#40 哀Love②
「ごめんねみんな。そしてさようなら」
愛鈴は初めてその杖をオレへと向けた。
「私ね、ずっとオオカミだったんだよ。あなたたちを監視してたの」
「……」
「お前……嘘だろ! 俺らを監視してたのか!?」
「冗談きついよ……急にどうしたの……」
愛鈴は続ける。
「全部ね、おかあさまの命令。この世界に迷い込んだ勇者を監視しろって。勇者ってさ、その転生先だと神の子って言われてるらしいね。だから、おかあさまがその体について興味を持って……」
鋭い目つきで、オレの方を見る。
「1ヶ月くらい前、私はおかあさまやエヴォクションに関する研究員たちと一緒にこの世界に来た。そして、まず観察対象であるあなたに接触した。あなたに一途のヒロイン役として。まさか途中で家が手に入るとは思っていなかったけど、本当に幸運だった」
もう皆、絶句するしかなかった。
「そして、12日前、柊命があのドラゴンを倒したとき、あの大技を見て観察を終了。そして収容するための準備を昨日まで進めていたの。そして今日、ここにあなた達をおびき寄せた」
「……それで全部か?」
「……うん」
互いに緊張が走る。
「……お前らは下がってろ、手出しは無用だ」
蒼馬と忍羽は素直に従い、数歩後ろに下がった。
「お前の全部、ぶつけると約束しろ」
「……」
愛鈴が杖から魔弾を放ち、火蓋は切って落とされた。
魔弾を全て切り伏せると、また新たな魔法が撃たれようとしていた!
「”アムグレール”」
大量の氷の礫が飛んでくる!
「得意じゃない属性も使えるのか!”焔天斬”!」
炎の刃が、一瞬にして氷を溶かし切る!
「”シャルボ・ヴォルカ”」
「”邪馬雨麟”!」
愛鈴の炎の岩石を、得意ではない水魔法を纏った剣で撃ち落とす!
「”フォコン・タンペット”」
「”風神右旋撃”!」
飛んでくる竜巻を、逆回転の竜巻を纏った剣で打ち消す!
ッ……やっぱり炎以外の技は慣れないな……
だが、それは相手も同じことだ。
「このままじゃ拉致が開かねぇな」
「……」
「だから、こっちからも攻めさせてもらうぞ!」
愛鈴に一気に近づき、剣で畳み掛ける!
愛鈴はそれを杖でガードするが、オレの方が力が強く、そのまま海は押し飛ばした!
すかさず、血の漏れた指で「槍」と書く!
「”紅槍”!」
いっぽんの槍が、海上に飛ばされた愛鈴に向かい、まっすぐ飛んでいく!
が、しかし! 空中で体を捻らせ、攻撃を避けられる!
「”アムリュジス”」
一筋の光が、彼女の杖から放たれる!
反応にわずか遅れ、脇腹を掠った!
「ッ……」
愛鈴は海の上、空中で止まった。
「”アムリュジス・カトル”」
4本の閃光が、こちらを狙う!
剣をの身を縦のようにし防ごうとするが、勢いを相殺しきれず、強い衝撃が全身を襲った!
踏ん張ろうとする足がコンクリートの地面にめり込む。
「……今度はこっちの番だ」
空中に「捕」の文字を書き、それを剣で貫く!
すると、剣が纏う炎が、まるで網のようになった!
「”拘炎撃”!」
一跳びで一気に彼女の間合いへと近づいた!
愛鈴はガードを展開するが、そのまま剣を振り下ろす!
すると、炎の網が愛鈴をとらえた!
「!?」
「落ちろ!」
そのままの勢いで、愛鈴は海中に叩きつけられた!
そして、オレも海中に落ちる。
水を蹴り、一気に彼女のもとへ近づき、剣を振るう!
愛鈴は杖でガードするが、弾いた瞬間に持ちで部分で腹を殴る!
