#19 不殺の前座
「……来いよ」
杖を強く握り直した。
「安心して、命は取らないよ」
少女は再び、6本のワイヤーを展開する。
これが彼女の戦略、変わりなし。
ここから巻き返すにはどうするか。
先ほどの挙動からして、ワイヤーは非常に強力で、弾性を持っている。
が、同時にクナイによって簡単に切断される性質を持っている。
いや、これはあのクナイが強力なんだと考えていいだろう。
ワイヤーだし変身ベルトの電池で感電は……難しいか。
この実力差、相手をハメるのが妥当か。
ならどうする?
相手をハメる方法は?
ひとまず耐久して研究か。
「ほら! やれるならやってみなよ!」
彼女のクナイが襲いかかる!
杖で受け止めるが、やはり力強い。
いや、先ほどの火力を見るに、もしかすれば手加減されているのかもしれない。
本当に人質にするつもりなのだろう。
杖を力強く振り、クナイを弾いた。
数本のワイヤーが切れる音がする。
また丸太!?
が、予想とは違った。
ワイヤーが、鞭のように足を叩いた。
「!!!」
足に稲妻が走る。
思わず倒れこみ、足が付いていることを確認する。
「あれ、足に当たっちゃったか。当たりどころが良かったね。お腹ならいい感じにやれたのに」
この痛さ、尋常じゃない。
かろうじて動く。
が、俊敏に動く事はしばらく無理だろう。
折れたかも。
「でももう虫の息だね。ほら、1発」
ワイヤーをもう一本切り、今度は丸太が飛んできた!
なんとか飛び込み、スレスレで避けられた。
……なるほど。
ワイヤーだけでこの火力、ならいけるか?
あと1分だけ、痛みが消えてる今のうちに、杖を使って無理やり立ち上がる。
「あれ元気?」
「なわけ……」
「そう? じゃラスト、行こっか」
またしてもワイヤーを展開しようとする。
芸がないな。
……だが好都合。
力を振り絞り、落ちているベルトをゴルフのように杖で飛ばす!
それは奇跡的に、いや、狙い通りに木にぶつかり、その瞬間ワイヤーによって木に縛り付けられた。
「ありゃ、変なの混ざっちゃったか。ま、関係ないけどね」
これが、命取りだった。
彼女はまたしてもクナイを持って襲いかかる。
俺はというと、先ほど杖でベルトを打った時に倒れ、そのままの状態で攻撃を受け切っている。
「丸太で締めたかったけど、動いてもらえないんじゃクナイで仕留めるしかないや」
「……」
機を見定める。
彼女は力任せに、無駄のある動きでクナイを振り続ける。
そして、大きな隙は突然として生まれた。
「……あばよ」
唯一の攻撃手段、杖を投げた。
投げやりに放った一撃などではない。
攻撃手段を捨てるときは、覚悟の一撃に賭けるときだ。
杖が、垂れたベルトのバックルにぶつかる。
杖は、その勢いのまま、ベルトを引っこ抜いた。
ワイヤーに隙間が生じる。
巻き付く力のみで固定されていたワイヤー。
その隙間は、結束を解く。
ワイヤーは、最大の速度で、無警戒の彼女の後頭部をぶん殴る。
「!!!」
少女は、今日初めて膝をついた。
「ッ! は? ッけんな ッけて……」
彼女は頭を強く抱え、唸りながら意味不明な言葉を呟き始めた。
「わた……しは、まけ……て……ない! ッ……けんな!」
尻餅をつき、震える手で後退り、何度も転びながら震える足で立ち上がる。
「……んざだよ、ぜん……ざ、だよ! 私は……わた……けてない、負けてない! いの……ち! 賭けて……殺しあお!」
彼女は背中を見せ、そのままふらつく足で駆け、逃げ出した。
「当たりどころが……悪かったな」




