未来⇒Future(改訂版)
エピローグ
西暦2040年、地球温暖化に伴う異常気象、大気汚染、食糧危機、奇病の流行などにより、地球の各国は、地球の中で住める「安全な地」を争奪しあう第3次世界大戦を引き起こす。常軌を逸した各国の指導者たちは、「安全な地」を我が物にするため大量の原子爆弾を使用。その結果、ヨーロッパ、南北アメリカ、ユーラシア、アフリカ大陸の諸国で、ほとんどの人類や動植物が絶滅してしまった。
さらに地球環境は悪化し、放射能による汚染も相まって、西暦2050年6月現在、地球上でかろうじて、「安全な地」となったのは、オーストラリアの南部と南極大陸のみであった。人類は、第3次世界大戦の影響で人口は大幅に減少。西暦2040年の100億人から1億人にまで減少した。オーストラリア政府は、生き残った人類をオーストラリア大陸に招き入れた。
生成AIや大規模コンピュータのシミュレーションによると、現在安全なオーストラリアの南部、南極大陸もいずれは環境汚染が進み、21世紀末には人類を含む動植物は絶滅すると予測されている。
僕の名前は「戸川フィオ」。20歳。身長180センチメートルの日系オーストラリア人。父は科学者で、日本の東京にある「先端科学研究所」で「地球環境汚染の現状と改善対策」について研究していた「戸川 義輝」だ。母はオーストラリア人の「アンナ」。僕は彼らの一人息子だった。しかし、第3次世界大戦の戦火を逃れるため、父は助手に研究を任せ、僕ら一家は、体の弱い母の出身地で、ひまわりが咲き誇るオーストラリア・ゴールドコーストの小高い丘にある母の実家で暮らしていた。
しかし、この地も昔の面影がなくなり、地球で一番美しいとされていたサンゴ礁は消滅。放射能濃度は安全と言われる数値の20倍にまで跳ね上がっていた。父は放射能汚染によるガンが元で死去。母もそのあとを追うように亡くなった。
ゴールドコーストの環境汚染がひどくなる中、僕は、かつて東京で父の助手として研究をし、母ととても仲が良かったエカテリーナ・ベイスという女性を頼り、父の研究を引き継ぐ決心をした。彼女は現在、メルボルンに居を移して、オーストラリアの「先端科学研究所」で父の研究を引き継いでいる。夫をガンで亡くしたシングルマザーだ。
今日は西暦2050年6月30日。明日、メルボルンのベイズ宅に引っ越す。
引っ越しの準備を昼までに終えた。僕は最後に、母が大好きでよく散歩に来ていた、家の近くの小高い丘にある、渚の見える公園に出かけた。汚染が進む中でも一生懸命に一年中咲き誇るひまわりの畑に囲まれた公園だ。そして、公園のベンチに座りながら、ひまわりを見て、亡き父と母の想い出に浸っていた。
その時、ひまわり畑の向こうの日陰から輝く一筋の光を見つけた。僕は何気なく、その光の方向へ吸い寄せられるように歩いて行った。その光は、ひまわり畑の向こうの草むらの奥にポッカリと開いている、人一人が歩いて通れるような洞穴の奥から放たれていた。僕はその洞窟の中に吸い寄せられるように入っていった。まさか、そんな自分自身の行動が、今後の地球の未来を左右することになるとも知らずに・・・。
第1章 タイムトンネル
1.ダイムトンネル
僕は洞穴の中に入り、光が差す方向に進んでいった。入って間もなく、行き止まりにたどり着いた。
そこには、地面は平坦だがその他は筒状で、金属でできていると思われる近代的で頑強なトンネルが、穴を横切るように通っていた。僕が見た光の正体は、トンネル内を明るく照らしているLEDだった。真っ白に照らされたトンネルは、左右それぞれ2車線になっており、一番手前の車線に黄緑色のリニアモーターカーを短くし、6人乗り用にしたような乗り物が停まっていた。
2.U47-AI「グロリアス」とFuture号
「やっとおいでになりましたね。お待ちしておりました」
乗り物の一番前の運転席と思われる所からドアが開き、1機のロボットが降りて来た。
そのロボットは、体が灰色で背が僕よりも低く寸胴の人間型だった。そのロボットには、人間のよう両手と両足があり、顔の中央には目と思われるガラス状の大きなレンズが1つついており、青色に光っていた。その下に鼻はなく、両耳と口は四角なスピーカーのようになっていた。声は口のスピーカーから聞こえていた。そのロボットは続けてこう言った。
「初めまして。私は遠い未来から来たロボット、型式『U47-AI』です。あなたの護衛役を、私の管理者である『総統アスター』から命じられました。総統アスターは私のことを『グロリアス』と呼んでいます。あなたも私のことをグロリアスと呼んでください。このトンネルは、時間を過去と私のいた未来へ自由に行き来することができる『タイムトンネル』です。あなたは私と一緒にこの乗り物、正式名称『Future号』で西暦2750年に向かい、そこで出会う女性を守りながら、西暦2750年に起こる戦闘を防ぐ役割を担っています。あなたはその女性を救い、西暦2750年に攻め入って来た敵を倒さなければなりません」
3.使命
「タイムトンネル? 未来から来たロボット? 総統アスター? 君が僕の護衛役? 僕が西暦2750年の未来の女性を守る? 西暦2750年の戦闘を防ぐ・・・? ちょっと待ってくれよ。急にそんなことを言われても、君の話は唐突すぎてよくわからないよ。第一、西暦2050年の僕の世界では環境破壊がひどく、人類を含めた動植物は21世紀末には絶滅すると言われているんだよ? 西暦2750年に人類たちは生存しているのかい?」
とまどったような顔をして僕が聞くと、グロリアスが答えた。
「そうです。どのような方法を取って、西暦2050年の人類が西暦2750年まで生き残るのかについては、総統アスターは私に教えてくれませんでした。しかし、そのカギを握るのはあなただと総統アスターから聞いています」
続けて、グロリアスが言った。
「私は『生成AI型のロボット』です。私の頭脳回路には、なぜか、西暦2050年から西暦2100年までの歴史は除かれていますが、この地球の始まりから西暦2750年にあなたを送り込むまでの歴史のデータが、総統アスターの持つコンピュータからインプットされています。あなたを未来に送り込んでからどうなるかは、私自身も総統アスターから教えられていません。私は、本来は総統アスターの介護用のロボットですが、今回は総統 アスターから4つの命令を受けました。その命令とは、
1.このトンネルの機能とあなたの使命をあなたへご説明すること。
2.あなたが守るべき西暦2750年の女性の居場所をお伝えすること。
3.あなたを西暦2750年にお連れし、あなたとその女性の護衛をすること。
4.西暦2750年に現れる敵と戦うために、あなたが使用する武器をご説明すること。
です。私の頭脳回路には、それ以上のことはインプットされていません。ただ、私は、『生成AI型のロボット』ですので、これからのあなたの行動やそれによって起こりうる事態から、次に何を行うべきかを自己学習し、あなたにアドバイスできると思います。とにかくもう迷っている時間はありません。すぐに出発しましょう」
「もし、僕が拒否をしたら?」
「おそらく歴史は変わり、あなたのおっしゃる通り、西暦2100年には人類や動植物は絶滅します。西暦2750年に起こる戦闘も、西暦2750年に存在するはずであろう女性もいなくなる。あなたがその答えを出して、このタイムトンネルから離れた瞬間、私にインプットされている歴史は変わり、私自身も、タイムトンネルも、総統アスターも消滅するでしょう」
「そうか・・。僕が西暦2750年に行けば、少なくとも西暦2750年までは人類は生存する。西暦2050年の人類の助けにもなるということか・・・」
続けて僕は言った。
「わかった。僕に何ができるかどうかわからないけど、僕が西暦2750年の戦闘を防ぐことで、西暦2050年や西暦2750年の人類を救うことができるのであれば、西暦2750年に行くよ。きっとそれが僕に与えられた『使命』なんだね」
「そのように前向きにとらえていただくと、きっと私も総統アスターから受けた命令を全うすることができるでしょう。ありがとうございます」
「じゃあ。出発しよう」
それを聞くと、グロリアスは僕をFuture号の助手席に案内し、ドアを開けて乗せてくれた。そしてグロリアスは運転席に戻り、Future号を出発させた。Future号はちょっと宙に浮き、飛ぶように未来へと出発した。
4.Perfect Weapon Machine(略称PWM)とジェットスクランダー
運転している間、グロリアスは僕が使う武器について説明してくれた。
「まず、1つめの武器をご説明いたします。あなたの座席の前のボンネットを開けてみてください。そこに特殊な超合金でできている、肘まですっぽりはまるあなたの右腕そっくりの手袋があると思います。それをあなたの右腕の肘まではめ込んでください。その合金の手袋は、はめ込むと形状記憶合金のようにあなたの腕にしっくりとなじむように変形していきます。その右腕の手袋は『Perfect Weapon Machine』略称PWMと呼ばれる武器です。指の先に、レーザービームを発するレンズがついていると思います。主に人差し指を使うことになると思いますが、最大で5本の指から同時にレーザービームを発射することができます。その武器は装着した瞬間、あなたの体の一部となり神経を伝わって脳とつながりますので、指で標的を狙い頭の中で(撃て)と念じれば、指先からレーザービームを放ち、敵を倒すことができます。また、このPWMは防御にも使えます。手のひらを広げて敵のレーザービームを防いだり、バズーカから放たれるミサイルを叩き落すことなどができます。操作は使っていく中で徐々に慣れていくと思います。ただし、そのPWMは装着したままにしておいてください。外すとまったく効力を出すことができません。それだけは忠告しておきます」
「もうひとつ、ボンネットの中に、バンドでつながれた2つのブースターがあると思います。2本のブースターを背負い、左右のブースターから出ている留め金をあなたの胸元で止めてください。カチッと留めた瞬間に、バンドがあなたの胸板のサイズに合うように自動で伸縮してくれます。これは、『ジェットスクランダー』という、空を飛ぶ武器です。留め具をはめ込んだ胸の部分にスイッチがあると思いますから、空を飛ぶ時にそのスイッチを押すと、ブースターの左右から羽根が出ると同時にブースターが噴射し、空を飛ぶことができます。もうスイッチを一度押すと、ブースターは止まり羽根が閉じます。おそらく西暦2750年では、空中戦を多く強いられると思います。その時はこのジェットスクランダーを使ってください。飛ぶ時の操作は、使用する際に教えます。この武器の感覚も、使っていく中で徐々に慣れましょう」
僕はグロリアスの言う通りに早速、右腕にPWMを、背中にジェットスクランダーを装着した。ほどなく、Future号は西暦2750年の出入り口に着いた。
「さあ降りて、私のあとにゆいてきてください」
第2章.西暦2750年に着いて
1.異変
僕はグロリアスに続いてタイムトンネルを出て来た。そこは、寒くても力強く茎をのばしたひまわりの咲く小高い丘の上の、ちょっと土が盛り上がったところの脇だった。
「タイムトンネルの出入り口の位置は、時代を越えても変わりません。西暦2050年の公園の出入り口が、西暦2750年にはこの位置になっていると考えてください」
「そうなのか」
西暦2750年のその場は、僕が子供の時に見た大自然に包まれていた。丘から見える美しい浜辺。澄んだ空気。物静かで綺麗な星空が輝いていた。
「なぜ、西暦2750年の地球はこれほど澄やかで、西暦2050年のように汚染されていないんだい?」
「それは私もわかりません。総統アスターからは『あなたのこれからの行動』が関わっているということだけを聞いています。いずれわかってくると思います」
「そうなのか。とりあえず僕は、西暦2750年で思いのままに行動すればいいんだね」
「そうです。ただし、私が総統から聞いている禁止事項が1つだけあります。それについては、あなたがその禁止事項を行おうとした時に言います」
「わかった」
そう言っていると、グロリアスは夜空を見上げながら、
「さあ、敵が来ますよ。次々と赤色の光を発して敵が現れます。油断しないでください」
グロリアスがそう言うか言わないかのうちに、「ウィーン」という音が夜空に鳴り響くとともに、無数の赤い光が次々と現れてきた。
その赤い光は、一瞬光ったかと思うと、次に、オレンジ色のジェット噴流を発して、各地に散らばって行った。
「U87-AIだ・・」
グロリアスは言った。
2.U87-AIの目的
「彼らは、『U87-AI』という私のいた未来の地球から送られてきた『教師ありAIの頭脳回路を持つ、戦闘専門のロボット』です。彼らの持つAIの機能、体の剛性、および彼らの武器のレーザー銃のエネルギーの強さは、私の持つ機能、剛性、および私たちが持っている武器『PWM』に比べると劣りますが、『機動力』は私たちより優れています。全身が細身で黒の金属で覆われています。顔の構造は基本的には私と同じです。武器および彼らの体に使われている合金が私たちより弱いのは、彼らが未来からの移動に『タイムトンネル』よりもすぐれた瞬間時空移動装置『タイムマシン』を使っているからです。タイムマシンは、物体を未来から瞬間的に、地球のどこにでも転送することができる優れた装置です。しかし、瞬間移動させるために必要なエネルギーに限界があり、比重が重く剛性の高いもの、高精度な頭脳回路のAIチップは転送できません。私のように、彼らより精密な頭脳回路のAIチップを持ち、かつ剛性の高い金属でできているU47-AIタイプのロボットはタイムマシンでは転送できません。彼らの体や武器は私よりも劣る金属でできています。彼らの武器はその金属が耐えうるレーザービームの強さになっています。しかし、それでも、彼らの体に使われている合金や武器は、西暦2750年にあるどの金属や武器よりも優れています」
グロリアスが続けて言った。
「彼らは目・口・耳から発する生体センサーによる『画像認識、匂い認識、味覚認識、音声認識』から教師ありAIの頭脳回路で学習し、動植物の特徴をパターン認識します。ただ、それだけで認識が難しい時は、指の先から伸びる『電磁ロープ(弱電流が流れるロープ)』にある生体センサーを接触させ、『筋肉等の弾力、細胞の成分』を分析し、動植物の特徴を把握します。その上で、彼らは『必要な作業』を行います。彼らが、総統アスターから命じられている『必要な作業』は2つ。
1つは、総統のいる時代の先祖にあたる動植物を彼らが発見した時は、彼らの目のレンズは青色になります。そして、彼らのターゲットとなった動植物を、彼らは指から発する電磁ロープで捕らえ、電流を流して気絶させます。そのあと、殺されずに家畜のように一つの場所に管理します。私の総統のいる時代から見て先祖にあたらない動植物を彼らが発見した時は、彼らの目のレンズは赤色になり、その場で容赦なく彼らが手に持っているレーザー銃で抹殺します。U87-AIの狙撃力は正確ですから、ターゲット(動植物)の致命傷となる個所、例えば人間であれば、頭部か心臓を狙って撃ってきます。ちなみに、オレンジのように見えるジェット噴流は、先ほどあなたに説明したものと同じ、ジェットスクランダーです。
もう1つは、その作業を終えたあと、彼らは未来人の先祖となる西暦2750年の人類を『家畜同様に管理する地区』と、未来人が住めるような『居住地区』を整備します」
グロリアスがそう話している間にも、U87-AIは次々と地上に降りて来て人々を襲っていった。
あちこちで悲鳴があがる。電磁ロープで捕らわれている人、レーザー銃で頭や胸を撃ち抜かれ、その場で死んでいる人が入り乱れていた。
「なぜ、このようなことをするんだ。総統アスターや未来の人間たちは、なぜ、この西暦2750年の人類にこのような仕打ちをするんだ。未来に何が起こっているんだ」
「それは・・」
一瞬言葉に詰まったあと、グロリアスは続けた。
「私のいる未来は、西暦5億年です。西暦5億年の太陽系は、星系としての末期に入り太陽の膨張で滅亡に向かっています。西暦5億年の地球は、もうすぐ膨張し続ける太陽に吸収されます。未来人の科学をもってしても、太陽の膨張を止められませんでした」
グロリアスは続けた。
「未来の優れた科学者・私の管理者であり総統でもあるアスターは、仲間の優秀な科学者たちとともに、過去へ移動できるダイムトンネルとさらにそれを進化させた、時空を超えて瞬間移動できるタイムマシンの原理を発明しました。ただ、過去を故意に変更することに悪用される可能性があるため、開発は行いませんでした。
ところが、AIロボットに頼りすぎて生活が便利になりすぎたことから、未来人の体力は著しく低下しました。未来人は、今の人類ほど強靭な体力を持っていません。そのため、ロケットで宇宙に脱出できないのです。未来人は大気圏を出て無重力になった瞬間に、ショックによる心臓発作を起こして死んでしまうからです。また、タイムマシンを開発して人類の転送も試みましたが、タイムマシンのエネルギーの負荷に未来人は耐えられず、焼け死にました。そのため、総統アスターは、未来人を宇宙に送ることやタイムマシンで転送することよりも負担の少ないタイムトンネルを使って、過去へ未来人を送り込むことを選択したのです。そのため、U87-AIを使って過去へ向かってタイムトンネルを建設し、文明が適度に発達し、かつ未来人にとって居住する環境が一番適している西暦2750年を選択して未来人を移住させようとしています。
先ほど申しました通り、未来人の先祖となる人類のみ捕虜とし、その他の人類を抹殺して西暦2750年の人口を最小限にする。そして、未来人の先祖となる西暦2750年の人類を『家畜同様に管理する地区』と、未来人が住めるような『居住地区』へと整備するために、総統アスターはU87-AIを西暦2750年に送り込んでいるのです。その整備が終われば、未来人はあなたがここまで乗ってきたFuture号の大型機を使い、体の負担の低いタイムトンネルを使って移動してくるのです。総統アスターの苦渋の選択でした」
グロリアスから、総統アスターの計画を聞かされ、僕は一瞬呆然とした。しかし、次の疑問が浮かんだ。
「それは、わかった。でも、総統アスターは、西暦2750年を本当はどうしたいんだ?僕に西暦2750年をU87-AIから守らせるために、君に僕を送り込ませたり、逆にU87-AIを送り込んで西暦2750年を占領させようとしたり・・・。まったく真逆の作戦を実行しているじゃないか。本当の狙いがあるはずだ」
「総統アスターの本意は、まだ、私にもわかりません。私も、今までに起こった事実やこれから起こりうる事態を想定しながら、総統アスターの真意を分析しているところです。すいません」
