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終末歌姫  作者: 岩城ぱれす
第1楽章 少女が破界に変わった日
3/16

2曲目 轟音と共に

 鈴音と一緒にサミットに行く日が近づいたある日。奏はサミットに行く準備をしていた。

「えっと、スマホにパンフに……。そういえば財布とチケットも」

 明日持っていく物を鞄に入れる。その中には、母親の形見でもあるマイクも含まれている。

 サミットが行われるシンセードームは、歌手であり、母である広瀬(ひろせ)双葉(ふたば)が最期に立った場所。それゆえ、せめてマイクを持って行って天国の双葉に知らせを送ろうという事らしい。

 一通り準備が終わった時だった。付けっ放しだったテレビが、突然臨時ニュースに切り替わった。

『臨時ニュースです。先程、北海道の大雪山国立公園に聳える石狩岳の一部森林が何者かによって伐採された事が判明されました』

 女性アナウンサーがそう言うと画面が切り替わった。テレビに映し出されたものを見て、奏は唖然とした。

『こちらは現在の様子です。木々は切り倒され、緑はありません。しかし、その範囲内にはたくさんの破界者(ノイズ)の死骸がある状況です。地元警察は、石狩岳付近を破界者ノイズ撲滅部隊、通称「VOICE」は現在詳しく調査中ですが、犯人についてはまだ分かっておりません』

 臨時ニュースが終わると、その時間に放送していた番組がまた再開された。

「ちょっと怖いねぇ。何も無ければいいけど……」

 後ろでおばあちゃんが心配そうに呟いた。一方奏はというと、

「心配しなくても、そのうち分かる事だからさ。大丈夫だよ、おばあちゃん」

 そこまで気にしていない様子であった。おばあちゃんは奏の言った事に「そう?」と半信半疑で答えると晩ご飯の準備に取り掛かるのであった。

(待っててねお母さん。明日、必ず行くから)

 奏は心にそう誓い、マイクを鞄の中に入れるのであった。


 次の日、当日の事であった。天気は晴天、まさにサミット日和だった。鈴音はシンセードームで待ち合わせていた奏を外灯のそばで待っていた。スマホ取り出し、時間を確認する。サミットが始まるのは一六時。開始まであと二時間。いくらなんでも遅すぎる。遅刻するはずが無い時間。これはきっと何かあったに違いない。鈴音は電話帳に登録しておいた奏の電話番号をタップし、電話をかけようとした。が、運悪くバッテリーが切れてしまい、電話をかけることも、時間を確認することも出来なくなってしまった。

「鈴音ぇ!」

 遠くから聞き覚えのある声が自分の名前を呼んできた。

 鈴音はこちらに手を振って居場所を教えてきた奏の元まで走り寄る。

「遅くなっちゃった。待った?」

「大分待ったよ……。どこかで迷子になっているんじゃないかと、わたし思っちゃって……」

 そう言い俯く鈴音に奏は少し心配になったのか話しかける。

「何? どうしたの? まさか……泣いてる?」

「泣いてないっ!」

 心配して損したという風に奏にチョップを食らわせる鈴音だったのであった。

「す、鈴音。後ろ……」

 その直後であった。顔を強張らせて奏が鈴音に何かを知らせてきた。そんな奏を久々に見たものだから鈴音は間の抜けた声を出しながら後ろを振り返った。

「お父さん……」

 そこには、今日の国際サミットに参加し演説を予定している鈴音の父である()(かな)()(そう)(じゅ)(ろう)がいたのである。普通、今の時間帯はこんな所にいるはずはないのだが。とにかくここにいたのである。

