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19 人形の行方

プロの手に任せたなら、後はもう安心ですね。

 私を案内してくれた港湾維持局の外回り局員さんたちだけでは処理しきれない、客船沈没事故の生き残りたち。

 専門部署の方々が緊急で招集されたり、個々人に事情を確認する為にそれぞれ別室へ連れて行かれたり、俄に騒がしくなったこの会議室らしき部屋だったが、気が付くと私と仲間たち、そして最初に此処へ案内してくれた外回りの皆さんとテイラー氏だけが残っている。


 まあ、送り届けてそれで無関係で放免、となる訳は無い。


「他の乗客や乗務員の話と併せて考えるべきですが、その為にも、貴女(あなた)たちの話をきちんと聞かねばなりません。ご協力をお願い出来るだろうか?」


 テーブルに肘をついて両手の指を組んで表情を隠す、ある意味でお馴染みのポーズでテイラー氏が口火を切った。

 ここでイヤですと言った所で、素直に逃しては貰えないだろう。


 まあ、逃げようと思ったらそれも可能なのだが、そうなると色々な被害が出た挙げ句、私たちは悪名どころか立派な賞金首になるだろう。

 そう言えば、エマを含めた「ザガン人形の生き残り6体」には当然のように賞金が掛かっていた筈だ。

 現在、それらはどうなっているのだろうか。


 いやまあ……生物の壁を遥かに超えたで済んでいないレベルの人形の首に賞金を掛けた所で、普通の冒険者ではどう足掻いても勝てないのだろうし……良くても据え置き、最悪は上がっているのだろうが……いつか路銀の足しにエマを売る日が来るだろうか。


 そんなどうでも良い事はともかく、私は先陣を切って答えようとして、ふと視線を隣のカーラの方へと泳がせてみた。

 その隙無く肌を隠しきっている服装はそれまでのゴシックドレスよりも余程お気に入りなのか、微妙なデザイン違いを毎日着回している。

 しかしやはり黒を貴重とした悲しさか、やはり悪役女主人風にしか見えない。

 もっと悲しい事に中身がポンコツな人形は、自信有りげな表情でテイラー氏を真っ直ぐに見据え、私の視線に気付く様子もない。

 その向こうではアリスが私と同じようにカーラに視線を向けて呆れ顔を晒し、それから私に視線を向けてくる。

 特に口を開く様子は無いが、アリスは目で語り掛けてきた。


 お前が説明しろ、と。


 勿論その心算(つもり)だったし、もしかしたらカーラが偉そうにしゃしゃり出てくるかも、と思っただけだったのだが、カーラは態度はともかく、余計なことを口にする様子はない。


 私は露骨に溜息を()いて、テイラー氏に改めて向き直るのだった。




 船の上で体験したことから、遡って乗船の様子や、何故かアーマイク王国での旅路や他のザガン人形の動向についても聞かれてしまう私。

 気持ちは理解できるが、旅での出来事はともかく、ザガン人形が何処でどうしているかなんて知ったことでは無い。


 と言うか、知る術が無い。


 エマを見て理解(わか)る通り、個々人がそれぞれの人格を抱えている上に、どいつもこいつもフリーダムだ。

 エマは私に同行して、と言うか現在進行系で隣りに居る。

 キャロルは大森林で賢者様と、きっとイチャイチャしているのだろう、知りたくもないが。

 メアリはジュンと共に旅を続けているのだろうが、今どこへ向かっているかは知らない。

 クロエは片腕を失い逃走したが、その後どうしたのやら。

 廃墟どころか灰燼に帰した聖都で自害でもしていてくれれば安心なのだが、どうだろうか。


 そして、聖女なんて名乗って人間を誑かしていた(推測)リズは、魔女の襲来前に聖教国を脱出できていなければ、破壊されているだろう。

 是非とも破壊されていて欲しい。


 ゼダについては私は会った事は無いが、メアリにその行き先を聞いている。

 しかしそれが本当かは判らないし、そもそもゼダは私と同じく秘匿されたと言うか、一般には知られておらず、文献といえば制作者であるサイモン氏直筆の資料にしか残っていない。

