第一章18 微笑みの肯定
夕食を終え、テーブルを片付けた頃には九時を過ぎた。彼らは再びダイニングテーブルに向かい合って座った。
「一つ先に言っておかなければならないことがある」
そう際允に言った止湮の顔は極めて真剣だった。
「僕は今、守秘契約を結んでいる。だからいくつかの質問には直接答えられない。ヒントを出すことぐらいしかできない。その効果を上げるために、これから際允にいくつかの事前確認をするけど、了承してほしい」
「守秘契約?」
少し意外に思ったが、すぐにそれが止湮の言っていた「説明しにくい」理由だと際允は理解する。
「わかった」
「まずは話せることから説明しよう。僕が今ランニオンの苗字になったのは、君が死んだ後、実の両親との親子関係が解消されて、蔚柳・ランニオンに引き取られて養子になったからだ」
「あ?」
その短い話にあまりに多くの情報が含まれており、際允の脳の処理が追いつかなかった。
「僕が死んだ後?」
まずこのことから確認することにした。
「そうだ。君が死んでから一ヶ月と少しくらい後」
「両親との親子関係が解消された?」
「ああ」
止湮はただ肯定しただけで、多くを語ろうとはしなかった。
この件についてあまり話したくないのだと察し、際允は眉をひそめて次の質問をする。
「なんで蔚柳・ランニオンに養子にされたんだ?」
際允が死んでから養子にしたということ、そして蔚柳・ランニオンがかつて際允を養子にしたきり音沙汰がなかったことから考えると、あの人は自分を「子供を養子にしている状態」に維持しておく必要があったのではないかと疑ってしまう。
「蔚柳・ランニオンについてどれくらい知ってる?」
直接答えず、止湮は逆に聞き返した。
「全く知らない。一度会っただけだから」
正直に答えた。
普通なら十二年間養子だった自分の方が、六年間の止湮より、蔚柳・ランニオンを理解しているはずだが。
止湮もそう思っていたか、少し頭痛がするようでありがらも彼に紹介する。
「蔚柳・ランニオンは君と同じく孤児出身で、幼い頃に養子にされた。彼を養子にした人は何年も前に亡くなっていた上、蔚柳・ランニオンはずっと結婚せず子供もいなかった。何を言いたいかというと、君が死ぬ前、彼の唯一の養子だっただけでなく、法律上唯一の家族でもあったんだ」
――それなのに蔚柳・ランニオンは十二年間も僕を放置していたのか?
それが際允の最初の感想だった。
とはいえ、よく考えれば彼自身もあの十二年間、法律上唯一の家族である蔚柳・ランニオンに全く関心がなかったので、もっとも人のことを言える資格はないが。
「言い換えれば、君が死んだ後、蔚柳・ランニオンには法律上の家族が一人もいなくなった。その状況で彼が亡くなったら、法律により、所有物などは誰も相続できず、没収されるか破棄されるかしかない。そして、彼の身にある契約も、相続人がいなかったら直接解除されてしまうんだ」
その話は、直接言えない内容があるため、際允も知っている常識をあえて説明することでヒントを与えているのだ、と際允は感じた。
「つまり、彼はあるものを後世に継承されるために、子供を養子にする必要があったってことか?」
「うん。正確には、そのものはある契約なんだ」
止湮は頷いた。
「本来の相続人は君だった。でも君が死んだから、彼は相続人の存在を確保するために再び子供を養子にする必要があった。そして、いくつかの事情が重なって、僕はたまたまそれになったんだ」
「子供を養子にする必要がある……」
その話に聞き覚えがある。
「今日止湮が言ってた、子供を養子にする必要があるって話と関係あるのか?」
「ああ」
「ランニオン家には相続しなきゃならない契約があって、そのために、蔚柳・ランニオンも止湮も子供を養子にして相続人にする必要があった。蔚柳・ランニオンも最初はそうやって養子にされたのかもしれないのか?」
考えながら際允が話していた。
「そして、君たちが相続するために子供を養子にしなきゃならないその契約は、今止湮は守秘契約のせいで明言できない、ってことか?」
「その通りだ」
申し訳なさそうな微笑みが《としず》の顔に浮かんだ。
「その契約は今、蔚柳・ランニオンのところにあるのか?」
「いや、ここにある。僕がもう相続したから」
「え? ってことは——」
「蔚柳・ランニオンは、もう死んだんだ」
際允は言葉を失った。結局、自分は転生したとしても、蔚柳・ランニオンが十二年間自分にくれた経済的支援を恩返す機会はないというのか?
「蔚柳・ランニオンと僕の養子縁組契約が成立したその日に、彼は病気で亡くなった」
少し重苦しい表情で止湮が呟いた。
「さっきの話だと、もし僕は前世で殺されなかったら、蔚柳・ランニオンの死後にその契約を継承するってことか?」
「そうだな。際允は元々そのために彼に引き取られたんだから」
とにかく、どうしても知りたかったことは知ることができた。
止湮が蔚柳・ランニオンを知り、ランニオンの苗字に変えたのは、あの人に養子にされたからだ。
子供を養子にする必要があったのは、止湮もまたその蔚柳・ランニオンから相続した契約を相続させなければならないからだ。
十八年前、蔚柳・ランニオンが際允を養子にしたのは彼を相続人にするためだった。
あの人は際允の死で唯一の相続人を失い、因縁めいた経緯で止湮を次の相続人として養子にした。その後蔚柳・ランニオンが死亡、止湮がその契約を正当に継承した。
そして今度は止湮が相続人を確保する番になり、今日孤児院を訪れて今世の際允に出会い、彼を相続人として養子にした。
……契約、か……。
際允は、何かを理解したような気がする。
表情から彼が見当をつけたことを察し、止湮は頷いた。推理を続けるよう促しているようだった。
「他に言えることはないのか?」
結論を出すにはまだ根拠が足りないと思い、際允は止湮に尋ねる。
「そういえば、止湮や蔚柳・ランニオンが子供を養子にしなかったり、相続人を探せなかったりして、死んだらその契約は直接解除されるんだろ? そしたらどうなるんだ?」
「それは契約違反になる」
つまり、かつての蔚柳・ランニオンも今日の止湮も、ある程度の強制力を受け、やむを得ず彼を養子にしたということなのか?
「それは火の教会と別途結んだ契約だから、話してもいいよ」
六年前、止湮が蔚柳・ランニオンの養子になる契約が成立した当日、早朝に蔚柳・ランニオンが亡くなり、止湮は「あの契約」を継承した。
朝、止湮は火の教会に呼び出され、火の教会の人が継承したことを確認すると、もう一つの契約を結ぶよう要求してきた。
その中には、「あの契約」の内容を秘密にすること、そして二十五歳までに継承者を見つけることという二つの要求が含まれた。違反すれば火の教会の処罰を受けることになる。
「当時一日で、いきなり三つも契約が増えたんだ?」
蔚柳・ランニオンとの養子縁組契約。継承しなければならず上に口外してはいけない謎の契約。そして守秘義務と相続人確保の契約。
効率が良すぎる。怪談よりも怖い話だ、と際允は思った。
止湮も苦笑するしかなかった。
しかし止湮が提供した情報のおかげで、際允は自分の推測に確信を得た。
継承し続けなければならない契約。火の教会との関連。火の教会が要求する守秘と相続人の確保。
「『火の契約』、だよね?」
イエスともノーとも答えられず、止湮はただ微笑む。それは、肯定を意味する。