「鈴音、来ていたか」

「はい、お父さん……」

 鈴音は宋樹郎に元気のない挨拶を繰り出す。宋樹朗は鈴音の後ろにいた奏に気付いた。

「で、君は?」

「は、はいっ! ぼ、僕っ……じゃなくて私っ……でもなくて、えっと」

「奏、そんなに慌てないで」

「わたしゃ慌ててないよ!」

「いや、全然慌ててるよ!」

 鈴音と奏のやり取りを見て馬鹿馬鹿しく思ったのか宋樹朗はドームの中へと消えて行った。

「――って、あれ? 鈴音、お父さんは?」

 二人が気がついた時にはもう宋樹朗の姿はない。辺りを見渡し探すがいない。

「きっと、もうすぐ本番だから戻ったんだと思うよ」

 二人は入場受付の所まで行き、ドームの中に入って行くのであった。


 そして、二人は何事もなくサミットに参加できた。

 サミットの内容は主に破壊者(ノイズ)についての事だった。各国の破界者(ノイズ)による被害がグラフや画像によって特大モニターに映し出されていた。

「――それと、今週世間に発表されましたが、石狩岳付近の森林が何者かによって伐採されました。破界者(ノイズ)の死骸もあったようですし、新種の破界者(ノイズ)の仕業かもしれません。まだまだ警戒が必要です」

 黙々とステージ上で演説を続ける鈴音の父親である宋樹朗はそう述べた。

 今日、全国ニュースで昨日の石狩岳事件の詳細が発表された。「VOICE」が調査した所、破界者ノイズ以上の力を持つ者の仕業らしい。つまり新種の破界者(ノイズ)が生まれた事を決定付けたということだ。さらに、事件が起こった時の映像を記録した観察カメラが見つかり、映像が公開された。それには、闇夜に聳える石狩岳が映っており、しばらくすると石狩岳中部が緑色のオーロラのように波打ちながら光り出し、次の瞬間、「ドゴンッ」という衝撃音が石狩岳付近全体に響き鳴り上がる。石狩岳中部には遠くに設置された観察カメラから分かるくらい土煙が舞い上がっていた。以上が記録されていた内容だった。

「そこで我々日本政府としては、『VOICE』と協力し、破界者(ノイズ)を完全撲滅する事をここに改めて決定します」

 宋樹朗がそう発表すると、会場全体がざわめき、どよめいた。

 「VOICE」。日本政府内に作られた組織であったが、度重なる意見の対立により完全分裂し孤立化した組織。そのため政府からも本部の情報、破壊者兵器の調達、さらには人員など全てが謎となった。

「今こそ地球に、この世界に、完全なる平和をもたらそうではないか!」

 宋樹朗は指を天に高らかに突き上げて宣言した。すると会場からは地鳴りのような歓声が沸き上がった。

「お父さん、何かすごい事言っちゃったな……。ね、奏?」

 鈴音は宋樹朗のその姿を見て苦笑いをし、奏に話を振った。

 しかし、奏は俯いていた。始める前まではいつも通りだったのだが、今はこの通り一言も盛り上がる様子もなく俯いているのである。頬には一滴の汗が伝っていた。

「奏、どうしたの? そんなに暗い顔して……」

 鈴音がそう語りかけ、奏の肩に手を置いた時だった。不意に奏がふらっと鈴音に倒れかかる。

「奏!? ちょっと大丈夫?」

「……ごめん。かなりどころじゃないくらい頭が痛いんだ。心配しなくても良いよ?」

「心配するよ。とりあえず、もう帰ろ? 一応この後は何もないみたいだし」

 鈴音はそう言うと奏の手を引き、座席の間を縫うように出て行く。奏はぐったりとしたままだった。

 出入り口付近までたどり着き、鈴音はもう一度奏の様子を見る。しかし、その時には奏は地面に両膝をつき、頭を抱えていた。

「奏っ!」

 鈴音の声が周囲に亘る。ステージを向いていた人達が反応し、鈴音達を見る。

 鈴音は奏に寄り、体を支える。

「奏、もう少しだから頑張って……」

「頭が……、体が割れそうに痛い……」

 奏はついにその場に倒れ込む。その姿を見てか近くにいた機動隊が鈴音達に近寄る。そして、異常と感じたのだろうか奏を隔離するように数人で運び出し、鈴音と引き離す。

「奏……奏っ!」

 機動隊に押さえられながらも鈴音は叫んだ。

 その時だった。とてつもない轟音と共に上空何万メートルから召喚されたであろう雷が奏に放たれたのである。奏を運んでいた機動隊、そして鈴音を押さえていた機動隊は呆気ないほど簡単に吹っ飛ばされる。

