#28 月下美人⑤
「蒼馬! 梨疾羅!」
「おま、忍羽!? ここは危な……痛ッ!」
煙が焚かれてはや5分、未だに煙は無くならない。
というか、定期的に煙幕が増えてく。
5分くらいずっと地面にくっついて避けてたからな。
相手とて見えないだろうからいずれ死亡確認するタイミングを狙ったが、なかなかに入念。
流石にこの命中率で見えてるなんて事はないだろう。
そして、今返事しちゃったから場所バレたし生きてるのもバレた。
面倒な事になったね。
「いいか! 一旦建物から離れろ! こっからは返事しないからな!」
忍羽の近くにいれば攻撃は飛んでこなそうだけど、それは流石にプライドに欠ける。
さて、ここからどうするか……
梨疾羅を探し出そうにも、ワイヤーは遠隔で切られているため、場所を割り出すのは難しい。
唯一場所がわかるタイミングはワイヤーが再設置されるタイミングだ。
が、そのタイミングで一気に近づくのは難しいし、何よりそこでワイヤーが直撃すれば恐らくお陀仏だ。
どうにかしてそれ以外のタイミングで場所を特定したい。
度々ワイヤーを切っているのだが、一方に当たる様子がない。
だから、こちらから相手への攻撃は見えないと無理だ。
唯一見えるのは月明かりのみ。
月の位置だけは常にわかる。
……?
一瞬、うっすらと影が見えた気がした。
月明かりの目の前を通り過ぎたのだろう。
ここからでも、月の光の軌道上に現れたときだけ見える……
……よし決めた。
先ほど使い、落とした上着を拾った。
多くのレプリカや2階の部分を跳び回り、ワイヤーを何度も切っていった。
常に安全圏から切り続けてきたため、たまに奇襲のように飛んでくるワイヤーにぶつかる事はないが、この距離だと私からも彼の位置を知る事はできない。
先ほど声がしたが、流石に移動したみたいだ。
しかし、相手が逃げ出してない限りは当たる。
何度か当たった感覚もあった。
一応、クナイがワイヤーに当たる範囲から位置を逆算されないよう、定期的に動き回っていた。
……この戦いが終われば、いよいよ次は花莝峯だ。
生殺与奪の権利は私にある。
この戦いが終わったら、里を離れ、2人で亡命するんだ。
そのためには最低限のプライドを守れるならば、どんな手段でも使う。
あと長くても1、2時間もすれば弱るだろう。
当然、相手が挽回してくる可能性もある。
しかし、すでにワイヤーは数回当たっている。
すでにかなり弱っているはずだし、当たりどころによってはもう……
そんな事を考えつつ、ワイヤーを切り続ける。
そして、再び展開する。
ワイヤーの残量的にはあと20回は続けられる。
やはり最強の忍術は収納術だ。
また跳び回り、クナイを投げる。
そして跳び回る。
満月の目の前を通るときだけ、浴衣の金の装飾が輝く。
不二宮家が正面からの決闘をするときだけの華やかな服。
これを着て、初めて一人前となれるのだ。
一人前に……
剣が、肩を抉った。
煙の中からそれは、突然として現れた。
矢のようにまっすぐ飛び、
満月の光を反射し、
その閃光が左肩を、貫いた。
剣の飛んできた方角の霧が晴れる。
ワイヤーには、衣服が2点で結び付けられている。
即席的な弓。
布は矢の支えとなった。
そこから飛ばされた矢が、肩を貫いたのだ。
ワイヤーの異常な弾性を逆手に取られた。
空中で大きくバランスを崩し、地面に受け身もせず倒れた。
嗚呼、顔面が痛い。
少年は、私の元に歩いて寄った。
「俺の勝ちだ」
「……あはは、これは一本取られたな」
力無く、笑った。
「バカじゃん、あんな事考えるなんて」
「俺だって、こんな戦法、心の中じゃ笑ってたさ。だがな、その結果がこれだ」
「あはは、アンタが足で布を動かないくらいまで伸ばして、両手でワイヤー引っ張るところ……見てみたかったな」
「滑稽だぞ」
「だから見たいのさ」
体から力が抜けていく。
そして、足元から砂のようになっていっているのがわかる。
「約束は守るよ。これ」
懐から1枚の紙切れを取り出した。
研究所の場所が書いてある紙だ。
一応用意しておくぐらいの気持ちだったから切れ端に書いたけど、まさか使う事になるなんてね……
「それじゃあ、花莝峯をよろしくね」
「最後にアイツ呼ぶか? まだ間に合うぞ」
「もう会わせる顔ないよ……何度も襲って、今度は惨敗して……これからもずっと、私は花莝峯の中で悪役でありたいな……」
「……そうか」
「あの子のことは……頼んだよ……」
暖かい気持ちの中、月明かりに照らされ、そのまま意識を失った。
この日、陽奈山蒼馬は初めて人を殺した。
もう引き返せない。




