第一章30 隠し事のある協力者
「……四年前、個人的な理由で、際允先輩の死が本当に自殺だったのか疑念を抱いたんです。だから、先輩が何か知っているのではないかと思って聞いてみました」
その動機を墨然が打ち明けた。
「ですが、その個人的な理由については……すみませんが、話せないんです」
――個人的な理由?際允の死を疑わせるような、墨然の個人的な理由は何なんだ?
際允はさらに困惑した。
「ただ一つ言えるのは、これは俺自身の私的な事柄であり、たとえ先輩がそれを知ったとしても、真相を追う上での助けにはならないということです」
そう墨然が補足した。
――真相を追う、と。
止湮はまだ「真相を追っている」とは一言も言っていないのに、墨然に見抜いたのか。
やはり彼は、何かを知っているのだ。だからこそ、止湮の真意は「調査」であることを素早く理解し、「助けにならない」と断言できた。
しかし墨然も、そのとうな答え方をすれば「自分は真相について何かを掴んでいる」と認めたようなものだとわかっていたはずだ。
それでもあえて言ったのは、止湮に気づかれても構わないと思っていたからなのか。もし彼は止湮の目的が「際允の死の真相究明」だと確信したのなら、それを協力の意思表示と取るべきだろうか。
「そんなに言い切れるのは、何か根拠があるんだな?」
その話を聞いた止湮も、際允と同じことを考えているようだった。
「実質的な証拠は何もありません。際允先輩の事件について知っているのは、あくまで推測や理論上の範疇を出ないものですから」
墨然の話で、止湮はしばらく考え込んでいた。さらに追及すべきかどうか決断する前に、墨然が先回りで話す。
「先輩は、際允さんの死を再調査するつもりなんですね?」
「ああ」
その質問に止湮は肯定したが、少し申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「理由はさっき言った通り、教えられないけれど」
「わかりました」
軽く頷き、墨然は自ら提案する。
「調査の手伝いをさせてください」
――手伝う?墨然が自ら協力を申し出た?あの、墨然が?
際允は耳を疑ってしまった。
しかも「自分にできることがあれば言ってください」といった社交辞令ではなく、有無を言わせぬ強い口調だった。本気で、本心から協力するつもりのようだった。
止湮も意外そうに目を見開く。
「驚いた。際允の事件に並々ならぬ関心を持っているのは知ってるけど……君から協力を申し出てくれるとは」
「先輩は元々、俺が四年前に何をもってそう聞いたを確認して、信頼に値すると判断すれば、俺を仲間に誘うつもりだったんでしょう?」
無表情なまま説明したが、墨然の眼差しが僅か困ったように際允は見える。
「ですが、今の答えでは信頼を得られないだろうと思ってるから、自分から提案しました」
――なぜ墨然は、そこまで僕の死に執着しているんだ?
「確かにその通りだ。墨然の力があれば心強いけれど、今の答えでは君を完全に信用することはできない」
あっさりとその推測を認め、止湮は言葉を続ける。
「だから、たとえ協力してもらうにしても、君には伏せておく情報もあるだろう。それでもいいのか?」
さすが止湮だ。本当のことを言えば相手の機嫌を損ね、協力が得られなくなるかもしれないというのに、最初からそれを素直に告げ、墨然を丸め込もうと試しすらしなかった。
しかし墨然は即答する。
「構いません」
協力する意思に全く揺らぎはなかった。
「ああ。じゃあ、これからよろしく頼む」
「はい」
【協力開始、一日目】
□□
「本当に、墨然くんを仲間に入れて良かったのか?」
家に帰り着き、ソファに座りながら、キッチンに立つ止湮の背中に際允は問いかけた。
「悪いことはないと思うが」
そう答えた止湮は二人の飲み物を用意していた。際允の分は、止湮が「健康と将来の身長のため」と毎日飲むことを要求している牛乳だった。しかも「冷たいのは体によくない」という彼の強いこだわりにより、電子レンジで温められている最中だった。
際允が自分でやると言っても、止湮は「火や加熱用の家電は中学生になるまで触ってはだめだ」と厳命しており、彼は大人しく座って待つしかない。
止湮自身の分はドリップコーヒーだった。前世の高校時代、彼はよく自販機で缶コーヒーを買っていたが、当時は単なる眠気覚ましとして飲んでいると、際允は思っていた。
同居を始めてからわかったことだが、止湮は実はかなりのコーヒー好きだ。休日は自分で豆を挽いて淹れるほどの。
しかし、今日帰宅したのはもう夜の九時だった。ゆっくり淹れる時間はなかった。
止湮は用意した二つのマグカップを持ってリビングへ戻ってくる。「ありがとう」と言いながら、際允は温かい牛乳の入った青いマグカップを受け取る。
コーヒーの入ったオレンジのマグカップを手に、止湮は際允の隣に座る。
「君は、墨然くんのことは信じられないと思ってる?」
コーヒーを一口啜りながら、止湮は聞いた。
「当然だろ。止湮だって彼を完全に信用することはできないって言ったじゃん」
際允も牛乳を飲みながら答えた。
「僕の『信用することはできない』と君のそれは、少し意味合いが違う気がするけど」
「まあ。僕なら、信用してない相手にリスクをおかして情報を流すなんてことはしないだろう」
仕方なく、際允はただため息をついた。
「まあいい。止湮は口では『信じない』なんて言いながら、根底では誰にでも信じたいと思っているお人好しだってぐらいは知ってる。それに墨然くんは数年来の知り合いだし」
「はは、そう聞くと、僕はめちゃくちゃ甘い人間に見えるじゃないか」
爽やかに笑った止湮に、反省している様子は皆無だった。
「少しは他人を警戒してくれ。いつか痛い目を見たら、後悔したとしても取り返しのつかないから」
思わず説教じみた口調になった。
「わかってるよ」
――全くもってわかってないじゃん!
もう少し言おうとしたところ、テーブルの上に置かれた止湮のスマホの画面が明るくなった。誰かからメッセージが届いたようだ。
スマホを手に取り内容を確認すると、止湮は思わず意外そうな表情を浮かべる。




