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『ダブル・ゲート』は自由な戦闘スタイルを組むことができると謳っている。
例えば戦士。
戦士は敵との間合いを詰め、自身の持つ武器で闘うのが基本的なスタイルである。基本となる種類は戦士、剣士、格闘家の3種類。
○戦士は剣や斧、槍などを扱う。体力と攻撃力が高いのが特徴的であり、敵の攻撃を受けながらも攻撃する戦法が得意となる。RPGやファンタジーを代表するキャラクターであるため人気が高い。
○剣士は剣や刀を扱う。攻撃力と瞬発力が高いのが特徴であり、反面防御面が低い。敵より先に攻撃を仕掛ける戦法が主流となる。
○格闘家は自身の拳や鉤爪などを扱う。体力と瞬発力が高く、他の戦士職と比べると手数が多く、小回りが利く。
このように戦士は3種類となってはいるが、ここに持たせる武器や覚えさせる技、また成長ステータスに変化をつけることができる。
近距離では豪快に斧で闘い、遠距離は弓を素早く撃つ物理攻撃に特化した戦士。巨大な盾を持ち、体力回復や状態異常解除の魔法を覚えさせた防御に特化した戦士。攻撃・回復魔法も剣技も程良くこなせるバランスの良い戦士。
等々、プレイヤーの好みによって多くの種類のキャラクターを作ることができる。
攻撃スタイル、防御スタイルというものを選ぶこともある。どちらも自分の戦術を組み立てるときに重要となるものだ。
攻撃スタイルとは、攻撃方法の動きの組み立て方である。よく選ばれるのは単発型とコンボ型と呼ばれる型であり、前者は一撃のダメージが高めに設定される型、後者は攻撃を何度か繋いで行くと途中からボーナスが付く型である。単発型はヒット&アウェイや一撃を重視したスキルに相性が良く、また、隙が少ないため攻撃後の防御や回避が安易となり、攻撃面と防御面の両立が成っている。コンボ型のボーナスとは、これも選択制なのだが、攻撃に敵をダウンさせたり宙に浮かせる属性が付加される。ダウンしたり宙に浮いた敵は無防備となり、普段よりもダメージを高くとることができるようになっている。攻撃的な型である。
そんな中、椿の作った楓は魔法剣士だった。魔法を扱える戦士という枠組みではあったが、攻撃特化型として成長させてあった。回復魔法は覚えず、攻撃的な魔法ばかりを選んでいる。さらに戦闘スタイルはコンボ型。敵よりも早く斬り込み、攻撃を繋げて宙にうかせたりダウンを狙い、敵が無防備なところへ剣技や魔法を叩きこむ。そういう戦法をとっている。
椿のキャラクター、楓は圧倒的な火力を保持しているため、自分より一ランク上の敵でも撃破することができる。反面、その戦闘スタイル故に防御面があまりに低いため、少しのミスも許されない。格下にやられてしまうことも多い。敵の攻撃がかするだけで致命傷になりかねないのだ。
ミスにより多大なダメージを受けるのは、画面の向こうのキャラクターである楓だった。ダメージを受け、悲惨な目にあうと椿は自分のミスを痛感して悔しがる。が、今のこの現状では悔しがるではすまされない。ダメージを受けるのは自分であり、悲惨な目にあうのも自分である。今まではキャラクターが肩代わりしていたものだと考えるとゾッとする。
ミスティが夕食から戻ってきたら狩りに行くのだろう。モンスターとの戦闘。画面の向こうで自分の代わりが闘ってくれるのではなく、今度は自分自身が闘うこととなる。ミスティは遠距離型の弓を扱うアーチャーである。近距離用としてナイフも使えるが、弓に重点を置いているため敵との距離を置くことが多い。自然と、椿が前衛、ミスティが後衛として狩りにでかけるようになる。
と、いうことは、だ。と、いうことは、今回ももちろん椿がミスティを守る形で戦うこととなるのだろう。後ろに控える魔法使いなどのキャラクターまで敵が移動しないよう抑えることが、前衛においてのパーティーの重要な役割となってくる。つまり極端な話、身を犠牲にしてでも仲間を守らねばならないのだ。
犠牲という言葉には死という単語の影が潜んでいる。それはゲームでも現実でも同じことである。ただ、その二つの世界では死に対する概念が異なる。主観的な問題と、客観的な問題。あるいは一度きりの世界と、リトライ可能な人生。画面の外側の世界は死に対して献身的であるが、内側とはといえば反逆的である。
いま俺はどちらに属しているのか。と、椿は思う。俺の身体は、心は内側――この『ダブル・ゲート』にいる。けれど俺の死はどちらに属しているのだろうか。どちらのルールに則っとられるのだろうか。
ある人物の姿が頭に浮かぶ。青を基調とした和服。腰に収めた刀。長い黒髪。楓であった。思い浮かんだのは楓だけではない。もう一人いる。が、影のように黒ずんでいて何者なのかは判断がつかない。楓は刀を抜いた。いや、刀ではない。刀だと思われていたものは西洋の剣であった。後ろに控える人物を守るようにその剣を構える。掛け声と共に目のまえに斬りかかる。しかし気迫の籠ったその一撃は空を薙ぐだけであった。その直後、楓の肩口から袈裟に赤い亀裂が走る。突如として現れた巨大な傷口を楓は抑えながらよろめく。遅れて、流血。冗談のように血がじくじくと流れ出す。やがて楓は倒れる。駆け寄る、背後で守られていた人物。影としか見られなかったその姿が明瞭となる。駆け寄ってきた人物も楓である。いや、駆け寄ってきた人物こそ楓であった。巨大な傷にもだえ苦しむ者の顔が変化する。それは椿の顔であった。
その映像が椿の頭の中で延々と繰り返された。特に、誰かを守るように剣を構えるシーンと、真っ赤な亀裂を身体の負って倒れるシーンである。
「くそっ、くそっ」
椿はそのイメージをどうしてもぬぐい去ることができず、ただ抱え込むしかなかった。恐怖は凝りのように固まって、身体の芯と化している。
どうしようもないのだろうか。
いや、
――戦わなければいい。
簡単なことだった。
そうだ、戦わなければいいのだ。逃げながら、この『ダブル・ゲート』の世界から脱出する方法か、あるいは生活していく方法を探せばいいのではないだろうか。
椿は自分で見つけ出した答えに満足した。
まずはミスティになんと言って断わりを入れるべきか考えなきゃならないな。
しかし、戦闘を楽しむためのアクション重視のオンラインゲームで、それを否定し続けることはできるのだろうか。そんな一抹の不安も頭の片隅にはあった。