第一章2【死亡まで、20:✖✖:✖✖】
【死亡まで、20:✖✖:✖✖】
その日の夜。
昼間,、止湮に宣言した通り、際允は夕食を済ませた後、寮の自室でいつも通り勉強に励んでいる。
昼間の会話の影響で、間もなく自分は身分が変わり、すなわち成人するのだという事実を嫌でも意識させられている。そのせいか、十一時を過ぎたあたりから、際允は数分おきに机の上の目覚まし時計をちらりと見てしまうようになっている。
それは唯一、いつもとの違いである。
心の底では、成人など大したことではないと考えているし、何か特別なことをするつもりもない。が、止湮にああまで言われたから、際允もせめて十七歳の最後をカウントダウンして、人々がこれでもかというほど拘る十八歳が到来する瞬間を、噛み締めるように迎えてみるのも悪くないと思ってきた。
際允は十二年前、つまりおよそ六歳の時、蔚柳・ランニオンという男に引き取られたが、それはあくまで法律上の、形式的な養子縁組に過ぎない。彼にとって最大の変化といえば、ランニオンという苗字を名乗ることになった点くらいだ。
養子になる前と同じく孤児院で暮らし続けて、中学卒業後は自力で今通っている火の国第一高校に合格して、校内寮での生活を始めた。
実際、蔚柳・ランニオンは彼を引き取って以来、毎月欠かさず経済的支援を続けている。際允もまた、毎月口座に振り込まれたお金を通じて、今まで一度しか会ったことのない男の生存を確認している。
しかし彼にとって、見ず知らずの他人に等しい男からもらったお金を使うのは、気が引けることだ。幸い、小学生の頃から常に全国トップクラスの成績で奨学金を得ている上に、物欲も希薄で、生活費を最低限に抑えることなど苦にもならない人だ。男のお金にはほとんど手をつけずに、際允は生きてきた。
成人になって火の国で合法的にアルバイトができるようになったら、金を稼いでこの十二年間の経済的支援を全額返済すると同時に、名義上の養父との「養子縁組契約」を解除するつもりなのだ。
それでようやく、あの男への負い目を清算できる。彼はそう考えている。
だから成人という節目は、際允にとって全くもって気にしなくていいものでもなかった。もちろん、彼の計画は成人になった瞬間に実現できることではないため、毎日カレンダーを眺めて指折り数えるほど重視してたわけでもないが。
先月、大学に入学するための試験がすべて終わってもなお、際允はそれまでと同じように毎晩寝るまで勉強し続けているのは、大学の高額な学費を考慮した結果だ。たとえアルバイトをするにしても、奨学金の獲得が非常に必要だからだ。大半のクラスメイトのように気を抜くわけにはいかない。
ただ「蔚柳・ランニオンへの恩を返す」ということを第一目標として、それ以外の物事には興味を抱かないだけで。彼にとって、勉強こそが最も効率的で意味のある時間潰しの手段だ。
もし昼間であれば、外出して運動したり、武術の稽古をしたりするという選択肢もあったが。文武両道を重んじる火の国の学制の下、トップクラスの成績を収める彼らは、机上の学問だけでなく、体育や武術においても同世代の中では抜きん出た存在で。
十一時半を表示した目覚まし時計を見つめて、際允は今夜の集中力を乱した張本人——止湮・ミレカーに思いを馳せて。
際允のように世間からガリ勉と揶揄されがちなタイプとは異なり、止湮は完璧という概念を具現化したような存在だ。
高校三年間、学内のみならず全国でもトップクラスの成績を維持し続けていた際允には、既に火の国「第一大学」への推薦入学が確定している。
当然、際允以上の成績で、常に学年一位かつ全国一位という、エリート中のエリートである止湮もまたそうだった。
それだけではない。止湮は入学直後に新入生代表として入学式で壇上に立った。一年の最初から三年生の最後の学期までクラス委員長として選ばれ続けていた。誰もが「火の教会」での夏休み・冬休みの実習枠を奪い合う中、止湮はその学年で唯一、毎回火の教会側から積極的に実習の枠を与えられる人物。二年生の時には圧倒的な得票数で生徒会長に選ばれた……。など、枚挙にいとまがない。
あらゆる面で羨ましがられるほど優秀であるにも関わらず、止湮が学内での人気は極めて高い。その親切で明るい性格で、同性からも異性からも好意を向けられる。
その点について、ほとんど自分から他人に話しかけない際允とは、まるで両極端を代表するかのようだった。その原因か、他の人は彼らが友達であることを知った時、いつも失礼だと自覚しながらも顔に驚きを隠しきれない表情が浮かんだのだ。
際允の推測では、入学当初から止湮が頻繁に話しかけてきたのは、席が前後だったからだけでなはない。おそらく担任の先生から指示もあったのだろう。際允がクラスで孤立されるのが望まず、委員長である止湮に「目をかけてあけてくれ」、という。
これはあくまで当時、担任が彼の交友関係に気にしていた様子から得た臆測に過ぎず、証拠はない。
もちろん、それだけで彼らが三年近くも友情を維持できるはずもない。
学問においては、共に成績が優れた二人は、授業や試験の内容などについて議論を交わすことができた。体育と武術の授業においても、お互いが最適な練習相手だった。
日常の交流においても、止湮は際允を含む誰に対しても穏やかで親しみやすかった。際允もまた、自分から積極的に話かけようとはしないものの、社交性に欠けているわけではない。深い踏み込みはせずとも、良好で友好的な会話はできている。
この友情を繋ぎ止めてきた最大の功労者は「偶然」であると、際允は自覚しながらも、彼なりの努力を払ってきたつもりではある。
だが、その幸運も、高校生活の終わりとともに、ついに終止符を打たれるようだ。
止湮と際允は、共に同じ大学への推薦入学資格を得たが、選んだ学科は異なった。そのため、数ヵ月後の卒業を経れば、彼らがそれぞれかけ離れた人生の道を歩み始めるにつれて、徐々に疎遠になっていくだろう――と、際允は密かに予感している。
結局のところ、彼らはただ一緒に昼食と夕食をして、一緒に教室から移動して、放課後の帰り道で共に寮まで歩いて、その同時に翌日には内容を忘れてしまうような他愛のない話をするという、際允自身が時折「これを友達と呼んでもいいのか」疑うほどの、あってもなくてもいいような関係に過ぎなかったのだ。
物理的な距離が離れれば、知らず知らずのうちにお互いの存在を忘れてしまうだろう。ましてや、二人とも電話やメッセージを通じた親密な交流を好むタイプではない。
唯一の友人のことに思考を巡らせている間にも、時間は無情に過ぎ去っていった。際允が我に返った時、時計が表示しているのは夜十一時五十九分。あと数十秒で日付が変わって、彼は成人になるのだ。
そこで、今夜あまり進んでいなかった勉強をきっぱりと棚上げにした。時計が表示する秒数を見つめながら、心の中でカウントダウンを始める。
三十、二十九、二十八……
十、九、八……
三、二、一。
――ゼロ。
心の中でゼロを唱えたその刹那、彼はある異変に気づいた。
台湾と日本の文化・風俗などを混ぜた架空世界なんですが、学校の設定においては2学期制で、台湾寄りの感じです。




