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8 人形会議

不埒者は解体(バラ)して備蓄庫に放り込んでしまえば良いですね、簡単な解決法です。

「今更だけど思い切ったな、お前」


 客人たちの案内を終えた私がいつものように談話室に入ると、既に入室していたアリスが声を掛けてきた。

 私が戻るのを待たずにさっさと移動するとは、実に良い仲間を持ったものだ。

 さておき、この期に及んで何のことやら等と、白々しい台詞は口にすまい。


 私が「霊廟」に戻った頃には不埒者は死んでいたのだから、それ以外となれば人命救助と彼ら彼女らをこの「霊廟」に招いた事しか無いだろう。


「他に打てる手が有りませんでしたからね。戻ってみたら早速人数が減っているとは思いませんでしたが」

 手近な椅子を引いてから、誰の手元にも茶が無いことに気付いた。


 別段私の仕事という訳でもないが、気付いてしまっては仕方がない。


 降ろしかけた腰を上げ、私は給湯スペースへと足を向ける。

「いやまあ、エマちゃんのせいにはしないよ。って言うか、エマちゃんが動かなかったら私がやってたかも」

 珍しく、アリスが割りと殺意高めな発言をしている。


 基本的には常識人な顔をしているが、初対面時に私に襲いかかろうとした程度には血の気が多い。

 とは言え、半分投げ捨てては居ても常識人枠。

 そのアリスがそこまで言うとは、あの新規死体の2名は余程の発言をしたのだろう。


「責めては居ませんよ。真っ先に死んだと言うことは、無理に生かした所でこの先何処かのタイミングで殺さざるを得なかったでしょう。……そうでなくとも、厄介なモノが最低あと1名紛れていますし」


 私を手伝おうと近付いてきたカーラが、私の言葉に足を止めた。

「あの、お前の脅しに不満顔を見せた男か」

 少し意外に思いながら、茶器を持って振り返れば、カーラどころか全員が、静かな無表情を私に向けていた。


「驚きました。気付いていたのですか?」


 取り繕っても仕方が無いので、私は思ったことを素直に口にする。

「うん。なんか、すっごくヤな感じだったよぉ? マリアちゃんが戻ってきたから取り敢えず放置したけど、すぐに殺したほうが良いと思ったよぉ?」

 常に無い無表情は、エマなりの嫌悪の現れだろうか。

 その口振りは、あの男は私が「霊廟」に戻るまでの間に何かやらかして居たのか。

 その隣で、やはり表情を失くしたアリスが静かに頷く。

「クロヌサントの新聞記者、だったか? 怯えたフリが下手な奴だったな。その新聞記者ってのも隠れ蓑で、本業は工作員、か。わざわざアーマイク王国の港町を経由して魔族の国に、ねえ」

 私と同じく、鑑定を掛けていたらしい。

 どういった類かは流石に不明だが、確かにあの男は西の大陸の王都に本部を構える新聞社に所属する記者、とは有った。

 同時に、アリスの言った通り、その正体は王宮直下の工作兵である。


 アリスでは無いが、そんな男が何の用があって、わざわざ海を渡り、アーマイク王国を経由して魔族大陸に向かうのか。

 私たちに対する態度も含めて、胡散臭いことこの上ない。


 緊急事態下の回収……救命活動だったので、個々人の鑑定などする余裕が無かったのだが、まあ、今更言っても仕方が無い。

「聖教国の馬鹿どもと同じ匂いがしたぞ。ああいう手合は、自身の目的を崇高なものと捉えている。それを阻むものは誰であれ敵だ。そして、目的を達成するために手段は選ぶまい。私も、早々に消すべきだと思うが」