「とにかく、今は、私についてきて、捕らわれそうになっている『リーナ』というあなたより2歳若い女性を救ってあげてください。それが、私が総統アスターから課せられた命令です。そのために、あなたに授けたPWMとジェットスクランダーは役に立つはずです。PWMは、U87-AIを倒せる唯一の武器です。私もPWMとジェットスクランダーを持っています。さあ、始めましょう」
「わかった。急ごう。」
2人はそう言うと、リーナという女性の元へ向かうことにした。
3.リーナの元へ
「リーナという女性は今、どこにいるんだい?」
「この地、ゴールドコーストの海岸部の住宅地の一角にいらっしゃるはずです。細身で、背丈はあなたより少し小さいくらい。髪はブロンド。肩くらいまでの長さです。顔立ちは日本人っぽいですが、目の色がやや青みがかっています。今はご自宅にいらっしゃると思います。彼女はあなたの子孫であり、総統 アスターの先祖でもあります。つまりあなたは、リーナと総統アスターの先祖なのです。少なくとも、あなたとリーナが生き延びることで総統アスターへ血筋がつながります。そのため、彼女は捕らわれるでしょうが、彼女の両親や兄弟はU87-AIによって殺されるでしょう。できるだけ、ご両親やご兄弟が彼女の目の前で殺されるのをお見せするのは避けたい。急ぎましょう」
そう言うと、グロリアスは、自分自身にジェットスクランダーを装着した。そして彼は、ジェットスクランダーを噴射させて飛び立った。
「ついてきてください。彼女の家は私が把握しています」
慌てて僕はジェットスクランダーを噴射させて彼に続いて飛び立った。
噴射と同時に、ブースターの左右から羽根が広がった。まるで鳥になった気分だ。ただ、最初はバランスを取るのが難しく墜落しかけた。
「背筋を伸ばして。『羽根を広げる』ようなイメージで両手を広げて飛んでください。右に旋回するときは、右手をやや下に、左に旋回するときには左手をやや下に」
グロリアスのアドバイスで、僕は徐々に飛べるようになってきた。僕はグロリアスのあとをついていった。
「意外に速く飛べるんだねぇ」
僕が言うと、グロリアスが答えた。
「最先端の乗り物ですから。人じゃなくU87-AIだったら、マッパのスピードを出すことができます。このジェットスクランダーも装着した時点であなたの脳と神経でつながっていますので、ブースターの噴射力を変えてあなたのイメージ通りのスピードで飛ぶことができます。ただし、スピードを出しすぎると、あなた自身の体が耐えられなくんって死んでしまいます。あなたが耐えられるスピードを頭の中でイメージして飛んでください」
ゴールドコーストの海岸沿いの街の灯りが見えて来た。西暦2750年の未来らしい都市の住居が並んでいる。
「もうすぐです」
グロリアスが言った。その時、左右から青い目をしたU87-AIが僕たちに近づき、指から電磁ロープを伸ばしてきた。
「ジェットスクランダーを操作して、逃げながら私についてきてください」
グロリアスの言うように、僕はU87-AIの攻撃を避けながらグロリアスについていった。
「あの小高い丘の住宅地。ドーム型の家にリーナさんご家族がいます」
グロリアスが僕に呼びかけた時には、他の赤色と青色の目をしたU87-AIの大群がリーナの家を襲撃していた。急なことだったのだろう。外で飼われていた犬が、いきなり青色の目をしたU87-AIから放たれた電磁ロープを巻き付けられ、電流を流されて泡を噴いて倒れていた。
「キャー。やめてー」
若い少女の声がする。おそらくリーナの声だろう。
「間に合わないか・・・」
グロリアスがつぶやく。
僕がグロリアスに続き、リーナの家に近づこうとすると、左右から攻めてきた2機のU87-AIが電磁ロープを僕のジェットスクランダーと僕の胴体に巻き付けて電流を流してきた。電磁ロープからの電流の激痛を受けながらも、僕は右手につけたPWMの人差し指を、1機のU87-AIの顔の青いレンズに向けて
(撃て)
と念じた。そうすると、PWMの人差し指からレーザービームが発射されてU87-AIの顔面を撃った。U87-AIは墜落していった。僕は同じ要領でもう1機も倒した。
先に行っていたグロリアスは、リーナの家の前でU87-AIと戦っていた。
しかし、起動力で勝る2機のU87-AIに挟み撃ちにされたグロリアスは、電磁ロープで捕らえられていた。グロリアスは頭脳回路を守るためなのか、目・口・耳を耐電磁場シャッターで閉じ、右腕のPWMの指先から電磁ロープを伸ばして、赤外線などの他の手段を使っているのだろうか?2機のU87-AIの位置を把握し、攻撃していた。
僕はPWMでグロリアスに巻き付けられている電磁ロープを撃ち、そのあとグロリアスの左右にいるU87-AIを撃ち落とした。
リーナの家は、青い目と赤い目をした幾多U87-AIに囲まれている。そして、赤い目をしたU87-AIはレーザー銃でリーナの家を攻撃していた。しかし、リーナの家の壁や窓ガラスは、U87-AIが放つレーザービームをことごとく跳ね返していた。
「これはどういうことだ。西暦2750年にはU87-AIのレーザービームを跳ね返すことのできる金属やガラス類はないはず・・。総統アスターから聞いている歴史とは違う。歴史が変わっている」
目・口・耳の耐電磁場シャッターを開けたグロリアスがつぶやいた。その時、リーナの家の出入り口らしき方向から男性の声で、
「右側にスライド型の玄関があります。今はロックをかけていますが、一瞬だけロックを外します。そこから中に入ってください」
と呼びかけがあった。
「わかりました」
僕はそう答えたあと、グロリアスとともに総攻撃をかけてくるU87-AIの大群をPWMで撃ち落としながら、スライド型の玄関からリーナの家に逃げ込んだ。すると、中にいる男性がすぐにロックをかけた。
家の中には、50歳代くらいの初老の夫婦と、18歳のリーナらしきか弱そうな少女がいた。
「無事ですか?」
僕がそう聞くと、僕らを招き入れてくれた男性が顔の汗を拭きながら答えた。
「『予言書』に従って家に隠れていました。ただ、まさか犬にまで攻めてくるとは思わなかった。犬のラブには悪いことをした・・・」
奥の居間では、透明な耐レーザーガラスの窓から外を見つめ、
「ラブ。ごめんね・・・」
と言いながら座り込み、すすり泣くリーナの姿があった。
第3章 特命地球防衛軍
1.リーナ家族との対面
「僕は名前を戸川フィオと言います。そしてこのロボットはグロリアスと言います」
「僕は西暦2050年の人間。グロリアスは外で攻撃をしているロボット、名称U87-AIと同じ未来から来たロボットです。グロリアスは、本来は未来人の介護用ロボットですが剛性がU87-AIよりも高いロボットで僕らの味方です。僕は、グロリアスと一緒に時間を超えるタイムトンネルを使ってこの西暦2750年に来ました。U87-AIからあなた方を守り、西暦2750年に起こっているこの戦闘を防ぐために」
僕とグロリアスは、居間に入ってリーナとリーナの両親にそう説明すると、リーナの父は半ば驚いたような顔をして答えた。
「私は、ケビン・トガワ。機械工学系の科学者です。こちらは妻のジーナ、この娘は長女のリーナと言います。長男のセイヤがいますが、もうすぐここへ来るでしょう」
「私は、リーナ・トガワです。予言書通りに助けに来てくれたんですね。半分、本当かどうかとまどっていましたが、事実だったんですね。心細かった。ありがとうございます」
リーナは、グロリアスの言う通りブロンドで肩くらいまでの髪型。顔立ちは日本人っぽいが目の色がやや青みがかっている、18歳の細身でか弱そうだがとてもかわいい少女だった。ただ、愛犬のラブが捕まった上、泡を噴いて気絶しているのを見て動揺し、涙ぐんでいた。
「さっきから『予言書』とおっしゃられていますが・・・」
「あなたは、『フィオ・トガワ』さん。私たちの先祖ですね。西暦2050年から来たって言うのは本当ですか? ちょっと、私の書斎に来ていただけますか? 私たちが言っている予言書についてご説明します」
そう言うと、ケビンは僕とグロリアスを彼の書斎に招き入れた。
そして彼は、机にあるコンピュータの画面上に映る文書を見せながら説明を続けた。
「私の家には、今回の戦闘が起こることを予言した文書のデータと、かなり傷ついてもう機能しない状態で残っていましたが、フィオさんが今装着している右腕型の武器、『Perfect Weapon Machine』略称PWMと背中に背負う空飛ぶブースター『ジェットスクランダー』と同じものが、代々受け継がれてきました。私はその文書を読み取り、受け継がれたPWMやジェットスクランダーの成分や機能を分析し、政府にこれらの事実を伝えました。しかし、政府は取り合ってくれませんでした。ですが、軍部に所属し私の言うことに耳を傾けてくれる人物、私の息子のセイヤ・トガワが協力してくれて、今後起こりうるであろう未来のロボットの攻撃に対応できるように準備してくれました。なお、この予言書とPWMとジェットスクランダーを残してくれたのは、私たちの先祖『フィオ・トガワ』という人物。そう、あなたです」
それを聞いて、グロリアスが答えた。
「少しわかりました。あなたが西暦2050年をどのように救ったかどうかは、これから起こる事態を見て分析しないとわかりませんが、少なくとも、あなたが私の与えた武器を西暦2050年に持ち帰り、武器と西暦2750年の人類に今起こっている事態を電子データの文書として伝えたこと。この事態を西暦2750年のあなたの子孫に、あなたから伝承させるために、あなたを西暦2750年に連れてくるよう総統アスターが私に命令したことが判明しました。
ただ、現在起こっている事態は、総統アスターが私の頭脳回路にインプットした『西暦2750年までの歴史』とは異なります。総統アスターが、私の頭脳回路にインプットした歴史の中には、『フィオがこのような文書と武器を伝承し、西暦2750年の人類に防衛策を考えさせるようにした』という事実はありません。フィオが『西暦2750年を救い、西暦2050年に戻った時に何をするかの選択肢として、西暦2750年に起こった事態と自分が使った武器を伝承する』というのは、よくよく考えると当然行われるべき行為だと思いますが、総統アスターがなぜ私にこの事実を私の頭脳回路にインプットしなかったのかはわかりません。また、私の頭脳回路の中には、西暦2050年に起こっている地球環境汚染などの事態を、フィオがどのように救ったかの方法もインプットされていません。
なぜ総統アスターは、未来人を西暦2750年に送り込むためにU87-AIに西暦2750年を攻撃させながらも、フィオに西暦2750年を守らせるのか? また、フィオが西暦2050年をどのように救ったかの部分の歴史だけ、私の頭脳回路にインプットしなかったのか? よくよく考えると不明点が多くあります。これから起こる事態を分析しながら、総統アスターの真意を考えなければなりません」
この会話の間にも、外では、無数の赤い目をしたU87-AIが、この家を壊して中に侵入しようと、レーザー銃で総攻撃をかけてきていた。そして、その後ろに、2~3機の青い目をしたU87-AIが電磁ロープを指から出して、家が破壊されるのを不気味に待ち構えていた。
「この家の金属・ガラスは、フィオさんが伝承した武器を参考にし、私が研究・開発した合金でできています。しかし、西暦2750年の科学では、完全にフィオさんが伝承した武器の合金まで剛性を完全にさいげんすることができませんでした。外にいるロボットのレーザービームによる総攻撃には、おそらく1時間くらいまでしか持たず破壊されると思います。ただ、もうすぐこの予言書を信じ、私の発明した合金でつくった『PWM』と『プロテクトスーツ』『ヘルメット』を身に纏った長男セイヤと、セイヤが艦長を務める戦艦が私たちを助けに来てくれると思います」
ケビンがそう言うか言わないかのその時、この家の至る所が「ミシッ、ミシッ」と軋み始め、リーナの家の耐レーザー用の壁や窓ガラスにヒビが入り始めた。
「外にいるロボットから総攻撃を受けて、30分あまり。想定以上に外のロボットのレーザービームの威力は強いようです。そろそろ、この家を守っている合金も限界に来ているかもしれません。フィオさん、あなたは私がつくったこのプロテクトスーツに着替え、ヘルメットをかぶってください。私たちもすぐに着替えてきます」
プロテクトスーツとヘルメットは、男性は紺色、女性は黄色にデザインされていた。僕らがプロテクトスーツに着替え、ヘルメットをかぶったちょうどその時、家の耐レーザーガラスの1ケ所に穴が開き、レーザービームが家の中に撃ち込まれてきた。
「ダメだ。もうすぐこの家は破壊される。ケビンさん、ジーナさん、リーナさん、私たちの後ろに隠れてください。ここは私たちが防御します」
僕とグロリアスは、3人を自分たちの後ろに隠れさせ、PWMを構えた。
穴の開いた個所から、赤い目をした1機のU87-AIがレーザー銃を差し込み、ケビンとジーナを狙うようにレーザービームを放って来る。僕は、PWMを装着した右手のひらを広げてそのレーザービームを跳ね返した。
その時、後ろの玄関の方も穴が開き、レーザービームが放たれて来た。レーザービームは、僕とグロリアスの後ろに隠れていたケビン、ジーナ夫妻に当たった。しかし、プロテクトスーツに守られ、ヒビは入ったようだがなんとか防御できた。
「1発でこの威力とは。やはり、予言書よりU87-AIのレーザー銃から放たれるエネルギーの威力は強くなっているようだ」
ケビンは言った。
すると、家の至る所に穴が開き始めてU87-AIが耐レーザー壁を突き破ってきた。
赤い目と青い目をしたU87-AIが飛び込んでくる。
「もうダメです。逃げましょう」
ケビン、ジーナ、リーナは、僕らが装着しているものに似たジェットスクランダーを装着した。
僕はジェットスクランダーを噴射し、目の前のU87-AIをPWMのレーザービームで倒しながら、リーナの家の居間の窓ガラスを破壊して外へ飛び出した。グロリアス、ケビン、ジーナ、リーナもあとに続いた。
2.リーナ両親の最期
僕とグロリアス、ケビン、ジーナ、リーナは、ジェットスクランダーを人体が耐えられる最高速度にして逃げようとした。しかし、ロボットのU87-AIのジェットスクランダーのほうが速く、次々とU87-AIが僕らの目の前に立ちふさがり、僕、グロリアス、リーナを電磁ロープで、ケビンとジーナをレーザー銃で攻撃してくる。僕とグロリアスのPWMのレーザービームは、次々と襲ってくるU87-AIを破壊できたが、ケビンが開発したPWMのレーザービームは威力が弱く、U87-AIにダメージは与えられても破壊するまでにはいかなかった。そのうち、ケビン、ジーナ、リーナのジェットスクランダーがU87-AIのレーザービームにより破壊され、また、ケビンとジーナはプロジェクトスーツも破壊されて、赤い目の色をしたU87-AIに胸を撃ち抜かれた。
僕は、墜落しそうになるリーナを空中で何とか抱きかかえて救うことができたが、ケビンとジーナは、赤い目をしたU87-AIたちの総攻撃を受けてしまった。
「パパ。ママー。パパ。ママーーー!!」
リーナが泣き叫ぶ。その時、
「あとは頼みます」
「リーナ。守ってあげられなくて・・・」
と言うケビン・ジーナ夫妻の最期が聞こえた。そして、ケビンとジーナは墜落した。
「なぜ、なぜ、こんな惨いことを・・・」
僕の胸にしがみつき、顔を押しつけながら涙をこらえてつぶやくリーナを抱きかかえながら、
「逃げよう」
とグロリアスに声をかけながら、次々に電磁ロープで襲ってくるU87-AIをPWMのレーザービームで撃ち落としていった。だが、青い目をしたU87-AIは次々と襲ってくる。
「グロリアス。このままだときりがない。何かいい作戦はないか?」
「すいません。今は逃げ続けるしかありません」
その時である。轟音をあげながら、僕らの後ろから飛んでくる、上側にドーム型の艦橋のある巨大な円盤型の戦艦が現れた。
3.特命地球防衛軍 戦艦Fusion2750号
「強力電磁ノイズビーム。一斉発射」
20歳代の男性の声とともに、円盤の前方から複数の砲筒が現れて、雷のようなビームが放たれた。すると、そのビームは僕らのまわりのU87-AIに次々に命中し、U87-AIは頭から黒い煙をはきながら墜落していった。
「戦艦の後方のハッチを開きます。そこから、入ってきてください」
彼がそう言うと、円盤型の戦艦の後方下のハッチが開いた。僕らは、そこから戦艦に乗り込み、ジェットスクランダーを止め着陸した。すると戦艦のハッチが閉じた。
戦艦のハッチは戦闘機の出入り口にもなっているようで、戦艦の中にはゴールド、レッド、ブルー、ピンク、グリーンの5機の戦闘機が格納されていた。すると、
「前方のエレベーターから、艦橋に上がってきてください」
と先ほどの男性の声がした。僕ら3人は、男性の指示に従いエレベーターに乗り、戦艦を操縦していると思われる艦橋まで上がっていった。
エレベーターを出ると、そこには、戦艦を操縦する近代的な艦橋が広がっていた。
そして、紺色のプロテクトスーツの上に戦闘用のコートと隊長らしき帽子を纏った、20歳代後半くらいで身長は僕と同じだが、筋肉質の一人の男性が近づいてきた。
「無事でしたか? 親父とお袋は?」
「あなたが『セイヤ』さんですか? 僕は、フィオと言います。こちらは、グロリアスと言って、外にいる『U87-AI』というロボットと同じ未来から来たロボット。でも、僕らの味方です。残念ですが、あなたのお父さんのケビンさんとお母さんのジーナさんはU87-AIによって殺されました。リーナさんを助けるのが精一杯でした」
「そうですか・・・」
セイヤは一旦絶句したが、そのあと会話を続けた。
「私はこの戦艦の艦長、セイヤ・トガワです。あなたが僕らの先祖、フィオさんですね?僕らに予言書とあなたが使っている武器を残してくれてありがとう。これらのおかげで、僕らは、予言書に記されている通りに現れたU87-AIに対抗できる武器を準備することができました。しかし、あなたが残してくれた予言書に記されているU87-AIより、はるかに攻撃力が強く、あなたたちを救いに行くのが遅れてしまった。すいません。とにかく、あちらに座ってゆっくりしてください」
セイヤは振り返り、艦橋にいる乗組員たちに向かって、
「当面、副艦長『シン』の命令に従って、U87-AIのせん滅と人類救出の活動を行ってくれ。僕はフィオさんと話があるので」
すると、年齢は40歳代くらい、短髪の中肉中背の副艦長シンらしき人物が答えた。
「了解しました」
そして、セイヤは僕らを、正面から見て艦橋の右奥にあるミーティングルームに案内した。
ミーティングルームは、中央に作戦を指示するためのスクリーン機能を備えた机があり、そのまわりに10人ほど座れるように椅子が用意されていた。
「こちらに座ってください」
セイヤは、僕らを机の右端に座らせた。すると、黄色のプロテクトスーツを着た、細くて長身、髪が背中あたりまである金髪の美女が現れ、僕とリーナのところにコーヒーを、グロリアスのところには充電器を持ってきてくれた。
「ミキ姉さん」
リーナは涙ぐみながらその女性に抱きついた。
