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婚約破棄


 わたくしの婚約者様は馬鹿なのかもしれない。


   ◇◇◇


 これは少し前にさかのぼる。


「イザベラ・フォン・メルキオール!今この瞬間をもってお前との婚約を破棄する!」


 広いフロアに大きな声が響き渡り、会場にいた誰もが会話を止め声のする方を向いた。

 そこには男爵令嬢のミレーヌ様の手を引く婚約者のエドワード様が、会場の中央にある階段を下りてくるところだった。


「そしてお前のような女ではなく、この愛らしいミレーヌと今宵、婚約を宣言する!」


 なんということでしょう。このお方は自分の立場が分かっていないの?

 ミレーヌ様とは親しいとうわさを聞いたことはあったが、まさかわたくしとの婚約を破棄するほどだったとは。

 内心ため息をつきつつも、表情は変えず、相手をする。


「左様でございますか。わたくしはそのようなお話は伺っていないのですが、国王陛下に了承はとられたのですか?何か行き違いがあったのでしょうか?」


「はぁ?俺は次期国王だぞ、それくらい俺一人で判断しても大丈夫だ。それにお前に通達など行っていなくてもいいだろう。」


 次期国王でも、婚約破棄には専用の書類に両家の印章、高位聖職者の署名、それと王印が必要である。

 だいぶおかしなことを言っているが、気づいていないのか。


「それよりも、イザベラお前、ずいぶんとミレーヌをいじめたそうではないか。」


「いじめ、でございますか?身に覚えがございませんが、具体的にどのようなことがありましたでしょうか?」


 わたくしが問い返すと、待っていましたと言わんばかりにミレーヌ様がエドワード様の腕にすがりつき、瞳を潤ませた。


「イザベラ様、覚えていないのですか! 私が先日お会いした時、私のドレスにわざと泥水をかけさせたではありませんか! おかげで大切なドレスが台無しになりましたのよ!」


 そんなことはしていないし、できない。基本的にわたくしは、エドワード様の婚約者としての公務が忙しいので、あまり社交に出られない。

 出られるときももっぱら、エドワード様とともに、高位貴族たちの社交の場に呼ばれる。

 高位貴族の社交場には男爵令嬢であるミレーヌ様は基本的に招待されないので入れない。つまり会えない。

 なので、ドレスを汚すなんて会っていないのでできるはずがない。


「……困りましたわ。エドワード様、わたくしが社交の場に出る際はエドワード様も一緒でしょう?それにエドワード様にはわたくしの公務のスケジュールを届けさせていたはずですが、それを見ても、そんな余裕があるとでも言いたいのでしょうか?それともまさかご覧になっていないのですか?」


 わたくしは困惑を隠さず、首を傾げた。


「本当に身に覚えがないのですが、私がかけたとおっしゃるのならば、その『先日』とやらを、いつか教えていただけますか?」


「えっ……そ、それは……」


「そもそも、わたくしが出るような社交場に男爵令嬢である貴女が同席できるはずもございません。エドワード様、ミレーヌ様がどなたにドレスを汚されたのかは存じ上げませんが、わたくしには不可能でございます。それとも、忙しい中わざわざミレーヌ様のいらっしゃる場所に赴いてでもドレスを汚したとお思いで?」


 会場から、クスクスと小さな笑い声が漏れ始めた。


 わたくしの話が正論で、殿下たちの話がいかに支離滅裂であるかを皆さん分かっていただけたようで、


「もうほかにございませんの?」


 笑いものにされたのが気に入らないのか、エドワード様とミレーヌ様は顔を真っ赤にして、黙っているだけで、何も言おうとしない。

 今日はもう早く帰ろう、そして両親にこの件を報告をしなくてはいけない。

 もう会場を去ろうと皆様へ挨拶をする。


「皆様、お騒がせいたしました。少し早いですが、わたくしはこれで。お先に失礼致します。それとエドワード様、後日、我が家の弁護士と、主計官、両親を連れてお伺いいたします。日程が決まりましたら使いの者を送りますね。それではごきげんよう。」


 わたくしが優雅に一礼をして背を向け、去ろうと背中を向けると、エドワード様が何か喚いているのが聞こえるが、もはや耳を貸す価値もない。


 すれ違う貴族たちの顔は青ざめていた。彼らは決して馬鹿ではない。それもわたくしがほかの人に聞こえるように王家への対応を宣言したのには理由がある。メルキオール家が弁護士と主計官を連れて城に乗り込むという意味――それは王家の破産宣告に等しいということ。

 メルキオール公爵家は王家に多額の融資をしており、さらに婚約による公爵家の資金的な恩恵も大きい。国家は常に資金不足なのだ。しかし一方的解消とはいえ婚約破棄は、我が公爵家の不名誉となってしまう。

 そうなると、それによる違約金や、報復としての、融資、物流の停止などの恐れがある。

 公爵家を敵に回すと、国家が傾きかねない。




 あの人達はどうするんだろう。

 こんなことになるって分かってなかったのかな?

 わたくしの元婚約者様は王族とは思えないほど馬鹿だからね。


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