった。
奏の身体から一気に力が抜け、勢い良く地面へと、鈴音と共に墜ちていく。
「奏っ! 奏ぇっ!」
鈴音の呼び声も虚しく、奏は力なく落ちて行く事しかできなかった。