「大変だったわね。ごめんなさい。お父さんとお母さんを救えなくて。私たちも、出発してから一生懸命戦ったのだけど、U87-AIの総攻撃が想定以上に強くてここへの到着が遅れたの」
ミキと呼ばれた女性はリーナにそう声をかけたあと、僕とグロリアスに話を続けた。
「私は『ミキ』と言います。セイヤの妻です。この戦艦は、『戦艦Fusion2750号』と言います。私は、この戦艦のレーダー長で、敵の動きを監視する役割を担っています。また、救護班も兼任していますので、体調が悪い時は私に相談してください。そして、夫のセイヤは、フィオさんの予言書を信じて、軍部の中に『特命地球防衛軍』をひそかに発足させ、私たちの言うことを信じてくれる軍人を募り、この戦艦を義父のケビンたちと設計しました。フィオさん・グロリアスさん。リーナを救ってここまで連れてきてくれてありがとう」
そのあと、セイヤが僕の横に座り、机のスクリーンに現在の街並みを映し出した。
そこには、目を覆いたくなるような光景が広がっていた。街は、赤色と青色の目をして飛び回る無数のU87-AI、青い目をしたU87-AIから電磁ロープで捕らえられて、数か所の広場に山積みにされてい人々、赤い目をしたU87-AIで撃ち殺されて至る所で転がっている死体で溢れかえっていた。
その間にも、戦艦Fusion2750号を赤い目や青い目をしたU87-AIが攻撃してくる。
それを戦艦Fusion2750号は強力電磁ノイズビームで撃ち落としていた。
グロリアスは、自分の脇からケーブルを出し、ミキからもらった充填器にそれを差し込みながらこう言った。
「私自身、および私に装着しているPWMやジェットスクランダーは、太陽光発電で動いています。晴れた昼間は、エネルギーは無限につくれますから、私はPWMを無尽蔵に使用できますが、天候の悪い日や夜、暗闇の中にずっといると、エネルギーをつくれなくなり、PWMを使いすぎると動作しなくなります。私は、1日程度であれば、フルでPWMを駆動させるだけの蓄電池を内蔵しておりますが、充電がなくなるとPWMを撃てなくなり、私自身が活動できる最小限のエネルギーを確保できるよう、AIの頭脳回路で制御されています」
続けてグロリアスが言った。
「ちなみにフィオ、あなたのPWMとジェットスクランダーは、あなたの生命力をエネルギーにしています。PWMやジェットスクランダーを使いすぎると、あなた自身が疲れて動けなくなりますから注意してください。PWMの機能を説明する時に、言い忘れていました。おそらく、リーナさんのPWMやジェットスクランダーも、フィオさんの持つ物よりは性能が劣っているとは思いますが、同じ原理で稼働しているものと想定されます」
それを聞き終わると、セイヤが話を切り出した。
「それでは、本題に入りましょうか?」
セイヤは、先ほどリーナの家でケビンの見せてくれた予言書を机のスクリーンに映し出した。
4.予言書の内容
「画面に映っているのが、フィオさんの残してくれた予言書の中身です」
机のスクリーンに映し出された予言書には、こう記されていた。
「僕の名前は、戸川フィオ。西暦2050年に生きているあなた方の祖先です。
僕は、未来と過去を行き来できる『タイムトンネル』という設備で、西暦2750年に起こる戦闘や地球の最期を見てきました。ここに記録として残します。
西暦5億年、太陽の膨張による熱で地球の海水は干上がり、人類はシェルターをつくってかろうじて生き延びていました。しかし、シェルターもあと数日で熔ける状態になっており、シェルター内の動植物も滅亡の危機に達していました。未来人は、宇宙への移住を試みましたが、シェルターの中でAIロボットにすべて介護されて便利な生活を送っていたがために体力が著しく低下しており、宇宙の無重力空間では心臓発作を起こして死亡することがわかりました。そこで、西暦5億年の地球の長、私と西暦2750年に生存している『リーナ・トガワ』の子孫である『総統アスター』は、仲間の技術者たちといっしょに開発したタイムトンネルを使って、過去の中で未来人が一番住みやすいと判断した『西暦2750年』に未来人を移住させることを選択しました。このような経緯から西暦2750年は、総統アスターが送りこんだ戦闘用AIロボット『U87-AI』から襲撃を受けます。
総統アスターとその仲間の技術者たちは、U87-AIの転送を専門とする瞬間時空間移動装置『タイムマシン』を新たに開発し、それを用いて、U87-AIに西暦2750年を襲撃させます。U87-AIは、未来人の居住区を確保するために、未来人の先祖を電磁ロープで捕獲し、先祖以外をレーザー銃で抹殺します。
僕は、タイムトンネル内を走行できる乗り物『Future号』でU87-AIと同じ未来から来た、未来人の介護専門ロボット『型U47-AI グロリアス』に、『西暦2750年を救ってほしい』と頼まれ、タイムトンネルを使って西暦2750年に来ます。そして、グロリアスからもらった、右腕に装着して防御や、レーザー攻撃ができる武器『Perfect Weapon Machin』(略称PWM)と空飛ぶブースター『ジェットスクランダー』を使い、U87-AIを倒しながら捕らわれていたリーナを救います。リーナ以外のご家族は、残念ながら、U87-AIの襲撃を受けて自宅で抹殺されます。
リーナを助けた僕とグロリアスは、U87-AIの攻撃を避けながら、Future号でグロリアスとリーナとともに滅亡寸前の地球へ向かいます。その途中、未来人と遭遇しますが、未来人を乗せた大型のFuture号は途中で停車しており、中には心臓発作を起こして死んでいる未来人がいました。西暦5億年の未来から西暦2750年に移動することも、総統アスターが想定していた以上に、未来人にとっては負担が大きく、移動の途中で死んでしまったようです。
そして、滅亡寸前の未来に着いた僕らは、瀕死の状態の総統 アスターと会います。総統アスターはすべてを悟り、U87-AIの攻撃スイッチをOFFにし、西暦5億年の地球の居住区で未来人が快適に過ごすために使用されていた居住区環境安定装置『Clear Environment Machine』(略称CEM)を、西暦2050年の地球環境を正常に戻すために僕に託します。そして総統アスターは、『この事実を西暦2750年のあなたの子孫に伝え、未来を変えてほしい』と言い残し、死んでしまいます。
僕らは、CEMを預かってFuture号で過去に戻ろうとしますが、おそらく未来の地球が滅亡したのか、タイムトンネルは未来から崩れてはじめます。僕は、西暦2750年にリーナを降ろし、西暦2050年に戻ります。グロリアスは『タイムトンネルの最期を見届けるんだ』と言い、Future号でさらに過去へと向かいます。タイムトンネルは、崩れ去り、西暦2050年にあったタイムトンネルの出入り口はなくなります。西暦2050年に戻った僕は、CEMを使い西暦2050年の地球環境を正常に戻します。
これが、僕が経験した『未来』です。西暦2750年の子孫たちよ。僕は、この予言書と西暦2750年で使用したPWM、ジェットスクランダーを残します。僕が残したPWMとジェットスクランダーを分析して、僕が見た『未来』にならないように、まず、西暦2750年にU87-AIに対抗する武装を開発してください。U87-AIが装甲する金属の剛性、および、彼らのレーザービームのエネルギーは、僕の残したPWMよりも剛性が低く、グロリアスの分析では、僕の残したPWMの半分の剛性とエネルギーだとのことです。
さらに、できるならば、未来人に『宇宙に脱出できるよう』、AIロボットに頼らず、体力が落ちないように備えをしておくよう、この予言書を引き続き伝承してください。
よろしくお願いします」
僕らは、この予言書を一通り読み終えた。するとセイヤが言った。
「フィオさん、これが、あなたが私たちに託してくれた『未来の出来事を記した予言書』とPWM、ジェットスクランダーです。あなたがこれを残してくれたおかげで、U87-AIに対抗できる武装を準備することができ、父と母は残念でしたが私と妻は生き延びています。妹のリーナも捕らわれることなくここにいます。
しかし、U87-AIの攻撃力はあなたが残してくれた予言書の内容よりも強かった。レーザービームのエネルギーも想定以上で、この戦艦Fusion2750号も少しずつ破壊され始めています。また、この戦艦 Fusion2750号の前方に3つ、後方に2つ装備されている『主砲』のエネルギーはU87-AIを一撃で爆破できるだけの威力を持っているはずでした。しかし、主砲のエネルギーが何発か当たらないとU87-AIは破壊できません。唯一、一撃でU87-AIを倒せるのは、強力な電磁波を放ち、U87-AIの頭脳回路をショートさせて倒す『強力電磁ノイズビーム』だけです」
セイヤがそう言うと、グロリアスが答えた。
「私も妙だとは思っていましたが、U87-AIの装甲は、私を包む金属やフィオのもつPWMの剛性に比べ、予言書の1/2ではなく2/3くらいまで上がっています。また、U87-AIの電磁ロープやレーザービームも同様で威力が増しています」
そして、改めてグロリアスが話し始めた。
「私が総統アスターから聞いている西暦2750年までの過去は、一部分聞いていないところはありますが、ほぼ、フィオが残してくれた予言書通りです。ただ、私が総統アスターからインプットされていなかったこと、つまり、西暦2050年から2100年までの間でフィオがどのようにして西暦2050年の地球を救ったのかがわかりました。総統アスターは、フィオ、あなたが西暦5億年にあるCEMを使って西暦2050年の危機を救えると私から聞くと、あなたが西暦2750年に寄らずに西暦5億年に直接行くのではないかと危惧して、私に西暦2050年~2100年の歴史を教えなかったものだと思います。あなたに西暦2750年の戦闘を体感させ、リーナを救い、西暦5億年に来させようとしたのだと思います。しかし、フィオがこの予言書を残して西暦2750年の人類が自ら防御策を考案するという行動により、予言書の最後のほうは、現状と変わってきています。私が考えるに、フィオの行動により『未来』が『進化している』のではないかと想定します。しかし、私の今までの分析結果からわかるのは、U87-AIがいまだに西暦2750年を攻めてくるということは、未来人の体力は、宇宙への脱出を行うまでに回復していないであろうということ。西暦2750年が存在するということは、フィオが西暦5億年に向かい、CEMを持ち帰って、西暦2050年を救うことは、間違いないと思います。しかし、その他はこの予言書通りになるとは限りません。
私は、総統アスターの狙いが少しわかったような気がします。総統アスターが未来人の移住のために西暦2750年にU87-AIを送り込んでくるのと同時に、私にフィオを西暦2750年に連れてこさせて『西暦2750年の戦闘を防ぎ、リーナさんを守る』という矛盾した作戦を行っているのは、フィオに、これから起こる未来のことを予言書として残させ、PWMやジェットスクランダーを子孫に伝承することで『未来を変えたい』と思っているのではないかということです。
介護役をしていた私が一番良く知っていますが、総統アスターは、あなた方が想像しているような悪意を持った人間ではありません。とても性格のやさしい人格者です。彼は、西暦2750年の人々も、西暦5億年の人々も生かしたいと考える中で、悩み・苦しんだ結果、現在、体調を崩しています。それでもなお、フィオを通じて『未来を進化させることで、西暦5億年の未来人が西暦2750年を襲撃しなくても良くなるようならないか?』と模索しているものと考えます。
しかし、いまだにU87-AIが過去を攻めてくるところを考えると、まだ未来人は『西暦2750年へ逃げざるを得ない』状態ではないかと分析できます。その未来を変えるために、総統アスターは、さらに次の手を打ってくる可能性があります。私は、これから起こる事象を見ながら、精一杯、対応策を考えたいと思います」
その時、戦艦の数か所から爆発音が聞こえ、戦艦Fusion2750号は大きく揺れた。
そして、先ほどの副艦長 シンが、ミーティングルームに入って来た。
「艦長。想像以上にU87-AIのレーザービームの威力が強く、戦艦Fusion2750号の数か所が破損しました。戦艦Fusion2750号は無数のU87-AIに囲まれ、彼らのレーザービームで狙い撃ちされています。我々も主砲や強力電磁ノイズビームで対抗していますが、苦戦しています。このままでは、戦艦Fusion2750号は破壊されます」
「わかった。彼らの攻撃が戦艦Fusion2750号に集中しないように分散させる作戦が必要だな。ここは彼らに動いてもらおう。リーダーのゴッドとその仲間たち、『Fusion特戦隊』を呼んでくれ」
「わかりました」
副艦長シンはそう言うと、ミーティングルームから無線でFusion特戦隊のメンバーを呼び出した。
「Fusion特戦隊?」
僕が聞くとセイヤは答えた。
「この戦艦には5機の戦闘機を搭載している。あなたたちが、ハッチからこの戦艦に入って来た時に戦闘機があったと思います。それを戦艦Fusion2750号から発進させて、U87-AIの攻撃を分散させます。5機の戦闘機は、この戦艦と同じ強力電磁ノイズビームを放てるし、主砲のエネルギーと同程度の威力のあるミサイルを撃つことができます。5機の戦闘機を操るパイロットのことを我々は、Fusion特戦隊と呼んでいます。5機の戦闘機を操るパイロットは、全員孤児で、それぞれ個性的な乗組員ですが、西暦2750年の地球で一番優秀な精鋭を揃えています」
そう話しているうちに、ミーティングルームに、金色、青色、緑色のプロテクトスーツをそれぞれ纏い、ヘルメットを持った男性3名と、赤色と桃色のプロジェクトスーツをそれぞれ纏い、ヘルメットを持った女性2名が入って来た。
「私、『ゴッド』を含め、Fusion特戦隊5名。揃いました。艦長。戦闘機を飛ばしますか?」
5名の中で、身長2メートルは行くかと思われるような大柄でワイルドな、いかにもリーダーと思われる金色のプロテクトスーツを着た人物が問いかけた。
「ゴッド。そうしてくれ。ただ注意してくれよ。U87-AIは想定よりも装甲の剛性が強く、レーザービームも強力だぞ。何発かレーザービームを食らえばやられてしまうかもしれん」
「わかりました。私たちの腕を信じてください。一発も食らいません。それでは、早速出動します」
Fusion特戦隊のメンバーは、他には、
身長約180センチ。40歳代で細身。クールな性格で長髪であごひげを生やし、正確な戦闘機の操縦テクニックとミサイルの射撃の腕を持つダークブルーのプロテクトスーツを纏った「ブルー」。
身長約160センチ。20歳前半。活発な性格かつ姉御肌で、髪を赤色に染め三つ編みで左右に分けた、攻めの戦闘機操縦能力を持つ赤いプロテクトスーツを纏った「レッド」。
身長約150センチ。中肉中背。10歳代後半で、温厚な性格の中にも、真の強い性格を持つ、肩くらいの長さの空色の髪の少女。レッドを姉のように慕っており、レッドの操縦テクニックにあこがれているピンクのプロテクトスーツを身に纏った「ピンク」。
身長約170センチ。中肉中背。10歳代後半で、やんちゃだがやさしい性格の中を持つ。神の一部を茶髪に染めている髪の少年。若手のホープとゴッドも認めるグリーンのプロテクトスーツを身に纏った「グリーン」がいた。
Fusion特戦隊の5名は、持っているヘルメットをかぶり、ミーティングルームを飛び出して艦橋の下の戦闘機格納部に移動した。そして、すぐさま戦艦Fusion2750号の下のハッチからそれぞれの色の戦闘機を発進させた。
5.Fusion特戦隊
戦艦Fusion2750号から5機の戦闘機が飛び出すと、赤い目をしたU87-AIの一部が、5機の戦闘機を追って行った。僕とリーナ、グロリアスは、艦橋の前方の左側から外を見ていた。
「彼らは、未来人の子孫に影響を与えない人類か・・・。無事を祈るしかない。まあ、私や妻のミキを含め、ここの乗組員全員、未来人の子孫に与えない人物のようだが・・・」
セイヤは悲しそうな表情を浮かべながらも、続けて僕に説明した。
「さっき見た通りです。Fusion特戦隊のメンバーは特命地球防衛軍の中でも異端児。しかし、パイロットとしての腕は確かです。ゴッドの判断力と攻撃力は野性的で豪快。逆にブルーは、ミサイルを寸分の狂いなく同じ個所に命中させることができるベテランの射撃の名手で、戦闘機の操縦も緻密。グリーンは若手の有望株だし、レッドとピンクはペアで動き、左右から敵を挟み込むように飛び、素早く息のあった操縦テクニックで『強力電磁ノイズビーム』を、網をはわせるように撃ち、漁をするように敵を一網打尽に破壊します。前にも言いましたが、彼らは孤児で自分の名前を知らないから、それぞれ自分たちのことを愛称で呼び合っています。この特命地球防衛軍を結成する時に私がスカウトしました」
「そうですか・・・」
5機の戦闘機は、それぞれ鮮やかに旋回してU87-AIの攻撃を避けながら、強力電磁ノイズビームやミサイルを使って、次から次へと襲ってくるU87-AIを撃ち落としていた。
「さすがだなぁ」
しかし、U87-AIは、次から次とタイムマシンで送り込まれてくる。
「余談は許さない。まだまだ、敵の攻撃は収まりませんから」
セイヤが言った。間もなく、夜が開けてきた。
「私は、エネルギー充填完了です。Fusion特戦隊さんを助けに行きます。今日は幸い天気が良い。太陽光発電で、私は無限にPWMとジェットスクランダーを使えます。フィオ、リーナさん。夜通しでお疲れでしょう。あなた方のPWMやジェットスクランダーは、あなた方の生命力がエネルギーになっています。ちょっとこれを飲んで、ゆっくりお休みください」
そう言うとグロリアスは自分の胸を開き、包帯や傷をふさぐテープ用の治療薬、医療用の道具などが入った救急治療用道具箱・略称「Cue-Box」を取り出し、その中からチューブ状の栄養ドリンクを2人に渡した。セイヤも続けてこう言った。
「私たちも交代で休みながら、U87-AIを倒します。いろいろあったでしょうから、ゆっくり休んでください。ミーティングルームの横、ちょうど、私の艦長席の下側に、休憩室があり、ベッドを数台あります」
「わかりました。リーナ。ちょっと、休もうか?」
僕がリーナに声をかけると、リーナは、疲れたように、
「はい」
と答えた。
僕とリーナは休憩用のベッドに、セイヤとミキは艦橋に向かい、グロリアスは戦艦Fusion2750号の下側のハッチから出撃してFusion特戦隊とともにU87-AIを倒しに行った。
休憩用のベッドに向かう途中、リーナが僕に話しかけてきた。
「パパとママ、それからラブは残念だったけど、助けてくれてありがとう。あなたの予言書がなければ、ここまで、U87-AIに対抗できなかったわ。私もとっくにU87-AIに捕らえられていた」
