#3 異種混合錯乱
振り返ったその姿はまさしく、先ほどあんパン少女と一緒にいた少年であった。
「お、お前は!?」
「あれ? あ、さっきのお兄さんか!」
「え、ちょ、それより、はぁ?」
「話はコイツらを倒してからだ」
再び少年はオオカミ共と対峙し、武器を構える。
「ほらほら、君はこっちだよ」
倉庫の傍から声をかけられる。
その方をみると、ピンクのツインテールで目も鮮やかなピンク、ごく一般的な子供服を着た少女。
彼女こそ先ほどのあんパン本人だ。
すぐさま、彼女のそばに駆け寄る。
「これって一体?」
「別世界の化け物、最近この世界に流れ込んできてるの」
「別世界……?」
「そこら辺は終わったら話すよ」
そうこう言っている間に、少年はオオカミたちを圧倒していく。
そして、最後の一撃が振り下ろされ、オオカミは地に伏せる。
倒された2匹のオオカミは数秒後、塵となって地面に溶け込んだ。
「……ああ、これは自然発生じゃなくて大元の何かがいるな」
そう少年が言うと、背中に担いだ大きな鞘に武器を収めた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう……」
「オレたちは今からコイツらの大元を探しに行く。だから安心しな」
「???」
そんなセリフの直後、少年のお腹が鳴った。
「……」
「……」
その場に気まずい空気が流れる。
「……何か食べてく?」
「いいのか!?」
「いいの!?」
まるで待っていたかのような食いつき様だ。
あと誘ってないのに少女の方も反応した。
いやまぁ、片方にあげるくらいなら二人分あげるけどさ。
「とりあえず家上がるか? アイス溶けちゃうし」
玄関に戻ると、驚いたことに買ってきたものにはオオカミたちに一切手が加えられていなかった。
家の中も何か荒らされた様な形跡はない。
「大したものはないけど、アイスくらいなら出せるよ」
「ども」
「ありがとうございます」
今日買ってきたソーダ味のアイスは思ったより余裕があり、冷凍庫に入れずともすぐに提供できた。
「アイスとか何年ぶりだ」
何年ぶり?
二人をダイニングの長椅子に座らせ、机を挟んで向かい側の椅子に座る。
「ところで、君たちは一体……?」
「ああ、オレは泉柊命、異世界で勇者をしている。よろしくな」
???
「私は運結愛鈴、別の世界線で魔法少女をやってるの。よろしくね」
?????
確かに、さっきの戦いぶりを考えたら信じるしかないのだが、まさに現実離れした話だ。
「よ、よろしく……あ、俺は陽奈山 蒼馬です」
「陽奈山って……あの家電グループの!?」
少女が驚いたような声で言う。
多分、俺の嫌いな両親の経営している会社の事だろう。
4本指に入る有名家電販売店だし。
「え? いや、まぁ、そうだけど……ただその事にはあまり触れてほしくないな……」
「そ…そっか! わかった!」
「ところで、さっきの化け物たちは一体……?」
「あれはゾンビウルフ。オレの世界に住んでるアンデット族の魔物だな」
「なんか……ファンタジーじみてるな。夢かこれ?」
「事実だ」
えぇ……
「ところでお前らはその、異世界?からなんらかの理由で来たのか?」
「なんらかの理由っていうか……気づいたらここにいたんだよね」
「ああ、俺もつい一週間前まで街の宿屋にいたんだけどな、気づいたらこの世界にいたんだ」
「そ、そうか……」
お、落ち着け……何を聞き出すか考えろ……
「……話は変わるが、さっき言ってた大元ってのは何なんだ?」
「アイツらはオレ達異世界のもんだが、そいつらは基本、この世界では操られてるみたいなんだ」
いやなんの話?
前置き?
「操られてる?」
「ああ、愛鈴の世界にいる怪物共、”エヴォクション”ってやつをを親分にして操られてる、もしくは服従してるんだ」
あぁ、それが大元ってやつ……って事?
「なるほど、でもどうやってその親分がいるってわかったんだ?」
「ああ、別世界から来たヤツは絶命するとソイツが起こした被害がなかった事になるんだ。例えば、ドラゴンのブレスで燃えた土地が元に戻ったり、殺された人が生き返ったり。そして、それらの修正はこの世界の人々には認知されない。それを愛鈴が”修正力”と名付けた」
「つまり、俺の記憶が残ってるからまだ大元がいると」
「そういう事だ」
「これ、解決したら記憶消えるのか。どんな感覚なんだろうな?」
「さあ、オレたちにはわかりかねない」
「そうか……てかもうアイス食い終わったのか」
「ご馳走様」
「久しぶりのアイスに想いをふけたかったが、あまりにお腹が空いてるもんでな」
「へぇ、だからあんパンを……」
「……」
「……」
黙るな。
「ま、そのくらい別にいいさ。助けてもらったしな。そうだ、もう夕方だし飯食ってくか?」
「え、そこまでしてもらっていいの?」
「別に、今日は食材買いすぎたし、それにお礼もしたいからな。っと、その前に洗濯物取り込んでくるわ」
二人をリビングに置いていき、2階に上がる。
……いい事を思いついた。
2人はファンタジーのような世界を生きてきた強者だ。
二人のことをもっと知ろうとすれば、その世界の事、思考回路を理解すれば、きっといい作品が描ける様になる。
なんか記憶は消えるって事だけど、記憶喪失になってもそれまでの勘や能力がリセットされるわけじゃないと、きっと大丈夫だと信じて!
うん!
多分いける!
そう思いたい!
そんな思いを抱きつつ、花粉にまみれた洗濯物を取りにベランダの窓を開けた。
その後、二人はお風呂に入り、客人用に持っていた浴衣に着替えさせた。
時間は大丈夫なのかと思ったが、その大元を探すには手掛かりが一切ないし、とりあえずしがみつぶしに敵を倒し続けるしかないらしい。
都合もいいし、解決するまでは俺の家で客室を使って泊まっていく事になった。
これぞwinwinってやつ。




