第一章32 水色の宝石
【転生開始、05年11月08日】
二月十五日の夜。
今世の際允が止湮に引き取られてから、二週間余りが経過した。
いつの間にか、夜はリビングでテレビを背景音として流しながら、一人は牛乳を、もう一人はコーヒーを飲みつつ雑談するのが二人の習慣になっている。あの青色とオレンジ色のマグカップも、今ではそれぞれ専用のカップとして定着している。
今日も同じようにソファに座って、他愛のない話をしていた。
すると、
「際允、これを」
唐突に止湮が、ある物を際允に差し出した。
それは、一つのネックレス。
しずく型の水色の宝石を、小さな白い宝石が縁取るように囲んでいる。それを黒い紐に通した、シンプルで洗練された意匠だ。どう見てもアクセサリーとしてのネックレスだった。
すぐには受け取らず、際允は戸惑いながら止湮に確認する。
「これは?」
「ネックレスだ」
その答えによれば、それは見たままのネックレスで、他に特別なも隠しギミックも存在しないようだった。
「どうして僕に?」
「プレゼントだ」
「なんでプレゼントを?」
際允は依然として、腑に落ちないままだった。
状況を飲み込めず、受け取る気配のない際允を見て、止湮は苦笑混じりの微笑を浮かべる。
「誕生日プレゼントだよ」
「誕生日……?」
――あ。
そこで、ようやく思い出した。
――今日は、僕の誕生日だった。
「相変わらず誕生日を祝うのが好きだな……」
誕生日プレゼントだと言われて、際允も「ありがとう」と言って受け取るしかなかった。
アクセサリーに詳しくない彼には、見ただけでこのネックレスの価値を正確に判断することはできない。しかし、素人目に見ても決して安物ではないことはわかる。
もっとも、止湮はアクセサリーのような、生活必需品以外のものに大金を投じるタイプではないことを考えれば、驚くほど高価なものでもないだろう。
「数日前、偶然見かけたんだ。これを見た時、君の瞳の色を思い出してね。絶対似合うと思ってさ。せっかくだから、誕生日に合わせて贈ろうと思ったんだ」
なぜこのネックレスを選んだのか尋ねる前に、止湮が先に理由を説明した。
「そう……」
前世から今に至るまで、際允はずっと自分の外見に関心がなく、自分の顔立ちについても、洗面台で鏡をちらりと見ることから得た印象しか持っていない。記憶を頼りに止湮の肖像画を描けと言われても難しく感じないが、自画像となれば非常に困難なほど無頓着なのだ。
だから、そのようにこの水色の宝石から自分の瞳を連想することなど、彼には到底できない芸当だった。
宝飾品に興味のない際允は、このネックレスに対しても特に感想が湧かなかった。いいのも悪いのも。ただ、贈り主への感謝として、それを身につける。
「うん、やっぱりよく似合っているね」
贈った側の止湮のほうが、受け取った本人より満足げだった。
「止湮がいいならそれでいいよ」
淡々と際允はそう告げた。
「というか、前世でも、『誕生日プレゼントはもう送らなくてもいい』って言ったはずだけど?」
「後で考え直したんだ。プレゼントはやっぱり、贈らないわけにはいかないって」
止湮は大真面目な顔で。
「贈らないわけにはいかないなんてこと、あるわけないだろう……」
そう言いかけて、文句ばかりでは止湮を傷つけるかもしれないと気づいて、際允はすぐに言葉を添える。
「別に欲しくないとか、嫌だとか言ってるわけじゃないよ」
「わかってるさ」
気にしていないように、止湮は微笑む。
「ただ僕が贈りたかっただけなんだ。君がいらないと言ったのに無理に受け取ってもらおうとするのは、自己中心的で自己満足な行為だとはわかっている。だから、受け取ってくれるだけで嬉しいよ」
いきなり自己批判を始めた止湮に呆然としつつも、なぜこの男は「嬉しい」なんて言葉をこれほど自然に、肯定的に口にできるのかと、際允は妙な感心を覚えた。
「待っ……別に君を批判しているわけじゃないよ? 悪いことをしたわけじゃないんだし。本当に困ってるなんてないからな?」
際允は改めて強調した。
「そう、ならよかった」
止湮の口調は、相変わらず極めて穏やかだった。
その表情は言葉通り温かく、際允が水を差すような態度を取っても全く気にしていない様子を見て、ようやく胸をなでおろすことができた。