「お父さん、お母さんやワンちゃんを助けてあげられなくてごめん。もっと早く僕が駆けつけることができて、PWMやジェットスクランダーの操縦に慣れていたら、みんなを助けることができたのに・・・」
「自分を責めないで。本当に助けに来てくれてありがとう」
「今はゆっくり休もう。僕は一休みしたらU87-AIを倒しに行くよ。君はお兄さんやお姉さんといっしょに戦艦Fusion2750号から見ていてくれ。」
「わかりました。一つだけ、お願いがあります」
「何だい?」
「やっぱり私、まだ怖いんです。ベッドをくっつけて、私の手を握って眠ってもらえますか?」
一瞬、僕は動揺した。僕は、彼女を好きになりかけてしまったのかもしれないと思いながら。でも、その気持ちを押し殺して彼女の要望に応じることにした。
「安心して眠れるならいいよ」
僕はそう言うと、僕らは2つのベッドをくっつけて、手をつないで眠りについた。
第4章 西暦5億年の地球
1.西暦5億年
西暦2750年でU87-AIと特命地球防衛軍がしのぎを削る戦闘を行っている頃、西暦5億年の地球は滅亡の危機に瀕していた。
太陽の膨張は止まらず、水星はすでに太陽に吸収され消失し、金星は大気の主成分の二酸化炭素による温室効果が進んで「燃える惑星」と化していた。地球の海水は干上がり表面温度は平均2000℃、太陽の表面温度の約1/3に達していた。人類は、太陽からの熱の影響が少ないオーストラリア大陸に、彼らが持つPWMやジェットスクランダーと同じ合金でできた巨大なドーム型のシェルターをつくり、その中に空中に浮かぶ住宅地等を築き生き延びていた。
シェルターの中は、西暦5億年を統括する総統アスターが開発した居住区環境安定装置「Clear Environment Machine」(略称CEM)により、人類が快適に生活できる温度・湿度に保たれていた。未来人は、ほとんど建物の中で暮らし、情報交換はバーチャル立体映像兼音響装置「Augmented Reality Machine」(略称ARM) を使って行っており、また、食料等の栽培から輸送、構造物の建築、通信網、交通網、水路網などのインフラ整備は、U47-AIやU87-AIに任せていた。シェルターの中にはロボットおよび武器の製造工場があり、U47-AIやU87-AIの開発・製造も含め、未来人の武器は、ARMを使って未来人とU47-AIがコミュニケーションを取りながら設計をし、U87-AIが製造を行っていた。未来人の生殖活動は、U47-AIの管理の元、人工授精で行われていた。このような環境の中で未来人は、生まれてから死ぬまで、ほとんど体を動かすことがなく可動式のベッド兼車いすで過ごしていた。そのため、未来人は筋力が落ち、体系は、頭、胴体と手、足の3頭身になっていた。
ドームの中央には、総統アスターと地球政府の官僚たちが住む居住区兼地球政府の施設が浮かんで建っていた。
2.総統アスター
総統アスターは、U87-AIが厳重に警備をする「総統部」の建物の中にいた。アスターは、卵を横にしたような形の耐レーザー用の透明なガラスで覆われているベッドに横たわっていた。ベッドは、可動式兼浮遊式になっており、今は完全に横になれるようにまっすぐになっている。しかし、会議等がある時は、上半身部分が起き上がり、足の部分は下がって車いす状態に変形できるようになっていた。右手付近には、ベッドを操作できるようなレバーとスイッチ類がついており、また、総統アスターの左腕には点滴の針が刺され、鼻の穴には酸素をおくるチューブが挿入されていた。ベッドの脇には、介護用と思われる、フィオのところに来たグロリアスと同様のU47-AI型ロボット 愛称「マインド」がおり、総統アスターの世話をしていた。総統アスターは衰弱しているようだ。
「総統。副総統のアルゴです。これから閣僚会議を開始します。会議できる態勢にベッドを稼働させ、ARMを作動させてください」
ベッドの左側のスピーカーらしきところから声がした。
「わかった」
アスターはそう言うと、右腕の近くの「C」というボタンを押した。するとベッドの上半身は起き上がり、足の部分は地についてベッドが車いすのように変わった。その次に「A」というボタンを押すと、アスターの部屋は、あたかも会議室にいるようにまわりの景色が変わった。その景色には、アスターのベッドを囲んで10人ほどの閣僚が、アスターと同じようなベッドを使い並んでいた。彼らはほぼ、総統アスターと同じような体形をしていた。おそらく、ARM装置が稼働し、「仮想空間での閣僚会議」が始まるのだろう。
3.西暦5億年の閣僚会議
「それでは、閣僚会議を始めよう。西暦2750年の戦況はどうだ」
総統アスターが言うと、軍事長官ダッソーが答えた。
「ほぼ制圧はしているようですが、『特命地球防衛軍』と名乗る者たちの抵抗が思いの他強く、完全には制圧できていません。西暦2750年に我々のロボット、U87-AIに対抗できる軍事力があるとは想定外でした。U87-AIの報告によると、特命地球防衛軍の戦艦と戦闘機から発せられる強力な電磁波ノイズで、AIの頭脳回路が破壊されて苦戦を強いられているとのことです。なお、その中に、西暦2050年から来て我々の武器『PWM』と『ジェットスクランダー』を操る青年と、U47-AI型ロボットが1体いるようです。これはどういうことでしょう」
「それは、私が仕掛けたことだよ」
総統アスターが言う。
「何をされようとしているのですか?」
軍事長官ダッソーが聞くと、総統アスターはこう答えた。
「現状の地球の歴史を変える実験を行っているのだよ。私の介護をするU47-AIの2体のうちの1体に頼んで、西暦2050年の私の先祖『フィオ』を西暦2750年に送り込み、我々の武器PWMとジェットスクランダーで戦わせ、西暦2750年の私の先祖『リーナ』を守らせながら、西暦2750年の現状を見せ、この未来のことを体感させる。それを彼が西暦2050年に帰った時に『予言書』として残すことで未来が変わり、私たち未来人が地球から脱出できる体力を取り戻し、タイムトンネルで過去に行かなくても、宇宙への移住ができる『未来』に変わるのではないかと思ってね。しかし、今までの実験結果から見ると、彼の予言書は西暦2750年の人類の防衛力を高めることには貢献しているが、西暦5億年の未来を変えるまでには至らなかったようだ。ただ、諸君もわかったように、彼を西暦2750年に送り込んだことで、少なくとも西暦2050年から西暦2750年の未来は変わった。そう、未来は変えられるのだよ。しかし、西暦2750年から西暦5億年という歳月はあまりにも長い。どこかで、私の先祖、フィオの予言書は途切れてしまったのだろう。西暦5億年の未来はほとんど変わっておらず、今の我々の状況に変化はない。かえって、我々が西暦2750年に向かうための環境整備が遅れて障害になってしまった。すまない。」
「総統の苦労。お察しします。しかし、我々の我慢も限界に来ています。U47-AIが試算したところ、あと数日も持たず、我々を守っているシェルターは太陽の熱で熔かされ、我々は絶滅します。また、街では『サロメ』という指導者の元、『太陽族』という過激派集団が、自身の所有するU47-AIやU87-AIを使って暴動を起こし始めています。そして、タイムトンネルの出入り口を占拠し、西暦2750年への移住用に開発した『Future号 2750系』を略奪。人類を西暦2750年に送りこもうとしております」
治安長官モールドが、現状の街の状況を報告した。すると、総統アスターは次のように答えた。
「サロメか。あれは私の弟。私や仲間の技術者と一緒にタイムトンネルやタイムマシンを設計した優秀な科学者の一人だ。あいつの行動は正義感から来ている行動だ。見逃してやってほしい。ただ、今の状況で、我々の体力が西暦2750年までたどり着くまで持つかどうかわからない。タイムトンネルを設計してわかったことだが、時間を超える際には、微妙に気圧が変わる。つまり、時間は圧力の関数ということだ。特に過去にさかのぼる際は、気圧が少し高くなる。タイムトンネルで過去に行くということは、いかにFuture号2750系が精巧にできているといえども、移動時間がかかる上に時間をさかのぼる際は、微妙に気圧が高くなるため、今の人類の体調に影響を与える。それを承知の上で、サロメは暴動を起こしていると思う」
それを聞き、副総統アルゴが提言をした。
「地球滅亡まであと数日。ここに残っていては、確実に我々は絶滅します。それであれば、一縷の望みを託して、サロメさまが率いる太陽族の行っている通り、Future号2750系で人類を過去に送ってみてはいかがでしょうか?」
「副総統。そうかもしれん。しかし、U87-AIが西暦2750年を完全に制圧できていない中で、人類を送り込むのは危険だ。西暦2750年の特命地球防衛軍や私の先祖、フィオや私の送り込んだU47-AI型ロボットから妨害される可能性があり、リスクを伴う。そこで、サロメの行動を助けるために、私はこれから2つの打ち手を行おうと思う。
1つ目は、私が開発した最強の戦闘型ロボット『U87-AIα』をタイムトンネルで西暦2750年に送り込み、西暦2750年の特命地球防衛軍をせん滅。西暦2750年を制圧する。U87-AIαの装甲はU47-AIと同じだから、フィオたちの持つPWMのレーザービームをも跳ね返すだろう。しかし、装甲が頑強な分、U87-AIαはタイムマシンの能力では西暦2750年に送り込めない。タイムトンネルを使い、U87-AIαに、PWMとジェットスクランダーを持たせて、全速力で西暦2750年に送り込む。これにより、今の人類が西暦2750年まで到達できた場合の、居住区の環境整備も速やかに行うことができる。
2つ目は、わが先祖、フィオとリーナ、および私が送り込んだU47-AIを『捕獲モード』から『抹殺モード』に切り替える。これにより、西暦2750年の特命地球防衛軍だけでなく、西暦2750年制圧の阻害となっているフィオ、リーナ、西暦2750年に送り込んだU47-AIを抹殺できるだろう。
しかし、フィオとリーナは私の先祖だ。この作戦を実行すると同時に歴史が変わり、私やサロメは消滅するかもしれない。その時、現在の状況も変わるかもしれない。その時の指示・命令権は、副総統アルゴに授ける。アルゴの指示に従うように。以上だ」
「よろしいのですか。総統。ご自分や弟さまの身を危険にさらすことをされて」
副総統アルゴが尋ねるが、総統アスターは次のように答えて場を収めた。
「良い。我々に残された道はもうこれしかない」
すると、各長官が一斉に、
「御意」
と答えた。
「それでは、軍事長官ダッソー。すぐに、U87-AIαを出陣させ、タイムトンネルを使って、西暦2750年に送り込んでくれ。私は、フィオ、リーナ、西暦2750年に送り込んだU47-AIを捕獲モードから抹殺モードに切り替える。以上で閣僚会議を終わる。解散」
4.「捕獲モード」から「抹殺モードへ」
閣僚会議が終わると、ARM装置が切れ、総統アスターのまわりは、自身の部屋の風景に戻った。
総統アスターは、前方のスクリーンにロボットの製造工場と、タイムトンネルの出入り口の2つの現在の画像を映し出した。
おそらく、軍事長官ダッソーの命令が下ったのだろう。工場からは、姿がU87-AIと同じだが、体形が一回り大きくなり装甲を強固にされて左胸に「α」の刻印が入っている「U87-AIα」が次々とジェットスクランダーで飛び出した。そして、タイムトンネルの出入り口でたむろしている太陽族のU47-AI,U87-AIや人類を避けながら、タイムトンネルの中に入って行った。それを見た総統アスターは、
「あとは、私の仕事か・・・」
と、おもむろに、目の前のスクリーンに現時点で、西暦2750年で生存している人物を映し出し始めた。彼は、右腕のそばにあるレバーで画像を検索しながらフィオを選択した。すると、彼の右腕のそばにあるスイッチの中で、「〇(捕獲モード)」が点灯したが、彼は、一つ深呼吸をした上で、覚悟を決めて「×(抹殺モード)」のボタンを押した。
しかし、彼および彼のまわりはまったく変化がなかった。
「なぜだ・・・」
総統アスターはそうつぶやくと、リーナとグロリアスにも同様の作業を行った。しかし、またしても彼および彼のまわりはまったく変化がなかった。
「フィオたちを抹殺モードにしても変化がないということは、彼らは、私の最高の武器U87-AIαを倒すということなのか?新たな未来が発動されたはずなのに、私が消滅しないということは、彼らは抹殺モードにしても生き残るということなのか?彼らはU87-AIαをどうやって倒すのだ?」
総統アスターは、改めて溜め息をついたあと、車いすをベッド状にもどした上でつぶやいた。
「これからの動向を見守るしかない。私はもう、やれるべきことはすべて行った」
第5章 U87-AIαの逆襲
1.U87-AIせん滅
「あれからどうなったんだ!」
フィオはハッと目を覚ました。あれからどれくらい眠ったのだろう。横のベッドにはリーナがまだ眠っていた。どこかあどけない顔をしながらも、目の端にうっすらと涙を浮かべていた。
(よっぽど疲れたんだなぁ・・・。いろいろなことがあったし。自分の家族が殺され、愛犬もひどい目にあったのだからなぁ・・・)
僕はそう思いながらも戦況が気になり、彼女からそっと手を離すと、戦艦Fusion2750号の艦橋に走って行った。
「どうなっていますか?」
僕は艦長のセイヤに尋ねた。セイヤは、「強力電磁ノイズビーム」の指令席の横に立ち戦況を見守っていた。
「あなたが眠ってから、まる2日経ちました。Fusion特戦隊5機がかなりのU87-AIを倒してくれました。今もグロリアスと協力して、Fusion特戦隊は交代しながら戦っています。戦況はこちらのほうが優位に立っています」
艦橋から見ると、ゴッドとグリーンの2機のFusion特戦隊が鮮やかに攻撃を避けながら、U87-AIを次々と強力電磁ノイズビームやミサイルで撃ち落としていた。
その時、同じく戦っていたグロリアスが艦橋に戻ってきた。グロリアスは数か所U87-AIのレーザービームを受けたようで、破壊はされていなかったかが、黒いレーザー痕が残っていた。
「お疲れだったね。ゆっくり眠らさせてもらったよ」
僕がグロリアスに言うと、グロリアスは次のように答えた。
「フィオ。あなたは、戦艦Fusion2750にいたほうがいいかもしれません」
「なぜだい?」
「私を攻めてきていたU87-AIですが、最初は青い目をして電磁ロープで私を捕獲しようとしていましたが、途中から赤い目に変わり、レーザー銃で攻撃してきたのです。どうやらU87-AIは、私を捕獲対象ではなく抹殺対象としたようです。このような命令をU87-AIにできるのは、総統アスターだけです。もしかしたら、西暦2750年の変化に伴い、総統アスターのいる西暦5億年にも何らかの変化が生じ、私、フィオ、リーナを、捕獲対象から抹殺対象に変更した可能性があります。ですから、あなたはここから出ないほうがいい。いくらPWMやジェットスクランダーが強力だとしても、あなたが装着しているプロテクトスーツやヘルメットは西暦2750年に作られたもの。ケビンさんやジーナさんのように数発、U87-AIのレーザービームを受ければ、プロテクトスーツやヘルメットは破壊され、あなたは殺される可能性が高いと思います。」
「なぜ僕らは攻撃対象になったんだい?僕とリーナは、総統アスターの先祖のはずでは?」
「西暦5億年の未来に何が起こったのかはわかりません。考えられることは2つ。
1つ目は、総統アスターが亡くなり、副総統アルゴが指揮をし始めた。
2つ目は、総統アスターが、新たに歴史を変えるために、自身を犠牲し、自身の祖先であるフィオ、リーナさん、そして2人を出合わせた私を抹殺しようとしている。
私が考えるに、私が今回の命令を総統アスターから受けた時、アスターは衰弱していたもののあと数日の寿命はありました。総統アスターの性格等も考慮すると、可能性としては2番目の『総統アスターが自分の身を犠牲にしても、さらに歴史を変えようとしている』だと分析します」
「そうか・・・」
僕とグロリアスが会話をしているうちに、無線で艦橋に連絡が入った。
「こちらFusion特戦隊のゴッド。U87-AIをすべてせん滅した。どうだ、俺たちの腕は。これから一旦、グリーンとともに戦艦Fusion2750号に戻る。念のため、ブルー、レッド、ピンクに出撃準備をしておくように伝えておいてくれ」
気づいてみると、先ほどまでタイムマシンで無数に現れていたU87-AIが1機もいなくなっていた。
「これはどういうことだ。U87-AIは無限に製造できるように、西暦5億年には、24時間稼働のロボット製造工場があるはず。U87-AIが1機も現れないということはありえない。やはり未来に何が起こっているんだ」
グロリアスがそう言ったのとほぼ同時に、西暦2750年のタイムトンネルの出入り口の方から、戦艦Fusion2750号へ向けて一発の強力なレーザービームが放たれ、戦艦Fusion2750号のど真ん中を貫いた。
2.U87-AIαの襲撃
「ドーン!」
とてつもない轟音がした。僕とセイヤが振り返ると、艦橋の艦長の椅子のところから天井に向かってレーザーが貫通し、炎が上がっていた。そして、戦艦Fusion2750号は左右に蛇行しながら落下し始めた。
「消化班。火を消せ。副艦長、エンジンは無事か?操縦長、立て直しは可能か?レーダー長。攻撃してきた敵を前方のスクリーンに映し出してくれ」
セイヤは立て続けに命令を下した。それと同時に、僕は、さっきまで横で眠っていたリーナのことが気になって、リーナの元へ向かった。
休憩室では、僕が眠っていたベッドはレーザービームで撃ち抜かれて炎が上がっており、横に眠っていたリーナは、ベッドごと壁まで吹き飛ばされていた。彼女は、休憩室の片隅でいっしょに吹き飛ばされたベッドの足にしがみつきながら、座り込んで震えていた。僕はリーナを抱きしめた。
「無事でよかった」
「こ、怖い・・」
「もう大丈夫だよ」
「お願い。もう二度と私から離れないで。約束して」
「わかった。一人にしてごめん。立ち上がれるかい?みんなのところに行こう」
「はい」
僕はリーナをしっかりと抱きしめながら、揺れる艦内をゆっくり歩きながら艦橋に戻った。
僕らと入れ違いに消化班が入ってきた。
艦橋では、セイヤたちが艦の立て直しを続けていた。
消化班は、貫かれた戦艦Fusion2750号で火の手が上がっているところの消化にあたっている。そして、副艦長のシンが答える。
「メインエンジンがやられました。補助エンジンに切り替えます」
操縦長のコンソールが答える。
「補助エンジンに切り替えました。艦の立て直しを行います」
そのうち、左右に揺れて墜落しかけていた戦艦Fusion2750号を、操縦長コンソールが補助エンジンを噴射して元の状態に立て直した。それとともに、レーダー長のミキが答える。
「今、レーザーを撃って来た方向に敵を確認しました」
艦橋の上方にある巨大スクリーンに敵が映し出された。
