12.憂慮する者
フェネラの消息が不明になってから、もうすぐ3年が経とうとしていた。
ベシュロム王家には慶事が重なり、王太子殿下のご成婚と、公爵家に嫁いだアンジェリーナ元王女に第一子が誕生した。
ベシュロムの王都は祝福と賑わいで、いつにもまして活気に満ちていた。
フェネラの姉パトリシアも嫁ぎ、モール伯爵家はフェネラの失踪騒ぎも落ち着きを取り戻していた。
それは、フェネラと見られる者からの生存を知らせる書簡が大分前に届いていたからだ。
『 私フェネラは無事生存しておりますので、どうかご心配なさらずに心穏やかにお過ごし下さいませ。
また、皆様の安全のためにも、今後は私を捜索することもお止め下さいますようお願いいたします。
どこにいようとも、皆様の幸せを祈っております』という内容だった。
会うことは叶わないが、フェネラの見覚えのある筆跡だけが家族にとっては彼女がこの世に生存している確かな証しであった。
モンサーム領主フレデリクのもとへは、フェネラからのごく短い言付けが修道院を出てからすぐに届いていた。
『私の所在は妖精にお尋ねくださいますようお願いいたします』というものだ。
それ以前にフレデリクは護衛を修道院にいるフェネラにつけていた。それはフェネラにも秘密で行われていた。
フェネラに侍女として護衛をつけることを提案してみると、急に侍女をつけるのは不自然で、かえって不審に思われるという理由で却下されたからだ。
それでもフェネラを少しでも護りたくて、配下の女性騎士を修道女見習いとして潜り込ませていた。
毒を盛られていたようだということもフレデリクには伝わっている。
還俗して修道院を出たフェネラを追跡しようとしていた者、裏で指示を出していたのが誰だったのかもつきとめた。
自分とフェネラがベシュロム王家から監視されていたのは想定内のことだが、そればかりかフェネラに毒まで盛るとは到底許せなかった。
現王家には失望と憎悪しか感じない。
モンタークもモンサームも王家に仕えているのではないことを現王家はまるで理解していないのだろう。
現王族の中で、王家の盾とは真の王家(裏王家)だと、一体どれだけの者が理解できているのだろうか?
先々代ぐらいまでは、双方で暗黙の了解として機能していた。
今も機能さえしていたら、自分に執着するアンジェリーナをちゃんと王らが言い聞かせ説得していた筈だ。
この分家のモンサーム伯爵家こそが実は本家であることを知る者は今の王家には誰もいないのではないか。
それは一族にとって憂慮すべきことで、このまま看過することはできない。
伯爵令嬢のフェネラですら彼女なりの推測から真相に辿りつけているというのに。
聡いだけではなく、謙虚で勤勉でもあるという、申し分のない最良の伴侶だ。
その唯一無二の妻、真の王族の妃を害する者は決して許しはしない。
それは妖精達も同じだ。
『この王家はもうおしまいだね』
『終わりだね』
『終わったね』
口々に妖精達がそう告げている。
妖精から選ばれた者を害することが、どれ程自分の首を絞めることになるのか、彼らは今後嫌でも知ることになるだろう。
現王家への妖精からの守護はこれで潰えた。 現王家はゆっくりと滅亡に向かっていく筈だ。
しかもそれは他に滅ぼされるのではなくて、自滅の道だ。
自分で直接彼女を護れないのがもどかしくて仕方ない。
だがフレデリクとフェネラには王家も手が出せない妖精という味方、妖精の守護を受けることができることが最大の強みだ。
妖精の森は王家の人間ですら入れない。
何代か前の王子がその事を無視して森へ入ろうとしたところ、森の門番である妖獣に手足を喰われて命を落としかけたことがあったそうだ。
王家も手が出せない聖域は、妖精公爵一族専用のものなのだ。
今フェネラは、その妖精の森で匿われている。
時が来たら必ず迎えに行く。
妖精達よ、我が妻、真の王族の妃となる者へ最大限の守護を。