 そしてそれは「霊廟」の中だ。

 ……わざわざ言う必要が果たして有るだろうか。


 斯様に自由気まま、基本的に好き勝手な行動を行っている連中の動向など、仮に行き先を聞いていても信用出来るものではない。

 私のように計画的、かつ理に適った行動を取れる人形の方が少ないのだろう。


 結果として私は、はっきりと居場所が特定できるキャロル以外については不明である、としながらも、それぞれの人形と出会った地点、及びその後の行き先についての予想だったり本人の申告だったりを並べて見せた。

 直接遭遇していないリズはまあ、国ごと滅んだのでは無いかと言えたものの、出会うどころか気配も感じなかったサラについては、全く判らないとしか言いようも無かったのだが。


「ははあ……聖教国が消えたって話は聞いてたけどよ……とんでもねえな」


 私が当人比2割り増し程度で並べた魔女と駄犬の悪評に、カーツくんが呆れたような声を上げる。

 この会議室の中だけ、既に船が沈んだ事がまるで関係のない世界になってしまっているが、私は素直に質問に答えただけだ。

 私は悪くない。


「オーガ的には気になるかも知れませんが、アレは戦うとかどうとか出来る相手では有りません。私たちもおとなしく尻尾を振る程度の事しか出来なかったくらいです、関わるのはお勧めしません」


 言いながら、言葉に溜息が混ざるのを止められない。

 興味深げに私を見るカーツくん他オーガの皆さんだが、本気でやめたほうが良いと思う。

「まあ、魔女だの番犬だの魔王だの、物騒なモンは置いとくとして、だ」

 楽しかったかと問われれば素直に悩んでしまう思い出、そんなモノに浸る私を置いて、カーツくんは意味ありげに言葉を切ってから、テイラー氏の方へと顔を向けた。

 テイラー氏は26歳でカーツくんは27歳、当然直接呼ぶ時にはそれぞれ気をつけているが、脳内ではどうしても、見た目の印象から「氏」と「くん」が外せない。

 そんなキリリと冷静な雰囲気をきっちりと着こなしているテイラー氏が、カーツくんの言葉を受け止めて頷く。

「ええ。確かにそれらは置いても、この大陸で他の人形については聞きませんでしたね。『剣舞(けんぶ)』サラについては、古くから話は聞きますが」

 私は冷静を保つことで、げんなり顔を隠す。

 隠せたと思う。

 どうだろうか?


 どうしてこうも、行く先々で人形の、それも先輩格の人形の話ばかりを聞くのだろうか。

 ファンタジー世界らしい魔物と言えば、私は海中に没するクラーケンを遠目に眺めた程度だ。

 サーペントは探知魔法の反応でそれらしいモノを感じた程度だし。

「他の人形師の人形とは明らかに性能の違う、強すぎる人形。ここ数十年は活躍を聞きませんが……」

 結局この大陸でも何も変わらないのか、もはや笑いそうな私の耳は、その違和感を聞き飛ばし掛けた。


 ……確か私は、悪名高い私の姉妹人形の話を聞いていた筈なのだが。

 ()()と聞こえたのだが、はて? 現実逃避の果の聞き間違いだろうか?


「最後に暴れたってのは、中央山岳帯のハイペリオ側だったか? あれで範囲が広いから、何処に居るとかは掴めねえけど、流石にもう居ないんじゃないのか?」


 腕組みしたカーツくんが、顎に手を添えたりしながら思い出すようにしみじみと言う。

「まだ捜索計画が有るって話だけどよ……本気で見つかるのかね?」

 私の背筋を、久々に嫌な汗が伝う。


「捜索……ですか? それに、先程の話しぶり……まるでサラを()()()()()()()ような口振りですが、どういう事なのでしょうか?」


 聞いたらなんだか面倒なことになる。

 そんな予感が有るのに、私の口からは質問という形で好奇心が飛び出す。


 力こそ全て、それが魔族だ――とか、そういうある意味で単純な話なのか。

 それとも、ひとり殺せば殺人者だが、ン千人単位で殺しちゃってるならもう、英雄で良いんじゃないかな、とか、そういう話か。


 どちらであってもあんまり楽しい話では無さそうなのだが、口から飛び出した言葉を引っ込める術を、私は持ち合わせていないのだった。

まさか、とっくに大陸を出ていた人形があったとは思いませんでした。

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