「これは何だ?」
セイヤと僕は、驚いた目で見上げた。
スクリーンには、ジェットスクランダーを背負い、次々に飛び出してくるU87-AIを一回り大きくしたようなロボットがタイムトンネルの出入り口から飛び出しているのが映し出されていた。すると、グロリアスが答えた。
「私も見たことはありませんが、U87-AIの剛性を私と同様にしたロボットだと思われます。戦艦 Fusion2750号の艦橋を彼らのほうに向けてもらえますか?」
操縦長コンソールが、戦艦Fusion2750号の艦橋を彼らのほうに向けた。それと同時に、グロリアスが青い目の中から視覚センサー等を発し、詳細な分析を行った上で答えた。
「間違いない。U87-AIを一回り大きくして装甲を強化したロボットです。左胸に『α』の刻印がありますから、おそらく『U87-AIα』とでも言うのでしょう。装甲は私と同じ金属。背中にはジェットスクランダー、右腕にはPWMが装着されています。どちらとも、フィオや私が所有しているPWMやジェットスクランダーと同じです。装甲が強固なため、タイムマシンでは転送できず、ジェットスクランダーを使い、タイムトンネルを通って西暦2750年に来たのでしょう。フィオや私の持つ戦力と互角です。ただし、フィオさんのプロテクトスーツやヘルメットは西暦2750年製ですから、彼らのPWMのレーザービームを受ければ、戦艦Fusion2750号のように、一発で撃ち抜かれるでしょう」
艦橋にいる全員が固唾を飲んだ。
この間にも、U87-AIαは、タイムトンネルから次々と現れ、ジェットスクランダーで戦艦Fusion 2750号に向かってきながら、PWMのレーザービームを撃ち始めた。
「操縦長。やつらは全員赤い目をしている。やはり、戦艦Fusion 2750号内には西暦5億年の先祖にあたる人物はいないようだ。なんとかU87-AIαの攻撃を避けてくれ。それから、主砲戦闘長アバカス、強力電磁ノイズビーム砲戦闘長フォトン。主砲と強力電磁ノイズビーム砲は無事か?」
「無事です。攻撃できます」
いかにも科学者らしく見えるアバカスとフォトンがそう答えると、セイヤが命じた。
「U87-AIαに全砲塔を向けろ。総攻撃だ」
操縦長コンソールが、次から次へと迫ってくるU87-AIαのPWMのレーザービームを避ける。
主砲戦闘長アバカスと強力電磁ノイズビーム砲戦闘長フォトンが、フルで主砲のエネルギー、強力電磁ノイズビームを放つ命令を各攻撃班に下す。
しかし、主砲から放たれたエネルギーは跳ね返され、U87-AIに効いていた強力電磁ノイズビームも、U87-AIαが目・口・耳に耐電磁場シャッターを閉めることでU87-AIα内部の頭脳回路を守り、効かなかった。ただし、強力電磁ノイズビームを撃つことで、U87-AIαは、目などを耐電磁場シャッターで閉じるため、一時的に、彼らの動きを止めることができた。しかし、U87-AIαは、PWMの指先から電磁ロープを触手のように伸ばし、戦艦Fusion2750号の居場所をPWMの指先についているであろう赤外線で確認し始めた。
「いずれ、僕たちはあのロープに捕まる。グロリアス。何か打ち手はないか?」
僕がグロリアスに聞くと、グロリアスは、こう答えた。
「今の戦闘を見る限り、U87-AIαの弱点は、私と同じ目・口・耳だと思います。私の目・口・耳も、U87-AIαの目・口・耳にも、視覚、聴覚、嗅覚、味覚を感じるセンサーが入っています。目のガラスや口・耳の合金に私やU87-AIαの体で使われている合金を使うとセンサーが通らなくなりますので、その部分はU87-AIと同じ金属で使われており、脆くなっているはずです。もし、目・口・耳の耐電磁場シャッターが閉まる前に強力電磁ノイズビームを用いて止めることができ、U87-AIαの頭脳回路を乱している間に、私やフィオが持つPWMを用いて、U87-AIαの耐電磁場シャッターが開いている目・口・耳の隙間部分を撃ち抜くことができれば、U87-AIαを倒すことができるかもしれません」
「そんな手、あるのか?」
その時、戦艦Fusion2750号のデッキに戻ってきた特戦隊のゴッドから、無線で連絡があった。
「ひとつだけ、方法があるぜ」
ゴッドは続けた。
「特戦隊の戦闘機レッドとピンクのペアが力を合わせれば、高速でU87-AIαに近づき、U87-AIαの目・口・耳の耐電磁場シャッターが閉じるまでに強力電磁ノイズビームを網の目状に浴びせることができる。そして、U87-AIαの目・口・耳を守る耐電磁場シャッターが閉まるのを途中で止め、半開きの状態の時にフィオのPWMのレーザービームをそこに撃ち込めばいい。正直、フィオにその作業をさせることができるのは、射撃力と戦闘機の超一流な運転テクニックを併せ持つ、戦闘機ブルーだけだろう。戦闘機ブルーにフィオを乗せ、フィオに戦闘機ブルーの窓から右腕を出させ、ブルーとフィオが協力して、U87-AIαの半開きの目をPWMのレーザービームで撃つのが一番確実だ。戦闘機ブルーにフィオに同乗させてくれ。それしかU87-AIαを破壊する方法はない。戦艦Fusion 2750号や戦闘機ゴッド、グリーンは、フィオ・ブルー・レッド・ピンクがその作戦を行っている間、他のU87-AIαの動きを『強力電磁ノイズビーム』で止めておく。これでどうだ?」
「セイヤ。どうする」
僕がセイヤに答えると、セイヤもグロリアスも、
「もう、その作戦しかない」
と答えた。
「Fusion特戦隊の諸君。今のゴッドの話を聞いたか? この作戦をすぐに行おう。いいか?」
セイヤの問いに、特戦隊のメンバーは、
「了解」
と無線で答えた。
「私も、戦闘機ブルー、レッド、ピンクの擁護に出ます。U87-AIαのPWMのレーザービームに耐えられるのは私だけでしょうから」
グロリアスが答えた。
「それでは早速、実行に移そう。もう総力戦しかない。フィオさん。デッキに行って、ブルーと合流してく。」
セイヤがそう言うと、リーナがつぶやいた。
「私も戦闘機ブルーに乗せてください。私もフィオと戦いたい」
それを無線で聞いたブルーが答えてきた。
「二人一緒に乗りな。好きな女と一緒にいると、フィオもやる気が出るってもんさ」
「ありがとう」
リーナがそう答えた。僕はちょっと顔が赤くなったが、僕とリーナはデッキに向かい、ブルーと合流した。ほどなく、戦艦Fusion2750号のハッチが開き、5機のFusion特戦隊とグロリアスが飛び立った。
3.Fusion特戦隊対U87-AIα
「それでは作戦をはじめる。無数に攻めて来ているU87-AIαのうち、真ん中の10機をターゲットにして、先ほどの作戦を実施しよう。真ん中の10機の右側を戦闘機レッドが、左側を戦闘機ピンクが最速のスピードですり抜けながら、U87-AIαに『強力電磁ノイズビーム』の網をかけてくれ。そうすると、彼らは、目・口・耳を耐電磁場シャッターで完全に閉じることができず、動きが一時的に止まるはずだ。続いて、戦闘機ブルーが正面から突っ込み、フィオさんのPWMのレーザービームで彼らの半開きの目を撃ち抜いてくれ。その他のU87-AIαについては、左側は、戦艦Fusion2750号の強力電磁ノイズビームで目・口・耳を閉じさせて動きを鈍くし、右側は、戦闘機ゴッド、グリーンの強力電磁ノイズビームとグロリアスのPWMで動きを鈍くしていこう。成功を祈る」
セイヤの命令が下るとともに、それぞれが言われた通りの配置についた。
戦闘機レッドとピンクは、10機のU87-AIαに対して、左右から挟み撃ちをするように鮮やかな操縦さばきですり抜けながらレッド、ピンクの2人で声を合わせて、
「強力電磁ノイズビーム!!」
と叫び、強力電磁ノイズビームを網の目のように左右から放った。すると、予定通り真ん中の10機のU87-AIαは、目・口・耳の耐電磁場シャッターが半開きになった状態で止まった。
「照準をブラさない操縦は俺に任せろ。フィオ。狙いを外すなよ。頑張れ」
ブルーの激励に応えるため、僕は、耐電磁場シャッターが半開き状態の目に集中して、PWMのレーザービームを放った。
フィオのPWMを撃つ腕は上がっており、10機のU87-AIαの目にすべて1発で命中。彼らは頭から黒い煙を出しながら墜落していった。
「作戦成功!!」
ブルー、レッド、ピンクが無線を使い、大声で報告してきた。
「気をゆるめるなよ。敵はまだ無数にいる。態勢を整えて次の攻撃を行ってくれ」
セイヤから、叱咤激励の指示が入る。
「了解!」
Fusion特戦隊とグロリアスから、それぞれ無線で返答があった。僕も答えた。
そして、同様の作戦は一昼夜続いた。
4.1%の望み
U87-AIαせん滅作戦は順調に成功していたが、U87-AIαはタイムトンネルから次々と現れるため、徐々にFusion特戦隊も僕も、きりのない戦闘に疲労が溜まってきていた。
作戦を決行してから、丸一日が過ぎた朝、作戦に乱れが生じた。
いつものように、レッドとピンクが強力電磁ノイズビームで、U87-AIαの目を半開きにし、ブルーに乗ったフィオがPWMのレーザービームでU87-AIαを撃墜していた。しかし、フィオの狙いが若干ずれたのか、墜落したU87-AIαの1機が、完全に機能が停止しておらず、墜落はしたもののPWMのレーザービームを放てる状態だった。
そのU87-AIαが、作戦を終了し、旋回している戦闘機レッドをPWMで狙い撃ったのだ。
地上からのU87-AIαのPWMのレーザービームは、戦闘機レッドに命中し、操縦士のレッドの胸をも貫いた。
「レッド。大丈夫か?」
セイヤやゴッドの無線の声に対し、
「ちくしょう。やられた。すまない」
とだけ言い残して、レッドの通信が切れた。そのあと、戦闘機レッドは墜落。爆発した。
「くそー」
いち早く反応したのは、戦闘機グリーンだ。
激高したグリーンは、戦闘機グリーンから戦闘機レッドを撃ったU87-AIαにミサイルと強力電磁ノイズビームを乱れ撃ちし、突進していった。
「落ち着け。グリーン」
セイヤとゴッドの無線からの呼びかけもグリーンの心には届かなかった。U87-AIαはPWMのレーザービームを戦闘機グリーンに放った。レーザービームは戦闘機グリーンを貫き、同時にグリーンの腹をも撃ち抜いた。
「すいません。俺はレッドさんが殺されるのだけは我慢できない・・・」
グリーンは話している途中で絶命した。そしてそのまま、戦闘機グリーンは戦闘機レッドとグリーンを撃ち抜いたU87-AIαに突っ込み、爆発した。
「すいません。俺のせいだ。俺のPWMの攻撃が不十分だったから・・・」
フィオが言うと、ブルーが答えた。
「終わったことは振り返るな。俺たちは精一杯やった。これから何をすべきかを考えよう」
と言って、他のU87-AIαのPWMの攻撃を振り切った。
「実は、グリーンさん。レッドさんを尊敬するだけじゃなくて、好きだったの」
無線で、涙を流しながらピンクが答えた。
戦艦Fusion2750号のセイヤや、艦橋にいる面々も、無線で連絡を取り合っていたFusion特戦隊の残されたメンバーも無言になった。
しかし、こうしている間にもU87-AIαはタイムトンネルから次々と現れ、戦艦Fusion2750やFusion特戦隊の戦闘機 ゴッド、ブルー、ピンクをPWMで攻めてくる。
「グロリアス。何か作戦はないか? このままでは、僕らはすべてU87AIαにやられてしまう」
僕がグロリアスに無線で問いかけると、グロリアスは、戦闘機ブルーの横をジェットスクランダーで並走しながら、自身の無線から答えた。
「かなりの冒険になりますし、可能性の話になりますが・・・」
と前置きをして、次の作戦を述べた。
「フィオさん。以前、私はあなたに『あなたのPWMは、あなたの生命力をエネルギーにしています』と言いました。先ほど、U87-AIαを仕留めきれなかったのは、あなたに疲れが出ているからだと思います。しかし、このままタイムトンネルから無限にU87-AIαが現れるようでしたら、私たちは全滅してしまいます。我々の勝利する確率は正直、1パーセントあるかないかです。その可能性を残した作戦ですが、
まず、PWMのレーザービームでタイムトンネルの出入り口を破壊して、これ以上、U87-AIαを増えないようにする。ただし、私は機械ですから、PWMが壊れないようにレーザービームのエネルギーを制御しているためタイムトンネルを破壊できないでしょう。唯一、破壊できるとしたらフィオ、あなたのPWMにあなたの生命力を全集中して、限界を超えたエネルギーのPWMのレーザービームを撃つことです。ただし、今のあなたに残された生命力エネルギーでは、限界を超えたPWMのレーザービームを撃てるのは1発でしょう。一発勝負です。
次に、それが成功したら、フィオはリーナさんと一緒に戦闘機ブルーで一旦、戦艦Fusion2750号に戻って休んでください。その間、地上に残されたU87-AIαは、ゴッドさんがレッドさんの代わりをし、ブルーさんの持つ正確な射撃力でミサイルを数発撃ち込むという方法に切り替えて、先ほどまでの作戦を続行する。Fusion特戦隊を狙うまわりのU87-AIαは、戦艦Fusion2750号と私、グロリアスでなんとか防ぎます。
しかし、この作戦はタイムトンネルを破壊した時点で歴史が変わるかもしれません。タイムトンネルを破壊できたとして、何が起こるかわかりません。もしかしたら、フィオ、あなた自身が消滅することになり、西暦2750年や西暦5億年の人類、U87-AIαや私もすべて消滅するかもしれません。かなりリスクを伴う作戦ということだということだけは覚悟しておいてください。以上です」
「わかった。このまま全滅するなら、タイムトンネルを破壊するほうがましだ。戦闘機ブルーでタイムトンネルの出入り口に向かい、僕のPWMでタイムトンネルを破壊する。ブルーさん。お願いします」
「わかった。それじゃあ。行くぞ。お前らと俺は一心同体だ。やってやろうぜ」
ブルーが言う。
「微力だけど、私の生命力エネルギーも、あなたに伝えます」
横に座っているリーナが、僕の左手を力強く握った。
そして、戦艦Fusion2750号から無線でセイヤが、
「了解。タイムトンネルを破壊してくれ。俺たちもお前たちを全力で援護する」
と返答した。
戦闘機ブルーは、次から次へ襲ってくるU87-AIαとPWMのレーザービームを鮮やかに避けながら、タイムトンネルの出入り口に向かう。そして、戦闘機ブルーのまわりをミサイルと強力電磁ノイズビームで擁護する戦闘機ゴッドとピンク。PWMで応戦するグロリアス。その後ろには、主砲のエネルギーと強力電磁ノイズビームを乱れ撃つ戦艦Fusion2750号の姿があった。
そのうち、タイムトンネルの出入り口から出てくるU87-AIαの姿が視野に入って来た。
僕は、戦闘機ブルー後部座席の右側から出した腕の人差し指を、タイムトンネルの出入り口に向けたまま、今まで殺されたケビンとジーナ、Fusion特戦隊のレッド、グリーンと、西暦2750年に殺された人々の無念を怒りに変え、その怒りをPWMの右人差し指の先に集中させ、
(全生命力注入。PWMの超レーザービーム、発射。)
と心の中で念じた。
そうすると、今までとは比べ物にならないくらいの閃光が、僕のPWMの右人差し指から放たれた。
その閃光は、それを防ごうとする数機のU87-AIαの装甲をぶち破り、タイムトンネルの出入り口を撃ち抜いた。
『ドゴーーン!!』
大爆音とともに、タイムトンネルの出入り口は大炎上。そして、僕の放ったPWMからの強力なレーザービームに巻き込まれて爆発したU87-AIαの残骸とともに、タイムトンネルの出入り口はふさがった。
「ものすごいPWMのレーザービームです。フィオの中にこれほどの生命力があるとは・・・。西暦2050年の人類の生命力は素晴らしい。タイムトンネルの出入り口の手前を守っているU47AIαの装甲を貫きながら、タイムトンネルの出入り口の反対側の壁を打ち破ったようです。また、タイムトンネルを出ようとしていたかなりのU87-AIαも爆破したようです。
ただ、かろうじてタイムトンネルは過去と未来をつないでいるようです。タイムトンネルそのものをすべて破壊したわけではないので、フィオもリーナさんも、私たちも消滅しなかったのでしょう。ともあれしばらくは、新たにU87-AIαがタイムトンネルから出ることはないでしょう。今のうちに、地上にいるU87-AIαをなんとか倒しましょう」
グロリアスがそう言うと、戦艦Fusion2750号から、無線でセイヤが作戦の次の指示を出した。
「戦闘機ブルーは、一旦、戦艦Fusion2750号に戻ってフィオさんとリーナを降ろし、ミサイルをフルで積んで再び出撃してくれ。ブルーが戻り次第、先ほどまでのU87-AIαせん滅作戦を継続する。みんな疲れているだろうがここが正念場だ。頑張ってくれ」
「了解!!」
艦内および無線で、残されたFusion特戦隊のゴッド、ブルー、ピンク、グロリアスから返事があった。
僕は一旦、戦闘機ブルーで戦艦Fusion2750号に戻ってきてハッチに降り立った。だがその瞬間、力が抜けて倒れこんだ。右手のPWMは、真っ赤に発熱していた。
その時、僕と一緒に降りたリーナが僕を支え上げてくれた。
「お嬢ちゃん。すまねーがフィオを休憩室まで運んで眠らせてやってくれ。さっきのレーザービームで疲れ果てているようだ。俺はミサイルを積んだらすぐに出撃する。な~に、そいつが起きる頃には、俺が奴らをすべて始末してやるさ。安心しな。艦橋で笑って見ていろよ」
「わかりました」
リーナはブルーにそう言うと、僕に肩をかしてエレベーターまで行き、艦橋に戻っていった。
「おつかれさま。無事でよかった」
リーナは、僕の耳元でつぶやいた。目には涙が浮かんでいた。
「心配をかけてすまない」
僕はそう答えると、リーナに付き添われて艦橋から休憩室のベッドまで行くと、すぐに眠り込んだ。眠り込む寸前、戦闘機ブルーが飛び立つ音が聞こえた。
リーナは、僕のベッドの横に椅子を持ってきて、僕の左手を握りながらずっと僕の眠るベッドのそばにいた。僕の右手のPWMの人差し指は焦げていた。先ほどのPWMのレーザービームの威力が強かったのだろう。
―――――
「戦闘機ブルーが戦闘空間に戻ってきた。先ほどの作戦を継続しよう。10機を倒すのは無理だ。半分の5機ずつ、U87-AIαを倒していこう。レッドの代わりはゴッドに任す。U87-AIαの目の攻撃は、ブルーのミサイルを数発連発することで破壊する。左右のU87-AIαは、右は、戦艦Fusion2750の主砲とグロリアスのPWMで、左は戦艦Fusion2750号の強力電磁ノイズビームで、U87-AIαの動きを止めよう。各自、健闘を祈る」
セイヤの号令とともに、再び、U87-AIαせん滅作戦が始まった。
第6章 太陽族の反乱
1.タイムトンネルの修復
