第一章15 知らなければ
【知るまで、01:✖✖:✖✖】
玄関で靴を脱いで綺麗に揃えると、止湮は両手に下げた大きな荷物を置くためにそのまま奥のダイニングへ向かった。イニングテーブルの横の床に荷物をダ置くと、中から今夜の夕食を取り出してテーブルの上に並べる。
それから際允のために買い揃えた着替えと洗面用具を取り出し、際允を連れてシャワールームと洗面台へ向かった、置き場所を吟味して配置を終えると、ついでに屋内のシャワールーム、トイレ、各部屋の位置を案内して回る。
そこは約三十坪ほどの広さがある3LDKの間取りだった。際允の感覚では、このような家は通常四人家族で住むのが最適だ。止湮のような独身男性には些か広すぎて、私物の少なさも相まって、ガランとした空間にはどこか寂寥感が漂っている。
とはいえ、火の教会が手配した住所である以上、止湮も勝手にどんな家に住むか選べられなかったのだろう、と際允は考えた。
案内を終えると、止湮はまず彼にシャワーと着替えを済ませるよう促して、際允もそれに従った。その間に止湮はダイニングに戻って、買ってきた他のものを整理して夕食の準備を進めることにした。
際允がシャワーを浴びて着替え終えて、リビングに戻った時には、止湮は既に夕食をダイニングテーブルの上に並べて、箸と食器のセットまで済ませていた。
続いて止湮がシャワールームに入る番となった。もちろん止湮を待たずに一人で食べ始めるわけにはいかず、際允はダイニングと一体型になったリビングのソファに腰掛けて待つことにする。
それはベージュ色の三人掛けソファで、正面にはテレビが据えられている。際允が家に入った時は消えていたテレビだが、今はついている。明らかに、先ほど自分がシャワーを浴びている間に止湮がつけたものだ。
画面は火の国の主要ニュースチャンネルの一つに切り替えられて、夜のニュースを流している。際允は一応数分かけて、世間で特に大きな事件が起きていないことを確認して、その後はただぼんやりと画面を眺める過ごした。
止湮もシャワーを終えて、二人がようやくダイニングで向かい合って座って、夕食を摂り始める頃には、もはや夜の七時半を回っていた。
「先に食べてていいって言ったはずだが」
止湮は頑なに自分を待っていた際允を見て、困ったように微笑む。
「そう言われて本当に止湮をほっといて先に食べるわけないだろ」
「まあ、それはそうだけど。それより、そろそろ食べようか」
「ああ。いただきます」
「いただきます」
二人は食器を手に取って、食事を始めた。今夜の夕食はスーパーで買った鶏肉弁当で、付け合わせも家庭的なものばかりだ。午後から何時間も歩き回ったせいか、二人ともかなり空腹だったようで、迷うことなく次々と箸が進む。
前世の高校三年間、止湮と一緒に食事をする時はいつも会話をしながら食べていた。二人ともが食事中の会話を嫌がらないタイプであることを際允は知っている。
そこで、普段通りの表情でゆっくりと食事を運ぶ止湮を一瞥して、際允は自ら口火を切ることにする。
「質問してもいいか?」
そう尋ねると、止湮は食事の手を一瞬止めていた。だがすぐに際允に微笑みを向ける。
「いいよ」
止湮が実はあまり乗り気ではないことを際允は感じ取った。
それでも承諾したことから見ると、止湮は時間や場所が不満なのではなく、自分自身に関する話そのものに気が進まないのだろう。遅かれ早かれ答えなければならないとわかっているからこそ、「ならいっそ今答えようか」と腹を括ったのかもしれない。際允はそう推測した。
原因がどうあれ、際允にははっきりさせなければならないことがある。同意を得て、どの質問から切り出すべきか少し考え込んだ。気になることも、知りたい答えも山ほどある。どれか一つを選択するのが難しかった。
しかし際允が考えをまとめるより先に、止湮が言葉を発す。
「たくさん聞きたいことがあるのは知っている。でも答える前に、僕からも一つだけ、先に確認しておきたいことがあるんだが」
「そんなに優先度の高いことなのか?」
自分が先に問いに答えること自体に異論はないが、止湮の言い回しが際允を困惑させた。自分に止湮の好奇心をそそるようなことがあるとは、どうしても思えないのだ。
「ああ、そうだ」
止湮はきっぱりと答えた。
「なら、いいけど……」
同意を得た止湮がすぐに質問を始めるかと思いきや、彼はなぜか躊躇う様子を見せる。
「本当はこの質問、食事中にするのはあまり相応しくないと思っているが……。だから実は夕食が終わった後に君に聞いて、それから際允の質問に答えるつもりだったんだけど」
「じゃあ、先に止湮が僕の質問に答えて、晩ご飯が終わった後で僕にその『聞きたいこと』を聞けばいいんじゃないか?」
自分の提案が非常に合理的だ、と際允は思ったが。
「いや、それはだめだ」
しかし、止湮はその提案を断固とした態度で即座に拒絶した。
先ほどの確認で、その「先に聞きたい質問」の優先順位が止湮にとって極めて高いことはわかってはいた。だが、その反応からすると、どうやら際允の想定した程度を遥かに超える肝心のようだった。
「どうして?」
「これを確認しないことには、君の質問にどう答えればいいかわからないからだ」
「僕の質問に?」
その言葉は、際允が何を聞こうとしているのかを見抜いたように聞こえる。一方、際允には止湮が何を求めているのか、依然として全く見当がつかない。
「もちろん、際允が食べ終えた後質問してもいいのなら、僕もその時まで待っても構わない。必ずしも今聞く必要はないだろ」
止湮は明らかに、際允がそうしてくれることを望んでいるようだった。
だが、際允は元々疑問が山積みだった上に、今の不可解なやり取りでさらに好奇心を煽られていた。これ以上、一時間も待たされるのは御免だ。
「止湮は何が知りたいんだ?」
困惑を隠さぬまま、際允は尋ねた。
止湮はため息をついた。結局、食事中にこの話をすることになった自分に無力感を抱いているようだった。そして彼は深呼吸をして、心の準備を整えるためにかなりの気力を費やしているように見える。
一呼吸置いて、止湮はようやくその問いを声に出す。
「君はなぜ、自殺したんだ?」




