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#29 タイミングぅ!

 梨疾羅が消滅してすぐ、視界が暗転した。


 僅か0.1秒、先ほどまでの惨状が、何もなかったかのように元に戻っていた。


 手元のメモと体の傷は消えずに残っている。


「蒼馬!」


 建物の外に出ると、忍羽が駆け寄ってきた。


「よかった……!」


「……」


 かける言葉を探した。


 今さっき、彼女のかつての友人を手にかけてしまった。


 果たして喜びを分かち合うべきなのか、それとも他人事のように悲しむべきなのか……


「あの子、最後になんて言ってた……?」


「……今日は月が綺麗だって」


「……そっか」


 思い出したかのようにメモとスマホを取り出した。


「どうしたの?」


「一応写真撮っとく。電子媒体に落としておけばそう簡単には消えない」


「なるほど」


 写真を1枚撮ってクラウドに保存し、スマホをしまった。


 そして、改めてメモを見る。


 そこには研究所の細かな場所が住所と共に書いてあった。


 しかも、その家の地下にあることも教えてくれた。


「それじゃあ、明日くらいには行くか」


「蒼馬はボロボロなんだから、明日私たちで行くよ。それに、どうせ明日は大学でしょ?」


「それもそうだな」


「それじゃ帰ろっか。柊命と愛鈴にも電話しないとね」


 忍羽がスマホを取り出し、おぼつかない動きで操作する。


「え〜っと、電話はこれを……」


 突然、背筋が凍った。


「危ないッ!」


 忍羽を押し倒した瞬間、頭上を何かが掠った!


「な、なに!?」


「誰だ!?」


 満身創痍のときに来んじゃねぇよカス!


 木陰から現れたのは、全身赤い近未来的鎧みたいなスーツみたいな何かを着た人だった。


 なんかニチアサの2つのヒーローを足して2で割った感じのデザインだから悪い人には見えないけど……


「その紙を渡せ」


「……」


 今はまともにやり合う気はない。


 というか、今は敵がいくら弱かろうと勝てる自信がない。


 メモを持って警戒しながら近づき、手渡した。


「……そういえば、スマホで写真撮ってたよな?」


「……」


 スマホを地面に捨て、画面が割れるくらい強く踏み抜いた。


「……協力感謝する」


 男はそのまま、何もせずに帰っていった。


 なんか理不尽に襲われたりしなくてよかった……


「蒼馬……紙も写真もなくなっちゃったよ……」


「あいや、クラウドに保存しておいたから、もう絶対消えない」


「……あ、そっか!」


「ま、ここまで壊れちゃスマホはお陀仏だろうがな。でも、スマホ奪われたりして弄られたら保存してたデータも消されちゃうし、マジで壊しといて正解だったわ。修理するにも時間はかかるしな」


 我ながらベスト判断だと思う。


 壊れたスマホ回収されなくてよかった……


 ……相手バカでは?


「それじゃあ、柊命と愛鈴に……あれ、あっちから電話来た!」


 忍羽が電話をスピーカーモードにして出る。


「もしもし、そっちは終わった?」


『……大分マズいことになった。ひとまず状況整理のために帰るぞ。電車は遅延してるからタクシー拾ってくれ』


「え? あ、うん。ばいばーい」


 通話が切れた。


「……何かあったのか?」


「さぁ?」

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