西暦5億年の未来では、いよいよ滅亡の時がせまっていた。当初は、1日で西暦2750年を制圧。2日で西暦2750年の人類を「家畜同様に管理する地区」と、未来人が住めるような「居住地区」を整備し、未来人を西暦2750年に受け入れる予定だった。この計画では、未来人の居住区を守る「シェルター」が溶融するまで4~5日の余裕を見ていた。しかし、西暦2750年の「特命地球防衛軍」やフィオたちの抵抗により、U87-AIの戦闘が始まって5日余りが立とうとしている今も、整備どころか西暦2750年の人類制圧ができていなかった。
それに加えて、副総統アルゴから総統 総統アスターに悪い知らせが入った。
―――――
「総統 西暦2750年の戦況をご報告いたします。」
総統アスターのベッドの前のモニターに映し出された副総統アルゴがそう言うと、総統アスターは、ベッドを車いす上に起こしながら答えた。
「こちらでも戦況を見ていた。U87-AIαでもかなり苦戦しているようだな。しかも、タイムトンネルの西暦2750年の出入り口が破壊されてふさがれているようだ」
「総統、どうしますか?」
「これから、タイムトンネル内の西暦2750年近くにいるU87-AIαに、タイムトンネルの修復とタイムトンネルの西暦2750年の出入り口をこじ開けるように命令を出す」
そう言うと、総統アスターはベッドの右腕のところにある、「R」のボタンを押した。
すると、西暦2750年付近のタイムトンネル内にいるU87-AIαの一部は、3機が一組になり、2機は自分の装着しているPWMを外し、フィオによって破壊されて穴の開いているタイムトンネル内の箇所に貼りつけ、もう1機は張り付けたPWMの間を自身のPWMのレーザービームのエネルギーを若干落として溶接作業を始めた。同時に、残りのU87-AIαは、ふさがれたタイムトンネルの出入り口をこじ開けるために、PWMのレーザービームを撃ち続けた。タイムトンネルの出入り口には、フィオが倒したU87-AIαが重なり合っており、こじ開けるのに苦戦していた。
総統アスターは、その作業の様子をタイムトンネルに取りつけているモニターから自分の前のスクリーンに映し出し、監視していた。
その時、西暦5億年のU47-AI、U87-AI 、U87-AIαを製造している工場から火の手が上がった。
2.太陽族 サロメの反乱
「ドーン。ドーン」
工場の至る所から、火の手が上がっていた。
「何が起こったんだ」
総統アスターがそう言うと、副総統アルゴの通信を遮るように、総統アスターの前にあるモニターに、ベッドを車いす上にして座っている一人の人物が映し出された。
「アスター兄さん。」
映し出されたのは、太陽族を名乗る反乱集団の長となっているサロメだった。
「U87-AIαたちを製造する工場を、我々『太陽族』のU47-AI、U87-AIが破壊したよ。これでもう、U87-AIαは製造できない。今、工場に残っているU87-AIαは、僕が太陽族のU47-AIを遠隔操作して頭脳回路を修正し、僕ら太陽族のロボットにする」
「待て、なぜだ」
「アスター兄さん。もう、僕らがいるシェルターはもう持たない。時間の猶予がないんだ。改造したU87-AIαにCEMを持たせ、タイムトンネルの中の空気などの環境を良くしながら先導させて、未来人をFuture号2750系で、西暦2750年に送り込む」
「CEMと言えども、すぐに効果が現れるわけではないぞ。タイムトンネルの中を正常な酸素濃度、温度、湿度、気圧に保つのは至難の業だ」
「これは、“カケ”だ。地球のシェルター内の温度は、CEMでもコントロールできなくなって来ている。温度が35℃まで上昇してきている。少しずつ、心臓発作で死んでいる人類もいる。それならば、稼働させたままのCEMを持たせたU87-AIαをタイムトンネルに送り込み、そのあと、Future号2750系で未来人を運ぶ。僕らが生き残る可能性があるのは、この方法だけだと思う」
すると、横から割って入るように、総統アスターの前のスクリーンの右側半分に副総統アルゴの姿が映り、進言した。
「もう我々の生き残る可能性は、サロメさまがいう通りかもしれません。閣僚たちも納得すると思います。政府もサロメさまが率いる太陽族に協力し、人類をタイムトンネル2750系で移動させましょう。最前線のU87-AIαには、タイムトンネルの修理と西暦2750年の出入り口の開放に全力を注がせます」
「わかった。ただ、君たちも知っての通り、私は病気だ。もう長くはない。タイムトンネルの移動には耐えられないと思う。私はシェルターの最期を見届ける。あとは副総統アルゴとサロメに任せる」
そう言うと、総統アスターは、自分の車いすをベッドに戻し、両手を胸にのせ、目をつぶり、つぶやいた。
「あとは、神のみぞ知る・・・か」
3.未来人の西暦2750年への移動
シェルター内の人類の各車いす兼ベッドのスピーカーへ、副総統アルゴがメッセージを送った。
「人類諸君。私は副総統のアルゴだ。総統アスターの命を受け、私が代わりにこれからの指示を出す。各人とも、自身のベッドを操作してタイムトンネルの出入り口まで移動するのだ。そして、タイムトンネルの出入り口で待っている総統アスターさまの弟、サロメさまの指示に従い、Future号2750系に乗り込むのだ。君たちのベッドは、そのままFuture号2750系の座先にはまるようになっている。以上だ」
すると、シェルター内の住宅の至る所から、外装が卵を横にした形の耐レーザー用ガラスに包まれたベッドが、介護用のU47-AIとともに浮遊しながら出てきて、ゆっくりとタイムトンネルの出入り口に集まってきた。
「順番に、自分のU47-AIを操作し、Future号2750系の右側の座席にベッドをはめ込ませてくれ。左横には、自分の世話をするU47-AIを座らせるように」
タイムトンネルの出入り口で、ベッドを車いす状態にしたサロメのARMを使った命令で、未来人たちは、Future号2750系に乗り、定員に達したところで、Future号2750系は発車。次のFuture号2750号が来て、流れ作業のように、次々と人類を西暦2750年へ送っていった。Future号2750系を発車させる前に、すでにサロメは100台のCEMを持ったU87-AIαを送り、タイムトンネル内の酸素濃度、温度、湿度、気圧の正常化を図っていた。
第7章 特命地球防衛軍の最期
1.西暦2750年 地上のU87-AIαせん滅
Fusion特命隊のレッド、グリーンを失った特命地球防衛軍だったが、フィオのタイムトンネルの出入り口の破壊で、新たなU87-AIαが現れなくなったこともあり、態勢を立て直し、地上に残っている250機のU87-AIαのせん滅作戦を再会していた。しかし、僕が力尽き、戦艦Fusion2750号内のベッドで休息を取っているため、U87-AIαを倒せるのは、半開きな目の同じ個所にPWMのレーザービームより威力の弱いミサイルを3発集中させて撃つことができる戦闘機ブルーのみ。一度に倒せるのは、5機が精一杯だった。
戦闘機レッドの代わりに戦闘機ゴッドとピンクが組んで、5機ずつ高速で強力電磁ノイズビームを浴びせ、U87-AIαのウィークポイントの半開きになった耐電磁場シャッターの目の同じ位置に、戦闘機ブルーが1機を3発のミサイル、計15発のミサイルを連発して5機を撃つ作戦に変更していた。U87-AIαは、5機ずつ頭から煙をはきながら墜落していった。
このように、残された3機のFusion特戦隊は、丁寧に5機ずつ丸一日をかけて倒していった。そして、彼らがその作業をしている間、まわりのU87-AIαの攻撃を、戦艦Fusion2750号の主砲によるエネルギー、強力電磁ノイズビーム、グロリアスのPWMのレーザービームが擁護した。
しかし、彼らは、まったく無傷ではなかった。戦艦Fusion2750号とFuture特戦隊の戦闘機は、時々、U87-AIαのPWMのレーザービームに撃たれた。戦艦Fusion2750号は5台の主砲のうち3台が、強力電磁ノイズビームの砲筒も半分が破壊された。Fusion特戦隊の各戦闘機も、U87-AIαのPWMで致命的な破損にはなっていなかったが、ところどころ羽根を撃ち抜かれ、高速飛行するのも限界に達していた。
「U87-AIαは、教師ありAIの頭脳回路を持つ戦闘用ロボットですが、学習を重ねるたびに『転移学習』という方法で、我々の攻撃パターンを徐々に読み始めています。そのため、私たちへのPWMによる攻撃が正確になっています。攻撃パターンを変えながら、地道に倒すしかありません。あと一息です」
グロリアスの作戦により、瀕死の状態になりながらも、Fusion特戦隊と戦艦Fusion2750号、グロリアスは攻撃パターンを変えながら、何とかU87-AIαをあと5機倒すまでに至った。
「最後の5機だ。全攻撃力を5機のU87-AIαに集中させる」
セイヤの無線による号令とともに、戦闘機ゴッドとピンクが、高速で5機のU87-AIαを囲みながら強力電磁ノイズビームを放ち、戦闘機ブルーがミサイルを1機に3発ずつ、正確に撃っていった。ところが、最後の1機のU87-AIαを倒そうとした時である。戦闘機ブルーのミサイルがなくなってしまった。
慌てて、戦艦Fusion2750号が残された主砲のエネルギーや強力電磁ノイズビームを、グロリアスがPWMのレーザービームを撃ったが、若干、最後のU87-AIαの半開きの目を外した。そのうち、戦闘機ブルーとピンクの電磁ノイズビームの効力が切れ、最後のU87-AIαの目が耐電磁場シャッターで閉じようとしていた。その時、戦闘機ブルーから無線で声が聞こえた。
「邪魔をするな。こいつは、俺の戦闘機ブルーで仕留める。」
「奴の目に戦闘機の狙いをつけたら、脱出しろ」
ゴッドの無線に対して、ブルーは反論した。
「U87-AIαが少しでも動いたら、標準を定めても命中せず、戦闘機ブルーは無駄死にする。俺は最後まで操縦し、突入して確実にこいつを倒す。ワクワクする戦闘だったぜ。さよならだ」
戦闘機ブルーは、そう言い残して無線を切ると、閉じようとしている最後のU87-AIαの目に突入した。
戦闘機ブルーの爆破とともに、最後のU87-AIαは頭から火を噴いて、戦闘機ブルーとともに墜落していった。
「ブルー!! ブルーーー!!」
ゴッドの問いかけに対して、ブルーの無線機からは応答がなく、沈黙だけが残った。
その時、ボロボロになっても限界のスピードで飛んでいた戦闘機ゴッドとピンクも火を噴き始めた。
「こちらゴッド。ジェットスクランダーで脱出して地上に降ります」
「ピンクもゴッドに続きます」
ゴッドとピンクは、脱出装置を使い、戦闘機から離脱。西暦2750年型のジェットスクランダーで飛び、地上に降り立った。
彼らが降り立つと同時に、戦闘機ゴッドとピンクは墜落。爆破した。
「ゴッドとピンクは合流して、地上に待機してくれ。ブルーは残念だったが、U87-AIαせん滅作戦終了。西暦2750年の秩序は守られた」
ボロボロになった戦艦 Fusion2750ではあったが、補助エンジンは無事だった。
「西暦2750年は守られた。我々の勝利だー」
艦橋にいる全員が、勝利の喚起に沸いた。
―――――
その時、休憩室のベッドにいた僕は目覚めた。僕の左手をずっと握っていたリーナが話しかける。
「あなたのPWMの超レーザービームとみんなの頑張りで、西暦2750年のU87-AIαはすべて消滅したみたい。ありがとう」
僕は、まだうつろな状態だったが、右の人差し指にしびれがあり、
「右腕の人差し指がしびれている。ちょっとだけ、PWMを外してみよう」
僕が、自分の右腕にはめているPWMを外すと、右の人差し指がやけどのように腫れていた。
「手当をしましょう。それから、あなた、食事をとっていないでしょう。体を起こして、この栄養ドリンクを飲んで」
艦橋にいたミキが救急箱を持って休憩室に現れ、中から、U47-AIが予備に残していたチューブ状になった栄養ドリンクを出して僕に渡してくれた。同時に応急措置で、僕の右腕を冷やし、やけどを抑える薬を塗ってくれた。僕は、治療が終わると体を起こし、チューブを開けて栄養ドリンクを飲み干した。
「勝ったんですね」
「ええ。Fusion特戦隊の戦闘機は全滅したけど、ゴッドとピンクは脱出して地上にいる。戦艦Fusion2750号も何とか、持ちこたえたわ」
横で、リーナが僕の左手を握り締めながら泣いていた。
その時である。地上から、
「ドーン!!」
という音とともに、タイムトンネルの出入り口が再び開き、数発のPWMのレーザービームが、再び戦艦 Fusion2750号に放たれた。
2.戦艦Fusion2750号の最期
再び開いたタイムトンネルの出入り口から、新たなU87-AIαが現れ、戦艦Fusion2750号に向けて、PWMからレーザービームを放ったのである。
放たれた数発のPWMのレーザービームは、戦艦Fusion2750号を貫き、2発が残っていた主砲を、4、5発が強力電磁ノイズビームの残された砲筒に命中。2発が補助エンジンを爆破し、残りの数発は下から艦橋を貫いた。ハッチの近くにいた消化班や主砲等の射撃班はすべて爆死。2発は、主砲、強力電磁ノイズビーム砲の戦闘長、アバカスとフォトンの胸を貫き、彼らは即死した。また、1発はセイヤの腹を貫いた。そして、僕のベッドの横に置いていたPWMは爆風とともに地上に落ちてしまった。
「うっ!!」
強力電磁ノイズビーム砲の戦闘長の席の横で、セイヤは顔をしかめながら、うずくまった。
「セイヤ!!」
休憩室から出てきたミキが、今までの平静さを失い、涙を流しながらセイヤに駆け寄ろうとする。それを制するように、口から血を吐き、腹を抑えながら、セイヤが命令を続けた。
「ミキ。持ち場に戻るんだ。副艦長。エンジンの様子は? 操縦長。戦艦Fusion2750号を立て直せるか?」
「こちら副艦長シン。補助エンジンも破壊されました」
「操縦長コンソール。戦艦Fusion2750号を立て直すことはできません。不時着を試みます」
「ミッ ミキです。再び、タイムトンネルの出入り口からU87-AIαが現れ始めました。そして、白い縦長の大きな円筒状の装置を持ったU87-AIαも現れ始めています」
意識を取り戻した僕とリーナは、走って艦橋に行った。
「セイヤ兄さん」
リーナが叫びながらセイヤの元に向かう。僕は、レーザービームに腹を貫通されて血を流しながら左ひざを地面につき、左手を強力電磁ノイズビーム砲の戦闘長の椅子にかけて右手で腹を押さえているセイヤを呆然と後ろから見ることしかできなかった。
「フィオさんとリーナか。すまん。もうこれ以上、特命地球防衛軍が対抗できる武器はなくなった」
続けて言う。
「操縦長。不時着の操縦は俺が行う。今から下のハッチを開ける。生き残った乗組員は、ジェットスクランダーで逃げてくれ。これは命令だ」
「私は、ここに残る。あなたと一緒にいる」
ミキがセイヤに抱き着こうとしながらそう言うとセイヤはそれを制した。
「わがままを言うな。みんな、生きぬくんだ。頼む」
副艦長のシンが眉間にしわを寄せ、涙をにじませながら答えた。
「わかりました。あとはよろしくお願いします。乗組員全員、撤退」
副艦長シンの命令と共に、副艦長シンと操縦長コンソールが泣き叫ぶミキを抱えながら、僕がリーナの肩を抱いて下のハッチに行き、みな、ジェットスクランダーで脱出した。
セイヤは操縦席に座り、戦艦Fusion2750号をタイムトンネルの出入り口に向けた。戦艦Fusion2750号を囲むようにU87-AIαがジェットスクランダーで飛びながら、PWMのレーザービームで、戦艦Fusion2750号をハチの巣になるまで撃ち続けた。
「総統アスター。見事な作戦だ。だが、犬死にはせん」
セイヤがそう言うと、戦艦Fusion2750号はタイムトンネルの出入り口に突入。爆発した。
戦艦Fusion2750号からジェットスクランダーで飛び立った僕らは、戦艦Fusion2750号が爆発しながらタイムトンネルの出入り口へ墜落していくのをただただ、見守ることしかできなかった。
3.総力戦-特命地球防衛軍の最期
ヘルメットについている無線から、ゴッドの声がした。
「こちら、地上にいるゴッドとピンク。俺たちは合流して、地上に転がっているU87-AIαのPWMとジェットスクランダーを強奪した。これならU87-AIαに対抗できるはずだ。お前たちもボーッとせずに早く地上に降りて、倒したU87-AIαからPWMとジェットスクランダーを奪うんだ」
続けて、空を飛んでいるグロリアスが話した。
「フィオ。あなたは今、PWMを外していて一番危ない。出発する時に忠告した通り、PWMがなければ対抗手段はありません。ゴッドさんの言う通り、早く地上に降りて、残骸のU87-AIαからPWMを強奪してください」
「こちらフィオ。わかった。みんな、急ごう」
戦艦Fusion2750号の爆発により再びふさがったタイムトンネルの出入り口をこじ開けることに気を取られているU87-AIαの集団に気づかれないように、脱出した僕らは地上に降りた。シン、コンソール、ミキ、リーナは撃ち落としたU87-AIαからそれぞれPWMとジェットスクランダーを強奪し、僕はPWMを強奪した。
「みんな、U87-AIαからPWMとジェットスクランダーを奪ったか? これで攻撃力だけなら、生命力を精一杯注入すれば俺たちの方が上だ。ただ、ヘルメットやプロテクトスーツは西暦2750年製だから、奴らのPWMのレーザービームを受けると一発で撃ち抜かれる。奴らに勝つには、PWMでやつらの攻撃をかわしながら、さっきフィオが撃ったように、生命力を右の指に集中させてPWMの超レーザービームを撃つ総力戦に持ち込むしかない。いつまで持つかは、みんなの生命力にかかっている。俺とピンクの位置と、フィオたちの位置は、奴らを挟み込める状態になっている。両方から同時に攻撃を始める」
ゴッドが無線でそう言うとグロリアスが答えた。
「私は、U87-AIαが飛び立たないように空から攻めます」
「わかった。早速始めよう。みんな、準備はいいか?それでは、ここからは戦闘のプロの俺の指示に従ってくれ」
ゴッドはそう言うと、
「総力戦、開始。検討を祈る」
その号令とともに、僕たちはタイムトンネルの出入り口を挟んで反対側にいるゴッド、ピンクとともにPWMによる攻撃を始めた。みんな、
(全生命力注入。PWM 超レーザービーム発射)
と心の中で念じながら、右腕の5本の指全部からPWMの超レーザービームを発射した。
各自のPWMの超レーザービームは、タイムトンネルの出入り口付近にいるU87-AIαの装甲を貫き、次々と破壊していった。最初は、特命地球防衛軍が優位に立っていた。しかし、徐々に、各自のPWMの指先が赤くなり、痛み始め、PWMの超レーザービームを撃つのが厳しくなってきた。
そして、いつからだろう? 気づくと空は徐々に曇り、淡い雪が降り始めた。フィオが来たのは西暦2750年の7月。オーストラリアでは冬にあたる。淡い雪の中での総力戦となった。
「昨日あたりから徐々に天候が悪くなっていると思っていましたが、まさか雪が降るとは・・・。私は太陽エネルギーで動いていますが、私の残りのエネルギーは30パーセントまで低下しました。自身の体を動かすエネルギーを残すために安全装置が働いたので、私はもうPWMを使うことができません」