 鈴音は何が起こったのか分からなかったが、今のうちに奏を連れ戻そうと思い立った。落雷の影響からか周囲に小さな稲妻が発生している。奏に近づけば近づくほど稲妻はより大きく、より鋭利な刃のようになっていき、近づいた者を容赦なく痛めつけるかというくらい激しい。それでも鈴音は大切な友を助け出すために、その身が稲妻によって痺れ、切りつけられても歩みを止めなかった。

 あと奏まで数メートルのところで左手に付けていた黄色いミサンガが、飛んできた稲妻によって切れた、その時だった。どこからともなく歌が聞こえた。その歌はまるで、新たな命が生まれた事に感謝の意を示しているようだった。その歌に釣られてか、また新たな歌が生まれた。二つの歌は次第に混ざり合い、明るい黄色になり、そしてドでかいハンマーを持った黒い死神へと姿を変えた。

 鈴音は驚愕した。鈴音だけではない。その場にいた参加者全員が驚愕した。悲鳴を上げる者もいた。逃げ出す者も出た。

 黒い死神は姿を見せるや否や一人の少女のもとに行き、そしてハンマーを振り下ろした。

 鈴音は言葉にならないくらいの悲鳴を上げた。

 奏は死神によって消されたのであった。

 避難指示のアナウンスが鳴り、続々と参加者がドームの外へ避難する。鈴音は、信じたくないと言わんばかりに泣いた。やがて奏が居た場所に少しでも奏の私物がないか調べた。しかし、見つからない。跡形もなくそこは抉られていたのだから。

「ぐ、……ぐおぉぉぉ!」

 さっき起きた落雷によって吹っ飛ばされた機動隊の一人が突然、破界者(ノイズ)へと姿を変えた。そして、鈴音に弓と化した両腕を向け、稲妻の矢を発射する。

 絶体絶命、どう考えても避けることなどできない。そして殺されたかのように思えた。

 鈴音は腕でかばうように身を守った。しかし、矢は刺さった。雷の落ちたような轟音と共に鉄のような硬いものが当たった音が一緒に響いた。

 鈴音は恐る恐る目を開く。するとそこには、銀色の鉄の塊が堂々と稲妻の矢を受け止めていた。

「鈴音、怪我は無い?」

 声をかけられ、鈴音は相手を確認する。そこには、さっき死神に消されたはずの奏が居たのであった。身に着けているものは違えど、体型から声のトーン、すべてが奏だった。

「か、奏……っ」

「私に抱き着きたいだろうけどさ、ちょっと待てって」

 奏はそう言うと、稲妻の矢をその手に持つハンマーで打ち返す。打ち返すとまた雷鳴が轟音を上げて飛んでいく。そしてそのままダーツの的に刺さるように破界者(ノイズ)に突き刺さった。

『グ、グルガァァァっ!』

 破界者ノイズに何万、何十万ボルトという電気が流れ込む。破界者はそのままばたりと倒れた。

「ふぅ……。さあ、抱き着いてもいい――」

「奏ぇ……っ!」

「ぬわっ!」

 奏が言い切る前に鈴音は抱き着いた。そして泣いた。これでもかという位に思いっきり抱き着き、泣いた。体に奏が纏っているアーマーが食い込むのも関係なしに。

 奏も最初は照れ臭そうで少し戸惑っていたが、鈴音の心を悟ると優しく抱きしめてあげた。

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