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第一章17 真相判明につれて

【真相判明開始、00:16:✖✖】




 そこで際允あいゆるは、六年前のあの夜、ドアの外からチャイムの音が聞こえてから意識を失うまでの記憶を、包み隠さず全て止湮としずに話した。


「その話が本当なら、犯人はまだのうのうと生きているってことか?」


 語られた真実を突きつけられた止湮としずは、顔色を失って、愕然とした様子で呟いた。


「恐らくな」


「名前は輝絡てつな? 二十代前後で、金髪、緑色の目の男?」


 止湮としずは必死に記憶を探ったが、手がかりが見つからなかったようだ。


「知らないな。聞いたことがない」


「火の国の警察は火の教会に属してるけど、昔、講師とかそういう方面に進みたいって言ってたよな? 今の仕事は警察機関と関わりがあるのか?」


「ないよ。ただ、火の教会は全ての犯罪者や指名手配犯の写真と情報を各支部に掲示してるから、仕事行けば必ず目に入るんだ。だから、もし奴が犯罪者や指名手配犯であれば記憶にあるはずだ。が、その特徴に一致する人物を記憶してない」


 こんな話をこれほど自信満々に断言できるのは止湮としずくらいだろう、と際允あいゆるは思った。


 際允あいゆる自身の記憶力も止湮としずに引けを取らないが、他人に無関心な際允あいゆるが同じ仕事をしたとしても、きっと掲示板など気にも留めないだろう。止湮としずのように自信を持って断言することなど、到底不可能だ。


 止湮としずが火の教会の警察関連の道に進まなかったのは、実に人材の無駄遣いと言わざるを得ない。


「前世の死が自殺と断定された以上、僕を殺したことで輝絡が指名手配されたり、逮捕されたりすることはなかったんだろうな」


「その犯人はその後、他の罪を犯していないのか? それとも、どんな罪を犯しても、君を殺した件と同じように隠蔽されてしまうのか?」


 止湮としずは深く、険しい表情で考え込んだ。


「他の罪を犯していない可能性の方が高いんじゃないか?」


 際允あいゆるは冷静に推測を語る。


「僕を殺した罪だけならまだしも、他にも罪を犯していて隠蔽されているなら、この時代に全然バレないとは考えにくい。ましてやあいつはあんなに目立つ顔をしていたんだし」


「ってことは、奴は単純に際允あいゆるを殺したかっただけ? でも君は奴を知らないし、トラブルみたいなこともなかった。なら、動機は何だろう? 動機の面から考えれば、やっぱり通り魔のほうが可能性高い気がするんだが」


 止湮としずも、拭いきれない違和感を感じているようだった。


「通り魔的な犯行をして隠蔽までしてもらえるような奴なら、他の犯行もあった可能性や、僕のように他に見知らぬ人が殺された可能性も非常に高いはずだと思うが」


 彼らの意見は真っ向から対立したが、真相に近づくための手がかりがあまりに乏しく、今は議論をここで一旦打ち切るしかなかった。


 先ほど茶碗に落としたお箸を際允あいゆるは拾い上げて、ようやく食事を再開した。咀嚼しながらも、頭の中では先ほどの話を反芻して、独り言のように呟く。


「でも、なんで火の教会は輝絡てつなっていう殺人犯を隠蔽して、僕の死を自殺に偽装したんだろう……」


輝絡てつなが火の教会に圧力をかけて殺人の事実を隠蔽できるほどの背景を持つ人物か、あるいは、この殺人事件の裏に何か公にできない事情があるか……。そんなところだろう」


「やっぱりそうなるか」


 箸の端で顎を支えながら、際允あいゆるは思考の海に潜る。


「でも正直な話、死んだのがたまたま孤児だったからこそ、誰も気に留めずに済まされて、六年間も全く問題にならなかったんだろうな。もし僕が孤児じゃなかったら、そうはいかなかったかもしれない……。そう考えると、最初から『孤児であること』を見越して僕を狙ったのか? だとしたら、やっぱり完全な通り魔じゃないってことか?」


「……」


 彼の推論に対し、止湮としずはなぜか静かにしていて、言葉を返さなかった。


止湮としず? どうかしたか?」


 再び深刻な表情に陥った止湮としずを見て、際允あいゆるは戸惑った。


「なんでもない」


「そうだ、止湮としずにもう一つ聞きたいことがあるんだ」


 確認すべきことが山積みだったことを、際允あいゆるは思い出したように告げた。


「どうして僕が……前世の僕が孤児だって知ったんだ?」


「……君が死んだ後、葬式も行われず、死後の手続きをする人もいなかったから、気になって先生に聞いて、それで知ったんだ」


 少しの間を置いて、止湮としずが答えた。


「やっぱりか」


「なんで僕に話してくれなかったんだ?」


 その言葉遣いは責めているように聞こえるが、止湮としずの口調からは、際允あいゆるが前世で死ぬ前にそのことを知らず、何か不適切な言動をしてしまったのではないかと自分を責めているように、際允あいゆるが感じ取った。


「なんでって……単純に言う必要がなかっただけだよ。別に重要なことでもなかったし」


 全く気にしていないという風を装って、際允あいゆるが返した。


「でも前世の僕には一応、法律上の養父がいたはずなんだけど。あの人も何もしなかったのか? 契約があるんだから、死んだことぐらいは把握していたはずだと思うんだけど」


蔚柳いりゅう・ランニオンさんのことか?」


「え? なんでその名前まで知ってるんだ? 先生はそれも教えたのか?」


「いや」


 際允あいゆるの推測を否定して、止湮としずは困ったような表情を見せる。


「これをどう説明したらいいか……」


「なんだ? そんなに複雑なことなのか?」


 際允あいゆるは理解できず、首を傾げる。


「そういえば、止湮としずが今『ランニオン』という苗字になった経緯もまだ……。ん? まさか、この二つに関係があるのか?」


「あると言えばあるから、説明しにくいんだよ」


 止湮としずは弱り切ったように苦笑いする。


「じゃあ、止湮としずが子供を養子にする必要があった理由は?」


「それも、その二つに関係しているんだ」


 ため息をついた止湮としずの顔には、隠しようのない疲労の色が浮かぶ。


「つまり、この三つの件はまとめて説明できるってことだな?」


 それでも、際允あいゆるには聞き出すことを諦めるつもりは毛頭なかった。


「それに、止湮としずが言ったのは『説明しにくい』であって『説明できない』じゃない。なら方法はあるし、どう説明すればいいか見当もついてるんだろ?」


「君の言う通りだ」


 止湮としずは観念したように笑った。


「でも少し時間がかかると思うから、先にご飯を食べてしまおうか?」


「あ……、わかった」


 熱心に話し込みすぎて、夕食のことをすっかり忘れていたことに、際允あいゆるは今さらながら気づいたのだった。

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