じいじの引き出し まほうのストロー
じいじって、色んな事を教えてくれる。かあちゃんが触っちゃダメって言うカエルも触らせてくれるし、とうちゃんが「後でな」って遊んでくれない時も一緒に遊んでくれる。
じいじの机は、じいじと同じくらい古いんだ。引き出しは分厚くて重たくて、僕の机とは全然違う。
なんか、かっこいいんだよね。引き出しの中身は僕の知らないものがたくさん詰まってて、海賊だって狙っちゃうくらい魅力的な宝の箱なんだ。じいじといるとさ、ワクワクがいっぱいさ。
じいじの引き出しはね
宝の引き出しなんだ
そーっと引いてみる
重くて分厚い引き出し
じいじと同じにおいがするんだ
ちょっぴり古いにおい
ふふ いいにおい
引き出しの中って
暗いし冷たいんだ
手を入れるのちょっとだけ怖い
だからね
そーっとのぞいてみる
目だけゆっくりと動かすんだ
そうすると
キラッと、こっちを見てる
今日は おまえだね
薄くてシワシワの細長ーい紙
はしっこがちぎってある
怖いけど 摘み上げた
あ〜 ストローか
へ〜え じいじったら
ストローを大事にとっておいたんだ
のぞいて見たんだ
ストローなのに
わあ〜 ガラスみたいに透明だ
向こう側が よ〜く見える
きれいだろう
うん
まほうのストローだぞ
えっ まほうのストロー
ホントに!
水が オレンジジュースになるのかな
薬が 甘くなるのかな
にんじんジュースが
ハンバーグ味になったりして
じいじがね そーっと
顔を近づけてきて 僕に言うんだ
ストローでおでこと おでこを繋げると
繋げた相手の気持ちが
ストローから
ヒュルヒュルヒュルって
伝わってくるんだぞ
おー!それってすごーい!
ぼくがおでこに ストローくっつけて
じいじのおでこに くっつけようとしたら
やめろ やめろ もったいない
そう言って じいじったら
ニンジャみたいに後ろにヒョイっと飛んだんだ
どうして?
じいじが 言うんだ
いいか よく聞け
まほうのチカラは 3回だけだ
えーっ たったそれだけ
そうだ3回だけ
じいじの気持ちはじいじに聞けばわかるだろ
そうだね
じいじに使ったら もったいないね
じゃあ どうしようかな〜
ぼくは 考えたんだ
そうだ ネコのミーにしよう
いっつも ぼくをチラッと見て あくびをして
カーテンの向こうに行っちゃう
そんなミーの気持ちが 知りたいんだ
じいじは 少し考えて
ミーは ネコ語で話すだろ
ストローからネコ語が
ヒュルヒュル入ってきても
わからないんじゃないか?
そっかー そうだよね
さすが じいじ
1回ムダにするとこだった
じゃあ
よっちゃんラーメンのおじさんしよう
よちゃんに 何を聞くんだ?
決まってるじゃん
だーれにも ぜったいに教えない
秘伝のスープの作り方聞くんだよ
そんなの聞いてどうするんだ
秘伝のスープ作るより
よっちゃんラーメンに行って食べて方が
簡単で美味しいぞ
確かにそうだ!その通り!
じいじは やっぱりすごいや
じゃあ きいちゃんに しようかな
なんで きいちゃんなんだ?
一番の仲良しなんだろ?
ちょっぴり言いにくかったけど
じいじだからさ教えたんだ
昨日ね
きいちゃんとね
ケンカ しちゃったんだ
なるほど それで きいちゃんか
じいじは またまた少し考えて
まあ おでこにストローあてられるなら
先に謝ったらどうだい
う〜ん それもそっか
突然おでこにストローあてたら
きいちゃん もっと怒っちゃいそうだね
そうだなって じいじも笑ってた
じゃあ じゃあ
担任の れいこ先生にしよう
れいこ先生に何を聞くんだい?
決まってるじゃないか
算数のテストの問題だよ
そうか そりゃ答えも聞かなきゃな
さすがじいじ 思いつかなかったよ
でもさ じいじが言うんだよ
国語はどうするんだ
社会は 理科はどうするんだ
そのあとのテストは どうするんだ
そっかー
使えるの3回だけだったー
じいじは またまた笑いながら
勉強したほうが 早そうだなってさ
そうかもね 3回って少ない
って思ってたら じいじがさ
言い忘れてた 残りは2回だ
えーっ なんで
じいじが 1回使った
って言うんだよ 何に使ったか聞いたらさ
ばあばの気持ちを聞いたんだって
なんでー
それこそ ばあばに聞けばよかったじゃん
そう言ったら ニヤニヤしながら
聞けないこともあるんだよ
だってさ
チェッ あと2回だけか
もっと もっと考えないといけないじゃん
ぼくが困ってたら
とうちゃんが じいじの部屋に
ヒョイっと顔を出して
お まほうのストロー
懐かしいな〜
とうちゃんも
まほうのストロー 知ってるの?
おお 知ってる 知ってる
1回使った
えーっ とうちゃんも使っちゃったのー
残り たったの1回だけかー
そうだな
よ〜く 考えろよ
とうちゃんたら すんごく ニヤニヤしてた
そんなとうちゃんに何に使ったか聞いたんだ
そしたら
ああ かあちゃんの気持ちを聞いた
だってさ
なにやってるんだよ
じいじも とうちゃんも
ばあばや かあちゃんの気持ちなら
ちゃんと話して聞けばいいでしょ
って 二人によーく言って聞かせたんだ
じいじも とうちゃんも
もっとニヤニヤしながら
聞けないことも あるんだぞ
だってさ
それって いったいどんなこと?
ぼくは ストローを
細くてシワシワの袋に戻して
赤い折り紙で包んで
僕の名前を書いたんだ
もちろんじいじと とうちゃんが
3回目を使わないようにね
ぼくは いつ使おうかな
それって どんな時なのかな
たったの 1回だけ
とっても とっても大切な時だよね
だからさ
きいちゃんとケンカしても
ネコのミーが鳴いていても
テストに困っても
自分でなんとかしなくっちゃ
あれ そっか
自分でなんとかなることって
意外とあるんだ
じゃあさ ばあばと かあちゃあんの
なんとかならなかったことって?
ストローじゃないと聞けないことって?
いつか じいじにちゃんと聞いてみよ
ぼくの大切な一回のためだもの
きっと教えてくれるよね
ねえ じいじ
「じいじの引き出し」を読んでくださり、ありがとうございました。
子供達相手に、こっそりと昭和基準を教え込むじいじ。まったくもー!って思いながらも微笑ましく見ていました。スマホもタブレットもなかったけど、可愛い悪巧みがじいじから孫に手渡しで伝わるのも悪くないなと。頑固で無器用な優しい祖父との二人旅や、孫を溺愛した父を思いながらこの作品を書きました。
じいじやとうちゃんが、ストローを使った理由も、読んでくださる皆様それぞれに違うでしょうか?
皆様の中で作品が膨らんでくれたら幸いです。 彩 夏香