表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/56

5 いでられませ

(二人……、三人。話し声?)


 ドアノブを回して生まれたわずかな躊躇。一旦手を止めた。


 ――いる。間違いない。

 確信の瞬間は本能だった。勢いよく扉を全開にする。


「誰だ!? そこにいるのは………………って。あれ?」


 予想外にひらひらと目の前で布が揺れる。カーテンだ。間仕切りの衝立からは薄い紗が垂れており、それが視界を阻む。

 急いで掻き分けたが、残念ながら中はもぬけの殻。誰もいなかった。

 きれいに磨かれた石の床。履き物を脱いで祈りを捧げるタイプの祭壇が正面に(しつら)えられ、シオンも知っている三柱の獣神像があった。


 背に五色の羽を生やした鳥相の青年神ガルーダ。

 雄々しい獅子神レオニール。

 半人半馬のおだやかな賢神ケントウリ。


 祈りを捧げる場所にふさわしく、遥か高所に天窓がある。上からは自然の光がやわらかく注いでいた。

 祭壇。調度品。ざっと視認しても荒らされた形跡は特にない。おかしいな、と首をひねりつつ、それでも違和感を覚えて後ろを振り返る。


「えーと、コリスさん。これは?」

「ご覧のとおりです。何者かがたびたび侵入し(はいっ)てるのは間違いないんですけど。こう、こっちが入ると必ず消えちゃうんですよ。お掃除だってしなきゃいけないのに困っちゃって」

「なるほど」


 ぺらり、と丸く編まれた敷物をめくる。地下への抜け道がある様子はなかった。

 六角形の壁面も同様、丹念に手で触れて確認したが仕掛けがあるわけではない。

 そもそも館の扉は施錠されていた。鍵は管理者のコリスしか持っておらず、外部の者が自由に出入りするのは物理的に不可能。


 ――であれば。


 腕を組んで目を閉じた。うんうんと頷く。それしかない。


「幽霊かな」

「!! えぇっ! そんな、あっさり!?」

「違うの?」

「いや、知らないですけど」


 コリスは扉の枠組みに手を添えたまま、ひょっこり上半身だけを覗かせていた。

 なんだこれ。可愛いか。


「コリスさんには、全然心当たりがない?」

「ううう」


 眉根を寄せて、心なし耳もへたっている。


(……撫でずにいられなくなるのは、時間の問題かもなぁ)


 なんて衝動に負けそうになりながら、流石にそろそろ本職に戻ろうか、と、手を叩いた。三度(みたび)


「『いでられませ、鳥神、獅子神、半馬神。いたずらに(めぐ)()をおびやかされませんように』」







「――へ?」



 ぽかん、と口を開けたコリスが祭壇を凝視する。

 そんな馬鹿な、と如実に顔が語っていた。

 べつの声は突然に降ってきた。



「なんじゃ、気づいておったか。つまらん女子(おなご)よの」


「!!! えっ。おなご……へっ? 嘘おぉーーーーっ!!?!?」



 ぐるぐると目まぐるしく驚き続けたコリスは、最終的には『そっち』に着地した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >「なんじゃ、気づいておったか。つまらん女子よの」 オスカル?! Σ( ̄□ ̄;) 女子の一人旅に男装は必須ですよね。 [気になる点] シオン「私の仕事は神官的な役職に就いて、”それは秘密…
[一言] ワイもコリスちゃんを撫でたい( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