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3.求婚者

青天の霹靂とはまさにこのようなことをいうのでないかとフェネラは驚愕した。


「嘘でしょ?!」

ほぼ同時に二人から縁談を持ち込まれ、そのうちの一人は、なんと王女のあの意中の相手なのだ。


(あの護衛騎士様から求婚を打診されるなんて、何かの間違いでは? 人違いとかではないのかしら?)



フェネラはこの国では珍しい髪色をしていた。


モール家では代々、黒髪と金髪が交互で生まれる家系であったため、二男二女の兄姉は、フェネラ以外はみな黒髪と金髪であり、両親も親戚も同様だった。


なのにフェネラだけが薄紅色の髪を持って生まれた。

一時は母の不貞を疑われもしたが、誰もが認める良好な夫婦関係ではありえなかったので、結局最後は「妖精のいたずら」ということに落ち着いた。

この国では稀に、生まれて来る赤ん坊にそのようないたずらをする妖精がいるという、そんな伝承も散見されるからだ。


フェネラはこの髪の色をあまりありがたいものには思えていなかった。目立ちたくないのに嫌でも目立ってしまうからだ。

どちらかというと恥ずかしがり屋のフェネラは、できるだけ人に注目されることなく、穏やかに過ごしたかった。

子どもの頃は髪色をからかいの対象にされることも多く、帽子やベールを被るなどなるべく髪を人目に晒さないようにしてきた。


王女付の侍女として勤めた際にも、髪をなるべく目立たないように、晒す髪の面積を減らすようにびっちりと結い上げて隠していたほどだった。


ある日王女殿下に「あなた、それはあまりお洒落ではなくってよ」と扇で小突かれ咎められてからは、許可を得て勤務中には薄茶色の髪のカツラを着用することになった。


それにも関わらず、隣国の求婚者は、フェネラの珍しい髪色に一目惚れしたと言うのだ。


薄紅色の髪の乙女に恋をしたのだと。


ほぼ夜会にも出ていない私のこの髪を、この方は一体いつ見たというのだろうか?

それがフェネラには最も解せないことだった。


その求婚者は、留学を終え隣国シャゼルへ帰るにあたって、フェネラを妻として連れて行きたいと申し出た。


モール伯爵家にやって来た3つ歳上のその青年貴族、ポール·ボーモン伯爵令息は物腰の柔らかな感じの良い人物だった。

彼に好感を感じようが感じまいが、フェネラにはその求婚を断るという選択肢は残されていなかった。


それは、王女の意中の護衛騎士、モンターク公爵子息からの求婚は、どうしても受けるわけにはいかなかったからだ。


なぜこのような良い縁談を断るのかと家族はフェネラを詰問した。

自国の王族との繋がりも深い公爵家からの縁談を断れる者はそうそういない。

まして、公爵家よりも爵位の低い伯爵家では尚更のことだ。


「決して公爵子息様が嫌なのではなく、王女殿下の意中の方と結婚することはできないからです」

「それは本当なのか?」

「お願いですから、どうかなるべく公爵様へ角が立たないようにお断りしていただけませんでしょうか」


公爵家へお断りを入れる手前、隣国へ嫁ぐことが決まっておりますのでという方便のためだけに、フェネラはあまり乗り気ではないボーモン伯爵子息との結婚を仕方なく承諾した。

恋人もおらず、モンターク公爵子息への恋心は全く無いフェネラには、隣国へ嫁ぐという道しか残されていなかった。



「まさかお前が真っ先に嫁ぐことになるとは」

「ついこの前まで、結婚するならお兄様がいいとか言ってなかったか?」

「公爵子息様には私が嫁ぎたいぐらいよ」


姉と兄達はそう言いつつも、妹の門出を祝い送り出した。



ベシュロム王国の令嬢達の結婚年齢は以前ならば16、7歳までに嫁ぐか婚約するのが一般的であった。が、ここ最近は15歳に満たない年齢での婚約や結婚は、本人の意思が反映されない不幸な結婚、不和な夫婦関係を招く確率も高いとされ見直される傾向にあった。


そのため18歳成人で、そこから平均して3、4年での結婚や婚約が増えはじめている。まだ訳もわからない幼少期に親の言いなりでの婚約や結婚は貴族の間でも徐々に避けられはじめている。

好きでもない相手との結婚は、家庭不和の元となり愛人問題、婚外子の問題の温床となりやすく、世間体だけなくて経済的にも負担や損失が大きくなるため、より堅実なあり方が好まれる風潮から早婚は王族を除き下火になりつつあった。


フェネラの両親は、結婚には慎重派のために、お前は急いで結婚しなくてもよいのだよ、相手を見抜く目を養いじっくり決めなさいと教えていた。

爵位こそ伯爵だが、モール家は侯爵家並みかそれ以上の財力も保有し良好な領地運営ができている優良伯爵家である。その強みや余裕があってこそそれが許されるわけではあった。


その分、マナーや教養などを身につける期間が長くなり、半年後に結婚を控える長兄と下の兄は既に婚約済みだが、二十歳の姉もまだ婚約者はいなかった。


「お父様、お母様、どうかお元気で」

「こちらのことは心配するな、お前の幸せを祈っているよ」


フェネラは家族との不本意な別れを悔やみながら婚約者の待つ隣国へ旅立った。

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