彼女は空気を吐き出しながらも、1回転して体勢を立て直した。
剣の刃先を後ろに向け、サーフボードのように刃に乗る。
そして、剣に魔力を注ぎ込むと、先端から炎が溢れ、小型ジェットのように海中を突き進んで行った!
そして愛鈴を掴み、勢いのまま空中に放り出される!
「目醒ませッ!」
胸ぐらを掴み、陸の方へ投げ、地面に叩きつける!
そして、オレも着地した。
「ッ……”ワゾー・ド・パサージュ・クリム”!」
ピンクの宝石の鳥が、杖の先端から飛んで行った!
剣でガードすると、宝石の破裂による美しい大爆発が起きた!
地面を抉り、鋭い宝石を撒き散らし、爆破の衝撃を飛ばす!
その衝撃に、甚大なダメージを受け、身体中が宝石のカケラに斬られるが、一歩たりとも動かず受け止める!
そして、攻撃が収まった頃、その剣を愛鈴の首元にかけていた。
「終わりだ」
「……うん」
「お前……俺ら側に付く気はないのか?」
「この腕の紋様がある限り、私はおかあさまに逆らえない」
「なら、そのおかあさまを倒せばいいのか?」
「無理だよ。私たちには……」
剣を首元に置いたまま、地面に押し倒す。
「どこが無理なんだ、言ってみろ。お前の信じた俺に、至らないところがあったのか?」
「……おかあさまには、おかあさまには勝てない……」
愛鈴は初めて泣き出した。
「私……もっと生きたい! みんなと一緒に…もっと…一緒に……!」
「愛鈴……」
「どうしても、どうしても…! この…気持ちだけは! …この気持ちだけは! 嘘じゃ、嘘じゃなかったの! 初めて…初めて誰かと一緒にいたいって…いたいって思えたの!」
「……」
「ねぇ柊命…私…私!」
愛鈴は、剣を、握った。
「もっとこの日々を、過ごしたい」
愛鈴が突然、剣を引いた。
まるで、ギロチンのように、その刃が彼女の腕を、真っ二つに切った。
紋様は光を失った。
同時に、愛鈴はその左腕を失った。
時が……止まったようだった。
その瞬間は、何千年ものように長く感じた。
愛鈴の腕があったはずの場所から、血が溢れ出る。
「愛鈴!!!」
思わず、彼女の体を抱え込む。
「私……やっと、本当に、仲間だね」
「愛鈴…! 愛鈴!!」
溢れ出る血を、手で止めようとする!
「柊命! 愛鈴!」
蒼馬と忍羽が駆け寄って来た。
忍羽がポーチからスライムのようなものが入った瓶を取り出す。
その蓋を開けると、瓶の中身は3倍ほどに膨れ上がった。
「これ! これで止血できるから!」
忍羽がスライムを手渡した。
それを慌てて、愛鈴の切断面に貼り合わせる。
すると、一時的に血が止まり、スライムが赤く濁り始めた。
「これで……ひとまずは大丈夫だと思う……」
「愛鈴……愛鈴……!」
「……やっと、やっと本当のこと…言えたよ」
「愛鈴……お前、本当によく頑張ったよ……!」
愛鈴を抱きしめる。
とても、温かかった。
「ごめん……みんな……」
これで、全てが終わった。
そう、思っていた。
突然、頭上に檻が広がった!
咄嗟に愛鈴を押し飛ばし、檻の外へとやった!
その瞬間! 檻が下がり、閉じ込められてしまった!
「何!?」
「嗚呼、私の愛しい愛鈴……まさか裏切るだなんて……でも、よく働いたわ」
「誰だ!?」
蒼馬が声を荒げた!
「お、おかあさま……!」
「もう、用は済みました。あとはあなたたちを処分するだけです」
背後から、気配がした。
振り返ると、愛鈴と同い年であろう紫の髪をした短髪の魔法少女と、赤い鎧のようなスーツを着た男がいたのだ。




