第1話 「お前、今日から俺の世話係な」
この学園で、平民は“存在しないもの”として扱われる。
大貴族の子弟だけが通う、王立魔導学園。
リオは、孤児院の推薦で唯一入学を許された“特例中の特例”だった。
存在を消すように生きてきた。
誰にも逆らわず、目立たず、ただ静かに魔導書を読み漁る日々。
だけど――
「お前、今日から俺の世話係な」
「……え?」
その一言が、すべてを変えた。
声の主は、ユリウス・ファルクレイン。
魔導師ランクA、文武両道、貴族中の貴族。
生徒会長であり、“王族の次に偉い”とも囁かれる人物。
その彼が、学園の食堂で倒れかけたリオを軽々と抱き上げ、
そのまま個室へと連れ去ったのだ。
「お前、ろくな飯も食ってねえな」
「……その通りですが、だからってなんでベッドに運ばれるんですか……!?」
「顔色悪い。体温低い。食事も管理できてない。
だったら、俺のとこで面倒見る。――それだけの話だ」
「……いや意味わかりません!」
リオは叫んだ。
だがその瞬間、ユリウスがふと真顔になった。
「嫌か?」
「…………」
ずるいと思った。
その声が、思ったよりもずっと低くて、
本気で“俺のことを心配してくれている”ように聞こえて。
「……嫌じゃないです」
そう答えてしまった自分に、翌日めちゃくちゃ後悔した。
* * *
「これからお前の部屋はこっち。俺の隣のスイート。
制服はオーダーメイド。魔導書は新品。
三食は俺と同じにして、食事は必ず完食」
「ユリウス様!? それ、完全にペットじゃないですか!!」
「……違う。“伴侶”だろ」
「はぁああああ!?!?」
耳まで真っ赤になるリオ。
でも――ユリウスは真顔だった。
「お前、気づいてないだろうけど。
お前の魔力量、平均の五倍。しかも“読解系魔法”の天賦持ち。
この学園でも、お前に敵う奴はそういない」
「……え?」
「だから俺が囲う。“誰にも渡さない”ようにな」
そう、彼は言った。
不器用で、不愛想で、でも言葉ひとつひとつに嘘のない――
そんな男が、リオの世界を塗り替えていく。
(俺、いま、とんでもない人に“拾われて”しまったのかもしれない)
静かな予感が、リオの胸の奥で、じんわりと熱を帯び始めていた。
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