表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人の谷へようこそ 〜法術士シオン(男装)の旅日誌〜  作者: 汐の音
第四章 ひとの営み、神々の理(ことわり)
37/56

2 大丈夫ですか?

 ――ささっ。

 ――さささっ。


 ふさふさとした金色の尾を派手にくねらせ、足音だけは立派に消したコリスが館の通路をゆく。稲妻型の軌跡を描きながら。


(忍びの者みたいだわ……、全然忍べてないけど)


 と、後ろを歩くジョアンは思った。




   ◆◇◆




 ジョアンの客室は、管理のしやすさを考慮してかシオンの部屋の隣になった。

 使っていない部屋はすべて封じてあるとはいえ、元々定期的に掃除しているとのこと。お陰でさほどの手間もかけずにベッドメイキングまで終了し、いまは窓を開けての換気中。すわ夕食の支度かと思いきや。


「ねえ貴女。さっきから何をやってるの?」

「……」


 ぴく、と、やや垂れた片耳が動く。

 声は聞こえているはずなのに返事がない。振り向きもしない。

 やがて、ひとつの部屋の手前にたどり着いたコリスは、そうっと窺うように扉と壁の隙間に耳を押し当てた。

 ははあ、と、ようやく得心のいったジョアンの顔が明るくなる。


「盗み聞き?」

「しっ! だめです、黙って………………、はわわわっ!!?」


「こら。何してんだ、コリス」


 ガチャッと扉がひらき、なかからのっそりとザイダルが現れた。


 『何』と訊いてはいるものの、答えはわかっているようで心底呆れて果てている。こちらを見おろす瞳は黒々と輝き、口の端は下がったまま。

 いわゆる上機嫌と不機嫌がないまぜになった表情に、コリスは思わず目をみひらいた。


(えっと……どっちなの? これは)


 さかんに瞬きをするコリスから視線を外したザイダルは、む、と半眼でジョアンを見つめた。


「これから“祠”に行く。お前さんが、うちの獣神たちに会いたいってんなら連れてくが」

「まあ。喜んで。でも、わたくしだけで宜しいの? シオンは」

「シオンは……いい。コリス、悪い。頼む」


「え? ええ」


 後半部分をコリスに耳打ちしたザイダルは、ジョアンを伴って祠に向かった。





 ――――そう言えば静かすぎる。シオンは?




「!」


 ちょっと考えてからあらゆる可能性を吟味し、突然ありえない予想に行き着いて、慌てて扉を開ける。


(まさか…………、まさかですよね?? 長あぁッッ!!!!)

 

 赤くなったり青くなったり。

 入室すると杞憂はすみやかに晴れた。

 女性にしては長身のシオンが、壁際の床に座り込んでいる。髪が多少ほつれているだけで、着衣に乱れはない。倫理的な無体はなかったようで何よりだ。


 が、様子がおかしい。

 顔が赤い。真っ赤だ。両手で口を押さえている。その仕草はまるで。


 コリスは放心状態のシオンに、おそるおそる声をかけた。


「大丈夫ですか、シオンさん」

「!!! コリスさんっ? 平気ですよもちろん。すみません、ええと…………あっ。何か手伝いましょうか? 手伝います。これから厨房ですよね。ざ、ザイダルは祠に行ったでしょうか? ジョアンの報告も兼ねて」

「は、はい」


 すらすらと流れるような説明にコリスは圧倒される。

 いや、まったく平気ではなさそうなのだが……。


 シオンは跳ねるように立ち上がり、きびきびと動きだした。




   ◆◇◆




 ふたりそろって二階に上がる。心配になったコリスは散々迷った挙げ句、やっぱり口をひらいた。本人は、ちっとも気付いていないようなので。



「あのう……。眼鏡、しないんですか? 襟元にかかってますけど」

「はっ!!?」

 

 露わになった薄い水色の瞳。

 端正な横顔を再び紅潮させ、シオンは「かけます。ありがとう」と、やや早口で礼を告げた。



 ――――丸眼鏡を装着したシオンは伏し目がちになり、もう一度。


 今度は、手の甲で唇を隠した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 熊男め……上手い(美味い)事やりやがって!(絢爛は葛藤しているようだ) 君は本来ならば壁ドンを許されるキャラじゃないでしょうが!? あれは、美形にのみ許された奥義の筈……それなのにぃ~~~…
[一言] わからせられた……!(確信)
[一言] わからせられた……!(意味深)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