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シーナ先生とギター少年

作者: OZAWA

シーナ先生シリーズ第1弾

俺の名前は小西直樹コニシ・ナオキ。県立高校に通う17歳。


今はギターにハマっていて、毎日軽音部の仲間と練習をしている。ギターを一日中弾いていても飽きないくらいギターが好きだけど、毎週、月・木は練習を切り上げて早く家に帰る。

その日は家庭教師がうちに来るから。


椎名響シイナ・ヒビキっていう音大に通う女の先生に1年近くお世話になってるんだけど、俺は結構シーナ先生と相性が良い。ちなみに、俺が

「椎名先生」じゃなく

「シーナ先生」と呼ぶのは、初めて会った時に先生がそう呼べって言ったからなんだけどね。

俺はシーナ先生に会うまでは、勉強なんてどうでも良いと思っていて、いつもテストは赤点ギリギリの点数だった。親には勉強しろって言われたけど、俺はその点数をネタにしていたし、先生達は半ば諦めモードだった。けど、今は定期テストで学年平均点以上取れるようになって、親とか友達とか先生の見る目が変わって、ぶっちゃけ気分が良い。勉強も、嫌じゃなくなった。

シーナ先生にこんなこと言ったら調子に乗るから絶対に言わないけど。




「お前話聞いてんの?」


「えっ?」


目の前には呆れたような顔をしているシーナ先生。どうやら、俺は物語の冒頭に必要な説明をしているうちに、シーナ先生の話を聞き逃していたらしい。


「聞いてなかったでしょ」


「…聞いてたよ」


「おし、じゃあ例題行ってみよー。ハイ」


先生が用意したプリントには、見たことない記号があった。そもそも数学は得意じゃないし、もちろん俺は全くわからなかった。シーナ先生のSはドSのSだと思いながら、俺は降参した。


「すみません。わかりません」


「諦めんの早ぇなオイ!」


あはははは!と一通り笑うと、シーナ先生は丁寧に順序立てて説明してくれた。悔しいことに、先生の説明はわかりやすい。

俺が理解するまで繰り返してくれるし、簡単な言葉に言い換えてくれる。

俺が理解したら、あとはひたすら問題を解いて身体と脳に覚えさせる。反復練習が続く。


「おし、じゃあ休憩」


気が付いたら随分時間が過ぎていた。途中シーナ先生からヒントをもらったけど、先生が作ってくれたプリントは全問解けた。

俺は背伸びをしてベッドに横になった。コンポの電源を入れて曲を流す。これが一番落ち着ける俺の休憩スタイル。


「シーナ先生。俺、今度の土曜日ライヴやんの」


「おぉ、どこで?」


「ONSET.チケットあげるから暇だったら観にきて」


俺はベッドサイドに置いてたチケットをシーナ先生に渡した。

先生がなんとも言えない表情でチケットを見つめるから断られるのかと思ったけど、案外いい返事だった。


「可愛い教え子のライヴだったら行くしかないじゃない」


「マジ?絶対来てよ!」


いつもなら可愛くない!と突っ込むところだけど、今は先生がライヴに来てくれる嬉しさの方が先行していた。


「客席から『キャー!ナオトー!!』って茶色い声で叫んであげるよ」


「俺ナオキだから!!ナオトじゃないから!わざと間違えるの止めて先生!てか茶色い声って何!?」


黄色い声が女の子の声だとすると、茶色い声ってしわがれたオバチャンの声援て感じがするんだけど。

やだよ。そんな声援聞いたら演奏する前にやる気なくなるよ。


「茶色い声っていうのは、更年期障害を乗り越えるか乗り越えないくらいのホルモンバランスの崩れたオバチャンが韓流スターに激萌する時に発する言葉です」


「…そうなんだ」


「嘘に決まってんだろ!突っ込めや!!お前ボケを殺す気か?!」


先生が信じられない、といった表情で言ってきたのがおかしくて、俺は腹を抱えて笑った。シーナ先生といると本当に面白い。笑いすぎてお腹が痛くなったらどうしようと思ったけど、別の所が痛くなった。


「ひーひゃひぇんひぇい、いひゃい(シーナ先生、痛い)」


「何を言っているか全く聞こえないね」


「いひゃい、いひゃいえひゅ(痛い!痛いです!)」


「すっごい。ナオトくんの顔いつも以上に可愛くなってるよ。例えて言うならヒラメ?」


だから俺の名前はナオキだってんだろーが!!

と、声を大にして言いたいが、そんなことをしたら俺の唇は縦に裂けてしまう。


なんたってシーナ先生が、教え子にするとは思えないくらいの力で俺の口端を左右に引っ張っているからね。

ていうか、ヒラメに似てるってことは俺の顔はかなり伸びて変形してるって事でしょ?

相当不細工な顔してる俺を見て『いつも以上に可愛い』って何だよ!ニクイ!!鬼め!!


「ひゃめひぇくだひゃい」


いい加減抵抗することにして、俺がシーナ先生の腕を掴んだら、意外にも簡単に先生は手を放した。

俺が拍子抜けしている間、先生はバッグの中を探るとワセリンを取り出した。


「切れてないけど、一応ね」


先生はワセリンをほんの少し指につけると、俺の唇に塗った。


「…………」


あのね、俺17歳の高校生なの。思春期の多感な少年なんですよ。いくらシーナ先生が俺に気がないとしても、女性に唇を触られることってビックリなの。動悸息切れなの。

第一、シーナ先生は口は悪いけど外見だけならキレイだし、華奢だし、指とか白くて細長くて楽器やってそうだし。

ぶっちゃけ手フェチなんです俺。シーナ先生の手はモロストライクゾーンなんです。そんな手が俺の唇に触れたって一大事なの!わかる?この重大さ。


「…怒った?」


止めてください。俺の顔を下から覗き込んで顔色を伺うのはやめて。大丈夫、ただ頭の中ですんごい葛藤してただけだから。家庭教師と生徒の禁断の愛について考察してただけだから!自律神経がオーバーヒートしてることなんて気にしないよ。気にしちゃダメだよ。基本見て見ぬ振りだから!


「怒ってないですよ」


上辺だけのいつもの俺を纏って返事をすれば、シーナ先生は安心したように笑った。

そして、ファイルの中からプリントの束を取り出した。見れば、全部数学の計算問題だ。

………。

いやいやいや。

まさかまさか。

シーナ先生、空気読もう。ラブコメっぽい雰囲気だったじゃん2秒くらい前までさ。ね?


「じゃ、コレやろうか。残りは宿題ね」


やっぱり!!!!


「や、先生この量は…」


「はい、休憩終わり。お勉強はじめますよ」


俺の抗議なんて受け入れてくれるはずはなく、泣く泣く計算問題を解いた。


授業終了後、鬼畜としか言えない量の宿題を置土産としてシーナ先生は帰って行った。

見送った母さんには礼儀正しく、俺には爽やかすぎる笑顔を向けて。


先生が帰ってから気付く。


俺は今日もシーナ先生のアメとムチに完敗した。


ありがとうございました!

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