7.領主
母国を去る時に見送ってもらって以降、彼の姿は目にしてはいなかったが、今目の前にいる彼は美しさだけでなく、どこか風格のようなものが加わったように感じる。
しかも先日見た夢の中の彼のように髪も伸びていた。
「モンターク公爵子息様、ご無沙汰いたしております。その節はお見送りまでしていただきましてありがとうございました」
フェネラは気まずさを耐えつつ、修道女姿ながら精一杯の貴族式の挨拶を返した。
「今はモンタークではなくて、この国のモンサーム領主なのですけれどね」
「領主様になられたのですか?」
フェネラは驚きで若草色の瞳を見開いた。
「モンサーム伯爵家は父方の分家で、跡継ぎがおらず私が養子に出されたのです。あなたはどうしてここに?」
母国ベシュロムの王宮にいた時には挨拶程度しか会話をしたことがなかった相手、しかも求婚を断ったその相手に自分の事情をまさか真っ先に話すことになるとはフェネラには思いもよらなかった。
(あれを言わないとならないのよね······)
ここまで近い距離で話すのもはじめてのことで、フェネラは圧倒的な彼の美麗さに耐えかねていた。できるだけ不自然にならないように視線を反らした。
(美麗な方々への耐性が必要だわ)
あまりに整い過ぎた造形に、人間ではなくて妖精のような人外の存在に思えてしまうのだ。
「あの後すぐに破談になりまして、2年ほど修道院で暮らしております。今後はどうぞサスキアとお呼びくださいませ」
(うう、言ってしまった······これが第1弾···)
「なぜこれまでベシュロムに帰国されなかったのですか?」
「······」
フェネラが返答できずにいると、 還俗する予定はあるのかを聞かれたため、それはまだわかりませんと答えた。
アンジェリーナ様が彼と結婚なさらなかったのはフレデリク様がモンサーム領主になったからなのかもしれないとフェネラは思った。
隣国や他国へ嫁ぐ王族もいるけれど王家等高位貴族へ嫁ぐのが殆どで、モンサームはモンターク領よりも領地は減り、爵位も公爵から伯爵へ下がる。
また、モンサームはシャゼルの王都からも離れていて辺境領とほぼ変わらない。
流石の王女殿下も、そこへは嫁ぐことは躊躇われてしまったのだろうか。
「サスキア、手伝ってちょうだい!」
「ただいま参ります」
ティルダが気を利かせて二人きりにしてもらっていたのだが、シスター達から助けを請われたので行かねばならない。
「申し訳ありません、本日はこれで失礼させていただきます」
「それではまた後日」
「えっ?」
「あなたにはまだ話したいことが沢山ありますので、また日を改めて」
(えええ?!)
そう答えると微笑し、美貌の領主は去って行った。




