第一章20 被害者
少し心配そうに止湮の顔色を伺っていたが、本人が「話す」と言った以上、際允も余計な気遣いは話せなかった。
止湮も、彼が自分を案じているのを察したのだろう。その微笑みには、隠しきれない苦みが混じっている。
「君が死んだ後、火の教会はすぐに僕らと同い年の中から何人かを相続者候補として選んだそうだ。当時リストアップされた候補は全員がもうすぐ成人すなる者で、君より二ヶ月だけ遅く生まれた僕もその一人だった」
火の国の規定では、養子縁組契約の条件の一つとして、保護者は成人であり、かつ被養育者との間に少なくとも十六歳の年齢差がなければならない定められている。
帯契者が死亡した際に相続者がいなくて契約が解消されることは、教会にとって最悪の事態だ。また、相続者が未成年の間に帯契者が死ねば、火の契約は一時的に無効化するリスクを孕む。火の教会は間違いなく、帯契者ができるだけ早く相続者を確保すること、そして両者の年齢差を最小限に抑えることを望んでいるはずだ。
際允の記憶では、前世で蔚柳・ランニオンが自分を養子にしたのは彼が二十二歳くらいだった。当時の年齢差を最小限にするために、六歳だった自分が選ばれたのだろう。
しかしその基準で言えば、今の止湮が養子にする子供は七歳前後であるべきだったが、今世の自分はまだ六歳にもなっていない。それに、蔚柳・ランニオンが際允を、止湮が今世の際允を養子にした時期も、成人直後ではなく数年の間隔が空いていた。
さらに言えば、火の教会なら、帯契者が生存しているうちに複数の相続者を確保させことを望むはずだ。そうすれば火の契約の相続者不在や、次期帯契者が未成年だというリスクも分散させるはずだ。だが蔚柳・ランニオンは、元々の際允も後の止湮も、最低限である一人の相続者しか確保しなかった。
どうやら、帯契者が子供を養子にして相続者にするよう、火の教会が契約で要求できても、実務上は契約の強制力で完璧に遂行させることは難しいようだ。
「もうすぐ成人? 直接既に成人した同い年を探した方が確実じゃないか? なんで当時まだ未成年だった止湮たちを候補にしたんだ?」
前任の帯契者が死亡した時に相続者が未成年であれば、その者が成人するまで火の契約は無効状態になる。火の教会はそのような状況を最も望まないはずなのに、なぜわざわざリスクを高めるようなわざわざをしたのか?
「その方が彼らにとって『都合がいい』な」
淡々とした止湮の口調だった。
「もし元々親がいる者と養子縁組契約を結ぶなら、まず元の親子関係を解消する必要がある。未成年なら親が申請するだけでいいけど、成人なら双方の同意が必要になる。もちろん通常、親が未成年の子供との親子関係解消を申請する場合、契約管理協会の厳格な審査を受けるから、成人後の解消よりも成功率がずっと低いはずなんだが……」
「だが、帯契者は通常の『通常の場合』には当たらない。だから協会も目をつぶって簡単に申請を通す、ってことか? そして親の同意さえあれば、未成年の子供の意思を無視して、帯契者の相続者に仕立て上げることができる……」
際允は守秘契約で止湮が話せない言葉を補完して、彼が否定する素振りを見せないのを確認した。
「でも都合の良さを考えるなら、直接同い年の中から孤児を相続者に選んで、申請の手間を省いた方がもっと都合がいいだろ?」
続けて話す際允の口調には、ほんの僅かに冷たい響きが混じっている。
「君たち——十八年前の蔚柳・ランニオンも今日の止湮も、そのために孤児院に、子供を養子にしに来たんだろ?」
心の中で言いようのない苛立ちが込み上げていた。だが理由がわからない以上、止湮に八つ当たりするわけにもいかず、感情を表に出さないよう、際允は必死に抑えていた。
それでも、自分の言葉は問い詰めるような形になってしまった。そのつもりはなかったが。
それを聞いた止湮の表情は、筆舌に尽くしがたいほど複雑だった。際允を見る瞳には深い悲しみと罪悪感が渦巻いている。何かを言いたげな様子だったが、結局、止湮はその言葉を飲み込んだ。
数秒の重苦しい沈黙の後、止湮は遂に際允の質問に答える。
「確かに、元々は孤児を相続者にするつもりだったって聞いてるよ」
先ほどの際允と似てて、止湮の口調もまた、感情を押し殺すように硬くなっている。
「僕の両親が……彼らは火の教会でいくらかの発言権を持っているんだ。彼らの話によれば、必死の働きかけのおかげで、ようやく『自分の息子を相続者にさせる』という提案を火の教会に通させたんだそうだ」
「……え?」
火の教会で発言権を持つ止湮の両親が、実の息子との親子関係を解消して、他人の養子にしてまで、止湮を帯契者にする目的を達成しようとした。
どう考えようと、彼らはそれによって得られる莫大な利益を狙った、としか考えられない。そしてその利益が、社会に良い影響を与えるとは到底思えない。
つまり、止湮の両親は息子を、自分たちが権力や財産を得るための道具と見なしていたのか?
しかし、一度親子関係を解消してしまえば、止湮が火の契約を継承した後に親子関係の修復に同意しなければ、親への扶養義務を要求することもできず、止湮を彼らの要求に従わせる強制力も何もないはずだ。
まさか止湮の両親は、親子関係を解消しても、止湮が「孝行息子」として彼らの言いなりになり続けると確信していたのか?
高校三年間、あの非の打ち所がない全方位百点満点の優等生だった彼なら、確かにあり得ない話ではない、と際允は思った。止湮の両親もそう考えて、それとも際允以上にそれを確信していたからこそ、その断を下したのだろう。
だが、今の止湮の様子を見る限り、明らかにそうはいかなかったようだ。
「止湮の両親は、君の同意を得なかったんだな?」
「ああ。あの二人が勝手に、親子関係の解消を申し込んだんだ」
微笑を絶やさない止湮。その瞳の奥に、際允は鋭い怒りの光を見て取った。
「火の教会が許可した以上、契約管理協会もごく適当に申請を通させた。養子縁組契約についても同じさ。僕は署名に呼ばれることさえなかったし、そんなことを全く知らされなかったのに、彼らが勝手に代わりに申し込みを済ませて、すべてを確定させてしまったんだ」
まるで、あらゆる抜け穴を突きまくって、システムを私物化したような話だった。
なぜこの六年間の出来事を話すのを止湮があれほど嫌がっていたのか、際允はようやく理解した。