「それでは、俺たちが空から攻撃しよう。グロリアス、交代しよう」
シンと、コンソールがそう言うと、ジェットスクランダーで空に飛び立った。
シンとコンソールの代わりにグロリアスが降りて来て、みんなに無線で言った。
「みなさん。大丈夫ですか。ひとつだけ忠告ですが、PWMの超レーザービームはPWMの剛性をはるかに超えたエネルギーを放っていると思います。そのうち、PWMそのものが粉々になるか、あなた方の指が熔けるかのどちらかのことが起こると思います。短期決戦です」
グロリアスの忠告を受けることもなく、僕らのPWMの指先が限界に達しているのがわかった。PWMの超レーザービームを撃てるのはあとわずかだ。
その時、空を飛んでいるシンと、コンソールのPWMが粉々になった。そして、彼らはタイムトンネルの出入り口付近にいるU87-AIαにPWMで次々に撃たれ、墜落した。
「すまん。もうだめだ」
「くそー。あと一息なのに・・・」
そう言い残して、2人は絶命した。
また、リーナとピンクは、気力がなくなり倒れこんでしまった。
空が解放されたため、U87-AIαは、ジェットスクランダーで飛び立って空からの攻撃を仕掛けてきた。
1機のU87-AIαがリーナをPWMで狙ってきた。それに気づいたミキがリーナを突き飛ばし、代わりに胸を撃ち抜かれた。気づいたリーナが叫んだ。
「ミキ姉さん」
「いいのよ。これでセイヤのところに行ける。フィオさん、グロリアスさん、あとはよろしくお願いします」
そう言い残すとミキは息絶えた。
「リーナさんの防御は私にお任せを。攻撃はできなくても壁にはなれます。フィオ。あなたは、倒したU87-AIαの下に隠れて、敵の攻撃をかわしてください」
グロリアスはそう言うと、リーナに覆いかぶさり、次から次に来るU87-AIαのPWMのレーザービームを背中で受けていた。
「わかった」
僕はそう言いながら、グロリアスの指示に従った。
―――――
ちょうどその頃、ゴッドとピンクもピンチに陥っていた。
「ピンク、力を振り絞って倒したU87-AIαの残骸の下に隠れるんだ」
その瞬間、ゴッドは、空から攻めてきたU87-AIαのPWMの攻撃を受けて右肩を撃たれた。
「くそー。この侵略者どもめ」
倒れこんだゴッドに容赦なくU87-AIαのPWMのレーザービームが乱れ撃たれる。ゴッドは全身を撃たれた。
ゴッドはあお向けに倒れ、空から絶え間なく攻撃してくるU87-AIαに向かって、最後の力を振り絞って、5本の右指からPWMの超レーザービームを放った。
「これでも食らえー!!」
そう言い残しゴッドは絶命した。ゴッドのPWMの超レーザービームは、ゴッドのまわりのU87-AIを吹き飛ばした。
―――――
「こちら、ピンク。こちらはゴッドも殺されました。私はかろうじて、倒したU87-AIαの下に隠れています。しかし、殺されるのは時間の問題でしょう。そちらはどのような状況ですか?」
「こちら、フィオ。こちらも生き残っているのは、リーナ、グロリアスと僕だけです」
「グロリアスです。もう、作戦はありません。あなた方を守れそうにありません。申し訳ない」
彼らが通信をしている間にも、淡い雪が降る中、空からU87-AIαは、次々とPWMのレーザービームを容赦なく僕たちに向けて撃ち続けてきていた。
僕とピンクは、撃ち落としたU87-AIαの残骸の下に隠れ、身動きが取れず、また、グロリアスはリーナの上に覆いかぶさって空からのU87-AIαの猛攻を防ぐのが精いっぱいだった。グロリアスは、未来から次々に送られてくるU87-AIαのPWMのレーザービームを何百発も浴びたのだろう。体中にレーザー痕による凹みが目立ち、装甲の表面は黒焦げになっていた。
「万事休すか・・・」
フィオは、小さくつぶやいた。
そしてその間、未来からサロメに先導され、未来人がFuture号2750系に乗って西暦2750年に到着しようとしていた。
第8章 未来人の最期
1.未来人、西暦2750年へ
僕らが、空中を飛んでいるU87-AIαの総攻撃を受けている間に、タイムトンネルの出入り口では、戦艦 Fusion2750号の残骸がU87-AIαによって取り除かれていた。
そして、複数のU87-AIαが持って来た白い縦長の円筒状の装置を垂直に立てて設置した。その装置は、西暦5億年の未来で使われていたCEMである。上にある「G」と「T」のボタンが押されており、円筒状の内部のファンが回転。横の網目上になっているフィルター部から清らかな空気を吹き出していた。それとともに、そのあたりの温度が少し上がり始めて装置の周辺の降っている淡い雪を溶かしていった。
すると、タイムトンネルの出入り口から1機のU47-AIとともに耐レーザーガラスに包まれたベッドが浮遊して現れた。
そのベッドは、タイムトンネルの出入り口の地上に着地すると、卵を横にしたようなベッドから車いす上の形状に変化していった。
そして、その中から3頭身の未来人らしき人物がしゃべりだした。
「ここが西暦2750年か」
彼は、Future号2750系で未来人を先導してきたサロメだった。
サロメは横にいるU47-AIに命令した。
「残りの人類には、もう少しFuture号2750系にいてもらおう。付き添いで来ているU47-AIに、早急に未来人が住める居住区を建設するように指示を出してくれ」
命令を受けたU47-AIは、Future号2750系に乗っているU47-AIに通信で命令を出すと、次々にタイムトンネルからU47-AIが飛び出して来て、未来人が住めるシェルターの建設にとりかかった。
続けてサロメは、西暦5億年にいる、総統アスターとARMを使って、会話を始めた。
「アスター兄さん。ここが西暦2750年だよ。我々はとうとう、西暦2750年に到達することができた。U87-AIαに命令してください。フィオとリーナを抹殺モードから捕獲モードへ切り替え、捕らえるように」
サロメがそう言うと、総統アスターは答えた。
「西暦2750年にいる抵抗勢力は、あと3人と1機。ピンクという女性は、我々の時代の人類に子孫がいないので抹殺する。また、リーナと彼らを守っているU47-AIは捕獲モードに切り替える。ただし、フィオは私が想像した以上に威力のあるPWMのレーザービームを撃てるほど生命力が高い。現状のU87-AIαの電磁ロープでも捕獲できない可能性がある。致命傷を与えない程度に、U87-AIαのPWMでダメージを与えたあと、捕獲する」
「頼む」
サロメはそう言うと、ARM装置を切った。
総統アスターは、リーナとグロリアスを捕獲モードに切り替えた。
2.サロメと未来人の最期
相変わらず、ピンクのまわりには赤い目をしたU87-AIαが総攻撃をかけている。ピンクは、残骸のU87-AIαの装甲の下に身を隠して攻撃を何とかかわしていた。しかし、徐々にU87-AIαの残骸が吹き飛ばされ、ピンクが殺されるのは時間の問題だった。
一方、リーナとグロリアスは、赤い目から青い目に変わったU87-AIαがPWMの指先から出された電磁ロープで、丸ごと胴体を巻き付けられて電流を流された。リーナは意識が遠のき、グロリアスは電流が流される直前に、目・口・耳の耐電磁場シャッターを閉じていた。
僕のまわりは、まだ、赤い目をしたU87-AIαがPWMで総攻撃をしてくる。ピンク同様、残骸のU87-AIαの下に身を隠していたが、徐々に倒されたU87-AIαの残骸が吹き飛ばされていった。その時、グロリアスが、僕とピンクのヘルメットに無線で話してきた。
「リーナさんと私は電磁ロープで捕まり身動きが取れません。ただ、無線での会話は可能です。今までの私の分析ですが、ピンクさんはおそらく未来人に子孫がいませんので、U87-AIαは本格的にPWMを使って抹殺しようとするでしょう。しかし、フィオに対しては、途中からU87-AIαの攻撃パターンが変わりました。最初は殺そうと着実にフィオさんの頭や胸をPWMで狙っていましたが、途中から致命傷を与えないように、手足など、ある程度のダメージを与えるくらいの個所に狙いが切り替わりました。それは、リーナさんを守っている時に私が感じた変化です。おそらく、総統アスターが、西暦2750年のタイムトンネルの出入り口に現れた、弟、サロメの命を落とさないようにした措置だと思います」
「そうか。わかった。命さえ保証されているのなら怖くない。右腕さえ残れば、PWMの超レーザービームを5本の指から2~3発くらい打てる力はある。タイムトンネルの出入り口にいるサロメと、タイムトンネルの中の未来人を抹殺する」
そう言うと、僕は、ジェットスクランダーを自身が耐えられる最大まで噴射し、残骸のU87-AIαから飛び出した。
―――――
その時、ピンクを守っていたU87-AIαの残骸がすべて空中から攻撃してくるU87-AIαによって吹き飛ばされ、ピンクはむき出しになった。
「どうせ殺されるなら。私もフィオに続く」
ピンクはそう言うと、僕同様ジェットスクランダーを使い、全速力でタイムトンネルの出入り口に突き進んだ。
ピンクを囲んでいたU87-AIαたちは、容赦なくPWMのレーザービームでピンクを狙い撃った。
ピンクは、手足、そして胸を撃ち抜かれた。ピンクは意識が薄れていく中でも歯を食いしばり、右指に最後の力を集中して、
「死ね。未来人」
と最後の声をあげながら、5本の指でPWMから超レーザービームを撃ち息絶えた。
ピンクが息絶えて墜落すると同時に、ピンクの放った超レーザービームはサロメを護衛しているU47-AIを貫通し、サロメを守っているベッドの耐レーザー用のガラスを突き破ってサロメの胸を撃ち抜いた。
「何!!」
と言う声を残し、サロメとサロメのまわりにいるU47-AI、それから、設置していたCEM、タイムトンネルの出入り口が爆発した。
―――――
一方、僕の方もU87-AIαのPWMによる総攻撃を受けたが、その攻撃を避けながら、
「邪魔だ!!」
と叫び、追ってくるU87-AIαたちを右指5本のPWMによる超レーザービームで撃ち落とし、壊れているタイムトンネルの出入り口の隙間から中に入った。
タイムトンネルの中には、未来人を運んできたのだろう。未来からこちらへ、2車線を使い、何台も縦列に連なって並んでいるFuture号2750系があった。
僕は、Future号2750系の正面に立ち、右腕を伸ばしてPWMの5本の指先に全生命力を集中した。
生き残っていたU87-AIαが、僕の右肩を彼のPWMで撃ち抜いた。しかし、僕は集中していたためまったく気づかなかった。そして、僕は無意識のうちに涙を流しながら、
「ここは、ここは、あなたたちの住むところではない。うぉぉぉーーー」
と叫んで、5本の指からPWMの超レーザービームを2発撃った。
2発の超レーザービームは、Future号2750系に向けて放たれた。そして、2車線を、長く縦列に連なっているFuture号2750系は、フィオの放った超レーザービームで次々と撃ち抜かれて爆発した。
撃ち終わった瞬間、僕のPWMは限界を超えたのだろう。粉々に崩れ落ちた。そして、右肩を含めU87-AIαに撃たれたところに激痛を感じ、その場で倒れこんだ。
生き残っていたU87-AIαは、青い目をして僕に近寄り、PWMから電磁ロープを伸ばして捕獲しようとした。僕にはもう抵抗する力が残っておらず、体が動かなかった。
その時である。僕に電磁ロープをかけようとしたU87-AIαや、未来人の居住区の建築をしていたU47-AIが一斉に、エネルギーが切れたように止まり、バタバタと倒れた。また、リーナとグロリアスに巻き付けられていた電磁ロープが緩み、彼らを捕えていたU87-AIαも倒れ込んだ。
―――――
その時、リーナがグロリアスに聞いた。
「何が起こったの?」
「私にもわかりません。ただ、私たちを攻撃していた未来のロボットが一斉に停止したのです。こんなことができるのは、総統アスターだけです。U87-AIの攻撃が始まってから6日。西暦5億年の未来は、もう、滅亡寸前のはずです。何かが起こったのかもしれません。西暦5億年の未来に行ってみましょう」
グロリアスはそう答えると、ジェットスクランダーを広げて、タイムトンネルへ向かった。
「リーナ。私についてきてください。」
「はい」
リーナは、グロリアスの呼びかけに答えてジェトスクランダーを噴射し、グロリアスのあとを追ってタイムトンネルへ向かった。
第9章 西暦5億年の未来へ
1.タイムトンネル出入り口の惨状
グロリアスとリーナは、ジェットスクランダーを止め、翼をたたんでタイムトンネルの中に入った。出入り口の中は、大変な状況になっていた。
未来から来たと思われる、未来人を乗せた乗り物「Future号2750系」が、何台にもわたり続いているが、車両の先頭の両窓が10か所、後方に向かって無惨に撃ち破られ、中の未来人がすべて死んでいた。
その前に、右肩と両腕、両足を数か所撃たれ、また、PWMがこなごなになって、右手が真っ赤になって倒れている僕。僕を囲むように倒れているU87-AIα。未来への進行方向を塞ぐように、倒れているU87-AIα。
それを見て、リーナはすぐにフィオを抱きかかえて声をかけた。
「フィオ。フィオ。しっかりして。フィオ」
「ここはお任せを。私の本当の専門は、介護ですから。フィオの応急処置を行います」
グロリアスは、胸からCue-Boxを取り出し、ふたを開け、リーナに言った。
「リーナさんも手伝ってください。フィオの傷口に、この中にあるテープを貼っていってください。右手にも巻いたほうがいい。ひどい火傷になっている。このテープは、未来で作られたもので、傷口をふさぎ、素早く治してくれる薬が塗られているテープです」
リーナはうなずくと、Cue-Boxの中から、医療用のハサミを使ってテープを切り分け、フィオの傷口に次々と貼っていった。
グロリアスは、フィオの体を青い目で一通り見た。
「うーん。フィオ、じっくり見ると、若干、体が放射能に汚染されていますね。今まで気づかなかった。このまま放置しておくと、フィオの寿命はあと20年ないでしょう。体内の放射能を除去する注射をしておきます」
そう言うと、グロリアスは、Cue-Boxから注射ケースを出し、1本の試験管に入っている薬を注射器に注入し、フィオに注射した。
「うーーん」
一通りの治療が終わると、うめき声をあげながら、フィオが目を覚ました。
「フィオ。フィオ」
リーナに膝枕されている僕は、やや顔をゆがめながらも、一生懸命笑顔をつくって、
「大丈夫だよ」
と答えた。
「よかった」
僕の顔に、リーナの涙がとめどなく落ちてきた。
「どうなったんだい。ここはタイムトンネルの中のはず。僕は、未来人の乗り物をPWMの超レーザービームを撃ったあと、憶えていないんだ・・・。」
すると、グロリアスが答えた。
「ピンクさんが相撃ちになりながらも、未来人の指導者と思われる人物とそのまわりのU87-AIα、U47-AIを倒しました。そのあと、なぜか私たちを攻撃してきていたU87-AIαたちがすべて、エネルギーがなくなったかのように動かなくなりました」
注射を終えたグロリアスが続けた。
「先ほども言いましたが、U87-AIの攻撃がはじまってから6日。西暦5億年に何かが起こったのかもしれません。行ってみましょう」
たまたまだが、最初に僕とグロリアスが乗ってきた6人乗りのFuture号は無傷で残っていた。
「進路をふさいでいるU87-AIαの残骸をよけながら、Future号で未来に行ってみましょう。リーナさん。私の助手席へ。フィオは後ろの座席で横になっていてください。私が、Future号を運転します。」
グロリアスは、Cue-Boxを胸に直した。そして、僕は、リーナとグロリアスに肩をかしてもらいながら、Future号の後部座先に乗り込み、横になった。そして、リーナは助手席へ、グロリアスは運転席に座った。
「出発します」
Future号は、タイムトンネルの天井近くまで宙に浮き、飛行モードになって、未来へと出発した。タイムトンネルの下に倒れているU87-AIαの残骸をよけながら、フルスピードで西暦5億年へ向かっていった。
2.西暦5億年の未来へ
「西暦2750年から西暦5億年は、Future号をフルスピードで飛ばしても1時間くらいはかかります。体にちょっと負担がかかりますが、我慢してください」
Future号はやや振動しながら、フルスピードで進んで行った。体には、押されるような感覚があり、傷口が痛んだが我慢した。リーナも、歯を食いしばって我慢しているようだ。
約1時間後、徐々にFuture号はスピードを落とし始めた。僕の体は、グロリアスとリーナの治療のおかげか、右肩を含めほとんど傷が痛まなくなって来ていた。
「もうすぐ、西暦5億年の7月に到着いたします。フィオ、体調はいかがですか?」
「ああ。君とリーナの治療のおかげで、痛みが治まってきたよ。もう、自力で立ち上がれると思う」
「よかった」
グロリアスと僕の会話を聞きながら、リーナは、涙を流し続けていた。
「西暦5億年のタイムトンネルの出入り口に到着いたします」
グロリアスは、Future号を、静かに、タイムトンネル上に着陸させた。そして、僕らは、Future号を降り、タイムトンネルの出入り口へ向かった。タイムトンネルの未来側の壁は、僕が放ったPWMの超レーザービームが撃ち抜いたのだろう。崩れ落ちていた。
「ここがタイムトンネルの終着部です。気をつけてください。タイムトンネルから落ちると、次元の底に吸い込まれます。そこはブラックホールになっていますので・・・」
僕らは気をつけながら、タイムトンネルの出入り口を出て、西暦5億年に降り立った。
「西暦5億年はまだ無事のようだ。しかし、かなり温度が上がっているなぁ」
僕がそう言うと、グロリアスが青い目のセンサーを働かせて、現在の地上の状況を把握した。
「このシェルターには、CEMを無数にはりめぐらしています。しかし、CEMをもってしても、地上の温度は40度、湿度は80パーセント。気圧は、通常の大気圧から若干上がっています。シェルターの表面温度は2900度。耐熱温度の3000度に近づいています。急激に温度上昇をしています。シェルターはあと2時間くらいしかもたないでしょう」
「グロリアス。総統アスターはどこにいるんだ。総統アスターと話をしたい」
「総統アスターは、中央の丘の一番上に浮いている白い建物の中にいます。ジェットスクランダーで向かいましょう」
僕の問いかけにグロリアスはそのように答え、ジェットスクランダーで、総統アスターのいる建物に向かった。
「僕たちも行こう」
「はい」
僕はリーナとともに、ジェットスクランダーで飛び立ち、グロリアスを追った。
総統アスターのいる建物は、小高い丘の一番上に浮いており、中央には、ガラス状の部屋が見えた。ガラス越しに、卵を横にしたような透明な耐レーザー用ガラスに守られたベッドに横たわっている人物が見えた。
(あれが、総統アスターか?)
