#57 What is 勇者
玄関ホール入り口から見て右側の扉を開くと、長い廊下が広がっていた。
「これ本当に研究所? マジで屋敷にしか見えないんだが」
「そのはずだが……」
相変わらず雄一が先頭を歩く。
「しっかし、本当に誰もいないな」
「もしかして私たちが来るのを見越してもぬけのから!?」
「……それはない。アイツらは僕らも狙ってる」
「確かに、前の幹部といい蒼馬の忍羽ちゃんが施設に向かったときといい、明らかに関わらなければいいのに相手からちょっかいかけてばっか」
「きっと、ここにも罠がある」
そう言って雄一はドアをひとつひとつ慎重に開ける。
しかし、それらを開いても中はゲストルームのような個室があるだけだ。
「これ作ったやつはゲストルーム厨か?」
「それ…蒼馬に言えた事じゃないでしょ」
「……まぁ、たまたま貰った家の部屋を持て余すのも癪だしな」
「つまりこれって需要を何も考えてない建築様式?」
「それは……ないんじゃないか?」
廊下の角を曲がる。
が、罠も敵もなし。
ただ、廊下の先に一際大きな木製の扉がある。
「ボス部屋か?」
「RPGじゃないから……」
「……開けてみる」
雄一が、勢いよく扉を開く…が、誰もいない。
部屋の中は先ほどとは違い、倉庫のようだ。
電気は付いておらず、廊下側からの光のみが周囲を照らす。
そして、鉄製のラックにダンボールが何個も置かれていた。
いや、倉庫にしては随分と豪華な扉だったような……
「……何か情報があるかもしれない」
「手分けして探すか」
「おー」
そう言った矢先、愛鈴がラックに頭をぶつけ、俺の頭上にダンボールが落ちる。
何も言わずにうずくまった……
「こ、これもおかあさまの小癪な罠…!」
「違うだろ……」
頭上に落ち、ひっくり返った段ボールをどかすと、中のものが床に散らばった。
その中からふと、資料が目に入る。
「これは……『異世界の勇者に関する調査』……柊命の事か?」
資料を開く。
『勇者とは並行世界Aから並行世界Bへと魂だけが外部的要因の下に移動し、新たな生物として肉体を得て顕現したいわゆる「転生者」に当たるものを指すらしい』
どうやら、勇者というもの自体の話のようだ。
『イーステイム様いわく、転生者は儀式によって呼ばれ、異世界の人々は人類の危機に瀕した際に召喚する。一説によると勇者の肉体は初回の肉体生成時に魔力のみによって構成されるため、神の使いだと信じられているそう。また、ここで指される魔力という単語は我々の普段使っている魔力とは別物らしい。しかし、性質で言えば新たに発見された魔力の方がいわゆるファンタジーで扱われる本来の魔力に近いため、当機関では以降、魔法少女の扱う魔力を「アリシズ」と改名する』
ふ、ふーん、どゆこと?
つまり要約すると、勇者は体が特殊だから神の使いで、話は変わるけど異世界の魔力と魔法少女の魔力は別物で魔法少女側を「アリシズ」って言うって訳か。
『フミ様が捕らえた勇者について研究を続けていたところ、突然興味を失ったかのようにフミ様が別の事をし出した。そのプロジェクトに全力を尽くすため、勇者解剖プロジェクトは中止となった。これまでに分かった勇者の肉体的特徴は資料の余白が足りないため、別の資料に書き記そう』
別のプロジェクト……?
「お前ら、これ見てくれ。どう思う?」
2人に資料を見せる。
「これ、私たちが裏切った後の資料だね。新プロジェクトについてはわからないかな……」
「……柊命の研究、並行してもできるのに何故中止したんだ……」
「え? そりゃ新しいプロジェクトに全力を尽くすために……」
「おかしい、仮に全力を尽くすのだとしても、普段からエヴォクションの制作しか行っていない研究施設に解剖プロジェクトをやらせればいいだけだ」
「他の場所の研究員を信頼してないとか?」
「いや、彼女は尻尾切りがとにかく早い。ここまで研究員としてやっていけてる時点でその節は薄い……」
「てか、こっちの世界に送られた職員も上澄みだけだもんね」
「柊命を使って何かをしようとしてるのか……でもその中で姿を眩ませずに僕らと戦う意味は……」
「……これ、柊命を俺らを釣るための餌にしてるんじゃないか?」
「ありえる」
「愛鈴、お前のかあさんが勇者より興味ありそうな事ってなんだ?」
「そうだね……おかあさまってなんかすっごく神のこと信仰してるんだよ。あ、オカルトでも有名な宗教でもないよ。ただ概念的な神。この勇者の案件って神も関わってるし、これ以上の事って言うと……あった」
「あったか」
「うん。Ω魔法の事だよ。あれは神も凌駕する力。おかあさまはそれをずっと研究してたんだ!」
「うわそんな資料昔見た気がする!」
「ざっくりとした内容は覚えてる。なんか魔法をランク分けしたときに最高ランクに当たるのがΩで、それを使うと世界を作り替えたり、物理を超越したり、なんかすごいらしい。神よりもすごいらしい」
「つまり、そのΩ魔法を求めてこんな事を……いや俺らにそんなの使えるやついないだろ」
「それは……そうなんだけどね」
愛鈴がこちらの目を見る。
「?」
「いや、多分気のせいだよね。うん」
「……とりあえず、仮に罠だとしても柊命はいそうだな。僕らは玄関ホールに戻ろう」