 私を手伝いティーカップを盆に乗せながら、カーラもまた、静かな口調で物騒なことを言う。

 私だけならともかく、私たちの中でも常識派の2体も含めて、こうまで意見が一致するとは。


「それなら、その方向で動きましょう。……どうせこの空間含め、私たちを掌握しようと目論むでしょうから、機会はすぐに来るでしょう。まずはお茶でも味わって、それから」


 表情を失くして殺気立つ仲間たちに、私は敢えて柔らかな笑顔を向けて、それぞれに茶を淹れる。

「本職の料理人の方も居りましたので、食事の用意を手伝って頂きましょう」

 方針が決まり、話題が食事のことに移った事で、まずはエマの顔に笑みが戻る。


 そこからしばらくはお茶を楽しみながら、夕食は何を食べたいのか、船で食べた料理では何が美味しかったのか、取り留めもなく会話を重ねる。

 私たちの抹消リストに載った男は、流石にまだ動き出す様子は無かった。




 私とカーラは念の為に霊廟内の監視システムを起動しておいた。


 ちなみに、カーラに「そういうモノは無いのか?」と聞かれて初めて思い出したのは秘密だ。


 今まで必要な場面が……いや有ったな。

 なんで工房エリアの件で(あのとき)思い出さなかったのか。


 ……まあ、私の記憶も人格同様、おおらかなのだろう。


 監視システムとは言っても、基本的には霊廟内の異物が何処に居るのかを感知できるシステムと、その様子をモニターできる程度の物で、遠隔で殺すとかそういった機能は無い。

 無い筈だ、少なくとも私はそれ以上は聞いていない。


 いささかズボラな自分の記憶に小首を傾げつつ、私は救出した料理人の元を訪れ、他の人たちの為にも食事を作って貰えるかを尋ねてみた。


「わっ、私で良ければ作らせて頂きたいです。でも、宜しいのですか?」


 少女と言っても通用しそうな料理人の言葉に頷きを返しながら、彼女が少し震えているのは気の所為だと自分に言い聞かせる。

 出来る限り穏やかな表情を心掛けて居るが、それでも尚怯えられては、幾ら私とは言え悲しいのだ。

「ただ、出来れば……もうひとり、手伝わせたい者が居るのですが、ダメでしょうか……?」

 そんな緊張気味の料理人ちゃんは、おずおずと見上げるような上目遣いを向けてきた。


 単純に私のほうが背が高いだけなのでは有るが、そういう動作は普通にズルい。


「構いませんが……助手出来る者が、他に居りましたか?」


 特に怪しいと思った者以外は、雑な鑑定しかしていない。

 料理人ちゃんはコックコートを着ていたし、雑な鑑定以前の判り易さだったが、他に料理人なんて居ただろうか?


 まさか此処であの男が登場するのか、小さな警戒の火が灯るが、それは即座に吹き消された。


「はい、まだ見習いの子ですが、私の友達なんです。出来れば、彼女に手伝わせたいな、と……」


 料理人の見習いで、かつ、彼女と言うからには女性なのだろう。

 それならば、特に問題は感じないが……一応、鑑定を試みても良いかもしれない。

 こちらからは私とアリス、カーラも手伝いを出せるのだが……いや、下手にそんな事を言ったら余計怯えさせてしまうだろうか?


「では、貴女(あなた)にお任せしますので、他にも助手が出来そうな人をピックアップして頂いても構いません。必要でしたら、全員集めましょうか?」


 私が鷹揚に頷くと、何故か料理人ちゃんは慌てだした。

「いえ、そこまでして頂かなくても! あれくらいの人数でしたら、2人で何とかなると思いますし!」

 料理人と言うだけ有るのか、それとも楽観的なのか。

「なるほど、ではお任せします。いざとなったら私たちも手伝えると思いますので、手が足りない時にはいつでもお申し付け下さい」

 ともあれ、本人が言うのなら任せて見るのも良いだろう。

 私の言葉に何故か青い顔をした彼女には取り敢えず助手の手配を任せ、私は静かに待つ。


 ここに来たばかりの彼女は食堂やキッチンの場所を把握していないのだから、案内は必須なのだ。


 料理人ちゃんは助手の子の部屋を把握していない、と言うことに気付かない私は、一部屋づつノックして回る彼女をしばらく待つことになった。

 数分後、そんな事にも思い至らなかった私と、私を待たせて機嫌を損ねたのではないかと怯えまくる2名は互いに頭を下げ合い、戻りの遅い私の様子を見に来たアリスに呆れられるのだった。

人間に出す食事など、適当に肉でも焼いて出せば良いと思いますが……駄目なのでしょうか?

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