#65 母なる凶星・還るは彗星④
凶星のすぐ下まで来た。
人通りの多い街へと着くと、星は体の肉塊を雫のようにいくつも落とし始めた。
それらは、地面に衝突するとゆっくりと起き上がり、一つの肉像となる。
ある像は人のように、ある像はオオカミのように、ある像は異形の怪物のように、次々と形を作り出す。
しかし、それらはどれも皮膚がなく、単なる肉塊だ。
そして、それらは意思を持ち、次々と人々を襲い始める。
「ヤバいぞ愛鈴! 手分けして倒すぞ!」
「う、うん!」
今現在、彼女には左腕がない。
そのため、本来両手で魔力をステッキに供給し魔法を放っていたものの、今では片手でしか供給できず、大幅に火力が低下している。
オレとしても、あまり無理はさせたくない。
だが、そんな事言えるような状態でもないのだ。
「”アムリュジス”!」
彼女のステッキから、以前より少し光の弱い光線が放たれる。
ただ、元々の火力が高いのも相まって、たったの一撃で肉塊を沈める。
「私の方は大丈夫そう! だから柊命はあの化け物を!」
「ああ! わかった!」
足に力を入れ、高く跳ぶ。
そして、高い建物の壁や屋上を蹴り、さらに高度を上げていく。
そして、近くで1番高い建物を飛び越え、ようやく凶星と同じ高さへと辿り着く。
「”焔天斬”!」
刀身に巨大な炎を纏い、振り下ろす!
その刃渡は星の⅕に渡り、深い傷をつけようとする!
確かな手応えと共に、その肉を掠め取った!
……が、そう思ったのも束の間、肉はみるみると再生していき、ものの1秒程度で完全に修復される!
いや……むしろ、先程まで不安定にドロドロと動き続けていた肉が、段々と強固なものへと変わっている!
次の瞬間、触手によって超高高度から地面へと一瞬にして叩き落とされる!
「ッ……!!!」
背中に尋常じゃない痛みが走り、アスファルトは叩きつけられた場所を中心として半径10メートルほどのクレーターを作った!
星は、次々と肉像を生み出し続ける。
そして、処理しきれなかったそれらが、街行く人々を取り込み、触手によって回収され星へと戻る。
次々と、次々と吸われていく。
「ク…ソが」
ゆっくりと、起き上がる。
「柊命! 敵が多すぎるよ!」
「ッ……一旦肉像の処理に加わる! そうすれば少しずつでもヤツの体が減っていくはずだ!」
すぐさま愛鈴の元へと駆け寄り、彼女を抱き抱える。
「ちょ、ちょっと柊命!?」
「ヤツらを一掃したい。オレがお前を運ぶからヤツらを一掃できる技の射程と場所を!」
「……あの駅、その屋上からなら多分2人の力で街中のほとんどの魔物は倒せると思う」
「駅だな、しっかり捕まってろよ!」
「ちょっ! まだ心の準備が!」
彼女は右手と左の義手でしっかりとオレを掴む。
そして、そのまま駅の屋上へひとっ飛びし、辿り着いた。
愛鈴をゆっくりと地面に下ろす。
「で、どうすればいい?」
「わ…私の〜…唇から〜……」
「魔力を供給か?」
愛鈴は無言で頷く。
「……結局は剣に魔力を貯めるんだろ?」
「……ウン」
「それなら、そうする必要は……」
「私の魔法はさ! 正の感情の上振れがそのまま力の強さに変わるから! だから、その……えっと……」
「……わかったよ」
愛鈴の後頭部に手を置き、そのまま顔を近づけた。
「!!!!!!!!」
……流石に、口は閉じたままだ。
これでも皮膚を接続させれは、魔力の受け渡しができる。
いや、効率的な話をすると粘液接触の方がいいのだが……相手が相手、年齢的にも流石に無理だ。
彼女の魔力が流れてくる。
甘く、濃くて、雑味がない。
以前とはどこか違う。
顔を離し、自身の口元を腕で拭く。
「しゅ、しゅしゅしゅ柊命!!! わ、私!!!」
「さて、一気に仕留めるぞ」
「う、ううううん!!!!」
剣に、ありったけの魔力を込める。
2人で剣を持ち、構える。
てかこれ、魔力を受け渡す必要なかったな。
まんまと嵌められた。
「「”ディステニア・リレイン”!!!」」
剣先からピンクの炎が飛び出していく!
それは、雨のように、どんどんと街中へと広がり、確実に肉像だけを撃ち抜く!
そして、全てを葬った後、剣先に残った全ての魔力が集まっていく!
「「”アムリュジア・フレア!!!!”」」
剣先から、巨大な光線が飛び出していき、星を呑み込んだ!
空中にて、星の影を覆い尽くす、大爆発が発生した。
昨日、全話分の執筆が終わりました。
私生活が忙しく、しばらくは1日1話投稿でギリギリなのですが、土日を利用して投稿ペースを戻したい(願望)
それでは、#86にて最終回となります




