#1 構想力はクソである
運命は大空の星々のように多く存在し、それぞれ違った輝きを見せる。
私は好きな運命を、未来を選ぶ。
けれども、この満月を超える輝きは、未来は存在しないだろう。
2025年 4月6日(Sun)
「……なんじゃこのクソ漫画ァ!」
目の前に置かれている原稿用紙をぐしゃぐしゃに丸め、ゴミ箱に野球選手顔負けの軌道で投球。
ホールインワン!
「駄目だ! 自覚できるレベルでクソだ! なんだよこのクソ漫画は! 中学生の妄想でもまだマシだぞ!」
陽奈山 蒼馬、19歳大学2年生の漫画家志望。
陽奈山 蒼馬蒼く染めた髪が特徴で、人との交流はあるが、そこまで多くない。
構想力はクソである。
「なんで転生した主人公がただの会社員なのに武器の製造法から医薬品の作り方まで熟知してんだよ! それに、なんか理由もなく強いし、その癖ボスみたいなやつと戦うたびに危機に陥って、結局ワンパターンの勝ち方で終わるし! キャラの掘り下げねぇし!」
構想力はクソである。
これを世に出す前に気づけてよかった。
……はぁ、こうやっていつも新作が作れずじまいだ。
いろんな作品を読んで研究はしているのだが、内容が面白いばかりに毎回展開に引き込まれ、研究できずに終わる。
振り返っても、感想会が始まり、「良かった!」の一言で事が住んでしまう。
根本的に向いてないんだよなこれ。
「落ち込んだままじゃ進展ないし、買い出しにでも行って気分転換するか……」
椅子から立ち上がり、黒のアウターを着てトートバッグを手に取る。
そして、階段を降りて1階の玄関から外へ出た。
年々気温は上がっていってるが、今日は涼しく、快晴ではないが雲は少ない。
快晴よりも少し雲があるくらいが様になるな。描くのはめんどくさいけど。
「ヘイお兄さん、浮かない顔してるね?」
突然、横から一人の少女が前に出てきた。
少女は金髪にボサついた長い髪をしていて、とてもアウトドアな感じの装い、そして特徴的なトパーズの目だ。
……いや別に今はそんな浮かない顔してねぇよ。
何も言わずに避け、立ち去ろうとする。
「ちょっと〜無視しないでよお兄さん」
「キャッチセールスはお断りです」
「違うよ!?」
少女は黄金色のトパーズのような瞳を見開き、こちらを覗き込む。
てか身長高けぇな。
多分180前後か?
俺よりも若干高い……悔しい。
「君が浮かない顔をしてるから優しい優しい私が相談に乗ってあげようと思ったのさ!」
「結構です」
「別に何かの勧誘でも客引きでもないよ〜信じてよ〜私はただ人の悩みを聞くのが趣味なだけなんだよ〜」
絶対に何か裏があるだろってレベルでしぶとい。
「もう何ですか? 金が欲しいなら出してあげるんでどっか行ってください」
「金でなんでも解決しようとするのはよくないよ……」
「正論やめて」
「いいじゃんいいじゃん、何か話し合うと新しい事が見えてくるよ〜、これ創作の基本ね」
ふと、「創作」という言葉が耳に入ってきた。
「……創作、やってるんですか?」
「あたぼうよぉ」
これは……話してみる価値ありそうだ。
「わかりました。それじゃあ、立ち話もなんですし、近くのファミレスに行きながら話聞いてくれません?」
「いいよ〜。あ、それとタメ口でいいからね」
思わぬ成果だ。
まさか唐突に創作やってる人と巡り会えるなんて……
なんで急に「創作」という言葉を口にしたのかはわからないが。
とりあえず自分の場合は、仮に相手の指す創作が動画制作であれ、執筆であれ、何かしら得られるものがある。
絵師だった場合は……間に合ってる。
けどまあ、新しい視点が見えてくるかもだし……
「それじゃあお言葉に甘えて……創作って、例えば何をやってるんだ?」
「私はね〜、物語を作ってるよ」
「つまり……小説家とか脚本家とか?」
「ま、そういう認識でいいよ〜」
「実は、漫画を描いてるんだけど、内容が上手くいかなくて……」
「へぇ、ストーリーに困ってるんだね。あるよねーそういうの。でも慣れるまではテンプレとかでいいと思うよ? その方が受け入れやすいし、名前も売れる」
「あはは……それすら危うい」
指で頬を掻く。
「テンプレに当てはめるのが危う……ま、まぁ、そういう人もいるよね!」
明らかに困った顔したな今。
「創作すると言っても、一体何をすればいいのかわからなくて……あ、これ俺の漫画」
反省のため持ってきていたくしゃくしゃの原稿を数枚取り出す。
「へぇ、いい絵じゃん。これならコミカライズとかの仕事もらえそうじゃない?」
「それでもいいんだけど、どうしても自分で作品を作り上げたくて……傲慢かな?」
「いや、そんな事ないよ……私は好きだよこれ」
彼女はそう言いながら原稿をペラペラめくる。
「正直に言うと?」
「絵はいい。でも“こんな”内容に使われた紙が可哀想」
「なかなかにパンチが……改善点ってどう思う?」
「うーん、それを言おうとしたら何回輪廻転生するかわからないかな」
「えぇ……」
「……言える事があるなら、君が描きたいのってこういう話じゃないんでしょ?」
「まぁ、うん」
「じゃあさ、一度やってみない? 非現実的で空想的な世界をさ?」
そう言い、彼女はどこからか全面が白い正六面体の箱のようなものを取り出し、こちらに軽く投げ渡した。
それをよく見てみても、特に目新しい要素は感じない。
「えーっと、これって……?」
彼女の方を向くと、そこにはもう誰もいなかった。
その足元に原稿だけが落ちている。
周囲を見渡しても、誰もいない。
「え? は? え!?」
幻覚だろうか? いや、この箱は間違いなく手元にある。
……あまり考えすぎない方がいいな。
わずかな疑問と恐怖を持ち、その場を去った。




