第一章24 心配している者
「とにかく、事件関係者を当たる傍ら、契約管理協会に前世の契約の問い合わせを申請してみるよ」
止湮は彼の話を疑っているわけではなく、ただ一つの可能性も捨てたくないだけだった。
「死の真相を突き止めるのがいかに難しいか……。契約と能力のこの世界において、火の教会が他殺を隠蔽することなど、これほどまでに容易いことなんだ」
脳内で次の策を練る止湮を見つめ、際允は眉をひそめて反対を繰り返した。
「非常に難しいことだとは理解しているよ」
止湮は微笑んで答えた。
「難しいだけじゃない」
「何を言いたいかわかっている」
穏やかな顔で止湮が言う。
「君が殺されたという事実を六年の間も隠し通せるのなら、火の教会の中でも発言力の強い上層部が関与していると考えるのが妥当だろう。つまり、君の死を追うことは、火の教会を敵に回すことを意味する。危険度は極めて高いだろうな」
「あまり言いたくはないが、君は昨日、ご両親が——」
「ああ」
止湮はその言葉を遮った。突き放すような冷ややかな声だった。
「彼らが言ったように、僕が君の代わりに相続者になるよう仕向けたのが彼らであり、君の死で最も利益を得たのも彼らだというなら、当然、黒幕の最有力候補だ」
「そんな真実を知ることになるとしても、追いたいのか?」
理解できず、際允は彼を見つめる。
「もし、彼らが君の死に関与しているという真実に、僕が耐えられないのではないかと心配してくれているなら、それは余計なお世話だと断言できるよ」
止湮の声は感情を抜きにし、まるで凍り付いたほど冷たかった。
「関与していないのが一番だが、もしそうなら、彼らは過ちを犯した。罰を受けるべきだ。それだけだ」
止湮の性格上、本来は身内を疑うことなど最も嫌うはずだ。際允は思った。今の彼がこれほどまでに非情になれるのは、六年前の誕生日の衝撃のあまり、実の両親を既に親族とは思っていないからなのだろう。
「正直に言うよ。僕は、それは心底無意味なことだと思っている」
婉曲な言い方では止湮が揺るがないと悟り、際允は直球を投げた。
「たとえ真相に辿り着いたとしても、犯人を裁けるとは限らない。死の調査結果が覆されるとも限らないし、公表さえできないかもしれない。誰もこの事件なんて気にしていないし、止湮に報いてくれる者もいないんだ。これほどのリスクを背負って、見返りもない。本当に止湮にとって、やる価値があることなのか?」
反論の余地のない事実を突きつけられても、止湮は迷いなく答える。
「あるよ」
「もし辿り着いた真相が、望まないものだったら? それともどんなに努力しても真相に届けなかったら?」
止湮に心配げな眼差しを向ける。
「絶望して、生きる目標を失って、……また自殺しようなんて思わないか?」
意外そうに目を一瞬見開き、そして止湮は笑う。
「君は他人のすることになんて興味ない性格なのに、どうしてそんなに必死に僕を止めようとするのか、と思っていたけど……昨日の僕の言葉を、そんなに気にしていたんだね?」
そう。彼が今、前世の死の真相という話を自ら持ち出したのは、昨夜、止湮がそれを「新しい生きる目標」だと言ったからなのだ。
その目標を達成するにはいかに困難か、際允は痛いほど知っている。だからこそ、思わずにはいられなかった。
もし止湮が深く考えずに目標を掲げただけなら、壁にぶつかった時、それを目標として持ち続けられないだろうと。諦めてしまうのではないか、と。
諦めた後は?彼は新しい生きる目標を見つけられるのか?もし見つけられなかったら?また、自殺を考えるのではないか?
「当たり前じゃん! あの目標がなくなったら死ぬ、みたいな言い方をされたら、気にしないわけないだろう!」
思わず、いつもより大きな声を張り上げていた。図星を指され、感情が昂ぶってしまっただろう、と際允はどこか冷静に考えた。
「どうしてそんな風に受け取ったんだよ?」
止湮は困ったように、しかし可笑しそうに言った。
「まあいいよ、君が僕を心配してくれていることはわかった。だからはっきり言っておこう。そんな無意味な心配は不要だ」
「本当に? こんなに無意味なことなのに?」
その言葉だけでは、際允は到底安心できなかった。
「どうして意味の有無を、君が定義するんだ?」
際允の慌てぶりを面白がっているように、止湮は笑みを浮かべる。
「……いや一応被害者本人だぞ。被害者本人の僕が無意味だと言っても、真相を追うのか?」
「僕にとって意味のあることだとわかっているんだ。それだけで十分だ」
依然として止湮は微笑んでいた。
「僕はただ、自分にとって意味のあることをしたいだけなんだ」
これほど固執されては、際允も説得を諦めるしかない。
「はあ、わかったから」
ため息をついた。
「どうしてもやるというのなら、僕にも止める権利はないし」
「君は、本当に真相に全然興味ないか?」
止湮が問い返した。際允が止湮の執着を理解できないように、止湮もまた、際允がなぜこれほどまでに自分の死を他人事のように思えるのか、理解できないようだった。
「好奇心なら、多少はあるよ。でも、リスクと困難を知ってもなお突き止めたいと思うほど、強いものじゃないんだ」
淡々と際允は本心を話した。
「幸い、死ぬ時は一瞬だったから苦しい記憶もないし、犯人への恨みもない」
「もし犯人が生きていて、際允・ランニオンの意識がまだ生きていると知ったら、また君を殺しに来るかもしれないとは考えないか?」
止湮の至極真っ当な疑問にも、際允は冷めたいままだった。
「構わない。死んだって別にいい」
「……」
なぜか、止湮は長い間無言のままだった。




