#24 月下美人①
2025年 4月13日 (SUN)
いよいよ白い箱を受け取り、柊命たちと出会ってから1週間となった。
そして、決戦の日。
「怪我したらマズいし今日はこのくらいにしておくか」
午後3時ほど、俺と柊命は稽古をしていた。
当然、アドバイス役兼サポートで忍羽もいる。
「いよいよ今日だね」
「あぁ、やれる限りのことはやった」
「オレらも応援してるぞ」
梨疾羅との決戦は今日の午後9時。
夜中の公園にて命を賭けた戦いをする。
「緊張してる?」
「まあ」
「こんなに修行したんだもん、絶対に大丈夫!」
「あぁ、そう信じてる」
不二宮梨疾羅は、約束の時間となる5時間前、もうすでに公園に着いていた。
これにはちゃんと理由がある。
受話器を上げ、10円を入れて、電話番号を入力した。
「……もしもし」
『名は?』
「不二宮梨疾羅」
『要件は?』
「この後に行うと報告した決闘のことで、頼み事があって……」
『早く話せ』
「その……2つ、約束して欲しいんです」
『内容次第だ』
「ひとつは、決闘に手出しはしないで欲しいです。明らかに、何かがいる。あなたの部下でしょう?」
『なるほど……なら交換条件だ。先にふたつ目を話せ』
「……もう一つは、親友の洸ヶ崎花莝峯ちゃんには、その、手を出さないで欲しいんです」
『貴様が誘拐するように言ったのにか?』
「確かに、ダンボールに詰めるように言ったのは私です。ただ、それも彼女のためで……」
10円を追加で1枚入れる。
『どうだって構わない。結果的に泉柊命を得ることができれば、私はそれでいい』
「それなら……!」
『だが、利益のない取引は嫌いだ。そうだな、可能ならどんなにボロボロになっても、原型を留めていなくてもいい。陽奈山蒼馬を持ち帰れ。そして、その目撃者は全員捕まえろ。場合によってはモルモットにする』
「はい!」
『それと、もうひとつ。泉柊命と運結愛鈴は陽動する。絶対に手を出すな』
「はい! わかりました!」
『それでは、さようなら』
通話は途切れた。
電車で5駅。
その方が遠いからタクシーで来た。
駅前のロータリーで止めてもらった。
「……あっちか」
「オレたちも見守ってるからな」
「頑張ってね!」
「あぁ」
空はもう暗い。
しかし、月だけはひときわ輝く。
今日は9時過ぎから満月らしい。
「蒼馬……」
「安心しろ。俺は絶対に、決着をつける」
以前の戦いの時点である程度出し切った感はあった。
まさに興醒めの延長戦。
しかし、今度は互いに本気。
相手の強さも、自信の強さも計り知れない。
命を賭けた一夜限りの大勝負だ。
「それじゃあ、行くか」
駅から進んでいくと、やがて道路の上を橋で渡る。
その先に、公園の広場がある。
「あぁぁ……緊張してきた」
「ほら、あと一歩だぞ」
「ふぁいと!」
「絶対に勝とうね!」
橋の上を、歩こうとした。
しかしその瞬間、橋の下から巨大な影が上がっていき、俺らの目の前を飛んでいった。
「なんだアレは!?」
「あれは……ドラゴンだ!」
「「「ドラゴン!?」」」
「なんでこんなところに……オレと愛鈴はアイツを倒しにいく! なるべく公園からは引き離すから、2人で向かってくれ!」
「い、いいのか!?」
「今はそっちが優先だ! 決着つけてこい!」
柊命は武器を構え、気づけば愛鈴もすでに変身していた。
「いくよ、柊命!」
「ああ!」
2人は橋の手すりに足をかけ、ドラゴンの方へと跳んでいった。
「……行くよ! 蒼馬!」
「あぁ!」
2人で公園に向かって走っていく。
すぐ進んだ先、長方形をした公園の巨大な広場にたどり着く。
その真ん中に、彼女はいた。
「やあ、3日くらいぶり」
「一般人に負けて、屈辱で寝れなかったんじゃないか?」
「そうだね、ずっと悔しかったさ……」
彼女は、前回よりも豪華な金の装飾の張り巡らされた深い紫の浴衣を着ている。
帯にはウエストポーチが付いており、その袖からはすでに、ワイヤーが垂れていた。
こちらとて今日はいつものバッグではない。
右手で剣を持ち、腰のベルトには愛鈴の魔力で強化されたエアガン、そしてニッパー、さらにウエストポーチにその他道具を必要なだけ入れてきた。
ついでに、滑り止め付きの手袋も左手だけつけている。
御守り代わりに、あの白い箱も入っている。
「それじゃあ始めるよ。忍羽は下がってて」
「……」
忍羽は何も言わずに、数歩、後ろへ下がった。
「それでは、いざ尋常に……」
手に力を込める。
大丈夫。
ここまでやってきたんだ。
柊命や愛鈴、そして何より忍羽のためにも、負けられない。
覚悟を、決めた。
「始めッ!」
満月の下、殺し合いが始まった。