僕がそう思いながら見ていると、グロリアスは建物の右側の出入り口にから、
「みなさん。こちらです」
と声をかけてきた。僕とリーナは建物の出入り口に向かって、ジェットスクランダーで降り立った。
僕らは出入り口を入り左に曲がって廊下を走った。少し走ると、突然、左側の壁がスライド式に開き、先ほど外から見えていたガラス越しの部屋が僕らの視野にはいった。
そこには、前方の上方にスクリーンが、真ん中に、先ほど見た卵側のベッドが、その横に、グロリアスと同じU47-AI型のロボットが1機、立っていた。
「総統アスター」
僕は、つぶやいた。
3.総統アスターとの約束
「フィオさん、リーナさん、グロリアス。君たちには大変、すまないことをした。許してくれ」
そう言いながら、総統アスターは、卵を横にした形の耐レーザー用の透明なガラスに囲まれたベッドを僕らの方に振り向かせながら、ベッドを車いす状にした。僕と総統アスターは、会話を交わした。ただし、総統アスターは、ここ数日でかなり衰弱しているようだった。
「あなたが総統アスターですか?」
「そうです。私は、フィオさん、リーナさんの子孫です。何とか西暦2750年の人たちやこの時代の人類を助けようと策を尽くしましたが、このような結果を招き、逆に、あなた方の大切なご家族や仲間を殺害することになってしまいました。あやまります」
「総統アスター。いきなりU87-AIを使って、西暦2750年を攻撃しなくても良かったのでは? 西暦2750年の人類と話し合い、共存する道はなかったのですか?」
「実は、私は、西暦2750年の政府の指導者たちに、私たちを受け入れてもらえるように交渉をしたのです。だが、西暦2750年の指導者たちは、私の話を信じてくれなかった。何か、『アスター』という変人が、ありもしないことを言っているようにあしらわれたのです。リーナさんのお父さんであるケビンさんやお兄さんであるセイヤさんも協力してくれたのですが、ダメでした。私は、西暦5億年の未来人を守る立場があります。交渉が決裂した時、西暦2750年を征服するしかなかったのです。ケビンさんも、セイヤさんも、西暦2750年の人類を守る使命を持っていました。だから、袂を分かって、私たちは対決するしかなかったのです。ただ、一つ前の歴史で、フィオさんが残した予言書とPWM、ジェットスクランダーをケビンさんとセイヤさんは熱心に研究していました。これほど、西暦2750年の征服に時間がかかるとは思いませんでした。」
それを聞くと、リーナは涙を流し、
「父と兄、覚悟の上で、戦ったんですね。そこまで、教えてくれなかった。そんなつらい思いをしていたなんて・・・」
と顔を手で覆いながら崩れ落ちた。僕と総統アスターは会話を続けた。
「そうだったんですか。でも、僕は、あなたたち未来人を、PWMを使って皆殺しにした。あなたは、僕が憎くないですか?」
「気にしないでください。西暦2750年まで来ていた5億年の人類は、あなたがPWMの超レーザービームを撃つ前にすでに死んでいました」
「えっ!!」
「私の弟。サロメとそのまわりのU47-AIが撃たれた時、CEMも破壊されました。撃たれた時の爆音による圧力と振動、それから、撃たれたU47-AIから漏れ出したオイルがタイムトンネルに充満し、Future号2750系に乗っていた5億年の人類は、心臓発作を起こして、みな、死んでしまったのです。そう、あなたが、超レーザービームを放った時には、すでに5億年の人類はすべて死んでいたのです。だから、私はこの戦闘を終了するために、グロリアスと私の介護をしているU47-AIロボット・マインド以外のU87-AIα、U47-AIの頭脳回路を停止したのです。あなたは、何も罪の意識を感じることはありません。やはり、私たちの西暦2750年への移住は無理だったのです」
僕は、返す言葉が何も浮かばなかった。すると、総統アスターは、こう続けた。
「あと、私に残された仕事は、西暦2050年を救うこと。西暦2050年を救わないと、西暦2750年もこの西暦5億年の未来もありませんから。マインド、CEMを2台持って来て、あと、自分の胸の中にあるCue-Boxをタイムトンネルの出入り口にあるFuture号に積みなさい。それから、グロリアス。リーナさんを西暦2750年に、フィオさんを西暦2050年に送り返し、西暦2050年には、マインドが運んだCEM2台とCue-Boxを置いていきなさい」
そう言うと、総統 アスターの横に立っていたU47-AIロボット・マインドがジェットスクランダーをはめ、CEMを取りに行った。
さらに、アスターは、最期の力を振り絞りながら、語り続けた。
「フィオさん、リーナさん。一つだけお願いがあります。今回起こったことを、また、『新たな予言書』として残し、子孫に伝えてくれませんか?今回のように、フィオさんが予言書を残すことで、少なくとも西暦2050年から西暦2750年の未来が変わり、私の進言を聞いてくれる人が西暦2750年に現れてくれることがわかりました。そう、未来は進化しているのです。そして、その予言書に、私たち西暦5億年の未来人宛に『便利な道具に頼りすぎず、また、過去に救いを求めるのではなく、体力を維持し、地球を脱出できる手段を考えるように・・・』と、メッセージを加えてください。そうすれば、いつの日か、このような不幸な事態が起こらなくなるでしょう」
「わかりました。必ず、約束を果たします」
「さあ、もうすぐ、このシェルターは熔けて、西暦5億年の地球上の動植物は絶滅します。フィオさん、リーナさん、グロリアス。タイムトンネルのFuture号に行きなさい。マインドがCEM2台とCue-BoxをFuture号に持ってくるはずです。Cue-Boxには、放射能を除去する注射機や薬が入っているはずです。西暦2050年の人類をすべて救うだけの数はありませんが、多少のお役には立つでしょう。それから、西暦2050年に着いたら、CEMを稼働させてください。CEMについているすべてのスイッチを押せば、まわりの空気や海が徐々に浄化されるでしょう。地球全体を浄化するには、2機で50年くらいはかかると思いますが、かならず、西暦2050年の人類は、生き残ることができます」
「ありがとう。感謝します」
「それでは、早くタイムトンネルのFuture号に向かってください」
僕は、総統アスターに一礼すると、泣き崩れているリーナに、
「さあ、行こう」
と声をかけ、彼女を抱きかかえて、総統アスターの住居を脱出。ジェットスクランダーでタイムトンネルまで飛んでいった。グロリアスは、僕のあとをジェットスクランダーで続いた。
タイムトンネルの出入り口にはマインドがいて、Future号の最後部座席にCEM2機とCue-Boxを載せて待っていた。
僕は、真ん中の座席にリーナを乗せ、その横に座った。運転席には、グロリアスが座った。ドアをすべて閉めるや否や、リーナは僕に震えながら強く抱きついてきて、離れなかった。
「よろしいですか。じゃあ。出発しますよ」
グロリアスの声とともに、Future号は、西暦5億年から発進した。
4.西暦5億年の地球の最期。崩れ行くタイムトンネル
役目を終えたマインドは、総統アスターのいる部屋に戻って行った。
「無事。出発したか?」
「はい」
「そうか、良かった。マインド。私は最後、うそをついてしまったよ。本当は、フィオがPWMを撃つ前、5億人の人類は死んでいなかった。とどめを刺したのは、フィオのPWM。5億人の人類が死んだのを確認して、私は、グロリアスと君、マインド以外のU87-AIα、U47-AIの頭脳回路を停止したのだよ。私は彼に、罪の意識を感じず、前向きな気持ちで『未来』を変えてもらいたいと思って・・・」
その時、シェルターのところどころが溶け始め、U47-AIαなどをつくっていた工場などや、郊外の住宅が溶融し始めた。
「マインド。今までご苦労だった。君ももう、ゆっくりしなさい」
そう言うと、総統アスターは、マインドの頭脳回路を切った。マインドの目は光が消え、動かなくなった。
「次の『未来』に幸あれ。フィオさん。新しい『未来』の『ドア』を開けてくれ」
そう言うと、総統 アスターの右手がだらりと車いすのスイッチの部分から落ちた。
総統アスターは息絶えた。
―――――
その頃、Future号は、全速力で過去へ戻っていた。その時、後方から、
「ドーン!!」
と轟音がした。
「西暦5億年の未来のシェルターが溶けたようです。西暦5億年のタイムトンネルが爆発しました。タイムトンネルは、過去に向かって崩れてくるはずです。急ぎましょう」
グロリアスはそう言うと、Future号を引き続き、フルスピードで飛ばして、過去へ向かって行った。
リーナは、ずっと僕に抱きついている。
「もう、大丈夫だよ」
「ええ」
僕は、彼女の震えが止まるように、背中をゆっくりとさすりながら抱きしめた。
グロリアスが言った通り、タイムトンネルは西暦5億年で爆発し、そこから過去へ向かって、崩れ始めていた。
第10章 別れ
1.西暦2750年。リーナとの別れ
Future号を飛ばして約1時間後、タイムトンネルは西暦2750年の出入り口に到着した。
僕とリーナ、グロリアスは、Future号から降り立ち、西暦2750年の出入り口付近にいる、未来人を運んできたFuture号2750系や至る所に倒れているU87-AIαなどを避けながら、出入り口から外に出た。
外を出ると、淡い雪が通り雨に変わったのだろう。雪は解け、地面は湿っており、タイムトンネルの出入り口付近の炎上も、特命地球防衛軍とU87-AIαとの戦闘でところどころ上がっていた火の手も消えていた。今は、雲の切れ目から晴れ間がのぞいていた。
タイムトンネルのある小高い丘から、街並みを見ると、助かった人たちが、崩れ落ちている建物や、U87-AIなどの残骸を片付けていた。
リーナは、タイムトンネルから降りたあとも、僕の手を強く握って離さなかった。
「さあ。リーナ。ここでお別れです」
グロリアスが切り出した。
「私一人では生きていけない。フィオ、私と一緒にいて。私はあなたが好きなの」
リーナはそう言うと、彼女は僕の胸に飛び込んできた。
僕もリーナが好きだ。だが、その心を押し殺し、身を切られる思いで彼女の両手を握りながら、僕の前に立たせて言った。
「大丈夫だよ。君には、未来に命をつないで行く役目がある。それは西暦5億年まで続いていて、総統アスターまでつながっているんだ。心配することはない。きっと、素敵な人が現れて、君を幸せにしてくれるさ」
「残念ですが、フィオはCEMやCue-Boxを使って、西暦2050年の地球を救う役割があります。そして、フィオは西暦2050年で生き、西暦2750年のあなたへ命をつながなくてはいけません。私が、総統アスターからフィオを西暦2750年に送り込む命令を受けた時に伝えられた、フィオが唯一、西暦2750年で行ってはならない禁止事項は、『フィオがリーナを愛し、西暦2750年に残ること』です。フィオがこの時代に残り、タイムトンネルが消えてしまった瞬間、リーナ、あなたや総統アスターは消滅してしまいます。もしかしたら、私も消滅するかもしれません」
グロリアスがそう言っても、リーナは涙を流して、うなずかなかった。
「僕がこの時代に残れば、また、歴史が変わるかもしれない。でも僕は、リーナ、君を消滅させたくないんだよ。僕も君を愛している。だからこそ、君にはこの時代を強く生きて、幸せになってほしいんだよ」
僕は続けて言った。
「グロリアス。頼む。君はこの時代に残って、リーナのサポートをしてくれ。西暦2050年へは、僕がFuture号を運転して戻るよ。助手席で君の運転を見ていたから、僕はFuture号を運転できると思う」
「わかりました。私はこの時代に残って、リーナさんのサポートを行います。そろそろ、タイムトンネルが、西暦2750年の近くまで崩れてきているはずです。そうそう、あなたのPWMは壊れました。もう、私にはPWMは必要ありません。私のPWMを持って帰ってもらって、総統アスターに約束した通り、新たな予言書とPWM、ジェットスクランダーをあなたの子孫に伝えて下さい」
「グロリアス。わかった。あとは頼んだよ。リーナ、気を強く持って。きっと、幸せになれるから」
そう僕が言うと、リーナは僕に抱き着いてきて、キスをしてきた。
僕は、リーナを抱きしめ、キスをし続けた。
「申し訳ない。もう時間です。急ぎましょう」
グロリアスの言葉で、2人はキスをやめた。僕は最後にリーナの両肩をギュっと握って、
「幸せにね。さようなら」
と言って、タイムトンネルの出入り口に走って行った。
後ろから、聞こえる、
「フィオ。ありがとう。きっと、幸せになるから。きっと、幸せになるからー」
というリーナの声を胸に刻みながら、振り返ることをせず、タイムトンネルの出入り口へ走った。身を切られる思いだった。
タイムトンネルの出入り口へ着くと、タイムトンネルは、もうすぐそこまで崩れ落ちていた。
僕は急いでFuture号の運転席に乗り、グロリアスが行っていたことを思い出しながら、Future号を発車させた。
2.西暦2050年。消えゆく タイムトンネルとフィオの決意
Future号を発車させて1分足らずで、西暦2050年のタイムトンネルの出入り口が見えてきた。やはり、西暦2750年から西暦5億年に比べ、西暦2050年から2750年の700年は短いのだろう。
僕は急いで、Future号を降り、最後部座席からCEM2台とCue-Boxを下ろして、西暦2050年のタイムトンネルの出入り口付近の洞窟に置いた。
すると、
「ゴーーーー」
という音を立てながら、タイムトンネルが崩れてきて、西暦2050年のタイムトンネルの出入り口が消えた。
(タイムトンネルも消滅したか・・・)
僕は心の中でつぶやくと、CEM2台とCue-Boxを洞窟から運び出し、ひまわり畑のある公園まで持って来た。そして、2台の円筒形のCEMを立て、上のスイッチをすべて入れた。
「ウィーン」
という音をたて、CEMの中のファンが回りだし、CEMの横の網目状になっているフィルター部から、清らかな空気が送り込まれてきた。目に見えないが、おそらく、放射能濃度も、空気の成分も浄化され始めたのだろう。
僕は、公園のベンチに座って、想った。
(総統アスターとの約束。きっと果たす。もう、このような悲劇が起きないように)
(今頃、リーナはどうしているだろう。幸せになってほしい)
と。
プロローグ フィオとリーナ、それぞれの未来
1.西暦2750年。リーナの未来
フィオが過去へ帰ってから、リーナとグロリアスは、ジェットスクランダーを使って、自宅に帰った。すると家には、気絶していたはずの愛犬ラブが、リーナの姿を見つけるや否や、しっぽを振って立ち上がった。
「ラブ。無事だったの?良かった」
リーナは、ラブを抱きしめた。そして、ラブに家の中に残っていた水と餌を与えた。
その姿を横目に、グロリアスは家を片付けはじめた。
「私が家を修理します。リーナは、ラブと休んでいてください」
そう言うと、グロリアスは、腹を開き、1つの箱を出した。
「これは、『Bul-Box』と言います。中には、構造物やロボットなどを修理する道具が入っています。これを使って、破壊されている箇所を補修し、清掃します。1時間くらい、待っていてください」
「ありがとう」
そう言うと、リーナは、背負っていたジェットスクランダーを下ろし、着替えたあと、庭の芝生でラブと戯れていた。その時、家の外から声がした。
「大丈夫ですか?この地区の警察のものですが・・・?」
「はーい」
リーナが家の玄関に行くと、服装は警官だが、顔はフィオに瓜二つな青年が立っていた。思わず、リーナは、
「フィオ。戻って来てくれたの?」
と叫んで抱きつこうとした。
「ちょっ、ちょっと、落ち着いてください。どうしたんですか?」
その警官は、リーナを手で制した。
家の修復作業をしていたグロリアスが出てきた。すると、その警官は拳銃を構え、
「まだ、ロボットが生き残っていたのか?」
と叫んだ。リーナは、慌ててグロリアスの方に行き、かばうように立ち叫んだ。
「このロボットは、私の友達なんです。私の両親や兄弟は、敵のロボットに殺されましたけど、このロボットは私を守ってくれたんです」
「そうだったんですか?でもなぜ、1機だけ、ロボットが生き残っているんだろう・・・」
「それは・・・」
リーナとグロリアスは、西暦2750年でこのような事態が起こった理由や、未来のことをその警官に説明した。
「なるほど、わかりました。僕は、空から急に舞い降りてきた黒くてスリムなロボットに襲われました。拳銃を撃っても効かず、複数の黒いロボットに囲まれ、彼らの右指から伸びてくるロープに捕まり、電流を流されたのです。そして、僕は気絶してしまいました。気がつくと、まわりに何人も、僕と同じように捕らわれていた人がたくさんいて、それを監視するように、レーザー銃を持った黒いロボットが巡回していました。僕が、ロボットの1機に『なぜ、このようなことをするんだ?』と聞くと、『未来人の居住区を確保するためだ』と言っていました。その理由が、やっとわかりました。ありがとう」
彼は続けて言った。
「僕は、今回の戦闘のあと、今日この丘のふもとの派出所に派遣されました。何か困ったことがあったら来てください。言い忘れましたが、ぼくの名前は『クルーズ・スワンソン』です。これからもよろしくお願いします」
そう言うと、その警官は、他の家の様子を巡回しに行った。
「『クルーズ・スワンソン』か・・・」
リーナは、彼にどこかフィオの面影を見たのだろう。彼が巡回していく姿を見続けていた。
「まだ、確信は持てませんが・・・」
グロリアスは続けて言った。
「総統アスターのDNAには、あなたのDNAと今来た彼のDNAがあったような気がします。もしかしたら、あなたを幸せにしてくれるのは、彼かもしれませんね。
それからもう1つ、秘密にしていたことがあります。あなたの愛犬ラブは、私の先祖なのです。総統 アスターは、犬を飼っていました。でも、育てている途中で死んでしまったのです。総統アスターは悲しみ、死んだ犬の記憶を私にインプットしたのです。その中には、遠い昔、あなたに可愛がられている記憶もあります」
「そうだったの。だから、ラブは殺されなかったのね」
それを聞くと、リーナは、少し笑顔になって、
「ラブも生きていたし、あなたもいるし、私を幸せにしてくれそうな人も見つかった。私は1人じゃない。なんだか元気が出てきたわ。あなたの持っているCue-Boxから栄養ドリンクを1つちょうだい。私もそれを飲んで、あなたを手伝うわ」
「はい」
グロリアスはそう言うと、自分の胸にあるCue-Boxから栄養ドリンクを1つ出して、リーナに渡した。リーナは、栄養ドリンクを飲み干すと、グロリアスとともに、家の修復と清掃を始めた。
「フィオの言う通り、頑張って、命をつないでいかなきゃね」
「はい」
2.西暦2050年。フィオの未来
タイムトンネルから脱出して、CEMを稼働させ、ひまわりが咲き誇る公園のベンチに座り、この数日間の出来事に想いをはせていると、1人の小太りの眼鏡をかけた女性が歩いて近寄ってきた。
「やっぱりここだったのね。家にいなかったから、もしかしたら、あなたのお母さんの好きだったこの公園かと思って来てみたの。私のところに来ると言ってもう6日、心配したわ」
彼女は、かつて僕の父と一緒に研究をしていて、今はメルボルンに住んでいる「エカテリーナ・ベイズ」おばさんだった。
「エカテリーナおばさん。どうしてここへ?」
「何を言っているのよ。あなたが約束の日になっても来ないし、連絡がとれないから、特別に研究所のヘリコプターを借りて飛んできたのよ」
「ごめん。今日は何日?」
「7月5日。あなたが私の家に来るって言っていた7月1日から4日も経っているのよ。ところであなた、なんて服装しているの?それから、まわりの機材は何?」
「実は・・・」
僕は、6月30日から今日までの経緯を、エカテリーナおばさんに話した。
エカテリーナおばさんは最初は、僕の話を信じてくれなかったが、僕が持っているPWM、ジェットスクランダー、そして、公園で稼働している2台のCEMと救急治療用道具箱Cue-Boxを見せると、ようやく信じてくれた。
「あなたが未来から持って帰って来たというこれらの装置を、メルボルンの『先端科学研究所』で分析しましょう。あなたの話が本当だったら、CEMとCue-Boxを使って、人類は滅亡をまぬがれるわ。あなたも一緒に行きましょう」
エカテリーナおばさんは、無線でメルボルンの先端科学研究所に連絡を取った。PWM、ジェットスクランダー、CEMとCue-Boxを運ぶためのヘリコプターをもう1台、手配してくれたのだ。
「あなたの服装も、未来の装甲みたいね。それも、分析させてもらうわ。あなたは一旦家に帰って、着替えて、荷物を持ってきなさい。それから一緒に、私の家に行きましょう」
「わかった」
約1時間後、僕は普通の服装に着替えて、荷物と未来の服装を持って公園に来た。公園の広場には2台、ヘリコプターが来ていた。
「それでは、ヘリコプターの1台には、フィオが身に着けていた服・PWM・ジェットスクランダー・CEM2台・Cue-Boxを載せて、そのまま先端科学研究所に送ってもらいましょう。もう1台は、私とフィオが乗って、私の家の近くに下ろしてもらいましょう」
エカテリーナおばさんの指示通り、僕が未来から持って帰ってきた装置類を載せたヘリコプターは先端科学研究所に向けて、エカテリーナおばさんと僕が乗ったヘリコプターは、エカテリーナおばさんの家の近くに向かって飛び立った。
それから、30分くらいで、僕の乗ったヘリコプターは、エカテリーナおばさんの家の横の空き地に降り立った。そして、僕は、エカテリーナおばさんに連れられ、エカテリーナおばさんの家に行った。
「ただいまー」
エカテリーナおばさんが言うと、奥の台所だろうか? 若い女性の声がした。
「おつかれさま。フィオが見つかったのね。よかった。大変だったでしょ。食事も用意できているし、ゆっくりしてね」
そして、台所から1人の女性が出て来た。その時、僕はびっくりした。
出て来た女性が、リーナそっくりだったからだ。その女性は僕に挨拶をしてきた。
「フィオさん。はじめまして。私は、『ミライ』と言います。あなたと同い年です。私も、母と同じ先端科学研究所で働いています。ミライって名前は、ガンで亡くなった私の父に代わって、フィオさんのお父さんがつけてくれたらしいの。日本語らしいんだけど、響きも、意味も、とっても気に入っているわ。あなたのお父さんにもらった名前の通り、決して、人類は滅亡しない。未来はあるわ。一緒に、地球環境を元に戻す研究をしましょうね。よろしくお願いします」
面を食らったような顔をした僕を見て、ミライは、
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
と聞いてきた。
「いやぁ。知り合いにそっくりだったんで、ビックリしたんだ。こちらこそ、よろしくお願いします。ミライさん」
(終わり)




